📺 ストリーミング、ついに覇権

この1週間、世界で起きたビジネスの大きな変化をキャッチアップ。今日取り上げるのは、米国で発表されたストリーミングの躍進について。
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Illustration: Quartz

メディア・コングロマリットがいつか来ると“覚悟”していた日が、ついに現実のものとなりました。米国史上初めて、ストリーミングの規模がケーブルテレビを上回ったのです。

先日発表された米調査会社ニールセン(Nielsen)のレポートで、米国の7月の総視聴時間に占めるストリーミングのシェアが地上波・ケーブルテレビ(CATV)の両方を上回ったことが明らかになりました。さらに驚くべきことに、この月のストリーミングの週平均視聴時間は1,909億分で、COVID-19のロックダウン期間中に記録した週平均1,699億分をはるかにしのぐ数字となっています。

米国のホームエンタテインメントの流れは、地上派・CATVからストリーミングへ徐々に移行しつつあります。そして、これからさらに速度を上げ、視聴者の争奪戦が激化していくでしょう。

意外な新規参入もありました。米小売り大手のウォルマートWalmart)が「Amazon Prime」に対抗して新たに始めたショッピング・配送サービス「Walmart+」(月額13ドル=約1,700円=)では、Amazon Primeと同じく、迅速な配送サービスが受けられるだけでなく、エンタテインメント大手のパラマウント・グローバル(Paramount Global)が展開する「Paramount+」との提携により、ビデオストリーミングも提供されることになります。ウォルマートはかつて独自のビデオサービス「Vudu」を所有していましたが、パンデミックによってストリーミング視聴者が増加する直前の2020年初頭に、タイミング悪くファンダンゴ(Fandango)に売却する決断を下していました。

ネットフリックスNetflix)はついに、最多会員数を誇るストリーミングサービスとしての地位を失いました。一方でディズニーDisney)が、「Disney+」「Hulu」「ESPN+」を含めたさまざまなプラットフォームの会員数が合計2億2,100万人になったと発表しています。

次なる動きとしては、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーWBD)の「HBO Max」と「Discovery+」を新ブランドとして統合したストリーミングプラットフォームが誕生します。サービス開始は2023年を予定しており、2025年までに会員数1億3,000万人を目指します。

こうした白熱するストリーミング戦争は、いくつかの要因によって煽られてきました。わたしたちがパンデミックで「ストリーミング沼」に落ちたことで、企業にとって配信ビジネスは安定的な収益を意味するようになりました(景気後退への懸念が高まるなか、広告で苦戦している写真・動画共有アプリのスナップ=Snap=は「Snap Originals」に賭けています)。それと同時に、ストリーミングに多くの選択肢が登場し、ユーザーを取り合うようになったのです。特にインフレの時代において、消費者はお金の使い道を慎重に検討するようになっており、その争いは激化しています。


BY THE NUMBERS

数字でみる配信業界

  • 1,909億分:米国におけるストリーミング動画コンテンツの週平均視聴時間
  • 20ドル(約2,700円):最も高額なストリーミングサービス「Netflix Premium」の月額料金
  • 35%:2022年7月の総視聴時間に占めるストリーミングのシェア。CATVは34%、テレビ地上波は22%だった
  • 9,000万ドル(約123億円):ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)が、映画『バットガール』の配信中止を決めたことで失った金額
  • 2億2,100万人:ディズニーのストリーミングサービスの全世界の会員数。ネットフリックスの2億2,000万人を上回った

TIME FOR A COMMERCIAL BREAK

次の一手は「広告」

競争の激化に伴い、定額制ストリーミング配信業界は、新たな成長方法を模索する必要に迫られています。一部の企業が注目しているのは、広告付きサービス。これまでおなじみだった広告なしのストリーミング体験に代わって、マーケティングを我慢できる人たち向けに低価格でサービスを提供しています。

Disney+は、12月8日に広告付きプランをスタートさせます。かつて、CEOのリード・ヘイスティングス(Reed Hastings)が広告を掲載しないと宣言していたNetflixでも、2023年初めに広告付き低価格プランが導入される予定です。一方、Huluは2008年に広告付きの無料ストリーミングサービスとしてスタートし、2015年に有料プランを追加しました。

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Graphic: Quartz

近い将来、わたしたちはさまざまなコンテンツを、多くの異なるプラットフォームで見たいと思うようになるでしょうし、たとえ広告付き低価格プランであっても、それらすべてに加入することは非常にコストがかかります。アナリストは、いずれストリーミングの「スーパーバンドル」が登場し、視聴者はブランドを横断するかたちでさまざまなサービスを組み合わせて定額で利用できるようになると予想しています。

しかし、いまはまだストリーミング戦争の初期段階。こうしたバンドルが利用できるようになるのは数年先の話です。一方で市場でのシェア争いを続ける大手ストリーミング配信事業者は視聴者数はいくつかのデータ指標の一つにすぎないと考えており、今後、広告収入はますます重要な指標となっていくでしょう。


5 GREAT STORIES FROM ELSEWHERE

世界のメディアがみた世界

  1. 🎵 オーディオ・ミーム。上記とは別種のストリーミングの巨人「TikTok」は、かつて流行った「Quibi」よりも短尺の動画を配信し、多くのユーザー(ディズニーの実に5倍以上)に利用されています。TikTokの特徴のひとつと言えるのが、ユーザー同士でマッシュアップされた音楽、音声、セリフの断片──オーディオ・ミームです。なぜ、わたしたちはこうしたミームに夢中になるのでしょうか? オーディオ・ミームの歴史と、その無意識的な魅力の仕組みを探りました。[The New York Times Magazine
  2. 📰 誰が新聞を殺すのか? 1881年、米コロラド州の山の中で創刊された日刊紙『アスペンタイムズ』。同紙は数十年にわたり、町がおしゃれなスキーリゾートに、そしてアイデアの祭典の舞台に変貌していく様子を記録してきました。記事では、同紙の元編集者であるAndrew Traversが、ロシアのビリオネアをめぐる報道を同社オーナーがいかに封殺したかについて述べています。これは、単に1つの記事を封じたというだけでなく、報道倫理を意図的に破壊し、より巨大でおぞましい地政学的ゲームに地方紙を巻き込んだということを意味しています。[The Atlantic
  3. 🚀 パトリオットゲームの勝者はだれだ? 航空機の修理やスペアパーツの製造など、米国防総省と契約を結びたい企業は、まず、その仕事がどのようなものかを知る必要があります。ポージー家は長年にわたり、マニュアルや仕様書といった機密指定されていない技術情報を集め、ペンタゴンとの契約を求める相手に販売するビジネスを展開してきました。しかしポージー家はすぐに、より簡単な方法を発見しました。それは、情報自由法(Freedom of Information Act)の申し立てを通じて、こうした資料を入手するというものです。ポージー家は、透明性を求める急進的な信者だったのでしょうか? それとも、ご都合主義者だったのでしょうか?[Wired
  4. 💉 ポリオふたたび。ロンドンとニューヨークで、当局がポリオを引き起こすウイルスの痕跡を発見しました。ポリオは、英国と米国では10年以上も前にほぼ根絶されたはずです。なぜ、この休眠中の病気が再び姿を現したのでしょうか? その答えの一端は、小児期のワクチン接種率の低下にあるようです。その結果、「パンデミックによって、全国的にも世界的にも、長い間なりをひそめていた病気に対する脆弱性が新たに開かれた形跡がある」と記事は指摘しています。[ProPublica
  5. 💰 煙に巻かれる。米アンドーバー出身の2人が、シンガポールで、スリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)という名の暗号ヘッジファンドを始めました。パンデミックでは、景気刺激策で小切手を手にした投資家たちが暗号資産を購入し、彼らは大成功を収めました。彼らは、ビットコインの特定の形態に賭け、豪邸とヨットを購入しました。そして、この天才たちはトラブルに見舞われます。21世紀のマーケットにおいて、1兆ドル(136兆円)が蒸発したのです。[New York Magazine

今日のニュースレターは、QuartzのAdario Strange(メディア・エンターテイメント・レポーター)とSamanth Subramanian(経済・ファイナンス・レポーター)がお届けしました。