Africa:コロナを「悪魔」と呼ぶ人たち

Africa Rising

躍動するアフリカ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。今日のPMメールでは、新型コロナを「悪魔の使者」として扱う動きに対する人類学者、宗教学者からのオピニオンをお届けします。

REUTERS/JAMES AKENA
REUTERS/JAMES AKENA
Image: REUTERS/JAMES AKENA

世界には、COVID-19を「生物医学的疾患」として捉えていない人たちがいます。その一例が、アフリカをはじめとする世界中のペンテコステ派キリスト教徒です。

彼らはこの感染症を「悪の霊的な力」として描いています。彼らのレンズを通して見ると、世界は「神とサタンの代理人同士が争う戦場」であり、「イエスのために戦う」者にとって最も効果的な武器は「祈り」、となります。

彼らの言う「霊的な闘争」は、飛行機の欠航から世界的なパンデミックまで、あらゆる出来事を説明します。対処するための枠組みすら提供してくれます。

また、「戦場」「戦い」「闘争」といった軍事的なことばを用いることで、他のグループに共感を呼ぶことも可能にします。

The prophet The president

預言者と大統領

ジンバブエでは、預言者エマニュエル・マカンディワEmmanuel Makandiwa)が、信者たちはウイルスから「免れうる」と安心させたとして批判されています。

「あなたがたは死ぬことはありません。なぜなら、私たちの営為には御子が関わっているのだから」

そのように預言者は語りかけたといいますが、その言葉を根拠にした信奉者たちが政府の安全対策に従わない可能性は、十分にあります。

ウイルスを「スピリチュアルなものとして扱う」努力をしているのは、宗教家だけではありません。

例えば、タンザニア大統領のジョン・ポンベ・マグフリJohn Pombe Magufuli)は、COVID-19を「悪魔」(shetani)と表現しています。曰く、サタンがそのウイルスを通してタンザニア市民を「破壊」しようとしている、というのです。

REUTERS/XXSTRINGERXX XXXXX
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Image: REUTERS/XXSTRINGERXX XXXXX

タンザニア政府は国民に対して、物理的な距離(physical distancing)をとることを推奨しています。

にもかかわらず、当の大統領は、「神がおわす場所、真の癒やし(uponyaji wa kweli)を得られる場所」であるとして教会やモスクを閉鎖しないと宣言しています。さらには、COVID-19は「主の体のなかで生き残ることはできない。そして、焼き払われるだろう」と説明しています。

評論家たちは、マグフリ自身は(ペンテコステ派とのつながりがあるものの)ローマ・カトリック教徒であることを指摘しています。神はモスクにもいるという彼の仄めかしや、国民を守るためとして民間療法の薬草を取り入れることを推奨している彼の振るまいを認めている人は、ほとんどいません。

しかし、タンザニア国民はそうではありません。「あらゆる信仰をもつ市民」に対して、3日間の国を挙げての祈りに参加するよう呼びかけたマグフリの声に、国民は熱をもって反応しました。多くの人々がソーシャルメディアに、タンザニアの国旗と祈りの言葉で彩られた写真や動画を投稿したのです。

Some perspective

いくつかの論点

マグフリを批判する評論家は、マグフリが(マカンディワも)「スピリチュアルな戦い」というレトリックを使用することで、あたかも自分たちはウイルスに対抗できていると期待させる効果があると指摘しています。

別の評論家は、マグフリが祈りを強調するのは、つまるところ、政府はパンデミックに適切に対処できていないことを象徴しているのだと指摘します。

REUTERS/THOMAS MUKOYA
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Image: REUTERS/THOMAS MUKOYA

政府が迷信的な考えの餌食になっていると言う批評家もいます。彼らが引き合いに出すのが、ドイツによる植民地支配に対抗するマジマジの反乱(1905-08, PDF)での「水を使った薬」(※)です。

※ 現地民が頼りにした、預言により製法を伝えられたという“秘薬”。ドイツ人の弾丸を液体に変える力があるとされたが、実際は水やひまし油などの混合物だった。

ウイルスを「一体の悪魔」に置き換える行為は、パンデミックを起こしてしまった構造的な欠陥から目を逸らさせるのに役立つとする者もいます。「敵であるCOVID-19」と「それに対峙する市民」という構造をつくり、双方に責任を委ねるのです。

An impersonal demon

顔のない悪魔

ただし、ここには陥ってはならない罠があります。

COVID-19に対するタンザニア政府や預言者マカンディワの対応を、特殊なものとして誇張するのは、植民地時代から続くアフリカの人々に対する「迷信的」で「どうしようもないほど宗教的」な描写を増幅させることにほかなりません。

REUTERS/HANNAH MCKAY
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Image: REUTERS/HANNAH MCKAY

さらに、「戦争」ということばが用いられるのは、アフリカだけ、宗教的な場面だけではありません。世界の政治家や公衆衛生の専門家、メディア評論家がCOVID-19に対して「戦争」という言葉を象徴的に使ってきました。

ボリス・ジョンソンエマニュエル・マクロンドナルド・トランプ(そしてマグフリ)。彼ら世界の指導者たちは皆、“あるひとつの敵”に対抗する戦争、というモチーフを喚起してきました。

ヨーロッパ各国の政府もまた、この構造のもとで市民を「戦闘員」と見なし責任を転嫁していると批判されています。一体の悪魔に対して一人の個人が英雄的に「勝利した」という物語がもつ説得力は、ヨーロッパの人々にとっても、アフリカの人々にとっても、変わりありません。

REUTERS/DAN KOECK
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Image: REUTERS/DAN KOECK

宗教的なグループは、何かしらのサービスを提供したりメッセージを伝えようとするときの、公衆衛生にとっての重要な拠点になりえます。また、人が不確実性に直面したとき、宗教によって希望と相互ケアの感覚が養われうることも忘れてはいけません。

もしかすると、ここまで挙げてきた戦時的なレトリックは、自己意識や良心をもたない相手に直面したときに世界の人々が共通して抱く、ある種の不快感に由来するのかもしれません。

執筆者のBenjamin Kirbyは、リーズ大学ブリティッシュアカデミー博士研究員。Josiah Taruはグレートジンバブエ大学講師。Tinashe Chimbidzikaiはマックスプランク宗教・民族多様性研究所博士研究員で、それぞれ人類学、宗教学の研究者。英語版(参考)はこちら


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  1. 電子マネーは「ネズミ講」? ジンバブエでは、電子マネーが同国通貨の急速な価値の下落の原因となっていると非難されています。中央銀行は、代理店ラインの無効化を指示する法廷書類において、電子マネー大手のEcoCashプラットフォームを「ネズミ講」と表現しています。
  2. アフリカ諸国は、COVID-19検査試薬の入手に苦労。アフリカ疾病対策センター(CDC)アフリカ連合は先月、アフリカ大陸の国々のために診断薬や医療機器の調達を調整する「COVID-19試験を加速するためのパートナーシップ(PACT)」を立ち上げました。今後6カ月間に1,000万人の検査実施を目標としていますが、それはアフリカ大陸の12億人の人口の1%にも満たない数字です。
  3. ナイジェリアの古代都市で大惨事が起きている。5月初旬の時点で、アフリカで最も人口の多い国ナイジェリアでは、3,000人以上のCOVID-19感染者が報告されています。そのうち、北部最大の都市カノが急速に発展しているホットスポットとして台頭しています。同市での死亡者数に、謎の急上昇があったとの報告がされています
  4. ケニアと英国の科学者チームがマラリア感染を止める微生物を発見。ケニアのビクトリア湖湖畔で蚊を研究してきたチームが発見した微生物を用いた方法が、ヒトへのマラリア感染を防ぐものとして期待されます

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