New Normal
新しい「あたりまえ」
Quartz読者の皆さん、こんにちは。毎週金曜日のPMメールは「New Normal」と題し、パンデミックを経た先にある社会のありかたを見据えます。今日は、現金を取り巻く現状を、いくつかの数字とともに考察します。英語版はこちら。
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新型コロナウイルスの感染拡大以前から、電子決済は増えてはいました。しかし、現在、その取引は急増しています。そして今起きている混乱は、人々の消費活動に永続的な変化をもたらす可能性があります。
「世界全体が大きな転機を迎えている」と言うはPayPalのCEOダニエル・シュルマン(Daniel Schulman)です。シュルマンによると、PayPalは5月1日、ブラックフライデーやサイバーマンデーを超える最大のトランザクションを記録したといいます。
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Adyen、Mastercard、Visaのデータによると、現在世界を苦しめるこの危機が始まって以来、店頭での取引が急落する一方、Eコマースでの支払いは急増しています。
アムステルダムに拠点を置くAdyenは、NetflixやDelivery Heroなどの企業の決済処理を行っていますが、同社は2020年の最初の3カ月間で670億ユーロ(720億ドル)の取引を処理。これは、1年前に比べて38%の増加です。
■ オンライン小売(紫)は、店舗小売(黄色)を圧倒
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ECの成長は、カードネットワークの巨人、MastercardとVisaにとって、歓迎すべきニュースです。
VisaのCEOによると、世界的にみると、個人が1米ドルを利用するうち、約15セントがVisaカード使用にあたるといいます。ECとなるとこの比率は上昇し、1米ドルあたり約45セントになります。
「ECについて考えると、現実的に現金は競合しない。これはとても、とてもポジティブだ」とVisaのチーフ、アルフレッド・ケリー(Alfred Kelly)は最近の決算でも述べています。「そして、ECはさらに爆発的に発展するだろう」
決済会社Square最高経営責任者(CEO)のジャック・ドーシー(Jack Dorsey)は、ワインショップからレストランまで、Squareの決済端末を使用している多くの顧客が、パンデミックをきっかけに配達や路上販売のためのオンライン注文を開始したと語っています。
「これらの売り手の多くは、オンラインでの販売に前向きだったが、そのための時間がなかった。(パンデミックは)オンラインであることのあらゆる利点を彼らに示す、強制力のようなものだ」
Remittance drop
送金ができない
一方、一部の国際取引については大幅な減少が予想されています。世界銀行によると、高所得国から中低所得国への送金は、2020年には20%減少すると予想されています。その主な原因は、移民労働者の賃金および雇用の減少です。
■ 年間での国際送金
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Western UnionやMoneyGramのような送金会社は、ロックダウンによって消費者と対面の送金代行業者とが物理的に分断されたため、株式市場でも大打撃を受けました。
「世界各地でのロックダウンは、Western Unionにとって最も利益率の高い商品である“代理店ベースの、現金から現金への取引”をシャットダウンした」と、FXC Intelligenceの創設者兼CEOであるダニエル・ウェバー(Daniel Webber)は述べています。Western UnionとMoneyGramのデジタルサービスは成長していますが、COVID-19の逆風を相殺するには至っていません。
しかし、デジタル送金は大きな後押しを受けています。「COVID-19は消費者行動のシフトチェンジを加速させ、デジタルチャネルの利用増加につながった」と、Western UnionのCEO、ヒクメット・エルセック(Hikmet Ersek)は決算報告において述べています。
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3月時点で、世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルス感染を避けるべく、現金の代わりに“非接触型の支払い”の使用を促進していたという報道もありましたが、それは正確ではありません。WHOは、現金に触れたあとは手を洗うべきだと周知していました。
いずれにせよ、非接触型の支払いは、マスターカード社長のマイケル・ミーバック(Michael Miebach)によると、第一四半期には世界中で40%増加しています。
現金の使用において、ディスラプションは避けようがないのかもしれません。すでにカードでの支払いにおいて先行していた英国において、ATMにおけるトランザクションは、ロックダウンが実行されてからクラッシュすることになりました。
■ 英国におけるATMトランザクション(週)
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ATMの利用は、規制が緩和されれば多少は回復するでしょう。しかし、消費者がカードや非接触型の支払いに慣れてしまえば、紙幣が完全に復活することはないのかもしれません。ECや配送サービスがそうであったように。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- Anyfinが3,000万ドルの資金調達。消費者が既存のローンの借り換えをすることができるストックホルムを拠点とするスタートアップAnyfinが、3,000万ドル(約32億円)の資金調達を行いました。シリーズBラウンドをリードするのはEQT Venturesで、既存の投資家であるAccel、Northzone、Rocket InternetのGlobal Founders Capital(GFC)が参加しています。2018年に設立されたAnyfinは、この投資を「製品のイノベーションを推進し、新たな製品の立ち上げ、そして欧州に新しい市場を拡大するために使う」としています(現在、同社はスウェーデンとフィンランドで事業を展開しています)。
- COVID-19ワクチンは米国市場を優先? フランスの製薬大手・Sanofiの最高経営責任者(CEO)ポール・ハドソンは、「(米国政府は)リスクを取るために投資しているので、ワクチンの先行予約を受ける最大限の権利をもっている」と発言して騒動を引き起こしていました。フランスのエドゥアール・フィリップ首相は、すべての人がアクセスできるようにすることは「譲れない」と発言し、これに反論しました。
- 懸念されるヨーロッパ旅行。水曜日、欧州連合(EU)は、各国内の国境を再度開き、パンデミックのあいだに限られた鉄道、道路、空路、海路の接続を復活させるための行動計画を発表しました。これは何百万人もの旅行者が待ち望んでいる状況であり、何週間も何カ月も自宅で隔離されたあと、ヨーロッパの太陽と文化を楽しみたいと、彼らは切望しているのです。
- アムステルダムの「COVID-SAFE」なレストラン。6月1日から、オランダのレストラやバーは、制限を設けたうえでテラスを再開できるようになりました。そのため、アムステルダムでは現在、ロックダウン緩和後の外食の新たな仕方を模索するため、テストしています。各テーブルをテントのようなガラスで覆い、それぞれの飲食者に対してソーシャルディスタンシングをつくるように。非常にユニークな方法ですが、今後、このようなレストランが多く見られるようになるかもしれません。
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