Africa Rising
躍動するアフリカ
Quartz読者のみなさん、こんにちは。先週からお届けしている、アフリカの新世代のカルチャーと消費動向をテーマにした特集「African Youth」。第3回は、「デジタルを駆使したビジュアル・アーティスト」と題し、クリエイティブな作品を世界へ送り出すアフリカのアートを紹介します。
アフリカは54の国家、1,500以上の言語、約3,000の民族からなる大陸であり、地球上で最も多様性に富み、文化的にも豊かな場所です。ゆえに、アフリカをひとくくりにしてを語るのは不可能ともいえるでしょう。
実際、アフリカの識者の多くは、長い歴史をもつ時代、空間、伝統のなかで生み出された視覚的、物質的な文化のことを「アフリカの芸術」と呼んでいるのです。
今、世界的なパンデミックによって、これまで以上にインスピレーションが求められるなか、デジタル時代ならではのビジュアルアート(視覚的に訴えかける芸術)が重要視されています。
Growing Up
若手を育てる
アフリカの長い歴史において、ビジュアルアートはさほど重要視されてはいませんでした。むしろ、社会が変化していくなかでの“記録”としての役割を担ってきたといえます。
ゆえに、現在のアフリカのアート市場には成長の余地を見いだせます。2019年1〜6月まで、アフリカ内で開催されたオークションに出品された作品はわずか1,000点以下。アジアでは香港が取引のハブとして台頭してきましたが、アフリカにはアートマーケットの首都と呼ばれる場所がまだありません。
オークションハウスSotheby’sの近現代アフリカ美術部門の責任者であるハンナ・オリアリー(Hannah O’Leary)は、アフリカのアート市場におけるインフラの必要性を訴えます。
「公的な支援が非常に不足しています。私たちは多くの新進気鋭アーティストたちの才能を見ていますが、彼らのキャリアをサポートするためには、市場の構造がもっと必要です」
こういったなかでも、モロッコのハッサン・ハージャッシュ(Hassan Hajjaj)やガーナのイブラヒム・マハマ(Ibrahim Mahama)といった、アフリカですでに成功しているアーティストたちは、若手を育成するための機関を設立したりと、アート界を盛り上げるために支援をしています。
しかし、今ではアフリカの若い世代のアーティストたちが、自身のソーシャルメディアやテクノロジーを駆使したプラットフォームを使い、新たなクリエイティブの波を生み出しています。そして、それに呼応するようにアート業界も盛り上がりを見せています。
彼らは、グローバルな価値観や視野と自己の意思に基づいた解釈によって、外国から見たアフリカの「典型的な」姿を覆そうとしています。
Afrofuturism
未来を描く
そのなかで大きな軸となっているのが、「アフロ・フューチャリズム」です。
アフロ・フューチャリズムとは、アフリカに生きる人たちのレンズを通して見た、芸術や科学、テクノロジーに満ちた未来像のこと。この言葉そのものは25年ほど前に白人作家のマーク・デリー(Marc Dery)によって考案されたもので、彼のエッセイ『Black to the Future』で語られています。
アフロ・フューチャリズムと一般的なSFとで大きく異なるのは、アフロ・フューチャリズムはアフリカの伝統と黒人のアイデンティティが染み付いていること。
たとえば、アフリカの秘境にありながら、世界の誰もが想像できないような最新テクノロジーをもつ「超文明国ワカンダ」を舞台にした映画『ブラックパンサー』。まさにアフロ・フューチャリズムを体現している作品といえますが、この作品のユニークさは、未来的な世界に黒人のキャラクターが登場するだけの物語ではなく、黒人文化の独自性と革新性に根ざしたストーリーとしてつくられていることにあるといえます。
アフリカのコンテンポラリー・アーティストたちの多くは写真や映像を活用し、アフロ・フューチャリズムの考えを投影し、歴史とデジタル化された現代を融合させたアフリカの未来を映し出しています。
New Identity
「今」を伝える6人
アフロ・フューチャリズムを取り入れた若手アーティストが今、多く存在しています。
現代アフリカのビジュアルアートに共通しているのは、アイデンティティへの問いとナラティヴ(自身によって語られる物語)の再定義。インスピレーションと理解へつながるクリエイティブな道を模索するなかで、アフリカのアートは、未来的思考とダイナミズムを探求する肥よくな土壌を提供しているのです。
これから紹介するのは、新たなイメージの創造と説得力ある物語で、デジタル時代におけるアフリカの「新しい姿」を伝える6人の若手アーティストたちです。
① Amarachi Nwosu(アマラチ・ヌオス/ナイジェリア)
Amarachi Nwosuは、ナイジェリア系アメリカ人の写真家、映像作家、スピーカーで、クリエイティブエージェンシーMelanin Unscriptedの設立者でもあります。
彼女のデビュー作であるドキュメンタリー作品『Black in Tokyo』は、2017年にニューヨークの国際写真センター(ICP)で上映されたのち、東京・原宿のUltra Super New Galleryでも上映され、そのユーモアにも満ち溢れた「黒人が東京で生活する」というストーリーが称賛されました。
ヌオスは時と場所を超え、さまざまな媒体を通して物語を伝えることにフォーカスし、彼女が作り出す映像は米国で黒人として暮らした経験と、東京での生活から得たインスピレーション、そして祖国であるナイジェリアの記録から創られています。
2019年には、ラゴスでポップアップエキシビションThe Futuristsを共同でキュレーションし、アフリカのステレオタイプに挑む若い写真家たちに焦点を当てました。
人種とアイデンティティについて問いかける作品のSankofaシリーズは東京で初上映され、VOGUEでも取り上げられています。
また、ナイキと制作したショートフィルム『A Game for All』では、ナイジェリアで活躍する女性サッカー選手にスポットライトを当て、私たちの知らない世界の声を、人々に届けました。
② Prince Gyasi(プリンス・ジャシ/ガーナ)
iPhoneを駆使し、地元であるガーナの姿をとらえるPrince Gyasi。彼の鮮やかな色合いの作品を見ていると、幼いころにはすでに構図と色彩理論をマスターしていたように思えます。また、彼は「色は、セラピーの一環である」と強く信じています。
ガーナの首都アクラのジェームスタウン地区の若者を支援する、非営利団体Boxed Kidsの共同設立者でもあるGyasiは、彼自身の力強い万華鏡のように煌めく視点を通して、写し出す若者たちの表情を輝かせます。
現代の多くのアーティストたちと同じように、彼は手もとにあるツールを使うことで世界的に認知されるようになり、Appleをはじめ、Burna Boyのようなアーティストとのコラボレーションも実現しています。
彼のハイコントラストなシルエットと近未来のような作品は現在、シアトル、マイアミ、パリ、ケープタウンなど世界中の都市のギャラリーの壁を彩っています。
③ Mous Lamrabat(モウス・ラムラバ/モロッコ)
モロッコ系ベルギー人の写真家Mous Lamrabatは、モロッコのイコノグラフィー(図像学)を探究しつつ、北アフリカのステレオタイプを覆すような試みを行なっています。
印象的なヴェールをブランド名や西洋のポップカルチャーと対比させる作風で、風刺的なファッションキャンペーンを展開する彼は、ユーモアと模倣を作品の軸として、社会批判を実践しています。
現代のグローバルなアフリカ人の存在を紐解くべく、ラムラバは自身の名前から、「北アフリカがようやくくつろげる場所となる、カラフルな宇宙」を意味する“Mousganistan”というコンセプトを生み出しました。
アフロ・フューチャリズムの再構想により、ラムラバは2019年、「ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・フォトグラフィー」の注目すべき写真家の1人に選ばれました。
④ Tony Gum(トニー・ガム/南アフリカ)
南アフリカ出身のTony Gumは、単一のストーリーや表現方法の枠を超えて存在するアーティスト。写真、映像、彫刻、その他多くの媒体を通し、命という名の言語とリズムでアートを表現します。
彼女は日本のWIREDの表紙を飾ったことでも知られており、ソーシャルメディアで表現したダイナミックなセルフィーによって、アートキャリアを確固たるものにしました。
色で溢れた活気ある作品から、モノクロの彫刻、または詩として展開されるものまで、ガムの作品はこれまでの歴史的なものを含みながら、また同時に現代の歴史を作り上げているのです。
また、南アフリカで行われたアパルトヘイト(人種隔離)後の「物語」を再定義することも、彼女の活動の主軸のひとつとなっています。さらに、自分自身の身体をキャンバスとして見立てる“Ode to She”のようなシリーズで、「女であること」の探究も行っています。
彼女は、見る者を没頭させる展覧会を開催し、人間のもつアート的な要素を思い出させてくれます。
⑤ TSE(ティーエスイー/ナイジェリア)
「サイケデリックなSF映画のスチールイメージ」と評される作品を創作することで知られる、Thomson S. Ekong(TSE)。彼は、ナイジェリア出身の写真家、映像作家、デジタルアーティストであり、セルフエンパワメント、愛、そしてメンタルヘルスまで幅広いテーマを探究しています。
最近のラゴスのクリエイティブ産業での取り組みからも分かるように、アフロ・フューチャリズムの美学が際立つアーティストです。
TSEがアートディレクターを務めるアバンギャルドな映像作品を展開する集団Candlesは、ラゴスからオルタナティブミュージックシーンの大胆なビジュアルを発信。同輩のアーティストたちを細やかなスタイリングで捉えて会話を促す手法と、ファツションブランドのDaily Paperのキャンペーンでも見られるユニークで緻密な彼のアプローチは、今や各ブランドから注目されています。
TSEの作品はこれまでナイジェリア、イギリス、ウクライナで展示され、雑誌Hunger MagazineとHighsnobietyで特集されています。
⑥ Papi(パピ/セネガル)
セネガルとモーリタニアのルーツをもち、アフリカの最西端であるセネガル・ダガールを拠点に活動するアーティストのPapi(l’Artpreneurの別名も)。
Papiはペインターとして主に活躍するだけでなく、旅行プラットフォームLivesの共同設立者であり、アパレルブランドMwamiの設立者でもあります。そして、文化、ファッション、アートを融合させたクリエイティヴなライフスタイルを提案しています。
アフリカの伝統的なストーリーとデジタルアートの融合させたアート作品は、米CNNのAfrican Voicesでも取り上げられました。マリ、ルワンダ、ケニア、エチオピア、コートジボワール、そしてアメリカで育った彼は、伝統に基づいたダイナミックな絵、描写、そして服で表現し、同時に新たなアフロ・フューチャリズムのエッセンスも巧みに作品に落とし込み、具現化しています。
4週連載「African Youth」の最終回は6月10日配信。アフリカのスケート/BMXのカルチャーを特集します。
※「African Youth」特集は、ナイジェリア系アメリカ人のAmarachi Nwosuが主宰する、アフリカに特化したクリエイティヴプラットフォーム&エージェンシー「Melanin Unscripted」のサポートのもと、連載しています。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- コンゴでエボラ流行が再び発生。コンゴ民主共和国では、エボラ出血熱の新たな流行が起こっています。同国の保健省によると、新たなエボラ出血熱の発生は、国の西側にある120万人の都市ムバンダカで、4人が死亡し、少なくとも2人以上が感染。ユニセフによると、6月1日には、5人目が月曜日に死亡しました。ただ、この流行は最終段階にあるとのことです。
- ルワンダの病院でロボット導入。ルワンダの首都キガリからほど近い、カニヤ治療施設では、コロナウイルスに感染した患者と医師や看護師との接触を最小限に抑えるために、検温や患者のモニタリングなどの簡単な作業を行う3台のロボットを配備しました。これは、国連開発計画(UNDP)によって寄贈されたものです。
- アルコール販売再開が祝福される一方で…。南アフリカで発令されていた、新型コロナウイルスに対応したアルコール販売禁止令が6月1日に解除されましたが、すでに禁止令を復活させるべきとの声もあがっています。ソーシャルメディア上では、ハッシュタグ#aloholmustfallが6月2日にトレンドになっており、左派のEFF(Economic Freedom Fighters)は、アルコール販売禁止令が解除されたことによる死亡者が出た場合、シリル・ラマフォサ大統領に個人的な責任を問うと述べています。
- Appleがアフリカ初のラジオ番組。Apple Musicが、5月28日、アフリカで初のラジオ番組を開始すると発表しました。「Africa Now Radio with Cuppy」が5月31日にスタートし、アフロビート、ラップ、ハウス、クドゥーロなどのジャンルを含む、現代的なものと伝統的なアフリカで人気のサウンドをミックスした番組を放送します。
(翻訳・編集:福津くるみ)
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