Startup:コロナで始まる「ファッション業界のリセット」

Startup:コロナで始まる「ファッション業界のリセット」

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Next Startups

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。

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Image: REUTERS/EVGENIA NOVOZHENINA

先週末に百貨店は営業が再開され、多くの買い物好きに日常が戻って来ました。店の世界観を感じながら、偶然の出会いを探す。「やっぱりショッピングはリアルに限る」との声も聞こえてきそうです。

しかし、海の向こうの米国ではJ.C.ペニーやニーマン・マーカスが破綻。日本でも、4月の百貨店売上げは7割減で、地方店を中心に「閉店ラッシュ」。インバウンドの爆買いもしばらく期待薄な状況下で、存続の危機を迎えているのです。

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反対に、コロナ禍で急成長のECは、過去10年分の成長が8週間で起きる異常事態です。国内でも今年のファッションECは20%増加。自宅で買い物を楽しむライフスタイルが一層浸透しています。

コロナで変革を迫られるショッピングの現場と、台頭するEC。今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、テックの力で百貨店のリプレイスを狙うThe Yesを取り上げます。

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Image: THE YES

The Yes(アパレルEコマース)
・設立:2018年
・創業者:Julie Bornstein, Amit Aggarwal
・調達額:3,000万ドル(約32億円)
・事業内容:アプリ特化のAIを活用したショッピングプラットフォーム

SHOPPING EXPERIENCE WITH AI

リアルの体験を、AIで

米国の調査では64%の人がECではなくオフラインの店舗で購入したいと答えています。Z世代でも80%がリアルなショッピング体験を楽しんでおり、65%は手にとって見ない限り決して商品を購入しない、とも答えています

欲しいものを「選ぶ」ならオンラインで十分ですが、「出合う」楽しみはリアルでないと難しい。この常識に挑戦するのが、ファッションECのThe Yesです。

ユーザーは登録すると、好きなシルエットや雰囲気など簡単な質問に答えます。するとデータに基づきアイテムが次々と提案されますが、「イエス」「ノー」をタップして、好き嫌いを伝えます。AIが趣味嗜好を学習し、使えば使うほどレコメンドの精度が増します。気に入ったアイテムがあれば、ワンタップで買い物が完了し、送料無料でアイテムが届きます。

創業者はファッションサブスクの巨人Stitch FixでCOOを務めたジュリー・ボーンスタイン(Julie Bornstein)。2017年、同社のIPOを目前に突然辞任し、経営陣の不仲説など様々な疑惑を呼びました。突然の失踪から3年、ファッションECに革命を起こすThe Yesを手に、再び表舞台に舞い戻ってきました

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Image: THE YES

LUXURY DEPARTMENT STORE ONLINE

オンライン高級百貨店

The Yesが面白いと思えるのは、いくつか理由があります。

まず、「イエス」と「ノー」で意思表示できることです。いきなり購買を迫るのではなく、ウィンドウショッピングする感覚で、アイテムを眺めて楽しむという体験を挟んでいます。

ユーザーの購買履歴に基づく的外れなリコメンドを避け、直感で答える気軽さでユーザーと対話します。ブックマーク的な機能もあり、「イエス」したアイテムがセール対象になれば通知が来ます。

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Image: THE YES

そして洗練されたアイテム構成、ブランドとの共存です。ラグジュアリーからD2Cまで、選りすぐられた150のブランドが揃えられています。

写真素材は全てブランドが提供したものを使い、配送はブランドから直送するため、世界観や顧客体験を損ないません。クリエイティブを担うテイラー・トマジ・ヒル(Taylor Tomasii Hill)は、米版Teen VogueやMarie Claireでキャリアを積んだ大物エディターで、ECであると同時に洗練されたメディアでもあります。

テクノロジーも妥協を許しません。CTOのアミット・アガワル(Amit Aggarwal)はGoogleやGrouponでシニアエンジニア職を歴任した大物です。

AIはあらゆる産業を効率化しているのに、ECは遅れている」と開発に2年を費やしました。ファッションへの深い知見をベースに、1枚のアイテム画像を500以上のパーツに分解するなど、先端のAIを駆使しています。数万円のハイブランドの次に数千円のD2Cブランドが表示されるなど、偏りとハズしの微妙なバランスにも工夫が見られます。

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Image: トマジ・ヒル(左)とアガワル(右) THE YES

またコミュニティ性も重視しています。友人が「イエス」したアイテムをタイムラインで見ることができ、自分が購入したものをシェアすることも出来ます。自分と同じアイテムを「イエス」した他のユーザーの「イエス」の履歴も見ることができ、購入の参考にできます。

The Yesは提供価値を「発見(=ディスカバリー)」と定義します。ユーザーの好みを理解し、ベストなアイテムに辿り着くのを助けること。欲しいものを探す“能動”と、最短距離で欲しいものに出合う“受動”の、ベストミックスです。ユーザーは新しいスタイルに気づき、ブランドは新たなユーザーと出合う。お互いにとっての“発見”がバリューなのです。

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Image: THE YES

FUSION OF REAL AND EC

リアルと融合するEC

The Yesのほかに、家にいながらリアルの購入体験を実現するサービスもあります。ライブコマースは中国でポピュラーですが、NYで設立されたShopshopsではインフルエンサーがブランドの店頭に実際に出向き、ショップ内から生配信を行います。

店員に疑問点や着こなしを聞いたり、実際に試着をしたり。インフルエンサーが手に取ったアイテムは、そのまま購入できます。実際のショップの雰囲気の中で、インフルエンサーに自分を投影しながらショッピングができます

ライヴ配信には実際のデザイナーが登場することもあります。商品の持ち込みも不要で、スタジオも要りません。ブランドにとっては、ShopShopsのコンテンツはECと同時にPRコンテンツでもあります。

アリババが提供するTaobao Liveは2月の顧客数が7倍に増加。中国ではコロナ禍で、ライヴコマースが農業や地方まで爆伸びしています。店舗が一斉閉鎖されたアパレルメーカーが工場の隣にスタジオを急遽設置し、キャスターに抜擢されたショップの店長が活躍し去年以上の売り上げを上げるなど、リアルとオンラインの融合が進化を見せています。

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Image: SHOPSHOPS/YOUTUBE

RESETTING THE FASHION INDUSTRY

リセットされるか?

リモートワークが定着し、買わなくなったものの一つが洋服です。上半身はせめてシャツでも下はパジャマ。果ては“Zoom会議に最適”な上半身だけシャツ仕様のスウェットが登場し、ビデオ通話で見える部分だけ気を遣えば事足りる生活が浸透して来ました。

ライフスタイルの急激な変化は、大量生産・大量消費が当たり前だったファッション業界に大きな変革を迫っています

CO2の排出量は世界の10%を占め、ジーンズ1本つくるのに7,600リットルの水が必要です。全体の80%の衣類が捨てられ、毎秒トラック1台分の衣類が処分されています。流通が複雑なため中間在庫が溜まりやすく、トレンドが変わりやすいため過剰在庫も出やすい構造です。さらに、インスタなど写真を撮るためだけの購入が全体の10%で、ブランドによっては年15回もファッションショーを開いています

コロナでリセットを迫られるファッション業界。ECかリアルか、という売り場の次元を超えて、サプライチェーンの可視化や循環型エコシステムの構築といった業界全体の課題解決に、テクノロジーが求められる時が来ているのかもしれません。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. SpaceXの宇宙船がISSにドッキング成功。30日に宇宙飛行士2人を乗せ打ち上げられたSpaceXの宇宙船「クルードラゴン」は、31日に無事に国際宇宙ステーション(ISS)に到着。ドッキングの様子がライヴ配信されました。米国で有人宇宙船が打ち上げられたのは、2011年のスペースシャトル退役以来9年ぶり。その間NASAの飛行士は、ロシアのソユーズ宇宙船でISSと行き来してきましたが、1座席当たり8,600万ドル(約93億円)もの費用がかかっていたそうです。
  2. TikTokのスパム報告相次ぐインド。TikTokの重要市場であるインドで、家庭内暴力や動物虐待、人種差別、児童虐待、女性軽視を助長するような動画に対する批判が相次ぎ、Google Playストアでの評価が急落。Googleが介入する事態に。TikTokがユーザーに責任を押し付けているとする指摘もあります。
  3. 得する都市、損する都市。長期的な視点で考えると、新型コロナウイルスの影響は、土地が余り安価に広い住宅に住めるエリアにおいては朗報でしょう。ニュージャージー州、ミシガン州は全国平均よりも10%安い状態が続いていますが、在宅勤務が恒久的なものになればそういったエリアの広い住宅のプレミアムが高まる可能性があります。
  4. Moderna、中期臨床試験を開始。新型コロナウィルスのワクチン開発を進める米Moderna(モデルナ)は29日、中期臨床試験を開始したことを発表。最終的に600人の患者に投与される予定です。また、7月に後期段階の臨床試験を始める計画を明らかにしました。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)


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