Millennials:デモと「つながる」ミレニアル

MILLENNIALS NOW

ミレニアルズの今

Quartz読者の皆さん、こんにちは。今、米国だけでなく世界中に広がる抗議活動が起きています。今回は、このデモにおけるソーシャルメディアと、そこでの「個」のあり方について考えます。

REUTERS/Dylan Martinez
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Image: REUTERS/Dylan Martinez

アフリカ系米国人の黒人男性ジョージ・フロイドが、2020年5月25日にミネアポリス近郊で容疑者として警察官に拘束されている最中に殺害されました。これを発端に世界中で起こっている人種差別に対するデモは「Black Lives Matter(以下BLM)」を旗印に広がり、COVID-19のパンデミックから連鎖するように大きな問題へと発展しています。

BLMは、2012年にフロリダ州で黒人少年のトレイボン・マーティンが白人警官のジョージ・ジマーマンに射殺された事件がきっかけで、2013年に起こった黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える、国際的な運動を指します。

2013年以降も黒人が白人警察によって殺害される事件は多く、そのなかでも、人々が不安を抱えて過ごしているパンデミック中に起こったジョージ・フロイド事件は、現場に遭遇した一般人が撮影した動画がきっかけとなり、ソーシャルメディア上で一気に世界中に広がりました。

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先週発表されたモンマス大学の世論調査では、76%の米国人(白人の71%を含む)が人種差別を「大きな問題」と捉えていると回答。これは、2015年と比較して26%も増加しています。また、米国人の57%が抗議運動は「完全に正当化された」と答え、21%が「やや正当化された」と答えています。

これまでの歴史のなかでも人種差別問題は大きく取り上げげられてきましたが、警察や社会全体に人種差別が蔓延していると、これほど多くの米国人が同意したことはありませんでした

Young Protests

若者は、立ち上がる

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今回のデモには、多くのZ世代とミレニアル世代が参加しています。

YPulseによると、16〜34歳までの米国人の55%がBLMに参加したことがあると回答しています。

若い消費者を対象とした最新の調査では、ほぼ半数が米国の人種差別の深刻化を感じていると回答。若いアフリカ系アメリカ人の回答者の60%が「悪化している」と感じています。

また、米国の若い世代の自国に対する目線も、旧世代に比べて大きく変化しています。Z世代とミレニアル世代の約10人に3人が「米国より優れている国はほかにもある」と答えているように、彼らは自国に対する不信感を抱いているのです。

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別のPew Researchの調査では、Z世代の66%とミレニアル世代の62%、つまり約3分の2が「米国では、黒人は白人よりも公平に扱われていない」と回答。サイレント世代(1930年〜1945年)が両人種ともほぼ平等に扱われていると答えているのに対し、Z世代では28%にとどまっています。

ほかにも、Z世代とミレニアル世代は「警察が人種差別的な行動をとりやすいと信じている可能性が高いことが分かっています。こうした警察に対する姿勢は、特に黒人の若者やその他の有色人種のあいだでも見られるようです。

Washington Postと調査機関Ipsosがアフリカ系米国人を対象に行った世論調査では、35歳以下の回答者中、10人中9人が「あらゆる人種の人々を平等に扱う」と謳う警察を信頼していないと答えており、他のどの年齢層よりも高いことが分かりました。

将来に対して不安を抱く割合が大きいミレニアルズにとって、職を奪うパンデミックはさらに不安を募らせるものでした。そうした不安とこれまで蓄積されてきた不信感が、大規模デモへの参加につながったといえるかもしれません。

With Technology

デモと「隣り合わせ」

今起きているデモは、これまでに増してソーシャルメディアを駆使した動きが活発です

シラキュース大学の歴史家であるHerbert Ruffin(ハーバート・ラフィン)は、「変化を促す力」としてソーシャルメディアを重視した最初のものであると語っています。

米国では若者がハッシュタグを使って情報を得たり、Instagram上で日時や場所を知り、実際にデモに参加するだけでなく、インフルエンサーや企業がシェアする情報をもとに自身のプラットフォームでも情報や募金、考えをシェアするなど、その場にいなくてもデモに参加できる状況ができています。

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特に、事件が起こった後は、Instagramでタイムラインが#BlackLivesMatter や #BlackOutTuesdayとともに黒塗りのスクエア写真(ブラックボックス)で埋められ、一体何が起こったのかと不思議に思った人も少なくないでしょう。

ブラックボックスは、ソーシャルメディア上で大きな流れをつくるきっかけともなりましたが、もともとはJamila ThomasとBrianna Agyemangが今回の事件の発生後、ミュージシャンや企業にハッシュタグ#TheShowMustBePausedを使用することを望むことから始まりました

しかし、その後、当初の意図から大きく変化することになりました。自身が「人種差別者ではない」ということを表明するものが多く投稿されるようになり、#BlackLivesMatter上ではブラックボックスが並ぶことで、本来の支援のための重要な情報が埋もれてしまうという事態に。#BlackLivesMatterを使ったブラックボックスの投稿をやめるよう、ソーシャルメディア上で共有されました。

今では、有益な情報や自身の考えを、(ブラックボックスではない)ほかの写真などとともに投稿する流れへと変わっていますが、#BlackLivesMatterを使った投稿はInstagramだけでも2,200万件近くされており、組織的な人種差別や警察の暴力との戦いの代名詞となっています。

With Social Media

SNSから何を得る?

ほんの少し前まで、もっぱらCOVID-19関連の情報が流れていたタイムラインは、今や抗議活動に関する投稿やハッシュタグで埋め尽くされています。

それは、オシャレな生活を毎日のようにアップするインフルエンサーやセレブばかりをフォローしていたユーザーも例外ではありません。

デジタル・ストラテジストのLanae Spruce(ラネー・スプルース)は、今、インフルエンサーがプラットフォームを使って人種差別問題に対して発言することが、これまで以上に重要だと言います。「インフルエンサーはソーシャルプラットフォームを通じて、人々が“何か”とのつながりを感じるための手段です」

であればこそ、セレブやインフルエンサーから多くのBLMに関する情報(募金のためのプラットフォームやニュース記事、あるいはそもそもの歴史)を得ることは、今起きている事態に対する理解を深めるのに有効であるといえます。

しかし、BLMに関して、インフルエンサーの動きをピックアップして紹介しているアカウント「influencersinthewild」で、ひとつの動画が話題になりました。

ロシアのインフルエンサーであるKris Schatzelが、エレガントなドレスを着て、BLMに参加。しかし、その行動はいかにもインフルエンサーらしい刹那的なもので、自身のブランドを強化するために行われていると非難されました。

PHOTO VIA INSTAGRAM/RUSABNB
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その後、彼女は「私の意図は、ムーブメントを軽視することではなく、私が知っている方法でムーブメントに参加することでした」とコメントしています。

影響力があるからこそ、撮られた写真の“バックステージ”が透けて見えると(その行動は本当に正義感を伴ったものだったのかもしれません)、あっという間に受け手から非難の対象とされます。

セレブやインフルエンサーは、受け手にとって絶大な「存在感」をもっていることを理解して投稿しなければならないでしょう。そして、私たちも受け取り方に注意しなければなりません。

Company’s Position

「企業」の立場を知る

自らの立ち位置を明確にすべきなのは、セレブやインフルエンサーだけではありません。私たちは企業やブランドからの立場を知ることで、BLMへの理解を深めたり、賛同することもあります。

Z世代とミレニアル世代のうち、実に69%が「ブランドはBLMに関与すべき」と考えています。そして、59%がソーシャルメディア上で声明を発表すべきと答えています

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ただし、大企業は、こういう時代だからこそ、対立を警戒することが多く、顧客を不快にさせたり、ブランドをデリケートなテーマに結びつけたりすることを恐れている傾向があります。

ペンシルバニア大学ウォートンスクールのマーケティング教授であるAmericus Reed(アメリカス・リード)は、社会問題について発言することは、しばしば計算された決定であり、「価値観やアイデンティティに基づいたターゲティング・マーケティング」の一形態であると述べています

企業の価値観を顧客が気にしていることに合わせることで、企業は忠誠心と個人的なつながりの深い感覚を構築することを期待している、と同氏は話しています。

たとえば、米国の広告はしばしば、政治的な問題を避け、暴力、薬物、最近では、コロナウイルスのパンデミックについてのニュースをも避けています

しかし、今回の件では、さまざまな企業が人種的不公平や警察の暴力についてより多くオープンな姿勢を取り始めました。

Nikeは、現在行われている抗議活動の中で、黒人コミュニティとの連帯の声明を発表した最も早い企業のひとつでした。同社は、過去に社内での人種差別の問題を認めてきましたが、役員の層は本来あるべきほど多様ではないことも認めています。

Nikeが公表しているダイバーシティ(多様性)に関する統計によると、全従業員の約22%が黒人ですが、その割合は出世するにつれて減少していきます。VPのレベルになると、10%が黒人、77%が白人です。

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Netflixは、「沈黙することは加担すること。ブラック・ライヴズ・マター。私たちにはプラットフォームがあり、黒人のメンバー、従業員、クリエイター、タレントには声を上げる義務があります」とTwitterに投稿しています。

今回の騒動をめぐり、ドナルド・トランプ大統領のツイートに「警告」を発してきたTwitterは、プロフィール画像を黒一色に変更し、そのプロフィール文に「#BlackLivesMatter」を追加しました。

一方、一部の企業は、より慎重なアプローチをとっていました。ミネアポリスに拠点を置き、同地の店舗では略奪事件に見舞われた衣料店Targetは、公式ブログの投稿で「a community in pain(痛みを抱えたコミュニティ)」と表現しましたが、「黒人」という言葉には触れませんでした。

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こうしたなか、インフルエンサーが企業に対して声を上げ、ファッションブランドの長い「沈黙」に対し、行動を促す投稿もありました。

YouTubeで300万人以上の購読者をもつインフルエンサーのJackie Aina(ジャッキー・アイナ)は、Instagramにビデオを投稿し、BLMに関して発言をしていないFashion Nova(ファッション・ノヴァ)のようなファッションブランドは抗議活動に参加するべきだと語りました。

それに対し、同ブランドはソーシャルメディア上で、「愕然とし、怒り、深く悲しんでいる」とし、「多くのコミュニティリーダーたちと話し合って、立場を明確にし、支援する方法を模索している」と述べました。その後、BLMとコミュニティ活動の支援のために100万ドル(約1億円)を寄付すると発表しています。

Ainaはインタビューで、「すべての企業が協力してくれるとは思っていませんでした。しかし、黒人文化に大きく依存し、黒人の消費者をターゲットにしているブランドには変化を促す責任があり、多くの場合、黒人の従業員を仲間に加えることで変化を促す責任があります」と、企業のあり方を話しています

このように、影響力のあるインフルエンサーがソーシャルプラットフォームを使うことで何かしらの行動を促すというのも、この時代だからこそできることといえるかもしれません。

Think Yourself

「個」として考える

実際に日本に住んでいると、米国で起こっている大規模なデモをどう捉えるか? 私には何ができるのか? と考えている人が多くいるかもしれません。

タイムラインやInstagramのストーリーでは、友人や著名なインフルエンサーが意見をシェアし、情報を発信しています。人種差別に関する本や映画に触れ、募金をし、あるいは実際にデモに参加するなど、さまざまな参加方法が提示されています。

しかし、どんな発言をするのか、そもそも賛同するのか否かと、「自分の立場」を示そうにも、ソーシャルメディア上での振る舞いに惑う人もいるでしょう。

こうした葛藤から一歩前へ進み、ムーブメントを少しでも理解するためにも、ニューヨークに住む人々のリアルな声をまとめたプラットフォーム「POST2020」をはじめ、現場の生の声を知ることの意味は大きいはずです。

人種差別という問題に限らず、すべての社会を取り巻く状況を理解し、自分自身がどのように社会に向き合っていくか。すぐに風向きの変わるタイムラインから離れ、時間をかけて見つけていくことが大切でしょう。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. クリーンな社会へ。風力発電、太陽光発電、蓄電池のコストは急速に低下しており、米国では15年後には、90%のクリーンな電力を使用し、電気料金を上げることなく電気を利用することが可能になります。また、新たに再生可能なインフラができることで、毎年50万人以上の新規雇用を創出。さらに、2045年までには、電力網全体が再生可能なエネルギーで稼働することができるようになるでしょう。
  2. 都市から脱出するミレニアルズ。国勢調査局の最新データによると、2018年、ニューヨーク州から約7万6,000人のミレニアル世代がほかの場所へ移住し、米国で1位に。カリフォルニア州は約3万6,900人のミレニアルズが移住していて、第2位にランクされています。都市で見ると、ニューヨーク市では2018年、約5万400人以上のミレニアルズが移住しています。
  3. グラミー賞もBLMによって変わる。グラミー賞の主催団体であるレコーディング・アカデミーは6月10日、「ベスト・アーバン・コンテンポラリー・アルバム」部門の名称を変更すると発表しました。2012年にグラミー賞に追加されたこの部門は、その名前が批判の対象になっていましたが、今後は「ベスト・プログレッシブR&Bアルバム」と呼ばれるようになります。
  4. HBOが『風と共に去りぬ』を削除。HBOは、「人種差別的描写」を理由に、1939年の米国映画の名作『風と共に去りぬ』をライブラリから削除しました。同社のサービス「HBO Max」でストリーミング配信されていた同作は、ユーザーが視聴できなくなっていますが、「歴史的背景についての考察を加えた上で再公開する」としています。

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