New Normal:「リセール」が加速する

New Normal

新しい「あたりまえ」

Quartz読者の皆さん、こんにちは。毎週金曜日のPMメールは「New Normal」と題し、パンデミックを経た先にある社会のありかたを見据えます。今日は、ファッション業界で巻き起こるリセールについて。ラグジュアリーブランドも無視できなくなりつつある「購入」のあり方から、新しいエコシステムを探ります。

REUTERS/LUCAS JACKSON
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Image: REUTERS/LUCAS JACKSON

世界の各都市で行われたロックダウンは、人々の消費行動を大きく変えました。

自宅に閉じこもり、外に出られない人たちが生活必需品を頼るのは、Eコマースでした。実際Eコマースの伸長は顕著で、Amazonは、第一四半期決算でも投資家の予想を上回る売上げを報告しています

そして今、新型コロナウイルスの感染拡大が収まりつつある地域も増えるなか、ラグジュアリーファッションに代表される“日用品以外”の“不要不急”の買い物に関しても、大きな変化が生まれつつあります。

その鏑矢となる例が見られたのが、各国に先んじてロックダウンを解除した4月の中国でした。

After Revenge Consumption

祭りのあとに

2カ月前、HERMÈS(エルメス)は、中国広州市の旗艦店を移転・オープンし、1日で約2億8,500万円を売上げが話題となりました。 Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)などのブランドを有するLVMHも、中国でのセールスが回復しつつあることを報告しています

COURTESY OF HERMÈS
COURTESY OF HERMÈS
Image: COURTESY OF HERMÈS

リベンジ消費」(Revenge Consumption)と呼ばれるこの動きは、コロナが原因の「巣ごもり」によって抑圧されていた物欲が一気に解放されたものだと考えられています。

ただし「リベンジ消費」だけで、ファッション業界の経済状況がコロナ以前の状況に戻るとは考えにくいでしょう。中国でラグジュアリーブランドを購入するのは若年層。おもに自らの経済的地位をアピールすることが購入の動機だといわれます。

一方で、欧米のカスタマーは基本的にはリピーターであり、比較的高齢のため、消費意欲が低いのが特徴です。そもそもブランド品を購入する動機が異なるため、深刻な不況も重なる欧米では、中国と同じような売上げが見込めないと分析されています

Next Stage

活路はオンライン?

新しいコレクションを発表することが難しいインディペンデントなファッションデザイナーの多くも、危機的な状況に陥っています。英国での調査では、デザイナーのうちの35%が外部からの支援がなければ3カ月以内に廃業しかねないと考えていることが明らかになりました

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さらに、産業を支える小売店の状況も深刻です。米百貨店Macy’s(メイシーズ)は、5月2日までの四半期に9億500万ドル(約970億円)から11億ドル(約1,180億円)の営業損失を見込んでいます。これは、2019年度の営業利益とほぼ同額です。産業全体が2019年度の売上げにまで回復するには、2023年を待たなければならないというレポートもあります

そんななかで希望となりつつあるのは、オンラインショッピング。外出自粛のなかで当然の動きといえます。

2025年には、ファッションのなかでもラグジュアリーとされる領域の30%の売上げがオンラインに移行するという予測もあり、その流れは一層加速するものと思われます。

ファストファッションでも同様の動きがあります。ZARA(ザラ)を展開するInditex(インディテックス)は、最大1,200店舗の閉鎖を決めましたが、2022年までにオンラインでの売上げを2019年度の14%から25%まで伸ばすことを目指しています。

New Movement

リセールムーブメント

オンラインのなかでもファッション業界で注目を集めているのは、リセールと呼ばれるいわゆる「中古市場」です。新型コロナによる影響を受ける前から、その規模は毎年12%を越える伸び率を示しており、2021年までには約360億ドル(約4兆円)に登ることが予想されていました

当初は商品の売上げを低下させる脅威だと思われてきましたが、ブランドの姿勢は徐々に変化しつつあります。

そもそも、新品を購入する層とリセールで購入する層は明確に分かれているため、これまでラグジュアリーブランドに興味をもたなかったZ世代やミレニアル世代が、手に入れやすい価格帯で商品に触れられるというマーケティング的な側面に期待が集まっています。ブランドは、ある種の「リクルートシステム」としてリセールを歓迎しつつあるのです

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また、ムーブメントの背景にあるのは、ファッション業界全体のサステナブル志向です。

21世紀に入って衣料品の生産量は急上昇しており、2000~2014年の間に2倍に拡大しました。世界の温室効果ガス排出量の8%を占め、新品の衣類の大半が1年以内に焼却処分されているファッション業界にとって、リセールは産業構造を変えるための試みでもあります。

同時にリセール用のプラットフォームに対する注目も集まりつつあります。

たとえば、英ロンドンで2011年に創業した「Depop」は、Instagramのようなインターフェイスで古着を出品・購入できるサービス。1,800万人のユーザーを誇り、そのユーザーの90%は26歳以下、さらに毎月1万ドル(約107万円)以上を売り上げるユーザーもいるといいます。2019年には、米投資ファンドの主導により6,000万ドル(約64億円)の資金調達を達成しました。

Alternative Investment

「バッグ」の資産価値

リセールのムーブメントは、コロナという状況においてさらに加速しつつあります。

背景には、オンラインでの購入が容易なこと、さらに経済的な状況が悪化し高級品の購入が難しくなりつつあることに加え、ラグジュアリーブランドのプロダクトに資産価値が認められつつあるという側面があります。

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仏パリを拠点とする高級ファッションのリセールプラットフォーム「Vestiaire Collective」によれば、エルメスとシャネルの中古ハンドバッグの販売は、ヨーロッパでロックダウンが始まったときに落ち込んだことをのぞけば、ほとんどの場合、価格と数量双方の点で安定しているといいます

ラグジュアリーなハンドバックのような伝統的なプロダクトは希少性が担保されているため、時間の経過とともに価値を高めていくことが少なくありません。株式のような変動性の高い資産以外にもリスクを分散したいという資本家の要望に、ファッションのリセール市場は応えられるのです。

こうした「オルタナティブ資産」と呼ばれる分野は、過去10年間で大幅に規模を拡大しています

In China

中国でも加速

そしてリセールは、いま経済的な回復を遂げつつある中国でブームになりつつあります。もともと「新品」に重きが置かれてきたという文化的な背景から、リセール自体が受け入れられてきませんでした。ただ、その状況は若い世代を中心に変化しつつあります

その傾向に拍車をかけているのが、KOL(キーオピニオンリーダー)とよばれるインフルエンサーの存在です。阿里巴巴(アリババ)が運営するフリーマーケットアプリの「Idle Fish」では、若者に人気のあるセレブが、自身が所有する商品をリスト化し販売しています。

REUTERS/BENOIT TESSIER
REUTERS/BENOIT TESSIER
Image: REUTERS/BENOIT TESSIER

アリババは新品を再販するための仕組みも整えています。オンラインモール「淘宝網(タオバオ)」で商品を購入した後、不要になった商品をワンクリックで、Idle Fishのアカウントに再出品することができます。

2019年には1億4,000万点以上のアイテムがワンクリックで販売されました。これは、タオバオで購入した10点のうち2点がIdle Fishに再上場される計算になります。しかも、そのうちの40%が最初の購入から1カ月以内に再販されました

Real or Fake

信頼性というハードル

ただし、リセールには課題もあります。それは「信頼性」です。

リセール購入できる商品がブランドによって製造された「本物」なのかを証明することは、オンライン上ではどうしても難しいのです。Eコマース黎明期に生まれた不信感も手伝い、インターネット上で高い商品を購入することにハードルを感じる人も少なくありません。

そんななか、2011年に米国で創業したファッションのリセールプラットフォーム「The Real Real」は、8都市に100人以上の鑑定士を抱え、全ての商品の査定を行い、商品の正統性を確保しています

PHOTO VIA THE REAL REAL
PHOTO VIA THE REAL REAL
Image: THE REAL REAL

ハイブランドファッションを扱う英国発のEコマースサイト「Farfetch」(ファーフェッチ) は、2019年に「Farfetch Second Life」をローンチ。限定されたブランドのプロダクトについて、リセールが可能になりました(現在は、EUと英国のみでサービスを展開)。

メイシーズウォルマートなどのリアル小売店がリセールに参入する動きもあります。メジャープレイヤーの参入はリセール市場全体の信頼を高め、市場の活性化にも貢献していくでしょう。

Sustainable Market

ブランド品は循環する

また、ほとんどのブランドは、自社製品のリセールから直接的な利益を得ていません。ブランド、消費者、マーケットを循環させるいわゆる「サーキュラーエコノミー」を確立することが不可欠になってきます。

高級バッグのリセールプラットフォーム「Rebag」は、リセールとレンタルを組み合わせた「Infinity Exchange」というサービスをローンチしました。このサービスでは、リセール時の商品価値が、プラットフォーム上で購入できるクレジットとして購入時から保証されます。ユーザーが継続的にRebag上でバッグを購入するため、新しいブランドと出合う場所として機能することが期待されています。

PHOTO VIA REABAG
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Image: REBAG

マーケットが主導する同様の試みが進めば、「リクルートシステム」としてのリセールマーケットはより確固たる位置を築いていくでしょう。

コロナ以前から求められていた、ファッションにおけるサステナブルなエコシステムは、リセールにおけるイノベーションから生まれるかもしれません。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. デリバリー会社が合併へ。オランダのフードデリバリー「Just Eat Takeaway」が、6月10日(現地時間)、米国の同業である「Grubhub」を73億ドル(約7,800億円)で買収し、合併することを明らかにしました。なお、Uber EatsもGrubhubを買収しようとしていましたが、合併交渉が中止され、結果、Just Eat Takeawayと組むことになりました。
  2. ハリウッド、“新しい”方式で撮影開始。カリフォルニア州知事のGavin Newsom(ギャビン・ニューサム)は、6月12日からハリウッドで映画やテレビの制作が再開できると発表しました。撮影には公衆衛生当局の承認が必要ですが、新型コロナウイルスの影響で、3カ月間の中断を余儀なくされていたエンタメ界が復帰するための一歩となります。
  3. 初の「ソーシャル・ディスタンス」な音楽スペース。ロンドンでは、ソーシャル・ディスタンスを忠実に守った初のスペース「One Night Records」が、今年の10月にオープンします。ウェブサイトによると、同スペースは「世界初の没入型音楽会場」で、マスクの着用、入場は4人1組(友人・家族)のグループに限定、到着時間をずらして参加するなど、さまざまなルールが定められています。
  4. シャネルはなぜ、やり方を変えない?シャネルは、パンデミックの影響でファッションシステムを変えることにあまり好意的ではなく、今も昔ながらのやり方を信じているようです。多くのブランドがコレクションを縮小しているなか、シャネルは現在、プレタポルテが2回、オートクチュールが2回、クルーズとメティエ・ダールの年6回のショースケジュールを堅持しようとしています。

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