MILLENNIALS NOW
ミレニアルズの今
Quartz読者の皆さん、こんにちは。COVID-19のパンデミックやBLMでの活動に対応するようにソーシャルメディアでもよく見かけるようになった寄付活動。今日は、私たちが生活するうえでより身近になっている慈善活動と、ミレニアル世代の関係性を考えます。
若者にとって今、何かに募金することが「当たり前」な時代になっています。特に、2020年に入ってからは、COVID-19でのパンデミック、Black Lives Matter(BLM)により、ソーシャルメディア上で募金を募る個人や団体、寄付を表明する企業などを目にすることが多くなりました。
しかし、ミレニアル世代は、慈善活動を行うための資金を必ずしも豊富にもっているわけではありません。平均的なミレニアル世代は、約37,000ドル(約400万円)の大学の借金を背負っていて、米国の学生の借金は全体で1.4兆ドル(約150兆円)に上るともいわれています。また、20歳未満の失業率は、14%を超えている状況です。
さらに、同世代の純資産は8,000ドル(約85万円)未満で、貯蓄口座の残高は5,000ドル(約54万円)未満、年収は平均で35,592ドル(約381万円)とも言われています。
それにもかかわらず、ミレニアル世代の慈善活動の平均額は、一人あたり年間で約500ドル(約5.4万円)。ベビーブームやX世代に比べるとわずかに少ないのですが、その所得や資産からすると、ミレニアル世代は寄付をする傾向が強いと言えそうです。
実際、ミレニアル世代の寄付率は約84%。対照的に、ベビーブーム世代は72%、X世代では59%にしかおよびません。このようにミレニアル世代の慈善活動は、もっている資産が少ないにもかかわらず、ほかの世代を上回るペースで行われているのです。
Hooked on
透明性を求める
なぜ、慈善活動を積極的に行うのでしょうか? 米国における寄付やボランティアのルーツを、キリスト教の教えに習ったことや、お金がある人が貧しい人を助けることがスタンダードだとして教えられていることに求める声は多く聞かれます。また、節税対策としても行われる場合もあります。
しかし、ミレニアル世代にとっては、自身の行動が変化につながることを“実際に、最初から最後まで、目にする”ことを前提に行われています。
ニューヨーク大学教授で公共サービスを専門とするPaul C. Light(ポール・C・ライト)は、「ミレニアル世代とZ世代は、伝統的な制度や社会的慣行に縛られていません」と述べています。
「彼らは、自身の両親や祖父母が好んでいたような“一般的”な慈善団体にはほとんど興味を示さず、テクノロジーの進化も講じて、コミュニケーションから政治的な組織化、慈善活動の再構築に至るまで、活動自体に新しい変化を生み出そうとしています」
つまり、慈善団体に透明性、“洗練された”ストーリーテリング、技術的な知識を期待しています。そして、多くの寄付者は金銭を寄付するだけでなく、自分たちが信じる大義のためにボランティアをしたり、ソーシャルネットワークの力をうまく使っているのです。
ミレニアル世代の寄付パターンを研究する「Millennial Inpact Project(ミレニアル・インパクト・プロジェクト)」の主任研究員であるDerrick Feldmann(デリック・フェルドマン)は、「再構築を図っているような団体の多くは、団体が解決策であるとは考えず、個人を解決策の一部として位置づけています。それは、これまでと非常に異なる考え方です」と話します。
たとえば、同プロジェクトの2015年の調査では、ミレニアル世代が最も寄付をする傾向があるのは、組織に刺激を受けたと感じたとき、そして自分の寄付がもたらすインパクトの例を目にしたときであることがわかりました。
最も重要なことは、ミレニアル世代は、金銭的なものであれ、そうでないものであれ、自分の寄付を、仕事に関わるものや生活費の支出と同等であるライフスタイルの選択とみなしているということです。手もとにある膨大な選択肢を考えると、彼らは自分が与える「ギフト」がどのように独自の影響を与えているかを確認し、測定することを考慮しています。
このような理由から、教育、ヘルスケア、環境など、若者が直接的に関わったり、興味のある問題に関する慈善活動に対しては熱心であると、調査は示唆しています。そのため、彼らにとって教会や学校、職場での組織的で不透明さがあるものに関しては、積極的ではないでしょう。
Go well together
寄付との相性
Statistaが発表した2018年世代別の寄付に利用したチャネルの統計を見ると、ミレニアル世代の寄付者の40%がウェブサイト経由で行っていることがわかります。
特に、現在起こっているBLMでは、ソーシャルメディアで呼びかけてから寄付を集めるまで、非常に速いスピードで行われています。
5月29日、デモ参加者の保釈金を支払うための資金を募っている非営利団体Brooklyn Community Bail Fundのメンバーが、デモを支援する方法として同団体に寄付をするTwitterに投稿しました。その結果、24時間以内に5万人以上の個人が寄付を行い、支援金は180万ドル(1.9億円)も集まったと言います。今回の警察の残虐行為や人種的不平等との闘いへの支持を示したいと考える多くの人々にとっては、保釈金が主な選択肢となっているようです。
資金調達の専門家によると、こういったバイラルな動きが資金を集めることに効果的な理由は、行動を呼びかける力、社会的な説明責任感、感情的なアピールなどが挙げられると話します。
実際、どのように拡散していくかというと、寄付した金額(おおよそ20〜50ドルの間)のスクリーンショットをツイートし、それと一緒に、寄付金と同額の寄付をしてくれる人がいるかどうかをツイート主が尋ねます。ここからほかの人へ連鎖し、寄付が膨らんでいく、という仕組みです。
以前から、ソーシャルメディアやウェブサイトのマーケティングに力を入れ、寄付を募ってきた団体もあります。ニューヨークを拠点とする非営利団体であるPencils of Promise(ペンシルズ・オブ・プロミス)は、学校を建設したり、奨学金に資金を提供、発展途上国で教師を養成するための資金を集めるため、2008年からオンラインにフォーカスしてきました。
同団体のマーケティング担当ディレクターであるNatalie Ebel(ナタリー・イーベル)は、それが功を奏したと語っています。
ほぼ完全な透明性と高品質のストーリーテリング(寄付者のためにカスタマイズされたウェブサイトを構築し、バーチャルリアリティ映画も制作)に重点を置いていて、ミレニアル世代のオンライン利用を成功させるために特定した3つの分野、すなわち「満足感」、「シンプルさ」、「緊急性」に取り組むことを目指してきました。
「私たちは、お金を求めているのではなく、世界を変えるためのコミュニティを構築している“ブランド”であるかのように人々に語りかけているのです」
Open your Purse
求む、企業の「財布」
BLMで浮き彫りになったのが、ミレニアル、Z世代が企業にも寄付を求めている姿勢です。両世代のうち、69%が「ブランドはBLMに関与すべき」と考えていて、58%が寄付活動をすべきだと答えています。
彼らは、企業に対して高い社会的基準を求めているので、「決まり文句」だけでは納得しません。支持を明確に公に宣言し、問題を解決するための惜しみない財政的支援が欲しいのです。実際に、Adam Martinez(アダム・マーティネズ)がTikTokを通じて投稿した「open your purse(財布を開けろ)」がミームになっています。
Forbesによると、テック、メディア、美容などの大手企業は、公的な支援の立場から反人種主義活動への寄付として数百万ドルを提供。Facebookは1,000万ドル(約10.7億円)の寄付を約束し、YouTubeは 「人種差別と暴力に対する連帯」を示すために、Center for Policing Equityに100万ドル(約1億円)を寄付すると発表しています。
また、若者は、企業が寄付以外にBLM関連の商品を作って利益を得ることは望んでおらず、単に「寄付する」という行動に対して評価しているようです。
By Myself
自分にも「寄付」
慈善活動のための寄付は、対団体や組織だけでなく、身の回りの小さいコミュニティ、私たちの生活圏内でも当たり前になっています。
GoFundMeは、ミレニアル世代によって設立されたクラウドファンディング・プラットフォームで、ミレニアル世代(およびその他の世代)が世界旅行や医療費など、お金が必要なものをクラウドファンディングするために利用されています。主に事業やクリエイティブなことを達成するために使用されているKickstarter、慈善事業のためにのみ使用されるCrowdRiseとは異なります。GoFundMeは、誰でもが望むものに対して資金を集める簡単なキャンペーンを作成することができるので、人気を集めています。
こういったクラウドファンディングを立ち上げて募るだけでなく、決済サービスのVenmoを使って個人的な資金も募っている例があります。
Los Angeles Timesの Suhauna Hussain(スハナ・フサイン)は、お金に困っている若者たちが、Twitterで金銭的な助けを求め、Venmoアカウントへのリンクを含めて、モバイル決済アプリをクラウドファンディングのプラットフォームとして利用していると報じています。
「ユーザーは、家賃や食費、医療費、手術費、移民費用、家族の葬儀、さらにはコーヒー1杯やネイルサロンへ行くための費用など、数百ドルのクラウドファンディングを求めています」
この傾向は特に、女性、有色人種、移民、LGBTQコミュニティなどに多く見られるとのこと。
ある大学生は、父親が移民税関捜査局に保護された際に1,500ドル(約16万円)を集め、別の学生は家賃、授業料、医療費を抱えて苦しい生活のために食費として150ドル(約1.6万円)を受け取り、ほかの学生はDACA(不法子女救済措置)の更新料から留学プログラムまで、あらゆるもののために何度も資金を集めている、とされています。
そもそも、Z世代は、朝のコーヒーや通勤のための交通費などの日常的な出費をカバーできるかどうかすら不安に思っているといいます。
Bankrateの新しいレポートによると、日常的な出費がこの世代を睡眠不足にさせる、最大の経済的なストレスの要因であることがわかりました。また、Z世代の回答者の4分の1以上が、自身や家族の教育費を心配していると答えています。こういったことからも、生活に対する不安が募り、身近なところで少ない金額でもお金を集めようとするのでしょう。
しかし、この使い方は、決済サービスを主軸としているVenmoが意図したものではありません。本来であれば、支払いを簡単に分割できるようにするために使用されます。たとえば、友人には夕食の支払いに対して自分の分を、兄弟には親への誕生日プレゼントの半分を返すなど、です。
Venmoは今、一部ではGoFundMeと似たような機能をもつようになり、予期せぬ経済的状況が理由で資金を集めるために、使われるようになってしまったのです。
ほかにもFacebookは「Donation」の機能をつけ、個人でも団体でも寄付を集めることができるようになりました。慈善活動は、これまでよりも「寄付」や「募金」というものを目にしやすい環境になり、生活とも密接なトピックに対して共感することで、簡単にアクセスできる活動へと変化しているのかもしれません。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- Instagramがショッピング機能を拡大。Instagramは、自身の商品を販売したいクリエイターやより多くの企業に対して、ショッピング機能(Shop Now)へのアクセスを拡大することを発表しました。同社は、Instagramでの販売の資格を得るために、企業が遵守しなければならない一連のガイドラインを提供する新しい「コマース資格要件」を導入しています。
- Amazonが環境のために動き出す。Amazonが2040年までにカーボンニュートラルになることを計画していると発表してから9カ月。同社は、20億ドル(約2,130億円)を投資する社内VCファンドClimate Pledge Fundを立ち上げました。同ファンドは、輸送・物流、エネルギー生成・貯蔵、サーキュラーエコノミー、農業などに取り組む企業に投資する予定です。
- DIY人気は株価も変えたか。手芸や古物、独自の工場生産などの商品を扱うEコマースプラットフォームEtsy。同社の株価は、6月23日(現地時間)に7.9%上昇しました。3月の安値から3倍以上に上昇し、記録的な水準で取引されています。また、NASDAQ総合指数の14%の上昇に対して、今年は130%以上上昇しています。
- Z世代はハリウッドを信じない。Morning Consultは、4〜6月の3カ月間で13〜23歳の人々を対象に調査。結果、彼らが米国の主要な機関への信頼を失っていることが分かりました。6月には、Z世代の28%が年長者を信頼する一方、警察は13%、米国政府に対しては10%でした。なお、ハリウッドについてはわずか4%の結果になっています。
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