New Normal:小売の進化が加速する

Friday: New Normal

新しい「あたりまえ」

Quartz読者の皆さん、こんにちは。毎週金曜日のPMメールでは、パンデミックを経た先にある社会のありかたを見据えます。今日は、変化に直面する小売り業界の最新状況を、まとめてレポートします。英語版はこちら(参考)。

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パンデミック以前から、小売業界はすでに大きな変革期を迎えていました。

インターネットによって消費者の購買行動は変わり、Eコマースが市場でのシェアを伸ばしていました。大手スーパーマーケットチェーンのWalmart(ウォルマート)Target(ターゲット)は、デジタルトランスフォーメーションを進め、デジタル事業に投資をしてきました。

また、米国における小売業の雇用者数は業界別にみてもトップで、非常に重要なマーケットになっています。長期的な傾向として、小売業の売上高と雇用は成長しているのです。

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しかし、現在、多くの国で、小売業のシステムの多くがストップしています。

2020年4月現在、米国の小売売上高は昨年比で17.8%減と急落。この落ち込みは、多くの店舗がソーシャルディスタンスを設けるルールに応じて閉店したこと、そして、消費者が生活必需品以外の支出を制限していることに起因しています。

Change in retail spending

個人消費の推移

世界経済の悪化に伴い、消費者の支出は減少しています。米国国民は、金融刺激策「Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security (CARES) Act」の一環として、1,200ドル(約12万9,000円)の小切手を受け取ります。さらに、失業保険として、各州からの給付に追加して1週間あたり600ドル(約64,000円)の追加給付を受けられます。

しかし、こうした経済活動の後押し施策にもかかわらず、個人消費はほとんどのカテゴリーで減少しています。

米国勢調査局では毎月、さまざまなタイプの小売店でどれだけのお金が消費を推計しています。データによると、2020年3月の自動車ディーラー、レストラン、ガソリンスタンド、衣料品店での支出は、2019年の同じ月と比較して、急激に減少。これらのタイプの小売店は、人々がソーシャルディスタンスを維持しようとしているため、今後も厳しい状況が続くでしょう。

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The ripple effect

波及効果

売上の減少に伴い、小売店は家賃やローンの支払いなどの経費が払えなくなっています。このような状況は多くの企業を倒産に追い込み、世界中で店舗閉鎖を促す結果になっています。

仕事が減り、残された仕事を奪い合う失業中の労働者が増えているため、小売業の労働者の賃金は停滞、あるいは低下。米国では、特に黒人やラテン系の労働者が最も深刻な打撃を受ける可能性があります。

REUTERS/Lucas Jackson
REUTERS/Lucas Jackson

パンデミック以前から起こっていたモールの衰退は、同影響で加速しています。

不動産投資会社CoStar(コスター)によると、米国のモールスペースの占有率上位20社のうち、14社が百貨店とアパレルチェーンです。

米国のモールの6.2%を占める、モール最大のテナントであるMacy’s(メイシーズ)は今四半期、2019年の利益全体にほぼ匹敵する10億ドル(約1,070億円)の損失を見込んでいます

ほかにも、モールの大手テナントでもあるJC Pennney(JC ペニー)は242店舗、Nordstrom(ノードストローム)は19店舗、Victoria’s Secret(ヴィクトリアズ・シークレット)は米国とカナダで250店舗を閉鎖する計画を発表しています。

Winners and losers

勝者と敗者

米国政府は、従業員の給与支払いを支援するための資金などの支援を企業に提供してきましたが、多くの小売業者が生き残るためには追加の支援を必要とするでしょう。

ほかの国も同様の政策を実施しています。中国は企業に8,000万ドル(約86億円)を融資し、ドイツはレイオフを防ぐために50万社近くの企業が短期労働プログラムのKurzarbeitに応募し、日本は1兆ドル(約107兆円)の巨額パッケージで、雇用と事業損失を補おうとしています。

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Amazon、Target、Walmartなど、必需品を多く販売する小売店は、消費者がパンデミックによって食料品や掃除用品などの買い占めに走ったことによって、売上高が増加しています。これらの小売業者は店舗を維持することができ、オンライン販売も急増しました。

一方で、必需品以外の商品を販売する小売業者は、店舗を閉鎖せざるをえず、場合によっては、頼りになる強力なEコマース事業は行なっていませんでした。

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Targetは、即日配送サービス「Shipt(シップト)」と、オンラインで提供するサービスのすべてを通じた売上が、第1四半期に急増したと報告。同社の最高執行責任者(COO)であるJohn Mulligan(ジョン・マリガン)は、「4月のShiptでの売上は、1年前と比較して1,000%近く増加しました」と述べています。

Winner take all: Amazon

アマゾンの勝利

Amazonはオンラインビジネスだけでなく、必需品やその他のアイテムを買いだめする消費者の後押しを受けています。3月31日までの四半期には、Whole Foods(ホールフーズ)といった食料品チェーンなどの物理的なストアからの収益も急増しました(Amazonは、2017年に137億ドルでホールフーズを買収)。

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同社はまた、経費の増加にも対処しています。創業者兼CEOのJeff Bezos(ジェフ ベゾス)は、4~6月期に見込まれる40億ドル(約4,300億円)分の営業利益全体を、従業員の安全を確保するための対策や、フルフィルメント(配送・在庫業務)を円滑に進めるための新型コロナウイルス対策費用に全額を費やす予定だと、投資家に話しました。

The continued rise of ecommerce

Eコマースの台頭

Eコマースで盛り上がっているのは、Amazonだけではありません。同社の株は2020年、30%以上上昇していますが、オンライン小売業者の中には、それ以上の業績を上げているところもあります。

2020年、オンラインで家具や家財を販売するWayfair(ウェイフェア)の株価は2倍の値上がりを見せています。

4月、ハンドメイド製品に特化したプラットフォームを展開するEtsy(エツィー)は、マーケットプレイスの成長率が100%に達し、株価は90%以上上昇。同社CEOのJoshua Silverman(ジョシュア・シルバーマン)は、「4月の力強い成長の大きな原動力のひとつは、布製マスクだった」と6月2日の決算説明会で語りました。

ペット用品のオンライン企業Chewy(チューイ)は、2020年に入って約75%急騰。中国のEコマース大手JD.comの米国株は約60%上昇しています。

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米国人で実店舗などリアルな小売業に従事している(働いている)割合は、以前よりすでに低下しており、一部ではEコマースの台頭を受け、拍車がかかっていました。そして、このパンデミックの影響によって、人々がよりEコマースを頼るプロセスが加速しています。

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調査会社のStatistaによると、2019年の米国のオンライン売上高は3,652億ドル(約392兆円)に達し、2024年には6,000億ドル(約645兆円)近くに達すると予測されています。

Covid-19 Protection expenditures

COVID-19から守る

一部の店舗では営業を再開し始めていますが、新しいルールの中で店舗や倉庫を運営するのは決して容易いものではありません。

REUTERS/Ajeng Dinar Ulfiana
REUTERS/Ajeng Dinar Ulfiana

ロックダウンが解除されると、企業は清掃、プレキシガラスのバリアの設置に費やすほか、手袋やフェイスカバーといったスタッフのための個人用保護具に支出しています。

Costco(コストコ)は、直近の4半期には2億8,300万ドル(約304億円)を追加で支出したといいます。

AmazonのCFOは、同社は第1四半期にCOVID-19関連の経費で6億ドル(約645億円)を費やしたと述べましたが、その数字は第2四半期に40億ドル以上に膨らむ可能性があると予告しました。

Accenture(アクセンチュア)によると、このパンデミックによって、当面の間、消費者の行動は明らかに変化したといいます。人々はより意識的に買い物をし、地元のものを購入し、Eコマースを利用するようになっています。また、所得が減少しているため、優先順位は依然として必需品に集中。衛生用品や主食品の需要は、今後も伸びるだろうと予測しています。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. Macy’sが大打撃。Macy’sは7月1日、新型コロナウイルスの影響を受けた第1四半期に35億8千万ドル(約3,850億円)という驚異的な損失額を発表しました。なお、同社は3,900人の従業員をレイオフしたほか、第1四半期の売上高は、30億2,000万ドル(約3,250億円)に減少したこと報告しています。
  2. スマートマスクの誕生。日本のスタートアップDonut Roboticsは、インタラクティブなマスク「c-mask」を開発しました。白いプラスチック製で、一般的なマスクの上に装着し、Bluetooth経由でスマートフォンやタブレットのアプリケーションに接続。音声をテキストメッセージに書き写したり、電話をかけたり、マスクを装着した人の音声を増幅したりすることができます。
  3. ニューノーマルな距離感。パーソナルスペースの意味は、国や文化、文脈によって異なりますが、私たちは今後、公共空間でどのように過ごすかが問題になってきます。公園、レストラン、劇場、その他多くの場所がウイルス感染の危険をもたらしており、政府はこれらの場所をより安全にするために新たな制限を設けています。Reuterが公開したサイトでは、ニューノーマルな過ごし方について説明しています。
  4. TikTokで話題の「Dark Academia」。主に14〜25歳のユーザーによって作成され、クラシックな学生生活の美学を追求するもの。Dark Academiaでタグ付けされた投稿は、TikTokで1,800万回以上の再生回数を記録し、Instagramでは10万回以上の投稿があります。パンデミック前からトレンドでしたが、その住民の多くにとっては、学校がIRL(現実世界)でなくなっている間に重要な居場所になっています。

(翻訳・編集:福津くるみ)


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