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ミレニアルズの今
Quartz読者の皆さん、こんにちは。InstagramやTikTokで広がる「Dark Academia」というトレンド。なぜ、若者たちは、ゴシックなものにノスタルジーを感じ、クラシックな審美眼を育んでいるのでしょうか？ この独自のミームとコミュニティを考察します。
新型コロナウイルスの影響は、学生の生活も一変させました。
“現実の世界”で学生たちは学校へ行くこともできず、卒業式を行うこともできませんでした。米国ではトランプ大統領が秋の新学期から再会させるべきと主張していますが反発の声も多く上がっています（一部の大学ではすでにオンライン授業の継続を発表）。
一方、“デジタルの世界”では、常にトレンドが生まれています。最近では、TikTokを中心に学生を含むZ世代のあいだでミームになった「E-girl」「E-boy」も記憶に新しいですが、このパンデミックで、これまでとは異なる種類のアカデミックなコミュニティ「Dark Academia（ダークアカデミア）」が流行っています。
Dark Academia
新たなコミュニティ
このコミュニティは、古典文学、自己発見の追求、知識と学習への一般的な情熱を中心とした美学を軸としています。共通するテーマとして挙げられるのは、本、詩、友情、予備校・私立学校、クラシック音楽、青春、実存主義、死/殺人、社会階級、ロマンスなど。ノートに詩を書いたり、古典を読んだり、地元のコーヒーショップや本屋、図書館、美術館に行ったり。知的な雰囲気の伝統的なスタイルが特徴です。
主に14〜25歳のユーザーによって構成されており、#darkacademiaとタグ付けされた投稿はTikTokで1,800万回以上の再生回数を記録し、Instagramには12万以上の投稿があります（7月9日現在）。
Dark Academia自体は、パンデミック以前に誕生していました。が、現実世界での学校が機能しなくなったなかで、その住人の多くにとって重要なコミュニティになっています。
彼らのスタイルは、英国製のスーツ、フレンチカフス、格子縞のシャツ、ツイードのジャケットという、クラシックなもの。お気に入りの本の登場人物に扮したり、Dark Academiaの“必須テキスト”でもあるミステリー小説『The Secret History』（1992年発行）の著者ドナ・タートのヴィンテージ風写真を投稿したりする姿も珍しくありません。
マーケティング会社Hierarchyのストラテジーインサイト担当ディレクター、Culture x Curate創設者でもあるナタリー・ブラックによると、『The Secret History』は「その美学全体を、実際のライフスタイルに変える」ための指針。Dark Academiaで使われるものは、18世紀から1940年代までの幅広い時代のものをミックスした興味深いものになっています。
WHO STARTS AND WHY?
現実からの「逃避行」
Dark Academiaは、どのように始まったのでしょうか？
正確な起源は明らかになっていないものの、多くのユーザーは、まずTumblrで見つけたと話してます。
たとえばブラジルで英文学と言語学を専攻する21歳の学生、アナ・アルサン（@dark.academia）が最初にこのサブカルチャーに出会ったのは、2014年にTumblrを見ていたときだったと言います。
「当時は、現在のような『Dark Academia』ではありませんでした。代わりに、Tumblr上のDark Academiaは、暗い写真の掲載とどのような本を読むべきかについて書かれた投稿に焦点を当てていました。これらの多くは、ゴシックや古典的な側面をもっていました」
また、Dark Academiaのコミュニティが流行った裏側には、若い世代の「不安」や「孤独」といったストレスも大きく関係していそうです。
ミレニアル世代同様、Z世代（15〜21歳までの世代）は、先行きの不透明な世の中に不安を感じています。米国心理学会（APA）の報告書「Stress in America」によると、移民問題から性的暴行まで、Z世代の成人の10人に9人以上（91%）がストレスを感じています。COVID-19によるパンデミックやBLM運動は、Z世代にさらなる精神的な負担を強いることになりました。
ソーシャルラーニングネットワークStuDocuは、パンデミックの最盛期（3月24日〜4月17日）に、1,600人以上の学生を対象に世論調査を行いました。結果、パンデミックで孤立したことで、62.4%が精神的な健康状態が悪化したと回答。調査対象者の感情のトップは、ストレス、フラストレーション、不安、孤独。パンデミック中に幸せを感じることが多いと答えたのはわずか18.5％でした。
もともとデジタルの世界との親和性が高いとされるZ世代が不安や孤独を抱えるなかでDark Academiaの醸し出すノスタルジックに浸るのは、ある種の“逃避行”といえるのかもしれません。
「歴史的なファッションや装飾、クラシック音楽や文学は、多くの人々がDark Academiaの美学について楽しんでいるものであり、それに引き寄せられるものの一部かもしれません。Dark Acedemiaは、過去のものへの憧れと興味です」と、20歳のVenkeは話しています。
READING AND LEARNING
読むこと、学ぶこと
このDark Academiaのコミュニティで注目すべきは、“読書”が欠かせないことでしょう。実は、Z世代は活字を読むのが好きです。
彼らはデジタルが当たり前の時代に育っていますが、電子書籍のおかげもあり、読書をするZ世代は多いです。YPulseの「趣味と熱中するもの」に関する調査によると、Z世代の半数以上が、直近の1週間以内に本を読んでいることが明らかになっています。もちろん、大多数が学生であることを考えると、読書の多くが授業の一環である可能性も高いですが、Z世代の34％が、本や電子書籍を読むことを「楽しみのために定期的に行っている」と答えています。
彼らにとって、読書の定義は変化しています。読むのにより集中力を必要としないように構成されたコンテンツやオーディオブックの利用が確実に増加しています。Book Riotによると、Z世代とミレニアル世代の48%がオーディオブックを愛用しているといいます。
JUVコンサルティングのメンバーであるジェイコブ・チャンとナディア・オカモトはまず、Z世代について「この世代の主な原動力となっているのは、911事件後の世界しか記憶に残っていないという事実です」と述べています。
「米国は常に戦争状態にあり、テロから学校での銃撃事件、さらにはいじめが横行するなど、私たちの周りのいたるところで実質的な混乱が起きています。しかし、この時代は個人の多様性と受容の普及によっても特徴づけられています。私たちは、同性婚を合法化し、黒人の大統領（オバマ大統領）と一緒に成長し、世界の全体的な公平性を発見しました。この一見逆説的に見える環境は、Z世代の文化や特性に大きな影響を与えてきたものです」
彼らが頼りとするRedditやInstagram、Twitter、テキストメッセージを「読書」と呼ぶことを、多くの年配の世代は嘲笑うかもしれません。しかし、ミームやその他のポップカルチャーの節目を理解する能力は、まさにこれらのソーシャルメディアやウェブベースのアグリゲーターを通じて得られるものです。
さらに、Z世代はソーシャルメディアに、もうひとつの価値を感じています。それは、ブランドやマーケーターではなく、彼らが信頼している人たちの声にふれられるという点です。
「Z世代が本について学ぶ・知る方法の第1位が、口コミです。それ以外にも、『The Fault in Our Stars』や『Crazy Rich Asians』のような本がちまたで流行ると、それも人気に影響します」とチャンは述べています（それぞれ『きっと、星のせいじゃない。』〈2014〉、『クレイジー・リッチ！』〈2018〉の邦題で映画化）。
彼はまた、Z世代の適応嗜好は、多くの人が考えているよりもはるかに伝統的であることにも言及しています。「映画は絶対的なナンバーワンであり、Netflixの映画化は明らかにそれを反映しています。舞台公演は、『Hamilton（ハミルトン）』のようにストリートで人気が出ない限り、Z世代は演劇を見に行かないからです。小説をFacebookでストリーミング配信しているという話は聞いたことがありません」
実際に、Z世代のスーパーモデル、カイア・ガーバーはこのパンデミック期間中にブッククラブ（読書会）をInstagramで開設し、話題を呼びました。人々が孤独にならないよう、本をシェアして口コミを広げ、コミュニティを拡大していきました。
つまり、Z世代にとって本とコミュニティもひとつの大きな「繋がり」を示すものになっているのです。
BORDERLESS COMMUNITY
「今」の価値観を体現
このDark Academiaのコミュニティは、そのフラットな隔たりのない現代の価値観をも表現しています。
「アンドロジナスなビンテージブレザーは、間違いなくその美学を表すものです」と語るのは、ロンドン大学ロイヤルホロウェイ校のファッション史家、ディララ・シュロズ。「男の子でも女の子でも、これらの定義のどれにも当てはまらない人でも、誰でも着ることができます。誰でもフェミニンになれるし、マスキュリンになれます。クラシックなDark Academiaの服のシルエットは、1930年代や1940年代のメンズルックを彷彿とさせることが多いのです」
実際に、Dark AcademiaにはLGBTQ+の熱心な支持者もいます。これは、詩人アレン・ギンズバーグを題材にした『Kill your Darlings』や、M.L.リオの『If We Were Villains』など、本や映画の多くがLGBTQ+の登場人物を描いていることにも起因しています。
「Dark Academiaは美学であり、コミュニティでもあります」と、TikTokにDark Academiaのビデオを投稿している、15歳のディクラン・リマンは話します。「全体の雰囲気にのめり込めばのめり込むほど、タグの中の他の人たちとのつながりを感じることができます。要は、学びたいという欲求なのです」
Dark Academia特有の美学は、金持ちの白人や高齢者、あるいはハイソサエティに興味のある人たちのコミュニティを引き付けるように見えますが、19歳のTikTokユーザーである@etherealacademiaが指摘しているように、実際はその正反対です。
「ほかの美学とは異なり、たとえばDark Academiaのファッションや装飾は、とてもリーズナブルです」と話し、そのアクセスのしやすさに注目しています。彼らはよく古着屋で本や骨董品、服を安く買います。そして、人々が読みたいという欲求、学びたいという好奇心、そして芸術や歴史に対する感謝の気持ちを持っている限り、彼らは美学とその歓迎するコミュニティに参加することができるのです。
Dark Social
クローズドへ変化？
オープンなソーシャルメディア上で繰り広げられる現実逃避的なコミュニティが流行する一方で、Z世代は、かくも閉じられた空間を求めて進化しています。
キャンセル・カルチャーやプライバシーへの懸念、公の場でのパフォーマンスを好まない理由で、Z世代はオープンに公開されたネットワークから、コンテンツを共有するためのよりプライベートなプラットフォームへと移行。この“見えない”やり取りは「ダーク・ソーシャル」と呼ばれますが、ユーザーはプライベートなメッセージングアプリやWhatsApp、Telegramのような暗号化されたチャンネルを介してコンテンツを共有しているとみられています。
「他の世代が意見を交換したりステータスを確率するために、FacebookやInstagramといったオープンなソーシャルメディアを使っています。しかし、Z世代のユーザーは、それらをエンターテインメントのために利用している可能性が高い。つまり、退屈さを解消するための場所なのです」と、GlobalWebIndexのトレンドマネジャー、チェイス・バックルは話しています。
この広がりつつある「ダーク・ソーシャル」に、企業も足を踏み入れようと動いています。たとえば、PlaystationとGiphyがコラボレーションし、ユーザーがゲームをしている間にWhatsAppで共有できる、Playstation公式のGIFシリーズを制作しました。ブランド化されたGIFを使用することで、Playstationは、ダーク・ソーシャル上での会話に参加することができるようになります。Giphyによると、このGIFはこれまでに14億回の再生回数を記録しているといいます。
巨大かつ誰もが見られるソーシャルメディアでは、今やZ世代は好きなように発言もできなくなってしまいました。彼らは、新たな現実世界と密に暮らすことができるヴァーチャルな“コミュニティ”のあり方を模索しているのかもしれません。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- 万能なバーチャルカメラアプリ「Mmhmm」。Mmmhmmは、ZoomやGoogle Meetなどの動画ストリーミングサービスで使えるバーチャルカメラ。他のビデオ会議ツールと同様に、会話を盛り上げるためのさまざまな静止画やアニメーションの仮想背景が用意されています。現在は招待を受け付けている状況ですが、450万ドル（約4.8億円）の資金調達したことも発表しました。
- Evianがラベルフリーへ。ミネラルウォーターを展開するEvian（エビアン）が、ラベルのないペットボトルを発売します。同社は、2025年までにすべてのボトルを100％リサイクルされたプラスチックで製造することを目標に、完全な「循環型」を目指しています。
- Yeezyが融資を受ける。カニエ・ウェストのアパレルブランドYeezy（イージー）が、米国の連邦政府から中小企業向け融資を受けたことが明らかになりました。米連邦中小企業庁（SBA）によると、金額は200万ドル（約2.1億円）から500万ドル（約5.4億円）を受け取ったといいます。
- ロールモデルが若年化する？ 17歳のグレタ・トゥーンベリさんが世界に大きな影響を与えたように、“子ども”が「ロールモデル」になるのも珍しくありません。パンデミックが完全な混沌を引き起こし、人々が人種差別のない新しいシステムを要求している今、私たちは、さらに若い子どもたちのボーダレスなファンタジーを必要とするかもしれません。
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