Asia:80億人が精読すべき、香港国家安全維持法

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Asia Explosion

爆発するアジア

Quartz読者のみなさん、こんにちは。施行された「香港国家安全維持法」に、世界中が声を上げ反発を示しています。その“拡大解釈”は、日本に暮らす私たちにとっても大きな影響を及ぼしうるのです。英語版(参考)はこちら

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Image: AP/VINCENT YU

6月30日に可決された香港国家安全維持法は、その数時間後に発効し、香港で実施されることになりました。

その目的は、表向きは、数カ月に及ぶ抗議行動で揺れた香港に「繁栄」と「安定」を取り戻すためのものだとされています。が、実のところ、あらゆるレベルの行動を“犯罪化”し、中国共産党への批判ですら法律違反とみなす可能性を有するほどあいまいな内容です。

さらに、同法には、中国の不透明な法制度の基準から見ても前例のないほどの“拡大”が含まれています。つまり、香港移民、海外で勉強したり働いたりしている香港人、さらに外国人をも対象としているのです。

anyone living abroad

世界中の誰もが

新法は「地球上のすべての人に対する治外法権を主張している」と、ジョージ・ワシントン大学法学部教授のドナルド・クラークは言います

「中国国外での犯罪の責任を外国人に問うのは、その犯罪の影響が中国国内で発生した場合のみ」とする中国本土の刑法よりもさらに広い範囲に及んでいます。クラーク教授は、「あなたが今までに(中国、あるいは)香港の権限を侵害しうる発言をしたなら、香港に近寄ってはいけない」と続けます。

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Image: HongKong, 7/1 REUTERS/TYRONE SIU

カナダはすでに「恣意的な拘留と中国本土への引き渡しの可能性」のリスクが高まると、警告を出しています。カナダ国籍のマイケル・コヴリグとマイケル・スペバーの2人は、2018年12月から中国で拘束されていましたが、今年6月にスパイ罪で正式に起訴されました。これは、バンクーバーでの華為技術(ファーウェイ)の最高財務責任者の逮捕に対する報復とみられています。

また、英国は香港への渡航についての勧告として、「非永住者の拘束、強制送還のリスクが高まる」と指摘しています。オーストラリアも香港への旅行勧告を更新しました。国家安全維持法は「広く解釈される可能性がある」とし、訪問者は「意図せず法律を破ることになる」と警告しています。

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Image: HongKong, 7/1 REUTERS/TYRONE SIU

台湾政府は亡命を希望する香港人を支援する事務所を開設したばかりですが、香港への不必要な訪問や乗り継ぎを避けるよう、国民に警告しています。

その影響たるや、香港大学法学部の教授エリック・チャンの言葉を借りるならば、まさに「地球上の80億人の人々は、国家安全維持法を十分に勉強しなければならない」のです。

almost infinitely applicable

どんな言論も

香港で活動する外国人や外国の組織に関係する法律で、もうひとつ注目すべき側面が、国家安全維持法の第54条にあります。

この条文は、国家が国際NGOやメディア組織に対する精査を強化するために「必要な措置を講じる」ことを認めています。これは、「外国勢力との共謀」を広く刑事化していることに加え、報道の自由やNGOに対する取り締まりが、中国本土に近しいかたちで執行されることを示唆しています。

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Image: HongKong, 7/1 REUTERS/TYRONE SIU

国家安全維持法は北京が起草したもので、香港政府は基本的に何の関与もせず、法案が可決されるまでその全文を見ることすらなかったとされています。

国家安全維持法が定める犯罪の定義は非常に曖昧かつ主観的なもので、ほとんど無限に適用されうる可能性をもっています。かつての香港で保護されていた言論は、いまや無期懲役になる犯罪として起訴される可能性もあるのです。

米国務長官のマイク・ポンペオは声明の中で、「中国が香港をその権威主義的な口で丸呑みされるのを、アメリカは黙って見ているつもりはない」と述べました

国家安全維持法が成立するまでの間に、米国は中国当局者に対する制裁として、香港への防衛・機密技術の輸出を停止していました。ポンペオ国務長官による最新の声明はさらなる懲罰的措置を示唆するもので、香港の抗議者たちのなかには、北京に弾圧の代償を払わせることを望んでいる者もいます。

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この法律によって、北京の中央政府は安全保障事務所を正式に香港に設置し、関連した事件の管轄権をもつことになります。

また、香港で活動する中国本土の治安部隊には広範囲な捜査権限が与えられ、「公務」を遂行している限りにおいては、香港の法律の対象外になります。そして、彼ら保安部が監督する事件の被告人は、公正な裁判を受ける権利が保証されていない中国に送還される可能性があるのです。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. ポストTikTokの覇権争い。インドで6月29日にTikTokなど59の中国産アプリの使用を禁止されたことで、インド製のTikTok代替品の需要が高まっています。Chingari、Roposo、Mitron、Mojなど、すでに複数の短編動画アプリが登場し、TikTokのユーザーだった5億人の獲得レースが激化しています。
  2. SNS各社は当局へのデータ提供を拒否。香港国家安全維持法に反対の意を示したFacebook、WhatsApp、Twitter、Google、Telegramは、香港政府からのデータ要求を拒否し始めました。これらのサービスは中国本土で禁止されていますが、Appleはブロックされていません。中国当局を批判する各国・各社の意思表明を受け、Appleはどう動くでしょうか…。
  3. 中国の経済回復、年末にも減速の可能性。一見順調にみえる中国の景気回復ですが、2020年後半に冷え込む可能性があるとドイツ銀行チーフエコノミストのマイケル・スペンサーが指摘しています。2月中旬以降のデータは、中国経済の急速なV字回復を示していますが、外出のプレッシャーは続き、連続的な成長は遅れるとの見通し。好調な電子機器の輸出入も、今後数カ月で全て減退するとしています。
  4. バリ島は9月11日から外国人の訪問が可能に。2月からゴーストタウン化していたバリ島に賑わいが戻る気配があります。7月9日から地元の観光客の受け入れを再開し、9月11日には外国からの観光客も訪問が認められます。毎年約100万人の中国人旅行者を受け入れているバリ島には破産の危機に直面したホテルも数件あり、あるホテルはコスト削減のため従業員に私服勤務をさせていたそうです。

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