Startup:熱狂のAI「GPT-3」とは何者か

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Monday: Next Startups

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。

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Image: REUTERS/JOSHUA ROBERTS

現在、米国テック業界の話題を席巻する「GPT-3」。OpenAIが開発した言語生成モデルで、その精度と実力は多くに人々に衝撃を与えています。ソーシャルメディアを埋め尽くす驚愕のデモンストレーションに、想像をはるかに超えるスピードで近づく「AI社会の到来」を感じずにはいられません。

聞き慣れない「GPT-3」とは一体何なのか、これを開発したOpen AIとは何者か、そして私たちの未来に意味するところは何なのか。今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、「GPT-3」とOpen AIの実態に迫ります。

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Image: Open AI

Open AI(汎用人工知能の開発)
・創業:2015年
・創業者:Elon Musk, Greg Brockman, Ilya Sutskever, Sam Altman, Wojciech Zaremba
・調達額:10億ドル(約1,100億円)
・事業内容:人工知能をオープンソース化するための研究開発

GPT-3 IS ASTONISHINGLY SUPERIOR

不気味なほど「自然」

7月18日にあるエンジニアが投稿した1本のブログ。「GPT-3はビットコインの登場に匹敵するインパクトだ」と銘打った投稿の最後に待っていたのは「上記はGPT-3が執筆した」との驚きの告白でした。人間が書いたものと見分けがつかないほど自然で論理的な文章は、人々を震撼させました。

「GPT:Generative Pretrained Transformer」は、人工知能を研究する非営利団体Open AIが開発した文章生成言語モデルで、GPT-3は3世代目のバージョンに当たります。

前身のGPT-2は2019年に公開されましたが、あまりの精度にフェイクニュースの生成やプロパガンダの拡散の危険性など社会への影響が議論を呼び、論文の公開が延期されたほどです。GPT-3はGPT-2のパラメータ数を116倍にしたモデルです。

GPT-3の特徴は、個別の学習データが不要な点です。GPT-3は1,750億個のパラメータを用いて「インターネット全体」ともいえる大量のテキストから「次に来る文章」の予測を事前学習しています。このため、最小限の指示を与えるだけで、脅威的な精度のテキストを自動生成してくれるのです。

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Image: AIを使ってつくられた童話も出現。指示は「子ども向けの本」だけ。TWITTER/@MATTPRD

7月中旬からクローズドでAPIの提供が始まるやいなや、その実力は衝撃を与えています。冒頭のブログの例をはじめ、ソーシャルメディアはGPT-3を使ったデモで埋め尽くされ、「AI社会到来の予感」が世界を驚愕と震撼の渦に巻き込んでいます。

開発者のひとりArram Sabeti(アラム・サベティ)自身がGPT-3で生成した短編小説や歌詞、プレスリリース、技術マニュアルをブログで紹介し、人間が書いたのと見分けがつかない出来栄えに本人も「不気味なほど優れている」と評しています。

THE IMPACT OF GPT-3

GPT-3のインパクト

では、GPT-3について公開されているデモのいくつかを紹介しましょう。

まず、タイトルだけで勝手に物語を書いてしまうです。作家名(「1800年代のイギリスの作家」)と題材(「Twitter」)と書き出しの一言とを与えただけで、6ページに渡る物語をGPT-3が生成してしまいます。プレゼン資料作成のデモも登場しました。「AIが置き換える職種」常連の記者やライターだけでなく、論文やビジネス文書までAIが生成してくれる未来はすぐそこです。

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Image: GPT-3によって生成された、英国人哲学者とAIとの「人間の意識」に関する架空の対話。TWITTER/@RAPHAMILLIERE

GPT-3は教育のあり方も変えてしまうかもしれません。こちらは米国史に関する問題と回答をAIが自動生成するデモです。この作者が作成した「Learn from Anyone」という、著名人に何でも質問できるサイトも話題で、シェイクスピアに作曲について尋ねたり、アリストテレスに哲学について質問すると、本人になりすましたGPTが答えてくれます。

プログラミングも“言語”であるため、GPT-3で生成できます。「Googleのトップページと同じようなデザインのソースコードがほしい」と指示を入力するだけで、そのとおりに再現します。テックの最前線はプログラミング不要の「NoCode(ノーコード)」が主流ですが、そのトレンドすら過去のものにしかねないGPT-3の破壊力です。「GPT-4はGPT-3がつくり出す」という説も、あり得なくもない話かもしれません。

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そしてデザイン。「Instagramっぽいデザインが欲しい」と話し言葉で書くと、そのとおり生成されてしまいます。「〜っぽい感じ」という漠然としたイメージを具現化してコードを書くというデザイナーの仕事さえも、GPT-3の出現によって機械に代替される可能性さえ示しています。

IDEAL AND REALITY

理想と現実の狭間で

この驚異的なテクノロジーを世に送り出したOpen AIとは、一体どんな組織なのでしょうか?

同社は2015年、AIが少数の大企業に牛耳られるのを懸念したElon Musk(イーロン・マスク)、Peter Thiel(ピーター・ティール)、Y Combinatorの前社長Sam Altman(サム・アルトマン)など、シリコンバレーの有力者が拠出して設立された非営利組織です。

目指すのは、人間のような能力をもつ汎用人工知能(AGI)を世界で最初につくること。テクノロジーを安全に進化させ、恩恵を人々が平等に享受できる未来を目指しています。Googleが買収したDeepMindと並ぶ「世界最高峰の頭脳集団」で、GPT-3以外にもAIの分野で、以下のような目覚ましい実績を残しています。

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Image: OPEN AI
  • Jukebox:120万曲の学習データを用いた音楽生成モデルです。作曲だけのAIはよくありますが、こちらはジャンルとアーティストを指定すると、歌詞も歌声までも自動生成します。
  • Open AI Five:高性能のゲームAIで、「Dota 2」の世界大会で人間の世界チャンピオンと対戦し勝利しました。囲碁やチェスよりもはるかに複雑で、180年分のゲームを毎日セルフプレイで学習させたそうです。

ところが、徐々に歯車が狂い始めます。特定の私企業と関係を結ばないはずだった同社は昨年、Microsoftから10億ドルの出資を受けました。発起人のイーロン・マスクはすでに取締役を退いており、Open AIの不透明で閉鎖的なカルチャーを批判しています。

ストックオプションも望めない非営利団体という組織でAIのトップ人材を魅了し続けること、そして売上ゼロの財務で天文学的なデータ量の解析にかかる膨大なサーバー費用などをまかない続けること、など、理想と現実の狭間で苦悩するOpen AI。GPT-3もモデルの公開はされず、有料のAPIで提供される予定です。AIの未来を左右すると言えるほどの影響力をもつOpen AIの実情は、こうした気掛かりな点が多いのも事実です。

SYMBOSIS BETWEEN AI AND HUMAN BEING

AIとの共生

GPT-3がここまで熱狂と驚愕を得ているのは「高度なホワイトカラージョブほどAIが代替しやすい事実」を暗示しているからかもしれません。論理的で常識的なテキスト生成であるほど、GPT-3が得意とするところです。

これまでAIは画像解析でのディープラーニングが中心で、ブルーカラーの領域が中心でした。GPT-3の革新的なブレイクスルーは、ホワイトカラー領域で「AIによる代替」が一気に近づいたことを意味します。

一方、弱点もあり、GPT-3のテキストの生成は1分間に150語と遅く、長めの文章になると精度が落ちることも分かっています。また膨大な計算パワーを用いるため、実際のAPI利用は安価ではないことも想像されます。そしてウェブ上の人間が書いた文章を参照するため、一定のバイアスがかかっている点も留意する必要があります。

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Image: 「重大な弱点があり凡ミスすることもある」と、GPT-3への過度な称賛を牽制するサム・アルトマン。TWITTER/@SAMA

未来感のあるGPT-3ですが、構造的にはこれまでの言語生成モデルの延長線上にあるものです。単語自体の意味を理解しているわけでもなく、ましてや人類が夢見る「汎用人工知能(AGI)」を実現しているわけでもありません。

一方、GPT-3の熱狂は、汎用でない特化型AIであっても、あるタスクに優れたパフォーマンスを示せば十分に「人間らしい」と気づかせてくれました。AGIそのものは遠い未来の話であっても、人間に近いAIの登場は意外と早く訪れるかもしれません。

同時に負の側面も見逃せません。GPT-3は言わばテキスト版のディープフェイクです。実在しない人物が誰かを誹謗中傷したり、フェイクニュースを量産したり。異次元の進化を遂げるAIを前に、社会的な脅威への対応は待ったなしの状況です。

身近になったAIとの共生。Quartzでのこの連載をGPTが代替する日も、近いかもしれません。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. アンチ男女格差を掲げていたユニコーンが元社員に訴えられる。株式管理ソフトウェアを手がけるCaltaでマーケティング部門の副部長を勤めていたエミリー・クレイマーが、性差による給与の不平等があったとして古巣を提訴しました。Caltaは著名なVCアンドリーセン・ホロウィッツから出資を受ける、注目のユニコーン企業。2018年以降、シリコンバレーで男性に“富”が偏ることを示す調査を何度も引用し、男女格差の是正を提唱してきた同社。外より内に目を向けるべきだったのでしょう。
  2. 中国産スマホを支えるスウェーデン企業。TikTok、Instagram…短編動画が主役のSNS時代を支えるのは、航空監視用のソフトウェアからスタートしたスウェーデンのスタートアップImintでしょう。Imintのソフトウェアは、ディープラーニングを通じて、モーション削減、移動オブジェクトの追跡、ノイズの削減などをリアルタイムで行うことができます。2015年に開かれた見本市で中国のスマホメーカーに見出されて以来、Huawei、Xiaomi、Oppo、Vivoをはじめとするビックプレイヤーにソフトウェアを提供しています。
  3. Teslaに続くRivianのピックアップトラックが来年出荷を発表。出荷を来年に先送りするとしていたRivianですが、電動SUV「R1S」の出荷を8月にも開始する旨を見込み顧客宛に電子メールで通知したと報じられています。すでにイリノイ州ノーマルにある自社工場で試験生産を開始。この工場ではAmazon向けの電動配達バン10万台も生産されます。
  4. 「ちょい足し」健康食品が急成長。新型コロナウイルスのパンデミックは、間違いなく人々の健康への意識を高めました。カリフォルニア州ベニスのVive OrganicはシリーズBラウンドで1,300万ドル(約14億円)を資金調達したことを発表。売りは有機ハーブを冷間圧搾製法で作った飲料で、ショウガ、ウコン、エキナセアなどの成分が凝縮されています。同社は2016年の商品発売以来、年平均400%の成長を続け、今年、初めての黒字でした。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)


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