Millennials:世界が今、熱狂する「e-bike」

Thursday: MILLENNIALS NOW

ミレニアルズの今

Quartz読者の皆さん、こんにちは。今、世界中でスポーツタイプの「e-bike」の売上げが伸びています。パンデミック前から市場が拡大してきたe-bike。人々はなぜ、e-bikeに熱狂し始めたのでしょうか?

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パンデミックによって人々の「足」が変わってきています。なかでも真っ先に需要が増えたのが、自転車でした。

市場調査会社NPDグループによると、2020年4月、米国の自転車市場(アウトドアバイク、インドアバイク、パーツ、ヘルメット、そのほかアクセサリーなど含む)の売上げは、昨年と比較して75%も伸びました。10億ドル(約1,050億円)という売上げ額は、NPDグループが自転車市場の調査を開始して以来もっとも高い金額です。

とくに人気なのは、家庭で使用できるリーズナブルな自転車。4月時点で、200ドル以下のベーシックな大人用自転車(「ライフスタイル/レジャー用自転車」)の売上げは203%増、フロントサスペンション付きのマウンテンバイクは150%以上増、子ども用自転車は107%増に。また、アクセサリー類の販売も伸びています(ヘルメットが49%増、自転車用バスケットが85%増)。

空前の自転車ブームが起きている今、注目されているのが、スポーツタイプの電動アシスト自転車「e-bike」です。

IN US

米国でもブーム到来か

e-bike市場はもともと拡大傾向にあり、2019年には市場価値が154.2億ドル(約1.6兆円)に達すると予測されていました。2020~2025年には、6.21%のCAGR(年平均成長率)を達成するともいわれていました。

e-bike市場の成長を牽引していたのはアジア太平洋地域(おもに中国)と欧米でしたが、パンデミックの影響もあり、米国もe-bikeの黄金時代へと突入し始めました

セレブもe-bikeを愛用しています。ケンダル・ジェナーマイリー・サイラスといった若手からレオナルド・ディカプリオ、アーノルド・シュワルツェネッガーまで、さまざまなスタイルで乗りこなしている姿が数多くパパラッチされてきました。

e-bikeに対する規制は国によっても異なりますが、米国では都市や州によって異なります。ニューヨークでは、e-bikeとe-scooter(電動スクーター)は安全性を満たしていないとして、2019年12月時点でアンドリュー・クオモ州知事は合法化する法案を拒否。しかし、今年の4月1日の州議会により正式に合法化されました。なお、e-bikeは商業用途に限り使用することができたため、配達員が愛用していました。

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Image: タイムズスクエアを往く配達員 REUTERS/ANDREW KELLY

市場調査会社NPDのデータによると、2018、19年と米国での自転車の販売台数はわずかに減少していますが、e-bikeに限っていえば、その販売台数は2018年は67%、2019年には53%増加。そして、さらにコロナウイルスのパンデミックのあいだに大流行を迎えました。e-bikeの売上げは1月から2倍以上になり、米国におけるその販売台数は、3年連続で自転車の売り上げを上回っています

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コンサルティング会社Deloitteは、今後3年間で1億3,000万台のe-bikeが世界中で販売されると予測しています。さらに2023年までには3億台のe-bikeが街中に出回るようになるとも予想。これに対し、EV(電気自動車、トラックを含む)は1,000万台以下に留まるといいます。

カリフォルニア発のe-bikeブランドで小売店でもあるAventon Bikes(アヴェントン)のマーケティング責任者アデル・ナスルによると、同社の6月の売上高は前年同月比で6倍に増加したといいます。「売上げとパンデミックとの関連性は明らかです。早期にロックダウンした州が先に売上げを伸ばし、その後にロックダウンした州が追いついてきています。受注と売上げの記録は、毎日更新されています」

同社は現在、中国における生産能力を月産3,000台から少なくとも1万台にまで拡大していますが、バッテリーのような特定の部品の不足に悩まされているともいいます。そのため、新しいe-bikeが納車されるまで、2~3カ月待たされることにもなっているようです。

また、アリゾナ州を拠点とするLectric eBikes(レクトリック・イーバイク)は、3月15日以降の売上げが140%増加したといいます。ソーシャルディスタンスが奨励されることで、距離を保ちながらアクティブに行動する方法のひとつとしてe-bikeが選ばれているのではないか、と推測しています。

IN EUROPE

ヨーロッパでの市場

e-bike市場は、アジア太平洋地域に次いで欧州が約20%を占めています。欧州内ではドイツが圧倒的にシェアが多く、フランス、イタリアが続きます。

2018年、ドイツでのe-bike販売台数は前年比で36%増加(約98万台)。自転車市場全体の23.5%にも及んでおり、スポーツやレジャーだけでなく日常的な移動手段として好まれていると推測できます。販売されたe-bikeのうち、99.5%が〈250W/25Km/h〉モデル。残りの0.5%は〈45km/h〉モデルですが、これは型式認定を受けており、保険とヘルメットの義務が適用されています

フランスでの販売台数は前年比21%増の33万8,000台で、過去最高を記録。このカテゴリーは現在、5億3,500万ユーロ(約662億円)の売上を占めており、同国の自転車市場総額の40%以上を占めています

一方、イタリアでは生産台数こそ前年比290%増の10万2千台となりましたが、販売台数は16.8%増の17万3,000台。フィンランドでの販売台数は毎年倍増傾向にありますが、台数そのものはまだ少なく、5,000台をやや超えるほどだと推定されています。

自転車大国オランダにおける販売台数は、前年比38%増の40万9,400台を記録。e-bikeは今や同国で最大のカテゴリーとなり、新たなスタンダードになりつつあります。

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Image: 自転車大国オランダ

以上は2019年の数値ですが、パンデミックの影響によって、販売台数はさらに増加傾向にあります。

The Vergeによると、イギリス発のGocycle(ゴーサイクル)が展開するコンパクトに折りたためる「Gocycle GX」の売上げは、2020年4〜5月で前年同時期と比較して65%増加しており、gocycle.comへのトラフィックは90%増加しているといいます。成長の要因に「パンデミックに対応した通勤習慣の変化」を挙げる人は少なくありません。

世界でe-bikeを展開するオランダのVanMoof(バンムーフ)も、オンラインおよび自社店舗で販売していますが、2〜4月の売上げは前年同時期に比べて劇的に増加したといいます。ドイツでは226%増、イギリスでは184%増、オランダでは140%増、米国では138%増、フランスでは92%増など、主要市場のすべてにおいて売上が増加したといいます。なお、バンムーフは今年年4月にも新作の「S3」と「X3」を発売したばかりです。

The New Commute

新たな通勤のスタイル

e-bikeが注目される理由としては健康面でのメリット、環境への配慮、支出の削減、交通渋滞の回避、若者のあいだでのスポーツ用品としての需要の増加などが考えられます。とくに、パンデミックによって、リスクの高い公共交通機関を避けた通勤の手段が強く求められていることが大きく作用しているようです。

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e-bikeであれば、10キロ程度の移動であればラクにこなせ、登り坂も苦になりません。また、GPSで追跡できる防犯システムが備わっているなど、盗難防止対策も万全。e-bike本体価格は10万円〜30万円程度のものが多く、決して安い買い物ではありませんが、中国の家電メーカーXiaomi(シャオミ)は、3万円程度の低価格e-bikeを販売してもいます。

都市に生活し通勤している人たちにとってすれば、e-bikeは自動車や地下鉄に比べてはるかに移動が速く、従来の自転車に比べて汗もかきづらいのは大きなメリット。実際、オランダでは4分の1がe-bikeでの通勤を希望していることも分かっています。

パンデミック以降、とくに、パリやミラノなど欧州の各都市では自転車専用レーンが拡大され、環境にも配慮した「自転車社会」が推進され始めています。今後、“少し遠い”程度の通勤であれば、効率的な移動手段としてe-bikeはさらに普及することになるでしょう。

RIDE ON

スタートアップも参戦

スタートアップもこのe-bike産業に参戦し始めています。欧州を主にターゲットにするベルギー・ブリュッセル発のCowboy(カウボーイ)は、先日、2,600万ドル(約27.3億円)のシリーズBの資金調達を行いました

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Image: COURTESY OF COWBOY

同社のモデルはシンプルさを重視し、モーターアシストを制御するためのギアやボタンはありません。漕ぎ始めると自動的にモーターが作動します。主な特徴としては、カーボンベルトやパンク防止層を備えたカスタムメイドのタイヤ、取り外し可能なバッテリーなど。アプリとも連動しており、ナビ機能や走行距離の計測、紛失時のGPSトラッキング(「Find My Bike」)、盗難防止機能などが備わっています。価格は2,290ユーロ(約28万3,000円)。

フランスのe-bikeスタートアップAngellは、All-Clad、Krups、Moulinex、Rowenta、Tefalなどを擁するフランスの工業企業であるSEBと包括的なパートナーシップを締結。この契約の一環として、SEBはフランスのディジョン近郊にある工場で同社のe-bikeを製造することができるようになりました。

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Image: COURTESY OF ANGELL

ほかにも英国発のAnalog Motion(アナログ モーション)は、バッテリー込みで13.5キロという軽量性をウリにしていたり、同じく英国のHummingbird(ハミングバード)は折りたたみが可能だったりと、ブランドごとに特徴のあるe-bikeを販売しています。Cooper Bikes(クーパー バイク)は老舗ならではのヴィンテージライクなデザインが印象的です。

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Image: COURTESY OF COOPER BIKE

ドイツ発のSmafoは、サブスクリプションサービスと自転車購入の両方を提供していますが、サブスクリプションのみに特化したサービスもスタートしました。

ベルリン発の音楽ストリーミングサービス「SoundCloud」の創業者であるEric Quidenus-WahlforssとAlexander Ljungが、Jimdoの共同創業者であるChristian Springubとともに「Dance(ダンス)」というe-bikeのサブスクリプションだけのサービスを、今年7月より立ち上げました。高くて手が届きづらいe-bikeを月59ユーロ(約7,300円)で乗ることができ、無料で修理も受けることができることができるといいます。また、自転車を紛失したり盗まれたりした場合は、Danceが無料で「すぐに」交換。e-bikeは中国と台湾で製造されています。

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Image: DANCEのボードメンバー NILS HASENAU/DANCE/HANDOUT VIA REUTERS

「音楽は、所有からサブスクリプションへの移行を最初に経験した業界のひとつです。今、私たちはこの経験をモビリティ空間に移し、最終的には私たちの都市をより住みやすいものにするムーブメントを起こしたいと考えています」と、LjungはTechcrunchに対して述べています

あのHarley-Davidson(ハーレーダビッドソン)も、2021年にe-bikeを発売する予定とのことなので、今後も大手メーカーのe-bike市場の参入が期待されています。

現代のテクノロジーと新しいライフスタイルがうまく掛け合わせられ、私たちの新しい「足」の選択肢となったe-bikeのこれからに注目です。


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Quartz JapanのPodcast最新エピソードで、“子育て世代の新しい環境づくり”を目指す88PROJECTの林理永さんとの対話をお楽しみください。