Millennials:eスポーツとリモートワークの「共通点」

Thursday: MILLENNIALS NOW

ミレニアルズの今

Quartz読者の皆さん、こんにちは。リモートワークをしている方も多いと思いますが、そのときどんな椅子を使っていますか?  今日は、ステイホームで在宅勤務のビジネスパーソンが増えるなかで注目したい、進化する「椅子」の最前線に迫ります。英語版はこちら(参考)。

REUTERS/KAI PFAFFENBACH
REUTERS/KAI PFAFFENBACH

世界におけるeスポーツ業界の市場価値は、2020年現在、十億ドル以上の規模と言われていて、2023年には、約16億ドル(約1,700億円)に達すると予測されています。なお、市場のシェアを占めるのはアジアと北米がほとんどで、中国だけで市場の5分の1近くになると言われています。

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また、McKinseyによるドイツを中心としたヨーロッパでの調査報告書によると、eスポーツは、平均年齢26歳の若年層に人気で、なかでもテクノロジーに精通した高学歴の男性の消費者が70%以上を占めているようです。とくに今、コロナウイルスのパンデミックで、1週間に1回以上プレイする人が以前よりも増加していて、ドイツでは21%から27%に増えたことが分かっています。

そんなeスポーツ業界で今、新たに脚光を浴びているのが、プレイヤーが座る椅子「Embody Gaming Chairエルゴノミック・ゲーミング・チェア)」です。

next home-office chair

いま椅子に必要なもの

皆さん、まず、コンピュータースクリーンの前で背中を丸め、何時間もカフェインを飲み続けている誰かの姿を想像してみてください。いまや頭の中に描くのは、おそらくゲーマーの姿ではなく、リモートワーカーのそれのはず。

パンデミックによって生活が激変していくこの変化に目をつけたのが、Herman Miller(ハーマンミラー)Logitech(ロジテック)です。両者が共同開発した新しい椅子、Embody Gaming Chairの価格は1,500ドル(約1万6,000円)。エルゴノミック(人間工学)にもとづいてつくられており、ゲーマーでもリモートワーカーでも、どちらにもぴったりな誂えです。

HERMAN MILLER
HERMAN MILLER

Embody Gaming Chairがその形状に取り入れたのは“オフィスチェアらしさ”で、Herman Millerが2008年に発表したタスクチェアモデルのデザインをベースに、座る人の腰だけでなく背中全体をサポートしてくれる仕様に。医者や生物力学、視覚、理学療法の専門家で構成したチームとともに開発された優れもので、身体を整え血流をよくし、身体への酸素吸入を最大限にする機能をもっているとされています。

EXTREME SITTING

ゲーマーと椅子

こうした椅子の発売は、パンデミックの拡大によって幸先が良さそうに思えます。その背景にはテレコミュニケーションの増加と、先述のようなeスポーツをはじめとしたテレビゲームプレイヤーがロックダウン期間中に急増したという2つのトレンドがあります。3Dソフト会社Unity(ユニティ)の報告によると、ここ数カ月で毎日のゲームプレイにおいてPCやゲーム機では40%、モバイル端末では23%の利用者増加が見られました。

多くの人々が依然としてその場しのぎな“ホームオフィス”で働くなか、ゲーマーにとっての理想のセットアップ環境がリモートワーカーにとってもふさわしいと感じ始めた人たちもいるでしょう。

例えば、ノートパソコンを利用するときと同じように、ゲーマーたちもモニターから平均で10〜12インチ(約25.4〜30.48センチ)と、近めに座る傾向があります(比較すると、一般的なオフィスチェアはモニターから腕の長さ分離れて座ることを想定してデザインされています)。Embody Gaming Chairでは、モニター近くに座りつつ、背中のラインを健康的に保つことができます。

Herman Millerのゲーミング部門のビジネスリードであるジョン・キャンベルは「Embody Gaming Chairは、使いやすさという役割を果たしつつ、どんなスペースにも収まる椅子だと言えるでしょう」と説明します。

シンプルなデザインは、市場で見るレーシングカーのドライバーシートを思わせるような、仰々しい椅子とは一線を画しています。カイロプラクターのオフィスにある、ヒトの背骨見本のようなディテールが背面に露出していることが、若干気になる人もいるかもしれませんが…。

HERMAN MILLER
HERMAN MILLER

デザインチームは、eスポーツが男性限定かのような概念を覆したいと考えたそうです。キャンベルはQuartzに対し、「男らしさが出すぎるデザインにはしないようにと、議論を重ねました」とコメントしています。

なぜ椅子の色がブラックなのか?という問いに対するキャンベルの答えは、「みんな、ブラックの椅子を買いたがるのです!」というもの。Herman Millerが販売するオフィスチェアのうち約6割がブラックだと説明します。

また、一般的なゲーマーにとって、椅子は“引き立て役”でなければなりません。つまり、ゲーム用のスペースは、窓の反射や電灯を遮断してあえて暗くしてあることが多く、プレイヤーたちがスクリーンに集中しやすいように設定されています(ゲーマーの中には、キーボードやマウス、ランプ、LEDなどを電飾で彩る人も多いですが)。

HERMAN MILLER
HERMAN MILLER

Esports is a real sport

それは本物のスポーツ

今回のHerman MillerとLogitechとの共同開発は、eスポーツを本物のスポーツとして認めるべきだという長年の議論を後押しすることにもなりそうです。

スタンフォード大学で初めてゲームのトーナメントが開催されて50年が経ちますが、プロのゲーマー(彼らが好む呼び名は「アスリート」)たちは、まだまだイメージの問題に直面しています。logitechのゲーミング部門のマーケティング責任者であるベン・ユーは、ゲーマーは肥満体質でゾンビのような見た目をしている、というような先入観を変えていかなければならないと話します。

REUTERS/BRUCE KLUCKHOHN-USA TODAY SPORTS
REUTERS/BRUCE KLUCKHOHN-USA TODAY SPORTS

「そういったステレオタイプはもう、100%ありませんから」と話すユーは、eスポーツのチームはフィジカルとメンタル両方のトレーニングを行って過酷なトーナメントに挑むのだと説明します。スポーツでは瞬時の意思決定、身体の敏捷性、そして超覚醒度が求められます。

ニューヨーク州立大学ポツダム校で教育テクノロジーを教えるアンソニー・ベトラスは、「彼らはホッケーリーグのゴールキーパーと同等の反射神経をもち、フライフィッシングのプロと同じ繊細さと、(アドリブ演奏できるような)ジャズミュージシャンのマインドをもっています」とコメント。また、ゲームプレイで得るスキルは、学生たちをその後、STEM分野のキャリアへ導く手助けになるとも説明します。

Just started

椅子の未来

Herman MillerとLogitechは、ゲーミングチェアはほんのスタートに過ぎないと話します。現在は、理想のエルゴノミックゲーミングのセットアップを完成させるために、調節可能なデスクとモニターアームを開発中とのことです。

彼らの目標は、Speedoの「LZRレーサースーツ」がオリンピック新記録を生み出すのに貢献し、Nikeの「Vaporfly 4%」がランナーをより効率的に動けるようにしたように、eスポーツのツールに革命を起こすことです。

「テクノロジーはパフォーマンスを変えます。私たちは、eスポーツの世界にもそのレベルの意識を取り入れたかったのです」とlogitechのユーは話しています。

Herman Millerだけでなく、ほかの家具メーカーも参入しつつあります。2018年、IKEAは、サンフランシスコを拠点とする補装具メーカーUNYQとともにエルゴノミックゲーミングチェアを開発する計画を発表しました。Ubiqと呼ばれるこの椅子には、座る人の臀部のスキャンをもとに作られる格子が組み込まれるとのことです。

IKEA
IKEA

パンデミックによって、eスポーツとリモートワークにある「椅子」という繋がりがより、顕著になりました。この新たな家具業界での動きは、eスポーツを盛り上げるだけでなく、ニューノーマルな社会にも影響を与えてくるかもしれません。今後は、私たちが見合ったマットレスを必死に探すのと同じように、長時間座っても疲れない椅子探しをするようになっていくでしょう。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. 教育に向けたGoogleの新機能。パンデミックの影響で、教育業界が変化し始めているなか、Googleはオンライン教育をサポートする新しいツールを発表しました。最大49人の会議参加者が可能となるGoogle Meetのアップデート、写真や電話だけで使える宿題ヘルパーツールなどが追加されるといいます。
  2. 悪用やスパム防止に効果? Twitterは、同プラットフォーム上で行われる“意味のある会話”の量を増やし、返信内での悪用やスパムを防止するために、ユーザーが自分のツイートに返信する人を制限できる新機能を追加しました。なお、TweetDeckはまだサポートされていないといいます。
  3. セックスドールの販売が急増。オーストラリアのセックスドール製造業者や販売業者の多くは、国内各地でロックダウンになって以来、売上が急増しているといいます。オンラインセックスストアCherry Bananaでは、「チェリー・ドール」の売り上げが2倍になり、今では週に4~5個、月に20~25個を販売しているそうです。
  4. ビリー・アイリッシュが出演し、Z世代を意識。ドイツテレコムは、ビリー・アイリッシュを起用した、Z世代の携帯電話利用がもたらす、ポジティブな影響力を伝えるキャンペーンを展開しています。グラミー賞受賞アルバム『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』に収録されている「When the Party’s Over」に合わせて、“画面に夢中”な若者たちが携帯電話を操作する様子が描かれています。

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新たに公開されたQuartz JapanのPodcast最新エピソードで、fermata inc.のファウンダーのAminaさん、中村寛子さんとの対話をお楽しみください。“女性のウェルネス”について語り尽くしています。