New Normal:デリバリー一強下のレストランの「価値」

Friday: New Normal

新しい「あたりまえ」

Quartz読者の皆さん、こんにちは。毎週金曜日のPMメールでは、パンデミックを経た先にある社会のありかたを見据えます。今日のテーマは、レストランのニューノーマル。感染対策に特化した、これまでの様式とは違うレストランのあり方が求められているなか、今後どのように私たちは食事を楽しめるのでしょうか?

REUTERS/Toby Melville
REUTERS/Toby Melville

全米レストラン協会によると、レストラン業界の接客業に携わる人は、米国だけで推定1,560万人。2月下旬の時点で、2020年の売上高は8,990億ドル(約96兆円)になると予測されていましたが、パンデミックの影響で非常に難しいものになりました。

マッキンゼーの最新のレポートでは、2019年に営業していた米国のレストラン65万軒以上のうち、13万店以上(約5店に1店)が2021年までに閉店を余儀なくされると予測されています。

独立系レストランのほとんどは、次のような理由から、パンデミックの影響を受けやすく、経済的にも不利な属性にあると考えられます。

  • 「オフプレミス(店舗外でのサービス)」が存在していないところが多い
  • デジタルとの繋がりが限られている
  • 消費者が求める価格とギャップのあるメニューの価格帯
  • 利益率が低い
  • 資本へのアクセスが悪い(資金調達力が低い)

米国のレストランにおける独立系レストランのシェアは、2019年の53%に対し、2021年には43%にまで低下する可能性があるといわれています。実際、米国では、カジュアルダイニングやファインダイニングのレストランは、4月17日の時点で売上が前年比で85%も減少。一部の高級レストランでは、売上がゼロになったところもありました。

米国では、ロックダウンによってレストランの多くがテイクアウト以外の提供方法を絶たれましたが、その状況は現在に至っても大きく変わってはいません。店を開けないまま、テイクアウトやデリバリーのみを行っている店舗も多くあります。

レストラン業界は、大きな変化を余儀なくされている段階の真っ只中なのです。

WE LOVE PIZZA

ピザ屋が好調な理由

実際、デリバリー事業そのものは絶好調です。たとえば、Uber Eatsは、今や同社の配車サービスを上回る規模に。第2四半期、モビリティ部門(別名Uber Rides)の利用総額は30億ドル強(約3,230億円、前年同期比75%減)でしたが、デリバリー部門(別名Uber Eats)では2倍を超える69.6億ドル(約7,370億円)。デリバリー事業の収益も、モビリティ部門の7.9億ドル(約845億円)を抜く結果になっています。

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また、2020年3月に米国の消費者を対象にしたStatistaの調査では、コロナウイルス流行中に家に閉じこもった場合、41.7%が「レストランのフードデリバリーをオンラインでオーダーしたい」と回答。同サービスに意欲的なことがわかります。

デリバリーも含め、パンデミックのあいだにレストラン事業で好調だったのはピザ屋で、売上を維持または増加傾向にありました。

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この理由としては、消費者のデジタルエンゲージメントのレベルが急上昇しているためで、この危機的な状況下では、オンラインオーダーサービス、デジタル・ロイヤリティプログラム、強固な顧客関係管理(CRM)システムがレストランの生命線となっているからだと考えられます。

REUTERS/Jennifer Lorenzini
REUTERS/Jennifer Lorenzini

大手ピザチェーンのPapa John’s(パパ・ジョンズ)では、少なくとも1年以上営業している北米のレストランの売上高は、6月28日までの3カ月間で28%急増したようです。ピザはレストランで食べてもデリバリーでも相性がよいのと、軽食にもなるという手軽さが、厳しい状況下でも売上が落ちなかった理由でもあるかもしれません。

そういえば、DJのスティーブ・アオキも自身のピザチェーンを展開していたり…。「Pizzaoki」の名のピザチェーンは、パンデミック中は、医療従事者へピザを届けていたようです。

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Image: PIZZAOKI VIA INSTAGRAM

NEW RULES

外食での新ルール

レストラン内での食事をする場合に感染対策のための新たなルールが必要とされているのは、世界共通です。

取り組みの内容は各国さまざまですが、一般的なのは入店前の検温や消毒、アンケートの実施、プレキシガラスで空間を仕切る、手洗いの徹底、屋外用の席を用意するなど。

REUTERS/Lucas Jackson TPX IMAGES OF THE DAY
REUTERS/Lucas Jackson TPX IMAGES OF THE DAY

なかには、オランダのような“温室”で仕切ったレストランや、人形を置いてスペースを確保するレストラン、ソーシャルディスタンシングの距離を保つためにドーナツ型の移動式テーブルを各々が身に付ける工夫など、非常にユニークなものが世界中で見られます

REUTERS/Kevin Lamarque
REUTERS/Kevin Lamarque

シカゴのレストランAlineaとRositerを含むアリネアグループの共同オーナー兼共同設立者であり、レストランの予約・注文プラットフォーム「Tock」の創設者兼CEOであるニック・ココナスは『Fastcompany』に、「今後のレストランでの物理的な食事体験に関しては、安全性と衛生面での透明性に対し、明確に強調しなければならないでしょう」と述べています

また、レストランレビューサイト「The Infatuation」と「Zagat」の共同設立者兼CEOであり、フード&ミュージックフェスティバル「Eeeeeeeatscon」のCEOでもあるクリス・スタングは、次のように語っています。

「いくつかの都市では、屋外でより多く食事ができるようにするために、道の使い方が変わってきたので、テーブルを効果的に配置することができます。すべてのレストランは、顧客にサービスを提供する方法について、より創造的に考えなければならないでしょう。そして、そのレビューを書くために、“レビューサイト”は存在するのです」

ただ、レストラン内での食事もいまだに抵抗がある人もいたり、営業時間や収容数などの制限からなかなかパンデミック前のように集客できないため、デリバリーやテイクアウトと共存せざるを得ない状況なのが現実です。

高級レストランの場合、彼らは通常、物理的なサービスを体験することを含めて食事を提供してきたため、これまではテイクアウトを避けてきました(NYのレストランEleven Madison Parkはパンデミック後、レストランは再開しないかもしれないと述べています)。

しかし、そうも言ってられず、一部のミシュラン星付きのレストランでもテイクアウトサービスを開始。たとえば、NYではAquavit、Daniel、Cote、Claroなどがスタートし、日本食レストランのMasaでは、高級店らしく(?)800ドル(約8万8,000円)の寿司のテイクアウトボックスが販売されています。

パリのミシュランレストランLe Chibertaがテイクアウトを用意している様子。REUTERS/Gonzalo Fuentes
パリのミシュランレストランLe Chibertaがテイクアウトを用意している様子。REUTERS/Gonzalo Fuentes

WITH TECHNOLOGY

ロボットやアプリ登場

ほかにも、新しいレストランのあり方を助けてくれているのが、ロボットやアプリを使った運用です。

特にロボットは、デリバリーから調理まで、幅広く手助けをしてくれるので、このパンデミックではこれまでよりも実用性を考えたうえで注目されるものになりました。オランダではロボットウェイター、中国では完全自動化されたレストランなど、人を介さない“安全な”ロボットの運用が見られます

REUTERS/Piroschka van de Wouw
REUTERS/Piroschka van de Wouw

顧客がスタッフとの対面での接触をほとんど避け、感染のリスクを最小限に抑えるため、自分たちでテーブルでオーダーするスタイルも登場しています。スペインのFunky Pizzaでは、独自のアプリ『Funky Pay』を使って、レストランでのメニューの閲覧、注文、支払いを行っています

REUTERS/Nacho Doce
REUTERS/Nacho Doce

また、レストラン外でのデリバリーロボットへも期待が高まっています。MarketsandMarketsの最近のレポートによると、デリバリーロボット市場は2018年の1,190万ドル(約12.7億円)から2024年には3,400万ドル(約36.3億円)に成長すると予測。

主に使われているのは、Starship Technologyのロボットで、重さが約55ポンド(約25キロ)で、耐荷重が約22ポンド(約10キロ)。すでにフードデリバリーサービスのDoorDashは、サンフランシスコで2019年よりロボットによるデリバリーを開始していて、Postmatesは自社の「Serve」を使ってデリバリーを行っています。

REUTERS/Julio-Cesar Chavez
REUTERS/Julio-Cesar Chavez

ただ、問題になるのは「コスト高」。とくに、調理をロボットに頼るのは、かなり厳しいように思えます。昨年、ロボットコーヒーメーカーのCafe Xは店舗を閉鎖し、空港のみで展開へ。ロボットを活用したピザチェーンのZume Pizzaも、2018年にソフトバンクから3億7,500万ドル(約400億円)を調達しましたが、今年、同社は360人の従業員を解雇し、ほかの食品宅配業者にピザのパッケージを提供する事業などに方向転換する方針を発表しました

多くの注目を集めているロボット食品会社の多くは、たとえ人間の雇用を減らすことができたとしても、研究開発や設備に対する必要なコスト削減を実現できませんでした。

また、人間ではなく、ロボットが「調理する」フードがあまり魅力的ではないということも。誰がピザの味付けをアンドロイドにさせたいと思うのでしょうか? しかし、このパンデミックにおいてはもはや、ロボットを使わざるを得ない状況になってしまっているのです。

BE EXCLUSIVE

特別な存在になるために

REUTERS/Yves Herman
REUTERS/Yves Herman

とはいえ、世界はまだ混乱の中。ニューノーマルなレストランのあり方については、ほぼ“模索中”というのが現実です。また、専門家は、パンデミックのあいだに形成された消費者の新しい行動が、レストランが完全に再開した後も続くかどうかを判断するのも、時期尚早だと話しています。

いずれにせよ、従来のようなやり方でレストランの発展を想像するのは厳しいでしょう。今後はさまざまな物理的な「体験」を提供するための工夫がなされ、ロイヤルカスタマーの獲得が重要な要素になりそうです。

たとえば、マッキンゼーのレポートは、レストランでの食事を安心して楽しむために、レストランの開店時間や、安全に入店できる理由などの情報をパーソナライズしてメッセージを送信、顧客やパンデミック期間中に初めてレストランを利用した人へのプロモーションなどが考えられると述べています。

テクノロジーを駆使し、デリバリーやテイクアウトを供用しながら、以前とは違う特別な「体験」をどう開拓していくのか、注目したいところです。

訂正:昨日8月13日にお送りしたニュースレターにて価格の誤りがありました。紹介した「Embody Gaming Chair」は、正しくは1,495ドル(約16万円)です。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. WalmartがInstacartと提携。CNBCによると、WalmartがInstacartと提携することが決まり、当日の食料品配達でAmazonに対抗することになるようです。InstacartはすでにAlbertsons、Aldi、Costco、Kroger、Target、WegmansやCVSのような薬局のような小規模なチェーン店とすでにコラボレーションしています。
  2. ノルウェーが入国者を追加で厳しく取り締まりへ。コロナウイルス感染者の増加により、ノルウェーではフランス、チェコ共和国、スイス、モナコ、およびスウェーデンの一部から到着した人への制限を追加しました。観光客でもノルウェーへの帰省者でも、10日間の自己検疫が義務付けられています。また、政府は、これらの国への渡航を控えるよう強く勧告しています。
  3. オーストラリア発のお助けアプリ。オーストラリアには170種のヘビが生息していますが、そのほとんどが毒を持っていて、2,000種のクモも存在します。そこで誕生したのが、有毒かどうかを知るのに便利なアプリ『Critterpedia』。ヘビやクモの写真をアップロードすると、それが何の種類なのか、怖がる必要があるのかどうかをすぐに教えてくれます。
  4. ピザに惹かれるクマ。米・アラスカのピザ配達の運転手が、早朝の時間帯、クマに車を壊される音で起きました。どうやら車はまだピザの匂いがしていたようで、クマが侵入しましたが、車内に実際の食べ物が入っていないことに気づき、そのまま立ち去ったといいます。

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新たに公開されたQuartz JapanのPodcast最新エピソードで、fermata inc.のファウンダーのAminaさん、中村寛子さんとの対話をお楽しみください。“女性のウェルネス”について語り尽くしています。