Startup:TikTokを“切り取る”エドテック

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Monday: Next Startups

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。9月にはスペシャルウェビナーを開催。詳細はこのニュースレターの後半で、ご確認ください。

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Image: REUTERS/JASON REDMOND

8月24日(米国時間)開幕した2020年夏のY Combinator(Yコン)。デモデイは、新型コロナの影響でYコン初の完全リモート開催となったこともあり、多くの注目を集めました。

Yコンは世界最高水準の起業家の登竜門。今年は昨年以上にワクワクする事業やアイデアが目白押しです。2日間にわたり197社が、全世界1,600社の投資家に向けて各社1分のピッチを行いました。

今週からはYコン特集として、このデモデイのピッチで、気になった企業やサービスを取り上げていきます。見えてくる最新のトレンドなどもお伝えできればと思います。

今週は、インタラクティブな英語学習動画の「BlaBla EdTech」を取り上げます。

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Image: BlaBla EdTech

BlaBla EdTech(英語学習プラットフォーム)
・創業:2019年
・創業者:Angelo Huang、仙仙黄
・調達額:非公開
・事業内容:言語学習に特化したインタラクティブ動画プラットフォーム

Specializing In Learning English

“英語学習の”TikTok

デモデイ2日目に登場した94社の中で、ひときわ目を引いたBlaBla EdTech。中国とアメリカに拠点を置き、ショートビデオで英語学習ができる、いわば「英語学習に特化したTikTok」といえば、イメージしやすいでしょう。

見た目はTikTokにそっくりですが、UIや機能が英語学習向けに緻密に最適化されています。

例えば、画面右側のボタンを開くと、その動画で使われている単語が一覧表示されます。TOEFLなどの試験で使われるボキャブラリーだけを抽出して見ることもでき、択一式でのテストもその場でできます。

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Image: SCREENSHOT

また、発音練習の機能も用意されています。抽出されたキーセンテンスを読み上げると、スマホの音声認識で発音のクリアさを評価し、外れた場合にはその単語を指摘してもくれます。

サービスの利用を始める前に、チャットボットを相手に英語レベルを測るテストがありますが、割と本格的です。そしてタイムラインに表示される動画は、自分のレベルに合うようにAIで最適化されています。

気に入った配信者を見つけたら、「いいね」やフォローをして、個別にメッセージを送ることも可能です。音楽、旅行、食、スポーツなど、配信者はそれぞれ自分のテーマで配信し、ユーザーは自分の興味や目的に沿って、スキマ時間を使って気軽に学習できます。

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Image: YOUTUBE/BlaBla EdTech

世界最大の英語学習市場は中国で、同社のサービスも当初は中国向けに始まっています。TikTokを生んだこの国で、ターゲットとなる若者がかつてないほどにスマホで動画を見ることに慣れ親しんだこのタイミングで、完成度の高いサービスを投入しました。

Anyone Can Be Taught English

誰でも、教えられる

BlaBla EdTechは今年1月にベータテストを開始しました。期せずして訪れた新型コロナウイルスの流行で、職を失った英語講師が自宅で時間を持て余しており、その受け皿となったのがBlaBla EdTechです。現在、配信者は100人以上、コンテンツは3,000本を超えます。

例えば、人気の洋楽を使って配信するBraian Gomez(ブライアン・ゴメス)という黒人の男性。アリアナ・グランデやアデルの曲を題材に、歌詞を解説してくれます。ゴツい男性が女性シンガーの曲を美声で歌い上げる…勉強しているのを忘れるほどです。

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Image: SCREENSHOT

質の高いコンテンツを手間なく配信者につくらせる、テック面のサポートも万全です。重要単語は音声認識で自動抽出し、配信者専用の管理画面ではどんなユーザーが見たか、そのユーザーが他にどんなコンテンツを見ているかが分かるため、自身のフォロワー増やコンテンツ作成の参考にできます。

配信者はオンライン上のミートアップを開いてQ&Aに答えることもできます。自分のファンを増やし知名度を上げれば、時間や地域の制約なく無限に多くの生徒とつながれ、自分のレッスンを届けることができる。リアルの教室でレッスンをしていた英語講師にとっては、手の届かない世界でした。

また普通の人が、英語講師になる道も開けます。自分の趣味、特技、知識、住んでる国や地域を紹介しながら、英語を教える。コロナで失業した人、副業で稼ぎたい人、そんな世界の英語人口15億人全員に自己実現の機会を提供する、エンパワメントツールといえます。

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Image: 配信者用の動画作成画面 BY NOELLE WANG,FROM CONTENT CREATOR STRATEGY

作成した自身のコンテンツは“ビデオコース”として販売して収入を得ることも可能です。価格帯は20〜100ドルで、教師にはその40%が分配されます。同社の売上も、現在のところこの収入をメインにしています。

Passionate Entrepreneurs

情熱の起業家

創業者のAngelo Huang(アンジェロ・ファン)は中華系で、南カリフォルニア大学でコンピューターサイエンスの修士を取得し、米Yahooでキャリアを積んだ後、2015年に営業サポートソフトのLeadIQを立ち上げ、売却した連続起業家です。そんなエリート街道まっしぐらの彼も、大学入学に米国に初めて移住したとき、英語でとても苦労したそうです。

先日のYコンのピッチで登壇した際にも、決して英語が得意ではないのが伝わってきました。それでも熱意に溢れた様子でプレゼンを披露するアンジェロの姿は魅力的で、印象に残る人物です。BlaBla EdTechのチャットボットのアイコンが彼なのですが、日本でもダウンロードできるので是非見てください。

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Image: LINKEDIN/Angelo Huang

自身の苦労から、英語学習分野に可能性を感じていたアンジェロは、当初中国人の若者向けにBlaBla EdTech を始めました。「英語をマスターするには、モチベーションが一番大事。気軽でクリエイティブで生活に密着して使えるものが欲しくてつくった」そうです。

現在もマーケティング費用を一切かけずに毎月20〜30%の成長を維持しています。アンジェロはこの先、英語学習の分野において、短編動画とAIと機械学習が中心になっていくと信じているそうです。

Vertical And Horizontal Evolution

タテとヨコの進化

“エアライン向けShopify”の「Farel」や“イベント向けZoom”の「Rally」など、急成長するサービスを特定のユーザーや用途向けに切り取ったサービスが多かったのは、今回のYコンの特徴の一つでした。BlaBla Ed Techも、“英語学習向けTikTok”という意味で、その一つといえます。

単なるコピーキャットにも思えるかもしれませんが、ネットワーク外部性などで一気にヨコに広がった支配的なプラットフォームから、徐々に成熟化し細分化されたニーズが“細く深く”タテに分化する動きは、テックサービスの宿命とも言えます。

ポイントは、この“タテに切り取った”なりに、十分なニーズとマネタイズの深み、そして市場規模があるかどうかです。英語学習は、それに足る十分なマーケットといえそうです。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。


【参加費無料のウェビナー開催のお知らせ】

2019年のQuartz Japan始動から続いてきた久保田雅也さんによる人気連載「Next Startup」も配信40回を超えました。そこで来る9月10日(木)、Quartz Japanでは、久保田さんとともにウェビナーを開催します。このコロナ禍でも強い価値を発揮している海外スタートアップの姿を通して、「ビジネスの未来図」をぜひ一緒に見つけ出しましょう!

  • タイトル:Next Startups〜次のスタートアップから読み解く「未来思考」
  • 実施日時:9月10日(木)11:00〜12:00(60分)
  • 参加料金:無料
  • 実施方法:Zoomを活用したウェビナー方式
  • 登壇:久保田雅也さん(Wilパートナー)/モデレーターはQuartz Japan編集部
  • 主催:Quartz Japan
  • 申込みこちらのフォームよりお申込みください。

This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. AIチップ埋め込み豚が登場。脳に埋め込むマシンの開発を目指す、Elon Musk(イーロン・マスク)のNeuralink(ニューラルリンク)は8月28日、「Link」と呼ばれる同社開発のデバイスを埋め込んだブタを披露しました。脳内の信号からデータを受信し読み取ることを示し、まもなく予定されるヒトへの移植の安全性をアピールしました。Neuralinkについては7月20日に配信した「Startup:『マトリックス』なリアルの構想力」で詳しく触れています。
  2. Teslaのライバル社がIPO。中国・広州に本社を置くEVベンチャーXpeng Motors(小鹏)は8月27日にニューヨーク証券取引所に上場し、15億ドル(約1,600億円)を調達。当初は公募価格11〜13ドルで8,500万株を売り出す予定だったところ、最終的に9,970万株が1株15ドルで販売されました。2014年に設立された同社は阿里巴巴集団(アリババ)や鴻海精密工業(Foxconn)が出資する、いわば“中国版Tesla”(2019年にTeslaから転職した元社員が技術盗用で提訴されています)。Xpengは現在、G3 SUVとP7セダンの2車種を販売しています。
  3. リモート加速で好調のOkta。リモート勤務の導入に伴って、Oktaのクラウド型ID管理ソフトウェアは凄まじい勢いで普及しています。3〜7月末までのサービスの利用率は、前年同期比で3倍近く、1日あたり1億4,500万回のログインに到達。8月27日に発表された第二四半期の売上高は2億4,000万ドル(約253億2,000万円)と、前年比43%増の高成長を維持しています。同日には大部分の従業員に永久的なリモート勤務を許可する計画を明かしました。
  4. EpicとAppleの対決の行方。Fortnite(フォートナイト)を手掛けるEpic GamesのiOSおよびmacOSのApp Storeアカウントが停止されました。アプリ内課金のガイドラインをめぐり、Epicは8月13日に米Appleを独禁法違反で提訴し、ユーザーを巻き込んで、「アンチAppleキャンペーン」を展開するなどして応援。次の審理は9月28日に行われます。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)


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