Thursday: MILLENNIALS NOW
ミレニアルズの今
今、日本でも認知度が高まりつつある「フェムテック」市場。注目すべきは、現在、女性向けのプロダクトが女性によってつくられていることが多い点です。今日のニュースレターでは、女性が求めるものを落とし込んだ「女性目線のセルフプレジャーやウェルネスアイテム」を、MoMAデザインストアで開催されている期間限定ショップの紹介とともにお届けします。英語版はこちら(参考)。
まるで拷問されているかのように感じるさく乳器、中世から続く月経用品や不愉快なセックストイ。女性向けのウェルネスやセクシャルウェルネスを中心としたプロダクトは、長い歴史のなかで男性のチームによって考案されてきましたが、評判がよかったとはとてもいえません。
しかし、ここ数年、女性の起業家やイノベーターたちが、よりよいプロダクトを開発するために多くのアイデアを出しています(以前、こちらの記事でも紹介)。
現在、ニューヨークにあるMoMAデザインストアでは、ポップアップコレクション「Design Innovations for Women 」が開催されています。これは、長年のあいだ、誤解されてきた女性の生体構造や精神のニュアンスを正すためのもの。コレクションには、月経周期に関するボードゲーム、ウェアラブルなさく乳器、宝石のようなバイブレーター、女性の快適性を追求した画期的な自転車用サドルなどが並びます。
IN REAL
カラダと向きあう
MoMAデザインストアのマーチャンダイジング担当アソシエイトディレクターのチェイ・コステロは、この“挑戦的”ともいえるポップアップストアの企画に数年前から取り組んできました。
女性が自身の体について率直に語るようになったことで、女性がデザインしたさまざまな製品が市場に出回る道が開かれたと、彼女は言います。
「(ニューヨークの)ブロンクスに住んでいる女の子たちが、生理をテーマにしたポッドキャスト『Sssh! Periods』を公開していたのを見つけました」と話すコステロ。同ポッドキャストは、NPR(米公共ラジオ局)の学生ポッドキャストコンテストで優勝した作品です。
「長いあいだ、女性の体をトピックにすることはタブー視されてきました。また、必要とされていることを率直に話すことに対して、誰もが躊躇していました。話せない状況にあるということは、つまり、そのトピックに対して十分にサービスが行き届いていないということです」
更年期障害とそれに伴う健康上の懸念は、ほとんどがまだ放置されている分野のひとつです。「誰もが話したがらないこととして、月経のほかに老化が挙げられます。それらのトピックは、社会において話すことが奨励されているとはいえません」とコステロは説明します。
彼女は、米国の作家ダーシー・シュタインケの著作『Flash Count Diary: Menopause and the Vindication of Natural Life』(2019)を読んだことをきっかけに、デザイン性の高い更年期向けの製品を探し求めていました。彼女がとくに太鼓判を押すのは、ほてりをすぐに緩和してくれるフェイクパール、体温を下げてくれるタンクトップ、保温効果のあるルブリカント(セックス用の潤滑剤)の3つの製品です。
ちなみに、生産性の低下へとつながるともいわれる更年期障害は、2025年には世界で10億人以上の女性が経験すると予測されており、これは世界人口80億人の12%に相当するといいます。
The Change
セックスライフの変化
フェムテックへの関心は、コロナウイルスのパンデミックの影響でも高まりました。
最近のオンライン調査によると、成人1,559人のうち43.5%がパンデミック中に性生活の質の低下を報告している一方、改善したと回答した人は13.6%に過ぎないことがわかりました。もっとも、興味深いことに、2019年に比べ、セックスの頻度が減少したと報告されているにもかかわらず、5人に1人(20.3%)の人が、サイバーセックスをはじめとする新しいセックスの楽しみ方を性生活に取り入れたというのです。
パンデミックが起きたからこそ、思うように過ごせないことによるストレスが溜まらないよう、私たちは“解放”される必要があるかもしれません。
セックストイを販売するSatisfyer(サティスフィア)のエデュケーションディレクターであるメグウィン・ホワイトは、「オーガズムはストレスを緩和し、不安を軽減し、気分のバランスをとるのに役立つエンドルフィン、セロトニン、オキシトシンなどを放出させてくれる」と話します。また、オーガズムによって脳機能をシャープに保ち、集中力を維持、そして心血管疾患のリスクを減らすのに役立つことが示されているとも伝えています。
セックストイの販売も好調です。絵文字にインスピレーションを得たバイブを展開するEmojibatorの担当者は、ロックダウンで人々が家にこもり始めた3月13日以降、それ以前より売り上げが345パーセント増加したと話しています。
このように、家にいることが増えたこととウイルスに対する懸念から、人々がセックスにおけるテクノロジーの利用に対して関心を高めていることが分かります。
FOR EVERYONE
あらゆるニーズに対応
MoMAストアには、パンデミックのあいだにネット上でブームとなった女性用バイブレーターや“パーソナルマッサージャー”が並びます。コステロによると、セクシャルウェルネスの新鋭スタートアップLora DiCarlo(ローラ・ディッカーロ)のマッサージャー「Osé」から、旅行用にデザインされた便利な「Zee Bullet(ジー・ブレット)」まで、さまざまなニーズに合わせたものがピックアップされています。
セクシャルウェルネスのスタートアップMaude(モード)の創設者であり、パーソナルマッサージャー「Vibe」のデザイナーでもあるエバ・ゴイコシャは、今回、ポップアップコレクションに参加したことに特別な意味があると言います。
「MoMAで彫刻を見て、それが『Vibe』にぴったりの形だと思いました。以前であれば、間違いなく“ミニ・ブランクーシ”(フランスのアーティスト、コンスタンティン・ブランクーシの彫刻を引用)と呼ばれていましたね」
ゴイコシャは、製品のデザインやブランディングは意図的にシンプルにしていると説明しています。「私たちの目標は、セックスが“区別化されたもの”ではないと、感じてもらえるようにすることです」
来場者ならびに昔からの寄付者から得られる収益で運営しなければならない現代において、MoMAのような文化機関が、ミュージアムストアでセックストイを販売するなんてことは、ある種、偉業であるともいえます。
「私たちが目にしているのは、ムーブメントであり、大きな変化です。世界的なパンデミックは、自分の体を大切にすることがいかに重要であるか、そしてそれに関わる公平性がいかに重要であるかを思い知らされるときなのです」
コステロは、ミュージアムストアのほかアイテムとは異なり、各製品に関連する謳い文句の内容を医師に確認してもらったと言います。
「(製品を手に取るとき)知識となるコメントが必要です。私には、出産したばかりの産婦人科医である親友がいるのですが、彼女は科学的な研究の信憑性について相談に乗ってくれました」
FOR WOMEN, BY WOMEN
女性が女性のために
女性だからこそ理解できるメリットとデメリットから誕生する、女性がつくる女性のためのアイテム。ポップアップコレクションにも参加しているゲオルゲナ・テリーは米・バーモント州を拠点とするエンジニアでもある環境保護活動家で、1980年代半ばから、女性のためのよりフィット感の高い自転車をデザインしてきました。大手ブランドの典型的なデザインの考え方(たとえば、自転車なら男性らしくなりがち)ではなく、彼女は女性の解剖学を念頭に置いてバイクのフレーム全体を再構築しました。
「男性と女性の解剖学的な違いを知り始めると、いくつかの深刻な違いがあります」と、彼女はウェブサイトで公開されたムービーで説明しています。「女性の筋肉量の中心は男性とは違う場所にあり、女性の筋肉は男性よりも小さいのです。自転車の設計では、これを補う必要があります」
機械工学のトレーニングを受けたテリーは、フレームと前輪とが小さい自転車の特許を取得しました。そのデザインは、フィットしない自転車に乗っていることが原因であらゆる種類の痛みに悩んできた女性たちの興味をそそるものでした。
テリーはカスタムバイクのデザイン以外にも、性器の痛みの原因にならないような自転車サドルの開発にも取り組んできました。彼女がデザインした「Liberator X saddle(リベレーター X サドル)」は、圧力から解放してくれるように、サドルにホールを入れました。
「イタリアのメーカーに行ったとき、そのデザインは笑われましたね。でも、1年もしないうちに、彼らは自分たちの工場で穴の開いたサドルをつくっていました」と彼女は話します。
テリーは、自身のキャリアを振り返りながらこう話します。
「女性は、これまで以上にこうしたビジネス(フェムテックやセクシャルウェルネス、ウェルネスなど)に、女性が参加しているのを見たいと思っていると感じます。女性が女性のためにデザインすることは重要。女性の方がより、体に対してリアルだからです」
Quartz Japanのポッドキャストシリーズ#04では、フェムテック領域に挑むfermata inc.のおふたりをゲストにお届けしています。ぜひ、あわせてお楽しみください。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- PayPalの“buy now, pay pater”。PayPalが、分割払いプログラム「Pay in 4」を新たに導入しました。Pay in 4では、6週間のあいだに30〜600ドルまでの支払い金額を選択することが可能。PayPalを導入している既存店は、追加手数料を払う必要がないといいます。
- 移民農作業員の残酷な状況。カリフォルニア州で起こっている山火事により、何千人もの農場労働者に壊滅的な打撃を与えています。このような大惨事のなか、若い農業労働者たちが直面している過酷な状況がTikTokで共有されています。8歳という若さでイチゴを摘む子どもたち、16歳の少年を含む10代の若者たちが土を耕す様子などが公開されています。
- ハンドサニタイザーのパッケージにご注意。米国食品医薬品局(FDA)は、手指消毒剤が飲料や食品に見せかけたパッケージで販売されていると警告。見た目がいかにも食べられそうなだけに、子どもが誤飲・誤食しないように注意して欲しいと伝えています。
- 英国の音楽フェス、グラストンベリーは来年6月に開催か。創設者のマイケル・イーヴィスは以前、今年の開催はコロナの影響でキャンセルになり、2021年の開催も不透明であると話していました。しかし、娘のエミリーが「来年のグラストンベリーを2021年9月に移す予定はない。まだ6月を目指している」とツイートしたことで、チケット購入者は実現を待ち望んでいるようです。
【お友だちとぜひご参加ください】
来る9月10日(木)、Quartz Japanではウェビナーを開催します。出演いただくのは、月曜午後に配信している人気連載「Next Startup」のナビゲーター、久保田雅也さん。このコロナ禍でも強い価値を発揮している海外スタートアップの姿を通して、「ビジネスの未来図」をぜひ一緒に見つけ出しましょう!
- タイトル:Next Startups〜次のスタートアップから読み解く「未来思考」
- 実施日時:9月10日(木)11:00〜12:00(60分)
- 参加料金:無料
- 実施方法:Zoomを活用したウェビナー方式
- 登壇:久保田雅也さん(Wilパートナー)/モデレーターはQuartz Japan編集部
- 主催:Quartz Japan
- 申込み:こちらのフォームよりお申込みください。
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🎧Quartz JapanのPodcastは“耳で聴く”グローバルニュース。最新エピソードでは「ノルディック・ハピネス(北欧の幸せ)」について語っています。