Africa:気候変動で消えゆく歴史遺産

Wednesday: Africa Rising

躍動するアフリカ

アフリカ大陸の各地に現存するいくつもの歴史的遺跡や自然遺産。伝統を伝えるだけでなく、現在を生きる人びとの糧となる遺産群が、今、気候変動によって失われる危機に直面しています。英文記事はこちら(参考)。

Image for article titled Africa:気候変動で消えゆく歴史遺産
Image: UNESCO

Quartz Japan読者の皆さんにご案内しているウェビナーセッションの開催日時に誤りがございました。開催日は、正しくは9月10日(木)です。詳細は、本ニュースレターの最後でもご案内しております。

遺産・史跡の価値は、一体どこにあるのでしょう? ひとつ言えるのは、歴史的遺跡は、その地の社会福祉アイデンティティの創造伝統的な知と、さらにはその周辺に暮らす人びとの家計を守るため不可欠なものだということです。

気候変動についての議論が盛んにされるなか、それがこと「遺跡」に対して与える影響に関するものになると、語りうる学者や政策立案者は、ほとんどいません。

さらに、こうした議論は、実際にされていたとしても、主に富裕国における影響止まり。ある最近の研究では、気候変動が遺跡に与える影響に関する研究のうち、アフリカに関連するものはわずか1%に過ぎないと推定されています。

しかし、気候変動はすでに、着実に、アフリカの遺跡に被害をもたらしています。

a need for research

そもそもデータがない

本稿の著者であるわたしたちは、気候変動に関する政府間パネルの第6次評価報告書のアフリカ編に寄稿しています。

報告書をつくるにあたって行った調査で明らかになったのは、気候変動がサブサハラ・アフリカに存在する遺跡に与える影響について、定量化可能なデータがまったく存在していないという事実でした。

Image for article titled Africa:気候変動で消えゆく歴史遺産
Image: REUTERS/THOMAS MUKOYA

わたしたちは、アフリカ大陸での長年の経験をもつ気候科学者とチームを組み、アフリカの遺跡に対するさまざまな種類の気候変動とその脅威を浮き彫りにしようと着手しました。

結論から言うと、手が差し伸べられなければ、今後数十年の間に、気候変動の直接的/間接的な影響の結果として、アフリカの重要な遺跡の多くが失われることになるでしょう。

今必要とされているのは、気候変動がアフリカの文化遺産に与える影響を調査すること。そして、これらの損失が社会にどんな悪影響をもたらすかを明らかにすることです。今後10年間は、気候変動に直面しているアフリカの遺跡を管理するのに有効な、応用可能性の高い研究を実践するための重要な時期となるでしょう。

The Bad News

悪いニュース

アフリカの世界遺産が被害をうけている要因としてまず挙げられるのが、海岸侵食海面上昇です。代表的なのが、リビア沿岸のローマ都市「サブラタ遺跡」やガーナの海岸線沿いの植民地時代の要塞です。

Image for article titled Africa:気候変動で消えゆく歴史遺産
Image: REUTERS/ISMAIL ZETOUNI

脅威にさらされているのは自然遺産も同様で、ギニア沿岸の森林は、沿岸の浸食によって大部分が消滅しています。2050年までには、ギニア、ガンビア、ナイジェリア、トーゴ、ベニン、コンゴ、チュニジア、タンザニア(ザンジバルを含む)、コモロのすべてが、海岸浸食と海面上昇から重大なリスクにさらされることになるとされています。

古くは10世紀にまで遡るスワヒリ文化に特徴的なインド洋交易に関連する村や町はすべて、今後数十年の間に、海面上昇と海岸浸食によって大きな損失を被ると予測されています。これらの町村のほとんどが、モザンビーク、タンザニア本土、ケニア、コモロ諸島、ザンジバル、マダガスカルの海岸に位置しています。

Image for article titled Africa:気候変動で消えゆく歴史遺産
Image: REUTERS

この地に見られるユニークな遺跡の多くは、サンゴや砂、泥の上に建てられていますが、いずれも海抜10メートル以下の場所に位置しています。モザンビーク北部のキリンバス群島のイボ島、ケニアのシャンガ島とパテ島、タンザニアのペンバとカオレの遺跡、マダガスカルのマヒラカ、スーダンのスアキンなどの遺跡は、地質と標高の低さゆえに海岸浸食に対して非常に脆弱です。また、インド洋に浮かぶラム島の旧市街やザンジバル島のストーン・タウンといった世界遺産は低地に位置しているため、海岸線が後退することで最も深刻な影響を受けることが予測される地域として指定されています。

さらに、南アフリカのゴールデンゲートハイランド国立公園の岩絵遺跡群は、湿度が上昇するために活性化した微生物の活動によって劣化の一途をたどっています。

Why a site like Djenné matters

ジェンネ・ケース

アフリカの遺跡の多くは「生きた遺物」です。それゆえ、これらの保護は他地域の遺跡とは異なる側面をもっています。

マリ共和国のジェンネは、街のほとんどが土の建物で構成されています。独特なヴァナキュラー建築と象徴的なモスクは、1988年に世界遺産に登録されました。しかし、近年ではそれら泥づくりの建築物の劣化が目立ってきています。

Image for article titled Africa:気候変動で消えゆく歴史遺産
Image: REUTERS/JOE PENNEY

ジェンネが位置するニジェール内陸デルタでは水位が低下し、高品質の泥が不足しています。それゆえ、補修用の泥レンガを遠方より調達しなければならないのですが(ゆえに、これらの遺跡は“生きている”といえます)、地元の人びとはそれを買う余裕がありません。その結果、建物はコンクリートや焼成粘土レンガなど安価な材料で修復されているのが現実です。

Some hope

希望があるとすれば

泥レンガのような伝統的な建築方法は、近代化やグローバル化からするとあまりに時代遅れな遺物として捉えられますが、ジェンネで建てられてきた土由来の建物は、建築の際の温室効果ガスの排出量が少ないうえに、室内の環境を高いレベルで維持することで知られています。つまり、コンクリートや焼成ブロックに比べて“サステイナブル”だといえます。

Image for article titled Africa:気候変動で消えゆく歴史遺産
Image: REUTERS/JOE PENNEY

よいニュースもいくつかあります。それはまず、5年前の世界遺産条約でユネスコの「世界遺産と持続可能な開発方針」が採択されたことです。

注目すべきは、この方針の立脚点が人権平等長期的な持続可能性の原則の上に構築されているという点です。中央集権的な遺産管理は、いわば植民地時代の負の遺産でもありました。そうした前時代的な価値観に悩まされてきたアフリカの遺産にとって、この採択は画期的なものとなりえるでしょう。

西欧が管理してきたこの地の遺産がふたたび地元の生活に取り戻されることで、各地のコミュニティは環境との調和がとれた伝統的な生活に立ち戻ることになるでしょう。これによって、アフリカ諸国はグローバルで拡がる“サステイナブルな開発”の最前線に立つ機会を手にすることができるのです。


headlines from Quartz Africa

今週のヘッドライン

  1. アフリカの若者は、Facebookを信用していない。アフリカにおいては『Facebook』ならびに同社傘下のメッセージングアプリ『WhatsApp』が絶大な支持を得ています。しかし、ナイジェリア、ケニア、南アフリカを含むサブサハラ・アフリカ14カ国の18〜24歳4,200人に対する調査によると、実に半数が「信頼できない」と回答。さらに、ニュースの情報ソースとしてのGoogleについても、回答者の約5分の1が同様の懸念を抱いているとの結果が出ています。──September 2
  2. エジプト寄りの米国。エチオピア北西部のグランドルネッサンスダムをめぐっては、同ダムの架かるナイル川流域の関係3カ国(エチオピア、エジプト、スーダン)で対立が激化、米国が仲介し協議を続けていました。その最中、マイク・ポンペオ米国務長官はエチオピアに対する支援を保留する計画を承認。この動きは、エチオピアのライバル、とくにエジプト支持の姿勢を示すものとして注目されています。──August 29
  3. モーリシャスのイルカ。モーリシャスでの「ワカシオ」号座礁事故から1カ月。先月26日には、流出現場の近くで、イルカ数頭が打ち上げられているのが発見されています。国際環境NGOのグリーンピースは4頭のイルカが死亡したことを確認、さらに4頭が危篤状態にあると伝えています。同NGOは、さらに多くのイルカの死亡が予想されると語るとともに、流出事故との関連性を明らかにするための緊急調査を要求しています。──August 27

(翻訳・編集:年吉聡太)


お詫びと訂正

8月31日(月)の午後に配信したニュースレター(「Next Startups」)および、本日9月2日(水)午前配信のニュースレターにてご案内したウェビナー企画について、案内に不備がございました。読者の皆さんにご迷惑をおかけいたしましたこと、謹んでお詫び申し上げます。

:9月10日(木)11:00-12:00
:9月8日(火)11:00-12:00

8月31日にお送りした内容が正しく、9月2日に訂正としてご案内した内容は誤りでございます。

2度の変更となり、まことに申し訳ありません。ご登録いただいた方の登録の変更などは必要ございません。また、登録いただいた方には、別途アーカイブ動画も送付いたします。

参加申込は引き続き受け付けております。参加方法ならびにお申込は、こちらのリンク先よりご確認ください。

オンラインというかたちではございますが、9月10日に皆さんとお会いできることを楽しみに致しております。引き続き、Quartz Japanを宜しくお願いいたします。


このニュースレターをシェアしたいときは、ご自由に転送ください(転送された方へ! 登録はこちらからどうぞ)。

👇のボタンでニュースレターをTwitter、Facebookでシェアできます。Quartz JapanのTwitterFacebookでも最新ニュースをお届けしています。

🎧Podcast最新エピソードでは「ノルディック・ハピネス(北欧の幸せ)」について語っています。