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Tuesday: Asia Explosion
爆発するアジア
当初、9月15日に設定されていた、米国におけるTikTokの事業売却期限。世界中でユーザーを虜にしている巨大プラットフォームとのディールの先には、茨の道が待っているようです。英語版(参考)はこちら。
TikTokの米国事業の買収をめぐり、Oracle(オラクル)がMicrosoft(マイクロソフト)を破った──。『Wall Street Journal』(WSJ)がそう報じたのは、9月13日のことでした。
しかし実のところ、現時点ではこの取引に関する情報はほとんど公開されていません。また、その条件がワシントンと北京双方を満足させられるかも不明なままです。
TikTokの命運について疑問は尽きませんが、今見出せる答えを探ってみましょう。
Most valuable asset
TikTokの財産
まず、オラクルはTikTokを“買収”したのか。その問いに対する答えは、「おそらくNO」ということになるでしょう。
9月13日にマイクロソフトがTikTokアプリの買収に向けた入札に敗れたことを認めたその直後、WSJは、オラクルが米国におけるTikTokの「信頼できるテックパートナー(trusted tech partner)」になると報じました。しかし、米国の報道機関や中国の国営メディアは、この提携は完全な売却には至らないだろうと伝えています。
それでは、TikTokとオラクルのパートナーシップは、どのように機能するのでしょうか。その問いには、「誰も知るよしもない」と答えるほかなさそうです。
中国の国営メディアは、北京の技術輸出に関する新たな規制を根拠に、ByteDanceが同社のレコメンドアルゴリズムを米国側に引き渡すことはないと強調しています(そのアルゴリズムこそ、同社にとって最大の資産ともされています)。一方でCNNは、ByteDanceが米国の事業を管理する米国の仲介業者を設立し、オラクルに対しては株式を与えるかたちをとる可能性を報じています。
WSJは、両社がどのような構造をとるにせよ、セコイア・キャピタルやジェネラル・アトランティックといった既存の米国投資家も出資することになるだろうと報じています。ちなみにWSJは、マイクロソフトのTikTok入札に相乗りしようとしていたウォルマートが、現在、オラクルとTikTokとのディールに関与しようとしているとも報じています。
また、トランプ大統領がこのディールを承認するとも限りません。現在想定されているディールの内容は、トランプが要求していた“完全売却”には遠く及ばないものです。が、気性の激しい大統領は、11月の選挙に向けて、このディールを受け入れて“勝利宣言”することになるかもしれません。
ちなみに、オラクル会長のラリー・エリソンはトランプの再選キャンペーンの資金集めに協力しており、トランプはTikTokとオラクルのディールへの支持を表明しています。
dodging a bullet by “losing” out
試合に負けて勝負に…
勝負に負けたと伝えられるマイクロソフトが9月13日付けのブログで発表した声明は、皮肉の効いたものでした。同社以外のプレイヤーによる入札は、ユーザーのデータ保護問題を真剣に扱うものではないと言わんばかりの内容です。
ByteDanceは本日、TikTokの米国事業をマイクロソフトに売却しないことを発表しました。われわれの提案は、国家安全保障上の利益を保護しながらTikTokユーザーに報いる、よいものであったと確信しています。サービスがセキュリティ、プライバシー、オンラインの安全性、虚偽の情報(disinformation)に対抗しうる最高の基準を満たしていることを保証するべく、われわれは大幅な変更を行い、8月の声明においてはこれらの原則を明確にしました。これら重要な分野において、このサービスが今後どのように進化していくのか、楽しみにしています。
若いユーザーに圧倒的な人気を誇るソーシャルメディアアプリ買収は、消費者向けビジネス拡大の好機ともなったはずです。ゆえに、この買収失敗はマイクロソフトにとって損失のようにみえるかもしれません。
しかし、実のところ、同社にとってTikTokを取り逃したのは、むしろよかったのかもしれません。いくつか理由が挙げられます。
まずは、米中関係の悪化です。マイクロソフトは、これまで中国で事業を展開してきましたが、その間、自らが標的とならないよう、目立たぬように米中双方と強い関係を築いてきました。
しかし、もはや両政府の味方であり続ける方法などないことが明らかになりつつあります。トランプ配下の貿易顧問は、ディズニーからTikTokのCEOとなったケヴィン・メイヤーを「アメリカの操り人形」と呼び、一方中国において、BytedDanceは売却の可能性を受け入れると表明して以来、怒りの波に直面しています。
また、フェイクニュースやユーザー同士の中傷が飛び交うなかで大勢が集まるソーシャルメディアアプリを運営するのは、地雷に近づくようなものだとする見方もできます。マイクロソフトはLinkedInを所有しているため、オラクルに比べればコンテンツモデレーションに長けているといえますが、TikTokに対して準備ができているかと問われれば疑問が残ります。
このディールがどんなかたちになるにせよ、ステークホルダーが北京とワシントン双方からの厳しい目に晒されるのは間違いありません。
中国側がTikTokのレコメンデーションアルゴリズムを対象に新たな技術輸出規制を発令したのは先述した通りですが、当局はディールに至るより、もむしろアプリそのものの禁止を望んでいることが明らかになっています。
米国においても、ディールに対して承認が得られる確約はありません。現在伝えられているところではこのディールは完全な売却とは程遠く、ゆえにTikTok内部の動きは不透明なままで、中国当局がアプリのデータへのアクセスを求めて中国の親会社に圧力をかける懸念は捨てきれません。
Whenever Donald Trump feels like it
大統領の言うとおり
トランプ大統領は当初、TikTokが「非常にアメリカ的な」企業に売却される期限を9月15日に設定しました。その後、期限が9月20日になると示唆する行政命令を出し(8月6日)、さらに11月12日に期限を設定した別の命令を出しています。大統領は、さらに考えを変えるかもしれません。
米国大統領には、インターネットプロバイダーに対してTikTokへのトラフィックをブロックするよう命令する権限はありません。いざ「アプリを禁止する」としても、具体的にどんな手段を講じるか、まだはっきりしていないのです。
行政府が既存の法制度を書き換え、AppleやGoogleに対してアプリストアからTikTokを削除する可能性はあります。そして、TikTokはすでに米国人のアプリへのアクセスを制限する大統領権限に対して異議を唱える訴訟を起こしています。
【お詫びと訂正】9月16日(月)午後配信のニュースレター「Next Startups」で取り上げたTroveについて、調達額を80億円としておりましたが、「調達額は17億円(評価額80億円)」が正しいです。お詫びして訂正いたします。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- アリババは賭けに出た? アリババ(Alibaba)は東南アジアの配車最大手グラブ・ホールディングス(Grab)に30億ドル(約3,200億円)出資する方向で交渉を進めているようです。複数の関係者の話として『Bloomberg News』が報じました。Alibabaにとっては、2016年にラザダ(LAZADA)へ最初の出資をして以来の、東南アジアにおける大きな賭けになる可能性があります。
- 中国の都市生活にペットは欠かせない。精神的な安らぎや癒しをペットに求める人が増えています。中国のペット所有者は、7,355万人(2018年)から9,915万人(2019年)まで増加。消費を牽引するのは1980・90年代生まれの高学歴、高所得層です。中国のペット市場の規模は2020年に2,953億元(約4兆6,000億円)に達すると見られます。
- 飛行機は乗れなくても機内サービスを地上で。バンコクのタイ航空本社に出現したポップアップレストランは、空の旅に出れないストレスからわたしたちを救ってくれるかもしれません。提供される機内食を給仕するのは本物の客室乗務員です。レストランの入り口はタラップ式で、航空機に乗り込む雰囲気が味わえます。
- 在宅勤務は母親に激しいストレス。すでに6カ月目に突入したリモートワークですが、両親や子どもと同居する女性にかかる過度のストレスが懸念されています。LinkedInの労働人口における信頼感指数(Workforce Confidence Index)によると、在宅勤務に切り替わったことで女性は男性よりストレスを受けており、その原因は家父長制や性差による一方的な育児分担などが挙げられています。
(翻訳・編集:鳥山愛恵、年吉聡太)
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