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Tuesday: Asia Explosion
爆発するアジア
血縁と地縁の色濃い地にも、パンデミックとグローバル経済の波は訪れます。その豪華絢爛さで知られるインドの結婚式に起きた変化とは。英語版(参考)はこちら。
星回りにはじまり、暑さや湿度、あるいは長老のきまぐれまで。インドの結婚式には、さまざまな調整がつきものです。
インドでロックダウンが始まったのは3月。その時点では、結婚式のハイシーズンは終わりかけていて、パンデミックも一時的なものと思われていました。ゆえに3〜6月の変化──マスクやソーシャルディスタンス、ゲストを減らし、オンラインストリーミングを活用した挙式──は“今だけ”だと思われていましたが、これからはそれこそがメインストリームになりそうです。
招待客数わずか100人、というニューノーマルな結婚式は、多くのカップルにとって想像すらできないものでしたが、祝福のかたちは、確かに変化しているのです。
smaller guest list
呼ぶ/呼ばない問題
「わたしはこぢんまりとした結婚式を望んでいましたが、婚約者とわたしの両親は決して賛同してくれなかったんです」
ムンバイに本社を置く金融サービス会社に勤める31歳のコンサルタント、アヌクリティ・シンは笑います。「100人規模のゲストリストなんて、口にしただけでスキャンダルでしたよ」
彼女とその婚約者ヴィニャーク・カルラは、当初4月14日に予定していた結婚式の日程を11月21日に延期しました。
「両親は、パンデミックが流行している事実を理解し、政府によるイベントに対する規制を考慮に入れてはじめて、折れてくれました」と、彼女は言います。
経済的な先行きが不透明で、控えめに言っても“苦痛”の多いこの時勢において、挙式費用のうち15ラークルピー(約210万円)を節約できたのは「せめてもの明るい兆し」だったとシンは言います。「正直言って、この厳しい状況における最良の結果でした」
インドの中流階級家族の多くは、我が子の結婚式のために多額の借金をします。また、式は多くの場合、数日にわたって執り行われるのが常でした。少なくともヒンドゥー教信徒においては、500人の出席者を集める結婚式がほぼ当たり前で、家族の人数が多いほど、あるいはインドの悪名高いカースト制において社会的地位が高いほど、出席者リストは長大なものになります。
少人数での挙式は、ウェディング業界が自らをいかに変革できるかにかかっているといえるでしょう。
wedding venues will change
会場探しは信頼から
インドにおけるウェディング産業の変化に大きな影響を与えるものとして、まず、カップルがどのような会場を選ぶかが問われます。
パンデミックの勢い止まらぬ現状において、インドの星付きホテルにおいては、安全対策についての信頼が高く、11〜12月のウェディングシーズンに向けて需要が急増しています。
Roseate Hotels & ResortsのCEO、クシュ・カプーアによると、同ホテルのボールルームは「11月の繁忙期のうち17~18日はほぼ満室状態」。これは主に過去のキャンセル分の再予約によるものですが、デリーのホテルでは、小規模な会場も結婚式の予約でいっぱいだと、カプール氏は言います。
「ホテル内のレストランは、これまでちょっとした高級な集まりに使用されてはいましたが、現在は小規模なウェディングイベント用に予約が入っています。屋上のプールサイドのエリアも予約が殺到しています」「パンデミック以前は、これらの会場を結婚式のためにと積極的にプッシュしてはいませんでした。しかし、今ではゲストリストが少なくなったため、スペースをより効率的に利用する機会が増えました」
ベンガルールのザ・リッツ・カールトンは、小規模挙式のための特別なパッケージを用意しています。例えば50人規模のレセプションのパッケージ価格は、1ラクールルピー、プラス税(ビュッフェ、新郎新婦のための無料スイート、家族のための部屋の使用、お茶&コーヒーのサービスつき)。こうした50人向けパッケージでは、挙式全体の費用をCOVID-19以前の10分の1に抑えられるようです。
いずれのホテルも、安全性と衛生面には力を入れています。手の触れる共用部すべてを常時消毒し、スタッフ・ゲストの体温チェックを欠かさず、距離を保つための十分なスペースを確保しています。安全性を保証しようという努力は、催事の際の心理的なハードルを下げるのに役立ったようです。「年末のイベント開催状況は、非常にヘルシーなようです」と、ザ・リッツ・カールトン(ベンガルール)のマーケティング担当ディレクター、ウパスナ・マダンは言います。
それに伴い、式場からなくなったものもあります。壮大な玉座のようなステージです。「小規模な結婚式の方がより洗練されている印象を与えるほか、施される装飾もより個性的なものになっているようです」と、Roseateのカプール氏は言います。従来のビュッフェ形式の食事も、座っての食事か、あるいはホテルのスタッフがサーブするカウンター形式に変更されるでしょう。
式場の次に大きな出費となるのはジュエリーですが、これもまた、ムダを廃するように変わってきているようです。
Wedding glitters
誓いのジュエリー
インド人のゴールドジュエリーへの深い愛は広く知られているところです。金は、彼らの伝統的な美意識と投資とを一石二鳥で達成させてくれるからです。
2020年は、金の価格が過去最高の高値を記録しています。加えて、景気が低迷し、結婚式の規模が小さくなっていることもあって、インド人の結婚式における金の購入態度は変わってきています。
「個人顧客のジュエリー購入は、間違いなくパンデミックの影響を受けました。ロックダウンが与えた影響は、すぐに表れました」と語るのは、全国に宝石ショールームを展開するリライアンス・ジュエルズのCEO、スニル・ナヤクです。彼によると、実店舗の再開以来、金への支出は増加していますが、ウェディングジュエリーのトレンドは変化に直面してといいます。
「これからのウェディングシーズンに向けて人気を集めているのは、軽量で機能的なジュエリーです。多くが普段使いできるものです」と、ナヤク氏は説明します。
その認識は、伝統的な工芸品を扱う老舗の宝石商にも共通しています。「花嫁が今重視しているのは、量よりも質。結婚式の日だけに身に着けるようなものは選ばれません」。ジャイプールに拠点を置くオーダーメイドジュエリーブランド「Raniwala 1881」の共同創設者であるアビシャク・ラニワラは、そう語ります(同ブランドのデイリーウェアのラインには、ミレニアル世代の女性からの注文も大幅に増加しているようです)。
また、こうした傾向を“小規模で限定的なゲストリスト”は後押ししています。
「そこには親戚縁者や家族の長老たちからのプレッシャーがありません」。12月3日に挙式を控えている学校教師のアアシマ・グプタは言います。「今の私には、“財務上の決定”において、平時とは比べものにならないほどの決定権があります。いくら使うか、どのような宝石を買うか。あるいはそれを一握りの人に贈るのか、家族全員に贈るかを決められるのです」と、彼女は言います。
しかし、この変化が永遠に続くかというと、業界関係者は懐疑的です。
Smaller weddings are just a phase
変化は「今だけ」
「ウェディング業界は変わるのか? 正直言って、大きく変わることはないでしょう。人々は同額のお金を投じる別の新しい方法を見つけるだけです」と、ウェディングプラン・アプリ「WedMeGood」の共同創設者、ミハク・サガーは言います。
サガー氏が注目しているトレンドは、ある種の矛盾を孕んでいます。「私が見てきたのは、2種類の人間です。一方は、ルールを厳格に守り責任感をもっている人たちで、彼らは少人数のゲストリストを歓迎しています」
彼女は、こう続けます。「もう一方は、すでに回避策を見つけています。彼らはすべての親戚を収容しようと、異なる会場にそれぞれ100人単位のゲストを招待しているのです」
結婚式の招待状が届かないことに激怒する親族の姿は、インドの婚礼における恒例行事です。また、自分の結婚式をボリウッドのような盛大な行事にしたいという願望も、衰えてはいないようです。ヒンドゥー教の婚儀では婚約の際に、家族が衣類やお菓子、宝石などの贈り物を交換しますが、豪華さを好む人びとは今、その縮小版として、物理的な結婚式に出席できなかった人たちに精巧なギフトボックスを送っているようです。
「多くの人が、服や化粧、写真撮影、装飾に多額のお金を費やしています」とサガー氏は説明しています。ただし、それでも挙式イベント自体が少なくなり、ゲストリストが縮小しているため、総額では約40%安くなっているとも言います。
インドにおける結婚式は、想像してあまりあるほどのシリアスなビジネスです。ハイシーズンが訪れれば、その熱はぶり返すことになるでしょう。「私たちのプラットフォーム上での結婚式場の問い合わせは、流行前と比べて3倍に増えています」と、サガー氏は言います。
そう、インドの結婚式を止めることはできないのです。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- インバウンドは諦めた…。地元の小売販売の生命線である中国本土からの観光客の姿が消えた香港の商業施設のオーナーは、生き残りをかけ動いています。ターゲットを地元客に変え、施設の空きスペースをフードコートに改装。ジャーディンハウスの人気レストラン「Grappa’s Cellar」は閉店し、フロアは8つのレストランとバー2軒が並ぶフードコートになりました。
- キャッシュレス決済は「習慣」に。インドネシアで非接触型カードを使っている消費者はわずか34%に止まる(シンガポールは84%)ものの、この1年で状況は変わりそうです。Visaのレポートによると、今後12カ月でキャッシュレス決済を利用する消費者は73%増えるとみられています。キャッシュレス決済に移行した消費者の62%は現金支払いに戻ることはなく、「この習慣は続く可能性が高い」とアナリストは語ります。
- PaytmはGoogleに嫌がらせを受けた。インドで最も価値の高いユニコーンであるPaytmは、Googleに対して非難の声を上げています。9月18日、Paytmは「ポリシー違反の繰り返し」によりPlayストアから一時的に削除され、その後数時間で復旧しましたが、Paytmは声明で、Googleがインドでの支配力を示すため圧力をかけたと示唆しています。
- 中国で今辛い仕事。中国は、国内の大循環を主体とし、内需と革新が相互に促進するという「二重循環」戦略を掲げていますが、この政策立案は厳しい仕事です。中国は不況から回復しつつも、米国の敵意と世界的なパンデミックによって外部リスクが増大するなか、この先数年の安定した拡大を維持するのは難しいとアナリストが指摘。9月19日には習近平国家主席が“冷静さ”を保つよう呼びかけました。
(翻訳・編集:鳥山愛恵、年吉聡太)
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