Millennials:エドテックが生む安心と、格差

Thursday: MILLENNIALS NOW

ミレニアルズの今

今日のテーマは、子どもをもつミレニアル世代の肩にのしかかる、パンデミック下での教育。今、米国で新しい教育スタイルのトレンドになりつつある「ポッド」を活用した学び方を追います。

Image for article titled Millennials:エドテックが生む安心と、格差

3月に米国でコロナウイルスが流行した後、多くの学校で物理的な対面授業が中止されました。秋学期を迎えた今、アプローチは一貫してはいません。対面授業を再開する学校もある一方で、遠隔ですべての授業を行う学校もあり、多くの学校では対面授業とバーチャル学習のハイブリッドを導入しています

CNNによると、米国の大多数の州では、学校再開の決定を学区や地元の保健当局に委ねているといいます。フロリダ州、テキサス州、アーカンソー州、アイオワ州などでは、学校にパートタイムまたはフルタイムの対面授業を再開。しかし、すでに陽性例を確認した後に一時的に学校を閉鎖したところもあります。

Image for article titled Millennials:エドテックが生む安心と、格差

パンデミックはまた、子どもをもつ親の「教育」との向き合い方も大きく変えました。

とくに、仕事に追われながら働く親たちは、遠隔授業が始まったなかで育児、子どもの学校教育をどのように両立するのか、考えるようになっています。

彼らの多くがフルタイムの仕事を続けながら、新しいホームスクールのプログラムを子どもに与えることで両立をはかっていますが、成功の度合いはさまざまです。というのも、ミレニアル世代で小さい子どもをもつ親の半数が在宅で仕事をしており、子どもの大半も遠隔授業になっているので、家族には新たな負担が生じているからです。

Image for article titled Millennials:エドテックが生む安心と、格差

Motherlyの調査によると、米国の24~39歳の母親の74%が、パンデミックが始まって以来、精神的な健康状態が悪化していると感じており、フルタイムで働く母親の30%が、ストレスの主な原因は育児にあると答えています。さらに、YPulseのデータによると、ミレニアル世代の親は、コロナウイルスが原因で不安を感じているという割合がほかの世代よりも多くなっています。

こういった子どもの教育と親が新たに感じる負担を少しでも軽減させるため、米国では今、社会的・教育的な理由から子どもたちの小グループを集めた「パンデミック・ポッド」がトレンドになっています。

Pandemic Pods

ポッドの誕生

パンデミック・ポッド(ポッド教育)は、パンデミックによって主に遠隔授業になった子どもたちに対し、社会性をキープするためにも何らかのかたちでの対面指導を提供したいオンラインだと難しい面が多いため)と考えている親たちが、地下室やガレージ、居間をミニスクールをつくったことから生まれました。

FacebookグループやNextdoor(地域コミュニティに特化したSNS)、Twitterで呼びかけて教師をプライベートで雇っている家庭もあれば、近所の家族同士で集まって実践している場合もあります。『Fast Company』によると、ほとんどの家庭では通常の学校に登録しながら、ポッドをサプリメントとして使用することを計画しているといいます。

Image for article titled Millennials:エドテックが生む安心と、格差

また、単に育児の問題を解決したいと考えている働く親たちにとっても需要があり、とくに母親が仕事を続けられるようにするために、ポッドが役立つという期待も。7月に失業したミレニアル世代の母親の約3人に1人が、育児ができなかったり、学校に通っていない子どもの世話をしなければならなかったりしたことが原因だと報告されています

ポッドは教育業界でも大きなトピックになり、関連するエドテック・スタートアップもさまざま進出しています(9月21日にお届けしたニュースレター「キッズテックは家庭を救う」はこちら)。

Swing Education(スウィング・エデュケーション)は、もともと、代理教師を学校に派遣するビジネスを行っていましたが、このパンデミックで「Bubbles(バブルズ)」というラーニング・ポッドに教師を派遣しています。

家族と教師をマッチングさせたり、家族に代わってポッドを企画したりするサービスも登場。7月上旬には、専門の教師や家庭教師と家族をつなぐウェブサイト「Selected For Families」がローンチしました。同サイトの運営会社によると、登録フォームに記入した最初の60家族のうち、46%が学習ポッドを代行して問い合わせをしたと言います。SchoolHouse(スクールハウス)も同様のサービスを提供しています。

Wealthy Pods

ポッドと裕福さ

一方で、パンデミック・ポッドは物議を醸してもいます。多くの裕福な家庭が、その豪華な裏庭やプライベートプールをひけらかし、優秀で高額な教師を雇うことで、その権力を誇示しているというのです。

たとえば、「Learning Pods(ラーニング・ポッド)」は、ニューヨークのポートフォリオ・スクール、ハドソン・ラボ・スクール、サンフランシスコ拠点のレッド・ブリッジ・スクールと提携して、プライベート教育を提供したり、生徒の現在の学校のカリキュラムに合わせたコンテンツを提供しています

同社が提供する小学校のラーニング・ポッド(小学1年生から5年生まで)の費用は、5カ月間で6万8,750ドル(約725万円)。3人のポッドの場合、生徒1人あたりの費用は2万3,000ドル(約240万円)弱になります。1年で、1つのポッドにつき12万5,000ドル(約1,320万円)、または3人のグループでは生徒1人につき4万2,000ドル(約442万円)近くかかります。

1時間ごとで計算すると、9人のポッドでは1時間あたり15ドル(約1,580円)。指導は1日5時間、月に平均18日間行われ、9人のポッドの場合、授業料は月に1,389ドル(約14万6,000円)かかる計算になります。

The New York Times』では、「(パンデミック・ポッドは)特権階級の家族のあいだで最も人気がある可能性が高く、教育上の不平等を悪化させる可能性がある」とする専門家の談話を紹介しています

さらに、ポッドという“追加オプション”による学習格差に対する懸念も否定できません。一部の子どもたちは恵まれない同級生よりも多くのことを学び、低所得者や有色人種の生徒を支援するような組織は引き離されます。また、こういったポッドでは公立学校の教師や放課後プログラム、非営利団体の訓練を受けたスタッフを雇用することで、最も必要とされている地域社会のリソースを奪っていると、『USA TODAY』は述べています

MORE OPTIONS

試したいポッド

とはいえ、ポッドはもちろん、富裕層だけのものではありません。誰もが手を伸ばしてみたいサービスはさまざまあります。助けは必要だけれど教師を雇う余裕がないという親は、ナニーを雇うことで解決する場合もあります。

たとえば、ニュージャージー州マディソンに拠点を置く「Nicole’s Nannies(ニコールズ・ナニー)」によると、3人の子どもの場合は1時間に約30ドル(約3,160円)、5人の場合は最大50ドル(約5,300円)。同社はまた、ラーニング・ポッドにマッチする教師も雇っているといいます。

Image for article titled Millennials:エドテックが生む安心と、格差

SitterStream(シッターストリーム)」は、月額19.99ドル(約2,110円)の会員制プランがあるオンラインベビーシッターサービス。同社では、オンライン家庭教師も展開していて、セッションは30分、60分、または90分で、1対1になることもあれば、最大4人の子どもを含むこともあるといいます。価格は、毎月のメンバーシップに加えて、25ドル(約2,650円)から 65ドル(約6,850円)ほどです。

CareVillage(ケアヴィレッジ)」はもともと、パンデミックによって育児が難しくなった親を支援するためにスタートしました。現在では、ナニーの費用を共有することができる家族とつながったり、オムツの大量購入の費用を共有したり、マイクロスクールを開始するための費用をも共有することができます。

Image for article titled Millennials:エドテックが生む安心と、格差

スペースや経済的な余裕がない人のための選択肢としては、サンフランシスコに拠点を置くオンライン・クラスのマーケットプレイスである「Outschool(アウトスクール)」が提供するようなヴァーチャル・ポッドも。

Outschoolのクラスは、3歳から18歳までを対象にしていて、対面式のポッドのサプリメントの一部としても利用されています。価格は、1時間の1回限りのクラスで10ドル(約1,055円)から。10週間から15週間、週3回開催される1学期の集中コースでは「数百ドル」になると、同社のCEOであるアミール・ナトゥーは述べています

フィラデルフィアを拠点とする「Pupil Pod(パピル・ポッド)」は、ヴァーチャルか対面で選べるサービスを提供。料金は1時間あたりのポッドごとの料金で、1人あたり1時間17ドル(約1,800円)からで、認定の教師やナニーも雇っています。

教育投資家で元教師のマイケル・スタトンは、Learn Capitalのパートナーでもあり、親同士や第三者のリソースを無料で結びつけようとしています。彼のサイトPandemicPods.orgは、Facebook上の地元の親グループを通じて人気を博しており、DIYのアプローチを取り、コストを最小限に抑えたいと考えている家庭をターゲットにしています。

Fast Company』によると、スタトンは、エドテック・スタートアップ界隈で築いた関係を利用して、STEM教育からヨガまで、パンデミック・ポッドのパートナーと多数組んでいます。また、寄付や助成金を通じて低所得者層の家庭を支援するための基盤を整えています。

たとえば、フィンテック企業であるBraid(保護者がグループの銀行口座を作成して、ポッドの費用に関連する支払いと予算を管理できるプラットフォーム)は、資金を申請したポッド間で助成金を自動的に分配し、そのお金が適切に使われるようにすることができるといいます。

WHO KNOWS?

認知度の低さと不安

とはいえ、パンデミック・ポッドの認知度はまだ低いようです。

EdWeekが実施した教師、校長、地区リーダーを対象とした最近の調査では、36%が調査自体を通じて学習ポッドの存在を初めて知ったと答えています。この秋にポッドへの参加を計画している保護者と交流があったのはわずか8%でした。一方で、カリフォルニア州のオークランドユニファイド(Oakland Unified)など、一部の学区では、保護者がポッドに参加するのを積極的に阻止しています。

ポッド反対派が声を上げる背景には、先述した学習格差があります。

「最高のコネとお金を持っている人たちは、質の良い教師を独占し、利用することができる」と、ベンチャー支援の学校建設プラットフォーム「Wonderschool」の最高経営責任者であるクリス・ベネットはBloomberg TVに対して語っています。「私の懸念は、この格差が、子どもたちの世代を後退させることになるということです」

Swing EducationのCEOであるマイク・テンは「私が見ているほとんどの親のメンタリティは、自分の子どもをほかの人から遠ざけるというよりも、生き残りをかけたものです」と話しています

Image for article titled Millennials:エドテックが生む安心と、格差

ポッドは小さなグループのコミュニティでもあるからこそ、一部の人にとり孤独を和らげると同時に、自分の“バブル”と呼べるものがない人にとっては、疎外感を感じやすく、仲間外れだと感じる可能性もあるでしょう。

充実した教育が家で受けられるというメリットがある一方、ポッドをもつことができない(招かれない)家庭の疎外感や金銭的な問題が生み出すもうひとつの格差問題に、目を向けていく必要もありそうです。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. 2021年はオンラインで。サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)は、2021年度のイベントをオンラインで開催すると発表しました。SXSWオンラインは、2021年3月16日から3月20日まで開催。バーチャルイベントでは、映画上映、キーノートスピーチ、カンファレンスなどが予定されています。また、SXSW EDUオンラインは3月9日から3月11日まで開催されます。
  2. Amazonが「Prime Bike」をスタート。Amazonは、Pelotonに対抗すべく、新しいエクササイズバイク「EX-Prime Smart Connect Bike」の販売を開始しました。価格は、499ドルでPelotonに比べると格安。Amazonプライム契約者のみが利用できるもので、Echelon Fitness(エシェロン・フィットネス)との提携し、フィットネスやサイクリングクラスを月額料金でストリーミング配信するアプリと連携しています。
  3. カナダでもImpossible Foodsのメニューが食べられるように。代替肉を販売するImpossible Foodsがカナダのファストフードフランチャイズを買収し、北米での展開を開始しました。同社は、アジア以外で初の進出となるカナダが、米国に次ぐ大きな市場になる可能性があると予想しています
  4. 歴史に残る重大な事件は忘れられ始めた? 全50州から18歳から39歳までのミレニアル世代とZ世代の1,000人を対象に行われた調査では、10人に1人以上の若い米国人が、「ホロコースト」について聞いたことがないことが分かりました。そのうち、ホロコーストは起こらなかったと思っている人や、その言葉を聞いたこともない人もたくさんいるといいます。

💌 ニュースレターの転送はどうぞご自由に(転送された方へ! 登録はこちらからどうぞ)。

👇 のボタンでニュースレターをTwitter、Facebookでシェアできます。Quartz JapanのTwitterFacebookでも最新ニュースをお届けしています。

🎧 Quartz JapanのPodcast、ミュージシャンの世武裕子さんをゲストに迎えた最新エピソードをお楽しみください。