Startup:iPhone生みの親の「スマホ奴隷」解放運動、始動

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Monday: Next Startups

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。

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Image: APPLE

iPhone初代モデルの登場から13年。スマホなしの生活は考えられないほどの利便性をもたらしました。

しかし、そこから生まれる社会的害悪はもはや目をそらせるレベルを超えています。「スマホの中毒性は意図してつくられたものだ」と、iPhoneのデザインをした張本人が声を上げるほどです。

この状況に、ある2人の元Apple幹部が、人とデバイスとの関係改善に乗り出しました。

今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、「人間をスマホの奴隷から解放する」iPhoneキラーとなるデバイスを開発する、Humaneを取り上げます。

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Image: COURTESY OF HUMANE

Humane
・創業:2017年
・創業者:Imran Chaudhri、Bethany Bongiorno
・調達額:3,000万ドル(約32億円)
・事業内容:次世代モバイルデバイスの開発

SMARTPHONE ADDICTION

意図された「中毒」

人が1日でソーシャルメディアに費やす時間は平均144分。平均寿命72歳で考えると6年8カ月がSNSに充てられていることになり、一生のうちで食事や買い物よりも長い時間をSNSに費やしていることになります。

大きな転換点となったのは、2007年のiPhoneの登場でしょう。多くの人にテクノロジーの恩恵を与え、「iPhoneの魔法」ともいえる感動を巻き起こし、デジタル世界への入り口となりました。それから13年、Appleは名声と権力を欲しいままにする一方、負の側面も明らかになりました。

代表的なのが「スマホ中毒」です。2019年の時点で若者の4分の1にこの傾向があるとされています。ギャンブルやアルコールの依存症に似た中毒性があり、SNSへの接続が途絶えるとパニックや動揺、憂うつを感じメンタルヘルスに深刻な結果をもたらす、と専門家は指摘します。

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Image: REUTERS/MATHIEU BELANGER

ピッツバーグ大学医学部の研究チームは、SNSの利用頻度が高ければ高いほど、うつ病になりやすいと報告しています。「通知疲れ」など、スマホに妨害され続ける毎日に、人は溢れすぎた情報の奴隷と化しています。

THE BIG CONFLICT

「産みの親」の葛藤

この問題の解決に、元Appleの上級幹部2人が立ちあがりました。

デザインチームのディレクターだったイムラン・チャウドリ(Imran Chaudhri)と、ソフトウェアエンジニアリングのディレクターだった妻のベサニー・ボンジョルノ(Bethany Bongiorno)です。

誰もが虜になる、滑らかで美しいあのユーザー体験をつくりあげた張本人が、「身近で、自然で、人間的な」未来のデバイスをつくるべく創業した会社が、Humaneです。

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Image: IMRAN CHAUDHRI & BETHANY BONGIORNO, COURTESY OF HUMANE

チャウドリの個人サイトに並ぶ1,000個の数字。これは全て彼がApple時代に取得した特許です。

1995年にインターンとして入社し、以後20年にわたり、初期iPhoneを含むあらゆるApple製品のユーザー体験を生み出してきたチャウドリ。「iPhoneのボタンはひとつ」とスティーブ・ジョブズに進言したのもチャウドリで、Samsungとの訴訟でAppleが勝訴したのも彼の特許によるものでした。

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Image: COURTESY OF IMRANCHAUDHRI.COM

妻のボンジョルノはiOSやMacOSなどソフトウェア開発を統括する、文字通りエンジニアチームのトップに君臨した女性です。

Appleでの経験を「ユーザーを他の関心から引き離し、没頭させることが全てに優先された」と、チャウドリは葛藤を語ります。製品開発で重視されるのは、人々の「アテンションスパン(関心持続時間)の最大化」。個人情報を吸い上げながら人々の時間を独占する姿勢に「ユーザーに自由を戻すべきだ」と進言するも、マーケティング部門から「クールじゃない」と突き返されたそうです。

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2人は2017年にアップルを去ってHumaneを立ち上げたものの、その活動はつい最近まで謎に包まれていました。ところが先月末、3,000万ドル(約32億円)の資金調達が発表され、同時にHumaneについての神秘的な全貌が、少しずつ明らかになり始めたのです。

出資に応じたのは、元Y Combinatorヘッドでエンジェル投資家のサム・アルトマン(Sam Altman)と、Stripeなどへの投資で知られる大物エンジェルのラッキー・グルーム(Lachy Groom)の2人の“個人”です。売上ゼロ、顧客ゼロ、製品なし、ハードウェア、コロナ禍という状況にもかかわらず、わずか10日間で資金が集まりました。

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Image: SAM ALTMAN, REUTERS/LUCY NICHOLSON

元Appleのドリームチームが塗り替える新たなコンピューティングプラットフォーム、それがもたらす社会へのインパクトに、出資を即決した」と、サム・アルトマンは期待を寄せています。

PARTIALLY REVEALED

iPhoneキラーの全貌

では、このHumaneがつくろうとしているのは、一体どんなプロダクトなのか。依然として謎だらけですが、ここでは、漏れ伝えられる情報を基に推察してみましょう。

下記はTwitterに投稿されたリーク情報に貼られていた画像です(Twitterの該当投稿は削除済み)。この他、Humaneはすでにいくつか特許を取得しており、その内容をもとに推測することができます。

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Image: VIA YOUTUBE/THIS WEEK IN STARTUPS

Humaneのコアとなるハードウェアは、人が胸の部分に付ける小型のウェアラブルカメラとAirPodsのようなイヤホンではないかといわれています。

入力インターフェイスには、音声に加えて「手を振ったらスイッチを切る」などジェスチャー入力も噂されます。出力のありうる姿としては、音声に加えて、超小型のプロジェクターも。スマホの画面の代わりに、レーザー光源でカメラから手の平に投影されます。また簡易なメガネ型デバイスでの、3Dホログラム表示の可能性もあります。

カメラは、外部環境を撮影し続けるためのもの。クラウドに保存された記録から、あとで残したいシーンを保存することができます。

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Image: JASON CALACANIS, VIA YOUTUBE/THIS WEEK IN STARTUPS

カメラとGPSと深度センサーで、自分が今どこにいて何を見ているのかが正確に把握して、自然な行動支援を目と耳で行ってくれます。「パッシブプロセシング」と言われる、人とデバイスとの関係性を再構築するHumaneの真骨頂です。

例を挙げてみましょう。例えばルーブル美術館にモナリザを見に行くとします。音声でUberを呼ぶと迎えに来ますが、現在地は手の平に照射されたマップで確認。ルーブルに着けば画像とGPSに従って、音声で正確にモナリザの場所にまで案内してくれます。モナリザの前に立ってメガネを装着すると、3Dホログラムによる解説動画が始まります──。

まだ憶測の域を出ませんが、最大のヒントは、Humaneのウェブサイトのトップページにあります。ひとり前を向く人がハイライトされ、視界を奪わないデバイスであることを示唆しています。

CHALLENGE AND EXPECTATIONS

課題と期待

Humaneへの期待は膨らむ反面、大きな課題も考えられます。

最大の懸念はプライバシーです。カメラで撮られ続けることに対する周囲の憂慮をどうクリアするかは不明です。胸にぶら下げて撮り続けるライフログカメラで話題になったスタートアップも閉鎖に追い込まれました。街中を歩いている人が皆、胸にカメラをつけている光景は、確かに異様に映ります。

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Image: COURTESY OF HUMANE

また、2015年に「Androidの父」アンディ・ルービン(Andy Rubin)が立ち上げたEssentialも、3億3,000万ドル(350億円)もの資金を調達しながら、販売不振で今年2月、閉鎖に追い込まれました。また、プロダクトローンチ前にデモ動画が話題を呼び、35億ドル(3,800億円)と桁違いの資金を得たMixed Reality(MR)のMagic Leapも苦境にあえいでいます。

とはいえ、このところのスマホの進化はカメラ性能の追求ばかりで停滞感が漂うのも事実です。

Humaneが目指す人間社会とコンピュータの関係性の再構築は、HMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)と呼ばれる一大トレンドです。来年の後半には明らかになるそのデバイスについて、「あとで振り返ってはじめて、こういうことかと分かる」と、出資者のひとりであるグルーム氏は評しています。わたしたちが「スマホの奴隷」から解放されるその日を、心待ちにせずにはいられません。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. マンハッタンの家賃ダダ下がり。新型コロナウイルスはマンハッタンに住むというステータスをも崩しにかかっています。不動産仲介会社Douglas Ellimanがまとめたレポートによると、アパートの空室率は5カ月連続で上昇。家賃の中央値は11%下がり3,036ドル(約32万円)。特にワンルームタイプの価格下落が激しく、17%ダウンして中央値は2,814ドル(約30万円)。2013年7月以来の値下がりです。
  2. フォートナイトはApp Storeに戻れない。人気ゲーム「Fortnite(フォートナイト)」のApp Storeでの課金ポリシーを発端に、Epic GamesがAppleを訴えた独占禁止法違反訴訟の判決を前に、連邦裁判所は、EpicのFortniteをApp Storeで復活させる要請を退けました。年内のApp Storeでの再配信は難しいとみられます。
  3. 訴訟を起こした元Pinterest幹部が振り返る。今年4月にPinterestを解雇された元COOのフランソワーズ・ブロウアー(Francoise Brougher)は「わたしに起こった出来事について説明責任を負わってもらいたい」と、8月に起こした訴訟についてコメント。2年の在籍期間中にPinterestの収益を5億ドルから11億ドルに増やし、20カ国に展開エリアを広げたにもかかわらず、業績に関する評価は一切されなかったと言います。同社に浸透しているミソジニーについて発言したことが真の解雇の理由だと主張しています。ユーザーの7割が女性で、“理想”のイメージが溢れる同サービスですが、皮肉にも内情は正反対のようです。
  4. パンデミック経済の勝ち組が動く。クラウド企業のTwilioが、顧客データプラットフォームを手がけるSegmentの買収に合意したと噂されています。時価総額は450億ドル(約4兆7,500億円)を超えるとされるTwilioは、パンデミック経済の「勝ち組」。自社のAPIを基に開発した、ビデオなどのさまざまなコミュニケーション手段をアプリケーションやビジネスへ組み込める独自のオンラインイベントプラットフォームが好評で、潤沢な資金を抱えています。今回のSegment買収額は32億ドル(約3,400億円)と報じられています。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)


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