Thursday: MILLENNIALS NOW
ミレニアルズの今
Z世代やミレニアル世代から絶大な支持を集めて拡大するポッドキャスト。その業界を変える「ゲームチェンジャー」と目されるのが、Spotify(スポティファイ)です。今年に入ってからもシェア、市場価値ともに大きく伸ばしている同社の戦略とは? 英語版はこちら(参考)。
日本でも成長し始めているポッドキャスト業界。米国では、COVID-19の影響で通勤する人が減少しますが、ポッドキャストの勢いは止まりません。
ポッドキャスト分析会社Chartableのデータによると、米国でのポッドキャストのダウンロード数は2020年に入って急増していることが分かっています。
ON A ROLL
絶好調な「音」
Chartableのデータは1万2,000本のポッドキャストを追跡したものですが、それによると、9月第3週の米国リスナーによるダウンロード総数は、2020年1月の第1週と比較して150%以上増加しています。
新型コロナウイルスの大流行がなければ、この伸びはもっと大きかったかもしれません。ポッドキャストの聴取率は年初に急速に伸びており、通勤時間帯が人気の時間帯となっていました。3月下旬の「ステイホーム」の影響により伸びは鈍化しましたが、それもほんの少しのあいだでした。
ChartableのCEO、デイブ・ゾーロブ(Dave Zohrob)は、ウイルスの影響で当初は伸びが鈍化したもののリスナーはすぐに戻ってきたと考えており、データもまた、4月下旬にはポッドキャストのリスナーがコロナウイルス以前に近いレベルで拡大し始めたことを示しています。
ゾーロブは、この時期にポッドキャストが優位になった理由として、新型コロナウイルスの影響で映画やテレビの制作が中止を余儀なくされた一方で、手軽なポッドキャストは新しいコンテンツをつくることができたと考えています。
「他のメディア、例えばビデオを使ったものなどの制作はかなり難しく、コストがかかるようになっていたこの時勢に、人々はポッドキャストに引き寄せられていました」と、ゾーロブは『Quartz』に語っています。
人々がポッドキャストで聴くジャンルも、新型コロナウイルスは大きく変えたようです。別のポッドキャストデータ分析会社で、ポッドキャストのダウンロードをジャンル別に追跡しているPodtracの調査によると、2019年10月から2020年10月までのあいだに、米国のリスナーによるダウンロード総数は42%増加していますが、注目すべきは、ジャンル間でダウンロード数に大きな隔たりがあったことです。
とくに、ニュース番組の人気が爆発的に上昇。『The New York Times』の「The Daily」や『Vox』の「Today, Explained」のような番組は、ウイルスとその影響を理解しようとしている人たちが多く興味をもつようになり、ダウンロード数に大きな伸びが見られました。
GROWING UP
Spotifyが勢いを伸ばす
ポッドキャスト業界で今、脚光を浴びているプラットフォームといえば、2008年に設立されたSpotifyでしょう。
Spotifyの企業価値は、今年4月から10月のあいだに230億ドル(約2.4兆円)から470億ドル(約4.9兆円)へと躍進しました。同社は2020年上半期に3億5,500万ユーロ(4億2,000万ドル=約441億円)の損失を報告しましたが、安定した収益とユーザーの増加が続いています。
そしてこの好調の背景には、投資家がSpotifyに対して「ポッドキャストのNetflix」になる可能性をみている期待感があるといえます。
“音楽プラットフォーム”としてのSpotifyには、Apple MusicやYouTube Music、Pandora、Deezerといった競合相手がいます。
現在、音楽ストリーミングプラットフォームの主な差別化要因は、アプリの機能とスピード。Spotifyはこれらの分野ではうまくいっていますが、他サービスが新たに開発した機能が好きだと判断したユーザーが離れてしまうのを止めることはできません。
サプライヤーとの交渉が困難なケースもありえます。SonyやUniversal、Warner Musicなどの音楽レーベルにはいくつもの選択肢がある一方で、Spotifyに選ぶ権利はありません。そしてSpotifyは、レーベルがSpotifyを必要とするよりも、Spotifyがレーベルを必要としているという事実を、理解しているのです。
そこで、Spotifyは今、音楽ではなくポッドキャストを強みに変えようとしています。2019年初め、ポッドキャスト関連企業のThe RingerとGimlet Mediaを買収し、ミシェル・オバマとキム・カーダシアンのポッドキャストの独占契約を結んだほか、DCコミックスの世界をベースにしたポッドキャストを制作する独占権を獲得しています。今年5月には、人気インタビューポッドキャスト「Joe Rogan Experience」の独占権を1億ドル(約105億ドル)で取得し、これまでで最大のヒットを記録。なお、2019年8月、ポッドキャスト配信者向けダッシュボードサービス「Spotify for Podcasters」もリリースしています。
The podcast pivot
Spotifyの強み
Spotify のポッドキャストに重きを置く姿勢は、すでにある程度効果を発揮しています。同社は7月、プラットフォーム上でのポッドキャストの視聴数が前年の2倍になったと報告。そして、独占的なポッドキャストがあれば、Spotifyは差別化されたコンテンツをもつこともできます。つまり、ポッドキャストが好きなユーザーは、Spotifyへの登録をせざるを得なくなるという状況を生み出すのです。
アナリストたちは、ポッドジャストビジネスを拡大しているSpotifyが、音楽レーベルとの関係をより強固なものにする可能性さえあると指摘しています。ポッドキャスト専用ユーザーのシェアが増えれば、レーベルはこれまで以上にSpotifyを欲することになるでしょう。
さらに、Spotifyの強みになっているのが、ポッドキャストを利用して広告を販売できることです。現在、有料会員の加入者は音楽を広告なしで聴くことができますが、ポッドキャストの場合はそうではありません。また、Spotifyでは同じポッドキャストに異なる広告を挿入することができ、人口統計学に基づいたユーザーをターゲティングすることができます(歴史的に見ると、ポッドキャストのリスナー全員に同じ広告が表示されます)。
Spotifyのポッドキャスト戦略は理にかなっているといえますが、この賭けは重大な失敗を招く可能性もあります。Spotifyのポッドキャスト戦略が成功すれば、AppleやGoogle(YouTube Music)のような競合他社がそれをコピーできるようになるはずだからです。
最近、ポッドキャスティングに多額の投資を行うと発表したAmazonは、すでに新たな脅威として立ち上がっています。Netflixと同じく、Spotifyもまた、この分野で最初に大きな動きを進めている企業であることを利用する必要があるでしょう。
FOR YOUNG GENERATION
若者へのアプローチ
Spotifyは今、Z世代やミレニアル世代のユーザー獲得に力を入れている企業のひとつでもあります。
Spotifyが最近発表した、米国の5,000人を対象にした新しい調査と世代別トレンドのレポート「Culture Next」では、Z世代やミレニアル世代に関する興味深い考察が記されています。Spotifyのチーフコンテンツ&広告ビジネスオフィサーであるドーン・オストローム(Dawn Ostrom)が、「荒波に揉まれた2020年前半。この期間、Z世代やミレニアル世代が何年にもわたって形成してきた文化的なトレンドはより明確になり、加速した」と語っているのです。
同レポートによると、米国のZ世代(同レポートでは、15〜25歳)とミレニアル世代(同じく、26〜40歳)の73%が、ストレスや不安に対処するために音声コンテンツを使用していることがわかりました。若者の大多数にとって、“音”は「感情的なもの」で「治療的なもの」であり、「パーソナルなもの」。Z世代の54パーセントがより頻繁にポッドキャストを聴くようになり、4人に1人がメンタルヘルス関連のポッドキャストを聴いていると答えています。
Spotifyは同レポートにおいて、ポッドキャストなどのコンテンツを作成する際、クリエイターやブランドは自分たちのオーディエンスを知る必要があると述べています。
たとえば、現在のところ最も注目されているテーマは、政治に関連するもの。今年1月から8月のあいだに、次期選挙で投票を予定しているというZ世代の割合は65%から72%に増加しています。また、Z世代の71%が政党との提携よりも「前進」を重視しており、若者は政治家よりも政策に関心をもっていることが分かっています。さらに、回答者の83%がBlack Lives Matter運動を「文化的な警鐘」と捉えており、教育のために黒人がホストを務めるポッドキャストを利用したり、黒人のビジネスを支援するためにブラックミュージックのプレイリストを利用したりしていると答えた人もいました。
Z世代とミレニアル世代はまた、異文化とのつながりを大切にしています。これは、業界が現在のようにグローバル化していなかった時代には、ストリーミングサービスを利用する前には実現できなかった概念です。両世代の80%が、音楽ストリーミングサービスは異文化への入り口になると回答。さらに、69%が音楽を通じてコミュニティの感覚を見つけるという考えを支持しています。
こういった調査結果もあるなか、Spotifyは「ポッドキャスト戦争」の勝者になるために若いインフルエンサーを多く起用しています。
ここ数カ月、Spotifyはリッキー・トンプソン(Rickey Thompson)、デンゼル・ディオン(Denzel Dion)、アディソン・レイ(Addison Rae)、レレ・ポンズ(Lele Pons)などのインフルエンサーと契約を締結。若いポッドキャストリスナーを抱えるSpotifyにとって、こういった施策はZ世代のマーケットに直接働きかける戦略を仕掛けているのです。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- 需要が急増した植物由来の人工肉。パンデミックの初期段階では、食品加工施設が一時的に閉鎖されたため、食肉を手に入れるのが難しくなりました。その結果、消費者は代替品に頼るように。その多くは初めての購入者ですが、3月の2週間の植物由来の人工肉の売上は148%増となりました。Nielsenはまた、5月2日までの9週間で、すべての代替肉製品の売上が264%増加したと報告しています。
- 若者の投票率の高さに期待? 『VICE News』とIpsosが実施した若年有権者(18〜30歳)の世論調査によると、米国に対して幻滅していながらも、84%の有権者が11月3日の選挙で投票する予定であることが明らかになりました。なお、そのほとんどが民主党候補のジョー・バイデンを支持しているが、4分の3近くが米国の民主主義自体が崩壊している考えており、国政選挙は必ずしも民意を反映していないと感じているといいます。
- インフルエンサーが2020年代の小売業を担う。2010年代初頭、インフルエンサーがストリートスタイルの写真に登場し、ファッションウィークのフロントロウに座り始めたとき、彼らがエディターの代わりになるのではないかと話題になりました。しかし、2020年になっても、実際にはそうなっていません。ですが、現在、商品を動かし、売上を上げることが、インフルエンサーの最も価値のあるスキルとなっています。
- 今年のハロウィンの衣装をチェック。ハロウィンの仮装は決まりましたか? TikTokでは、若い男性(ゲイ、ストレートなども含めて)が、メイド服を披露しています。ほかにも、女子学生の衣装を着た若い男性や、猫やウサギのバリエーションを着た人もいますが、いわゆる「仮装」ではなく、彼らは美しさを追い求めているようです。
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