New Normal:欧州の未来を握る、米大統領選

New Normal:欧州の未来を握る、米大統領選

Friday: New Normal

新しい「あたりまえ」

毎週金曜日の夕方のニュースレターでは、パンデミックを経た先にある社会のありかたを、主に欧州にフォーカスし、見据えてきました。今回は、来週に迫る米大統領選挙が、欧州の社会や経済にどのように影響するか、専門家に予測を伺いました。

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Image: REUTERS

いよいよ来週に投開票を控えた、米国大統領選挙。共和党候補のドナルド・トランプ現大統領か、民主党候補のジョー・バイデン(オバマ政権時の前副大統領)のどちらが勝利を収めるかにより、国際社会の前途は左右されると言っても過言ではありません。

欧州でも、その今後の明暗を分ける選挙として注目されていますが、とくに、政局においては、民主党が勝利すれば「予測可能」な4年間が、共和党が勝利すれば「予測不能」な4年間が訪れるという意見が見受けられます。

果たして「欧州の未来」の行方はどうなるのでしょうか? 今回は、欧州が抱える6つの問題に焦点をあて、識者が分析するシナリオをお届けします。

  1. 米欧関係
  2. ポピュリズム
  3. 貿易摩擦
  4. 米中欧の三角関係
  5. 英米関係
  6. 安全保障

経済問題においては、世界銀行で経済政策・国際貿易などの前ディレクターを務め、現在ベルギーの有力シンクタンク「Bruegel(ブリュッセル欧州世界経済研究所)」の学者であるウリ・ダドゥッシュ(Uri Dadush)に、政治・社会問題についてはカーネギー国際平和基金で欧州プログラムのディレクターを務めるエリック・ブラットバーグ(Erik Brattberg)に、その予測を伺いました。

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Image: FROM LEFT, URI DADUSH & ERIK BRATTBERG

Scenario #1: The Relationship

険悪な関係は終わるか

──米欧関係にどのような影響を及ぼしますか?(回答者:エリック・ブラットバーグ、以下EB)

  • バイデン勝利の場合 🇺🇸🐎:欧州の政治家たちは皆一斉に、安堵のため息をつくでしょう。トランプが大統領に就任した2016年以降、環大西洋の国々(北米や欧州)の関係は大きく変化しました。バイデンは、少なくとも険悪だった外交の雰囲気を改善させ、欧州と共通の課題に向かって連携していくとみられます。たとえ意見の相違があっても、彼は収束させることができるでしょう。トランプ大統領とは異なり、“予測可能”な外交は、米国への信用の低下を防ぐはずです。
  • トランプ勝利の場合 🇺🇸🐘:環大西洋の国々の関係は、“曇り、もしくは暗い”将来を迎えることになるでしょう。1期目にトランプ大統領は、欧州が米国の指導力に対して抱いていた信頼を傷つけました。彼は、基本的に環大西洋の国々の関係に対し懐疑的です。再選された場合、以前よりも自信を増し、さらに大胆に、堂々と彼の「米国第一主義」の政策を追求するでしょう。そうなると、欧州は今後直面する大きな風波に備えないといけません。また、今後、欧州は米国に依存せず自立する準備をすると同時に、可能な際には連携する必要もあります。

Scenario #2: Populism

欧州の独裁者たちは

──トランプ主義は、欧州の極右ポピュリズムにも影響を及ぼしました。今後、この動向の行方をどう予測しますか?(回答者:EB)

  • バイデン勝利の場合 🇺🇸🐎:トランプ大統領とは異なり、バイデンは欧州のリベラル派との提携を選ぶでしょう。バイデン政権は欧州での取り込み政策として、 「民主主義」と「法の支配」を中心的課題として展開します。これまでEUは、反リベラルの勢いを抑制することができませんでしたが、こうしたバイデン政権の関与は、非常に大きな救いの手となるでしょう。一方で、米国と特別な関係を再構築することを望んでいた英ブレグジット推進派の政治家にとっては、バイデンの勝利は障害になります。
  • トランプ勝利の場合 🇺🇸🐘:EUの統一を支援してきたこれまでの米国大統領とは異なり、トランプ大統領はEUを「敵」と分類しました。さらに1期目には、欧州大陸のポピュリストの政治家との連携や、ブレグジット強硬派の支援もしています。再選すると、同氏は欧州の独裁者との連携を増やし、ハンガリー首相のオルバーン・ヴィクトル(Orbán Viktor)のような権威主義的ポピュリストを勢いづけることに繋がるおそれがあります。

Scenario #3: Trade War

いや増す貿易摩擦

EUによる航空機大手エアバスへの補助金が不当であるとして、米国が世界貿易機関(WTO)に提訴したのが2004年10月。以降、米欧間の紛争は、両者間の貿易に深刻な対立構造ができています。

2019年10月には、米国に年間最大75億ドル(約7,900憶円)の報復関税が認められ、EU製の鉄鋼、ワインやチーズなどに対して関税を上乗せする措置をとっています。一方のEUも、WTOから年間最大40億ドル(約4,200憶円)の米国への報復関税措置が認められています。

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Image: REUTERS

──貿易摩擦の激化が懸念されますが、今後、この動きはどうなりますか?(回答者:ウリ・ダドゥッシュ、以下UD)

  • バイデン勝利の場合 🇺🇸🐎:現行の欧州との貿易の緊張を緩和させる可能性が高いです。バイデンは中国とロシアを阻止するために、欧州との同盟を再構築するでしょう。また、欧州と協力し、WTOリフォームへの取り組みを強化する可能性があります。さらに気候変動問題においても、欧州が構想を打ち出している「国境炭素税」(温暖化ガスの排出量の多い輸出品に課する税)の導入など、欧州と一緒に手を取って取り組んでいくでしょう。
  • トランプ勝利の場合 🇺🇸🐘:現行の貿易の緊張が高まるおそれがあります。たとえば、EUから輸入する自動車などに高関税をかける可能性があります。

──次期大統領の就任は、欧州の株式市場にどのように影響するでしょうか?(回答者:UD)

  • バイデン勝利の場合 🇺🇸🐎:貿易の緊張緩和が予測されるため、欧州の株式市場にとってポジティブとなるでしょう。
  • トランプ勝利の場合 🇺🇸🐘:欧州の輸出型の企業(自動車、鉄鋼、農業食品、機械類、航空機)は、ネガティブな影響を受けることに。欧州の株式市場も、おそらくネガティブな反応を示すでしょう。

Scenario #4: US-EU-China Triangle

米中欧の三角関係

──中国の存在感は、欧州でも高まっています。今後の欧州の対中政策にとって、どんな影響はあるでしょうか?(回答者:EB)

  • バイデン勝利の場合 🇺🇸🐎:バイデン、トランプともに、中国に対する懐疑的な見解を共有していますが、前者が中国に対して打ち出そうとしている政策は、トランプ政権とは異なります。まず、バイデンは新型コロナ対策や気候変動などの世界共通の課題に対し、中国と連携しようとします。これは欧州の中国へのアプローチと合致しています。中国由来の問題に対しては、欧州などと同盟を形成し、協力して取り組んでいくでしょう。
  • トランプ勝利の場合 🇺🇸🐘:トランプ政権は中国を最大の国家安全保障上の問題とみなし、欧州との関係を優先してきました。トランプ大統領が再選された場合、米中間の関係は悪化すると考えられており、米国の対中アプローチは“非現実的”なものになるでしょう。そして欧州の国々は、そのような米国と連携することで中国を敵に回すことについて、必ずしも積極的ではありません。
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Image: REUTERS/YVES HERMAN/POOL/FILE PHOTO

──EUは中国にとって最大の貿易相手、逆に中国はEUにとって米国に次ぐ第2の貿易相手です。次期米国大統領は、EU・中国間の経済関係に影響を及ぼしますか?(回答者:UD)

  • バイデン勝利の場合 🇺🇸🐎:バイデン政権は中国に対し、敵対していたこれまでのスタンスを和らげるでしょう。そのため、EUが中国と米国のあいだで現在直面しているジレンマは、緩和される可能性があります。同時に、世界貿易において中国が主導権を握ることを阻止するために、EUと一緒に連携するとみられます。その際、EUは中国と米国の調停役として建設的な役割を果たすような機会に向かい合うことになるでしょう。
  • トランプ勝利の場合 🇺🇸🐘:EUは、これまで以上に「米国との安全保障・経済における結束」か「中国との経済における結束」のあいだで選択を迫られるでしょう。EUは域内での分裂を考慮し、この2つの世界経済大国を遠ざけないように上手く乗り切ろうとします。

Scenario #5: US-UK Relations

EUか、英国か

REUTERS/Peter Nicholls/Pool
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Image: REUTERS/PETER NICHOLLS/POOL

──英国は今年1月末に正式にEUを離脱、12月末には移行期間が終了します。米国は今後、英国とパートナーシップを強化するのでしょうか? (回答者:UD)

  • バイデン勝利の場合 🇺🇸🐎:バイデンはどちらか一方の味方になることを避け、双方と良好な関係を築こうとするでしょう。最大の難題と言われている北アイルランドの国境問題については、英領・北アイルランドとEU加盟国のアイルランドのあいだに分裂が生じ、再び紛争に陥らないよう、オープンな国境を維持してほしいとの見解をすでに示しています。
  • トランプ勝利の場合 🇺🇸🐘:トランプ政権はEUの代替として、英国と密に連携を進めていくでしょう。

Scenario #6: National Security

欧州の平和を握るのは

安全保障において、トランプ大統領は北大西洋条約機構(NATO)加盟国の国防費の負担の増額などを強く要求してきました。

2019年度のアメリカの国防費の負担額はGDP比3.42%、2018年度の欧州平均国防費はGDP比1.51%。NATOは加盟国の国防費を24年までにGDP比2%超とする目標を掲げています。

今後、米欧の亀裂が広がると、NATOの最大の脅威であるロシアに欧州を脅かす隙を与えることにもなりかねません。

REUTERS/Michaela Rehle/File Photo
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Image: REUTERS/MICHAELA REHLE/FILE PHOTO

──米欧の防衛における協力関係はどうなるのでしょうか?(回答者:EB)

  • バイデン勝利の場合 🇺🇸🐎:バイデンは、その就任初日から最優先事項として、米国のNATOへの確固たる支援に取り組むことになるでしょう。しかし同時に、欧州の加盟国に国防費増額を要求する可能性もあります。バイデン政権は地域の安全保障問題において、より責任をもち、懸命に取り組むでしょう。
  • トランプ勝利の場合 🇺🇸🐘:前米大統領補佐官(国家安全保障担当)のジョン・ボルトンは、トランプ大統領は米国をNATOから完全に脱退させる可能性が大きいと警鐘を鳴らしています。もしそのような大胆な決断をとらなくても、同盟関係の結束を弱めるような言動や政策をさらに繰り広げる可能性があります。こうした動きは、欧州諸国と米国の亀裂を広げる一方で、欧州の米国からの自立や、自主性を高めるでしょう。

This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. 厳しい若者の雇用状況。英シンクタンクResolution Foundationが行った最新の調査によると、英国ではパンデミック期間に一時帰休した18〜24歳までの5人に1人が、結果として仕事を失うことになりました。また、エスニック・マイノリティも大きな打撃を受けていることが分かっています。
  2. 思わぬ指摘。冷蔵庫の中を見るだけで、トランプとバイデンのどちらに投票しているかを推測することは可能? このクイズを出題した『The New York Times』ですが、単に階級主義を彷彿とさせる例でしかないと、読者から非難されています
  3. 夜空は輝く、「ブルームーン」。米国では、今年のハロウィンはCOVID-19の影響で楽しめなくても、46年ぶりに満月が見られるといいます。次回、ハロウィンの満月が見られるのは2039年なるようなので、米国にいる方はお見逃しなく。
  4. イヌは人間にとって最古の“ベストフレンド”。イヌのDNAの研究結果によると、他のどの種よりも早くから家畜化が進んでいて、1万1,000年前までに遡ることが分かりました。植民地時代に欧州でイヌが多く飼われるようになりましたが、もっと前から人間と繋がっていたようです。

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