A Guide to Guides
Guidesのガイド
Quartz読者のみなさん、こんにちは。米国版Quartzの特集〈Field Guides〉から1つをピックアップし、編集者の若林恵さんが解題する週末の連載は、今週、来週と書籍版の制作作業のためお休みです。今週はその代わりに、最新〈Field Guides〉の“Welcome to the splinternet”のサマリーをお届けします。
🤔 Here’s Why
ネット分断、その論点
「Splinternet」とは、“分断”を意味するSplinterとInternetの合成語。日本語訳にするならば「インターネットの分断」とするのがふさわしいでしょう。
経済誌『The Economist』が「2020年の世界」と題した特集で提出したことで注目を集めた、インターネットを巡る地政学を象徴することばです。米中両国において、インターネットはそれぞれ異なる規制下で利用されていますが、将来的には決定的な分断が生まれかねない、まさにその状況を指しています。
もっとも、インターネットの分断は、世界で起きています。5Gネットワークを巡る覇権競争においては米国が目立って中国企業ファーウェイを締め出そうと躍起になっていますが、EU各国も少なからず同調しています。そのEUでは、プライバシー保護への関心が高まるなか独自のネット規制を設けていますし、ロシアやアラブ諸国をはじめ、情報統制のためにインターネットを独立させようとする動きもみられます。そもそもネット普及が進んでいない地域も、いまだ世界には広く存在します。
同じ現象が、「インターネットのバルカン化(cyber-balkanization)」ということばで表現されることもあります。あらゆるモノがインターネットでリンクするといわれたIoT(Internet of Things)など、もはや遠い昔の幻想にしか思えないほど分断された現実に、世界は直面しているのです。
米国版Quartzの〈Field Guides〉、“Welcome to the splinternet”では、以下のように論点が整理されています。より詳細をみていきましょう。
1️⃣ グローバルでオープン。そんなインターネットは、もはや存在しない。
2️⃣ まず、デジタル格差(digital divides)が拡大している。
3️⃣ さらに、地政学的な緊張が“インターネット創成期の夢”をますます損なうことになっている。
4️⃣ しかし、活動家たちは、オープンなインターネットを求め闘っている。
📝 The Details
進む、ルールメイク
1️⃣ グローバルでオープン。そんなインターネットは、もはや存在しない。
インターネットは世界中の多くの人々に、何を“約束”していたのか。それは、「あらゆる人が、高速で情報にアクセスできること」にほかなりません。しかし、ネット創成期に期待されていたそんな理想的な“ひとつのインターネット”などはもはや存在しないことが、明らかになっています。
ネットの分断は加速しています。世界で影響力を増している中国のサイバー主権や、ドナルド・トランプ米大統領がTikTokの売却を仲介しようとしているのは、その好例です。
Quartzでは専門家たちに助力を仰ぎ、5年後、世界のインターネットユーザーがどんな体験をすることになるのか想像してみることにしました。
現在も、ネットの未来を握っているテックジャイアントや為政者、そして人々の間では、「インターネットの自由」のための戦いが繰り広げられています。そんな利害関係を解き明かす方法として、2025年のとあるニュースイベントを想定し、中国テックパワーの台頭に対峙する米国の不安をはじめ、アフリカにおいて何百万人ものオンラインユーザーが生まれることの影響まで、解説を試みました。
2️⃣ まず、デジタル格差(digital divides)が拡大している。
現在、いまだ何億人もの人々がネットに接続できずにいます。ウェブサイトに母国語でアクセスできないというケースも珍しくありません。
一方で、ネットに接続できたとしても、帯域幅の格差によって分断されているユーザーも存在しています。香港の抗議デモとバグダッドの抗議デモを比較すれば、デモにおける警察の残虐行為は、前者の方がはるかによく“記録”されることになるでしょう。
また、インターネットは、かつてない“独占”の時代に直面しています。今や巨大企業がルールメーカーとなり、ユーザーはプラットフォームの中で、その政治的傾向や年齢、趣味などに基づいてまとめられてしまっています。同じサイトを利用していたとしても、人びと同士の距離は、引き離されているのです。
3️⃣ さらに、地政学的な緊張が“インターネット創成期の夢”をますます損なうことになっている。
グローバル企業はもはや「無国籍な国際ネットワーク」であり、「国籍」はますます無意味なものになる。そう危惧している人が、政治経済学者のロバート・ライシュ(Robert Reich)をはじめ、多くいます。しかし、国家間の緊張状態とナショナリズムが世界的に高まるなか、企業の国籍は復活しつつあるというのが、今の認識です。
各国政府は、国内だけでなく、海外のテックサービスに厳しい監視の目を向けています。なぜなら、それらサービスはユーザーデータの宝庫であり、選挙から社会運動に至るまで、あらゆる問題に影響を与える可能性をもっているからです。
地球を離れ、次世代の宇宙インターネットに目を向けると、より自由なコミュニケーションが約束されているかのようにもみえます。しかし、宇宙インターネットを担う衛星のアルゴリズムから国境線を取り除くことはできません。「ナショナリズムが蔓延し、国家間での通信サービス提供に関するルールづくりは、より困難になっています」と、200カ国で企業・政府と提携している大手民間衛星通信プロバイダー、インマルサット(Inmarsat)のCEO、ルパート・ピアース(Rupert Pearce)は説明しています。
4️⃣ しかし、活動家たちは、オープンなインターネットを求め闘っている。
多くのトレンドは、インターネットの分断化が進むことを示唆しています。しかし、世界中では何十もの組織や個人が、「自由で開かれたインターネット」を目指し、闘っています。
世界のAI研究者たちのある取り組みがいい例で、彼らは連携し、インターネットが多様な言語でよりアクセスしやすくなるよう、自然言語処理を進化させようと取り組んでいます。
かたやユーザーも、政府によるコントロールを回避するべく、つねに創造的な方法を見つけています。例えばコミュニケーション手段ひとつとっても、その方法は次々生まれています。例えば、米国で「WeChat」禁止の流れが進めれば、両国の市民は相互にやりとりできなくなるかもしれないと危惧されますが、「中国への窓」は他にもあるのです。
※ 若林恵さんによる週末の連載「Guidesのガイド」は本日11月1日、および8日の配信をお休みし、11月15日よりリニューアルして配信を再開します。12月初旬の刊行が予定されている書籍版とともに、どうぞご期待ください。
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