New Normal:映画館は生き残れるのか

REUTERS/BRENDAN MCDERMID

Friday: New Normal

新しい「あたりまえ」

毎週金曜日の夕方のニュースレターでは、パンデミックを経た先にある社会のありかたを見据えてきました。今日は、パンデミックの影響で、苦境を強いられている映画産業にフォーカス。なかでも、映画館チェーン最大手のAMCは崖っぷちに立たされていますが、どのように生き延びられるのでしょうか?

REUTERS/BRENDAN MCDERMID
REUTERS/BRENDAN MCDERMID

世界の映画館は今、存続の危機に瀕しています。チケット代の高騰やストリーミングの普及といった要因もあって、映画館の「死」が近づいているという話を耳にする機会は、年を追うごとに増えています。さらに新型コロナウイルスのパンデミックによって、業界はさらに苦境を強いられています。

世界最大の映画館チェーンであり、100年の歴史をもつ米国のAMC Entertainmentが運営するAMCシアターズ(以下AMC)は、新型コロナウイルスの深刻な打撃を受け、破産する可能性すら出てきました。

AMCは米国証券取引委員会への文書で、「適正な期間、企業を存続することができるかについて、大いに懸念している」と認めています。今年の第1四半期、10億ドル(約1,048億)の収入を上げていたAMCですが、新たな流動性を(しかも迅速に)確保できなければ、破産を宣言することになるでしょう。

Image for article titled New Normal:映画館は生き残れるのか

AMCの運営が立ち行かなくなるということは、15カ国にある1,000館以上の映画館の一部またはすべてがなくなってしまうことを意味します。

映画を楽しみたいという人にとっては、映画を観る場所も選択肢も減り、生き残った劇場チェーンにとっても、ハリウッドのスタジオと配給条件について交渉する際の影響力が弱まることになります。それは両者にとって大きな打撃となるでしょう。

ワクチンが開発されて広く普及し、スタジオが再び大作映画を多く公開し始めたら、AMCは生き延びることができるのかもしれません(ストリーミング問題は解決できませんが)。しかし、そもそも映画館のない世界など、これまで誰も予測していなかったのです。

By the numbers

数字で見るAMC

  • 11億ドル(約1,150億円):2019年の同時期におけるAMCの時価総額
  • 3億2,500万ドル(約340億円):10月23日現在のAMCの時価総額
  • 85%:AMCシアターの年間累計入場者数は大幅に減少(2019年と比較)
  • 113億ドル(約1.2兆円):2019年の米国興行収入合計
  • 19億ドル(約1,990億円):今年1〜3月の全米興行収入の総額
  • 1,500万株:Goldman Sachs(ゴールドマン・サックス)およびCitigroup(シティグループ)に譲渡することで合意した株式数
  • :AMCの2大市場であるニューヨークとロサンゼルスで開場したAMCシアターの数

Checking under the hood

生き残りをかけて

財務面を見れば、AMCの業績に関する見通しがこれ以上良くなることはありません。同社は前四半期に20億ドル(約2,100億円)近くの損失を出しています(パンデミックの前は、少なくとも収支均衡を保っていました)。すでにパンデミックの前に50億ドル(約5,230億円)の負債を抱えていましたが、これは映画館を改装し、顧客により豪華な体験を与えるための努力の結果でした。

Image for article titled New Normal:映画館は生き残れるのか

10月16日現在、AMCは米国内の598ある映画館のうち、519カ所で営業を再開しており、客数は場所によって20~40%に制限されています。まだ閉鎖されているシアターの多くはニューヨークとカリフォルニアにありますが、2019年、両者の収益の合計は同社の収益全体の20%近くを占めていました。つまり、最も収益性の高い2つの地域を逸していると同時に、稼働している地域では収益を上げられていないということです。

なお、世界第2位のRegal Cinemas(リーガル・シネマズ)は、米国で展開していた映画館を閉鎖したばかりですが、財務状況はAMCほど不安定ではありません。

現時点において、AMCが唯一優先しているのは流動性です。会社の機能を維持するのに十分なキャッシュを手もとに残すため、あらゆる手段を講じてきました。たとえば、世界中のほぼ全てのリース契約について再交渉を実行。また、株主へのキャッシュリターン、自社株買いプログラム、将来の配当金の支払いを停止しています。何億ドルもの私募債を調達し、従業員を解雇し、全役員の給与を削減。毎年の昇給も中止しました

それだけでは不十分なため、パンデミック期間を乗り切るための追加資本を探しています。もしかしたら米国政府が救済資金を提供するかもしれませんが、それも現在行われている大統領選挙の結果次第です。

10月には、ジャド・アパトー(Judd Apatow)からグレタ・ガーウィグ(Greta Gerwig)、タイカ・ワイティティ(Taika Waititi)まで、何十人もの著名な映画制作者が、「映画業界が全滅する前に」映画館を救済するよう米国政府に求める書簡に署名しました。映画『40歳の童貞男』の監督であるアパトーが発起人となったこの情熱的なアプローチには、きっと米国上院議員のミッチ・マコーネル(Mitch McConnell)や米国下院議長のナンシー・ペロシ(Nancy Pelosi)が行動を起こしてくれるでしょう。

Save a theater by renting your own

映画館をレンタル

このような状況下で少しでも収益を上げるため、AMCは映画館の貸し切りサービスも開始するといいます。価格は99ドル(約1万400円)。ニューヨーク州、アラスカ州、ハワイ州を除く全米各州の映画館を開放し、利用者は最大20名を上映に招待が可能で、上映ラインアップもクラシックな『ジュラシック・パーク』から最新作の『TENET テネット』までさまざまです。

ヘルスケアに関する専門家は、感染に対する懸念から、人々が映画館に行くことを奨励してはいないものの、問題視もしていないようです。レストランやバーのような他の屋内アクティビティとは違い、映画館では誰もが同じ方向を向いていて、誰も話さないので、他の場所よりも飛沫拡散の可能性が少ないというのが、その理由です。

Cinemark(シネマーク)やAlamo Drafthouse(アラモ・ドラフトハウス)のようなほかの映画館チェーンも同様のレンタルパッケージを提供しています。もし映画が好きで、友達がたくさんいて、室内で他の人たちと一緒に2時間を過ごしても問題なければ(席が離れているとはいえ)、地元の映画館を支援してみてはどうでしょうか。

NEED TO KNOW

他に知っておきたい事

  • AMCが生き残ることができるとすれば、新しい「映画鑑賞の時代」が到来することになるでしょう。AMC は、Universal Pictures(ユニバーサル・ピクチャーズ)とのあいだで、映画が劇場で上映されてからデジタル・レンタルサービスで配信されるまでの時間を大幅に短縮するという契約を結んでいます
  • AMCの投資家は、資金力のあるメディア・コングロマリットによる買収を期待していました。今年の初めには、Amazonが興味をもっているかもしれないとの報道を受けて、AMCの株価は急騰しました(結果をみるに、どうも興味はなかったようです)。
  • 米国での興行収入は低迷していますが(ニューヨークとカリフォルニアのAMCの閉鎖が続いていることも原因)、日本の興行収入はかなり好調です。実際、日本の興行収入は過去最高を更新しています。
  • 米国の劇場業界のなかで好調なのは、ドライブインシアターです。今年は、明らかに観客動員数が急増しています。

This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. 自転車ブームは本当に続く? 米国では、コロナウイルスの大流行により、自転車の販売と利用が急増しています。政府関係者もさまざまな政策を用意していますが、その目的は2点に集約されます。まず、サイクリストの安全を確保すること。そして、サイクリングをより手頃な価格で楽しめるようにすることです。自転車ブームが長く続くかどうかは、国の政策にもかかっています。
  2. スタバ、都市部よりも郊外へ。「米国では“密集した都市部”から“郊外”へ、“カフェ”から“ドライブスルー”へ、利用時間は“早朝”から“午前中”へと移行している」と、CEOのケビン・ジョンソン(Kevin Johnson)は決算説明会で述べました。同社は出店場所を見直し、2021年度には北米の既存店800店舗を閉鎖する一方で、850店舗を新規出店する予定だといいます。
  3. スウェーデンでもCOVID-19に対する規制を導入。3日(火)に開始した新しい規制では、レストランやカフェの定員制限が含まれており、1つのテーブルにつき最大8人までと上限が決められています。また、ストックホルム、ヨーテボリ、マルメの3大都市を含むスウェーデンの4つの地域では、より厳しいコロナウイルス規制が導入されています。
  4. Zozobraって? 今まで、「何が起こっているのか意味がわからない」と感じたことはありませんか? すべてが正常に思えていたのに、突発的に、パンデミックや不況、気候変動、激動する政変ばかりの世の中に目を奪われる感覚です。焦点が定まらず、結果もわからない総選挙の前夜、多くの米国人を苛んだこの独特な不安感を表すことばとして、「Zozobra(ゾゾブラ)」という単語があてられています。

👤 アカウントページで登録メールアドレスを変更いただいても、ニュースレターのお届け先は変更されません。メールアドレス変更の際にはアカウントページで設定後、こちらのアドレスまでご連絡ください。

🎧 Podcastもぜひチェックを。SpotifyApple

📨 TwitterFacebookでも最新ニュースをお届け。

👇 のボタンから、このニュースレターをTwitter、Facebookでシェアできます。ニュースレターの転送もご自由に(転送された方へ! 登録はこちらからどうぞ)。