Deep Dive: New Cool
これからのクール
[qz-japan-author usernames=”ayana-nishikawa”]
Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週金曜夕方の「Deep Dive」では、今、そしてこれから世界で起きるビジネス変革の背景にあるカルチャーを深掘りします。今週は女性の政治家、とくにミレニアル世代の2人にフォーカスし、現代にあるべき“クール”な彼女たちの活躍を追います。
30代のミレニアル世代の女性政治家が、カリスマ性を発揮し、若者を中心に人気を集めています。その代表的な例が、フィンランドの首相サンナ・マリン(Sanna Marin)と、米国の下院議員のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(Alexandria Ocasio-Cortez、通称AOC)です。
彼女たちが社会から支持される背景には、どのような理由があるのでしょうか。そして、若い女性政治家たちは今後、どのように社会を変革していくのでしょうか。
Politics was not built in a day
政治は一日にして成らず
フィランドは、世界経済フォーラムが発表した男女平等の度合いを表すジェンダーギャップ指数で、3位に輝きました。2019年末、それを体現するかのように、サンナ・マリンが女性として世界最年少の34歳という若さでフィンランドの首相に就任しました。
さらに、同国の連立政権5党の党首は全員が女性、うち4人が35歳以下です。この華やかなマリン内閣の誕生は、世界中の注目を集めました。
マリン内閣について、フィンランドの同世代の女性はどう思っているのでしょうか。
労働市場と家庭での男女平等を提唱する、働く母親のネットワーク「Mothers in Business(MiB)」のエグゼクティブディレクターで、4歳と6カ月の2人の子どもをもつアニカ・ムーア(Annica Moore)は、Zoomでのインタビューに対して、明るい声色でこう言います。「マリン内閣は、フィンランド政治に新たな息吹をもたらしました」
「以前にも女性首相はいましたが、マリン首相は『女性』という点に『若さ』を加えました。これは、フィンランドの政治がよりリベラルになっている結果だと思います」
一方で、フィンランド国民にとって「性別」や「年齢」は重視すべき点ではないようです。
在日フィンランド大使館の参事官として日本に赴任した経験があり、『イクメンMIKKOの世界一しあわせな子育て (フィンランド流)』(かまくら春秋社)の著者で、現在フィンランドの経済・雇用省でコミュニケーション部部長を務めるミッコ・コイヴマー(Mikko Koivumaa)は、「国民にとって首相が男性・女性であることはあまり関係ありません。マリン首相自身も、『若い女性の首相』ではなく、 ただ『首相』でいたいと思っています」と話します。
現在、フィンランドでは女性議員の割合は47%を占め、45歳以下の議員は全体の48%だといいます。もっとも、ローマは一日にして成らず。同国では男女平等な社会に向け、世界でも早くから推進してきたことが、現在の性別・年齢関係なく能力やスキルを活かすことができる社会システムに繋がっているようです。
前出のコイヴマーは、マリン内閣が誕生した背景にあるフィンランドの社会構造について、次のように分析します。「フィンランドは1906年、女性に選挙権と被選挙権を付与した世界初の国です。また、2000年には初の女性大統領にタルヤ・ハロネン(Tarja Halonen)が就任し、12年間、2期にわたって活躍しました。それに、女性の首相が過去に2人いたことも大きな理由です」
「またフィンランドは先進国のなかで、父親が母親よりも、学校に通う子供と過ごす時間が長い唯一の国です。フィンランドでは男性も女性も同様の生活を送り、共働きの文化が根付いています」
CHANGE THE SOCIETY
マリン内閣が変える社会
マリン内閣は、社会・経済・環境において「サステナブルな世の中」を目指しています。2035年までに二酸化炭素排出量実質ゼロを目指すほか、男女の枠に限らず、年齢、経済状況、地域などが原因の不平等を減らすことを目標としています。また、国外からは「女性のユートピア」とも見えるフィンランドですが、男女平等の面においても取り組むべき課題があるようです。
たとえば、欧州基本権機関の調査によると、同国は欧州で2番目にDVの被害が多い(回答者の47%がDV被害を報告)といいます。また、前出のムーアは、カップル間の育児休暇取得の不平等を改善すべき問題と訴えます。「現状では父親ではなく、母親が育休を取得する傾向があります。これは、職場での妊婦への差別や、小さな子どもをもつ母親のキャリアアップにも影響する問題です」
現行では育児休暇は母親が計4.2カ月、父親は2.2カ月、それに加えて両親で合わせて6カ月間分の取得することができますが、実際は4分の1の男性のみが育休を取得しているといいます。
しかし、マリン内閣の誕生は変化の兆しをもたらしたとムーアは言います。「マリンが自ら育児休暇をパートナーと平等に6カ月ずつ取得していたこと、乳児の母親でありながら首相というトップの仕事に就いたことは、国民に平等や可能性というメッセージを発信しました」
「また、マリン内閣のリー・アンデション(Li Andersson)教育相も妊娠中です。彼女は『仕事も家庭も、どちらの夢も諦めたくない』と言い、年末には産休に入る予定です。マリン内閣の男性高官も、半年父親休暇を取りました。こうして政治家がお手本を示してくれることは、素晴らしいことです」
マリン内閣は今年初旬、前出の育休取得の男女不平等な状況を変えるため、2021年から新制度を導入すると発表しました。新制度では、両親にそれぞれ約7カ月の休暇が与えられるといいます。
ムーアは「子育て世代の若い女性が政治を担うからこそ、身をもって気づく問題なのだと思います」と、推測します。
前出のミッコは、こう締めくくります。「政治はチームプレイです。若い女性の政治家は、社会の同年代の女性の意見や価値観を政策決定の場にもたらします。こうした多様性は生産性向上にも繋がります。
日本でも、このような多様性が実現できると信じています。日本には、とても教養の高い女性たちがいますが、社会は彼女たちにもっと積極的にドアを開くべきです。そして、女性の政治家を置くことで、より男女平等に関する政策が提案されるのではないでしょうか」
NEW HERO
スーパーヒーロー「AOC」
一方、米国でも、ミレニアル世代から熱い支持を得ている民主党アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(以下、AOC)が、今年11月に行われた連邦議会選挙で下院に再選を果たしました。
AOCはニューヨークのブロンクスに生まれ、労働者階級の家庭で育っています。ボストン大学卒業後、政界に入る前には家系を支えるために、マンハッタンのタコス料理店などでバーテンダーとして働いていました。
そんなAOCは、2018年の中間選挙に出馬。彼女の戦いぶりが描かれているドキュメンタリー映画『レボリューション-米国議会に挑んだ女性たち-』で、こう話しています。「接客業の経験が、選挙の役に立っています。18時間立ちっぱなしも、プレッシャーを受けるのも、罵倒されるのも慣れています」
実際に、その経験や能力を活かし、AOCは否定的に見られながらも、ニューヨークの街中で投票者に語りかけました。結果、潤沢な資金をもつベテラン大物政治家を予備選で打ち破り、29歳で史上最年少女性下院議員となって、彗星の如く政界に現れたのです。
同じ女性議員でも、オールドボーイズクラブの傾向が強かった時代の政界で生き抜いてきたナンシー・ペロシ(Nancy Pelosi)下院議長やヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)などは生粋のエリートで、一般の若者には距離感があったかもしれません。しかし、AOCの若さや生い立ち、そして選挙での勝利は若者の目に希望として映ったようです。
米ラトガーズ大学で政治学を教えるキラ・サンボンマツ(Kira Sanbonmatsu)教授は、『National Interest』紙に対し「若者、とくに若い女性は投票者としても立候補者としても見過ごされていることが多いです。そんななか、下院でのAOCの存在は、若者の政治におけるインスピレーションとなりました」と、述べています。
晴れて当選した後も、AOCは革新的にソーシャルメディアやポップカルチャーを使いこなし、Instagramでは800万人以上のフォロワーに向け、若者にアピールを続けています。
例えば、2020年の大統領選挙の際には、AOCが若者への投票を呼び掛けるために使用したのは「eスポーツ」でした。AOCは米動画配信大手Twitchで人気ゲーム「Among Us」をプレイ。約43万5,000人の視聴者の前でゲームをしながら、医療保険、トランスジェンダーの権利、そして大統領選について語りました。
そして、AOCが若者の熱狂的な支持を集める背景として、最近の米国の若者の政治意識も追い風となっているようです。
『New York Magazine』によると、米国の18~24歳の若者は社会主義の傾向があるといいます。80%の若者が政府は気候変動に取り組むべき、70%が高所得者は高額な税金を払う必要があると言及しています。また、自らを極左、もしくはリベラルだと称する回答者の数が過去最高だったようです。さらにミレニアルの次の世代においては13の州で、有色人種が人口の大多数を占めるようになるといいます。
同誌は、「AOCは、ラテンアメリカ系、リベラル、SNSやポップカルチャーに精通していて、これらすべての要素を体現しています。以前、左派の人々にとって政治は避けるべきものでしたが、AOCはそれを変えました」と言及しています。
実際にAOCは、気候変動と経済的不平等の両方に対処することを目的にした経済刺激策「グリーン・ニューディール」を公表し、温室効果ガスの実質排出ゼロ、すべての人への医療保険などを主張しています。
さらに、同様にリベラルな政策を目指すパレスチナ系のラシダ・タリーブ(Rashida Tlaib)議員、ソマリア出身のイルハン・オマル(Ilhan Omar)議員、アフリカ系のアヤンナ・プレスリー(Ayanna Pressley)議員の4人で「The Squad」という有色人種の女性議員グループを結成し、人種差別問題や多様性についても積極的に発言しています。
彼女自身も、同誌の取材に対して、次のように答えています。「政治はポップであるべき。一般の人々に手が届き、消費できるべきです。それが、ポピュリズムだと思います」
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- デジタル課税が進む。フランスの大手テック企業への課税計画は、12月から予定通り始まるようです。このデジタル課税は、世界で7億5,000万ユーロ(約930億円)以上の収益を上げていること、フランスで2,500万ユーロの収益を上げていること、そして、マーケットプレイス(Amazonのマーケットプレイス、Uber、Airbnb……)または広告事業(Facebook、Google、Criteoなど)を運営していることの2つの条件を満たしていれば、フランスでの収入の3%を税金として支払わなければなりません。一方、米国ではフランス製品に報復関税をかける可能性もあるといいます。
- 電話で叫ぶことができるホットライン。2020年にうんざりしている人、コロナウイルスの影響で疲れている人、悩みごとを抱えている人に朗報。〈+1 561 567 8431〉に電話すると、好きなように叫ぶことでストレスを発散できます。justscream.babyというウェブサイトもあり、自分の叫び声だけでなく、ほかの人の叫び声も聞くことができるので、気になる方はトライしてみてください。
- 今年は冬眠してみよう。寒くなってきたこれからの季節、今年はコロナウイルスの影響で外出もできないので、とことん家時間を楽しむしかありません。そこで登場したのが、「すべて」がこの1台で済むスマートベッド「HARiana Tech Ultimate Smart Bed」。マッサージチェア、仕事ができる机と椅子、収納も付いています。狭いワンルームマンションに住んでいる方や、家族やルームメイトと一緒にいる時間が長くてイライラしていて、ちょっとした一人の時間が必要な方には、まさに理想的なベッドです。
- 16歳のTikToker、フォロワー数が1億人達成。TikTokで大人気のチャーリー・ダミリオ(Charli D’Amelio)が、1億人のフォロワーを達成した初のTikTokerになりました。ダメリオは2019年5月からTikTokに投稿を開始したばかりで、その記録的なスピードで達成した偉業にも注目。ちなみに、YouTubeでは、どのチャンネルでも登録者が1億人に到達するまでに14年かかるといいます。
🎧 リニューアルしたPodcastもぜひチェックを。最新回では、メディアアーティストの草野絵美さんをゲストにお招きしています。Apple|Spotify
👀 Twitter、Facebookでも最新ニュースをお届け。
👇 のボタンから、このニュースレターをTwitter、Facebookでシェアできます。ニュースレターの転送もご自由に(転送された方へ! 登録はこちらからどうぞ)。