Impact:地球にやさしい「軍事予算」

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Deep Dive: Impact Economy

始まっている未来

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毎週火曜の「Deep Dive」では、今世界が直面しているビジネスの変化を捉えるトピックとして、気候変動を深掘りしています。今日は、米国の国防における「グリーン予算」がもつ大きなポテンシャルを、アナリストの意見とともに紐解きます。

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Image: REUTERS/JASON REED

2019年7月、ドイツ製造業大手シーメンスのバージニア支店は、米国政府とある契約を結びました。キューバ・グアンタナモ湾の米海軍基地に電力を供給する発電所のオーバーホール契約です。

契約金は、8億2,900万ドル(約866億円)。エネルギー効率の向上を目指すものとしては、米海軍にとって史上最大規模の契約です。その内容には照明や空調設備の改善とともに、時代遅れのディーゼル発電機を液化天然ガスと太陽エネルギーに置き換えることも含まれています

これは、トランプ政権下では珍しい気候変動対策の一例といえるでしょう。さらに珍しいことに、次期大統領ジョー・バイデンも、この対策を踏襲する可能性が高いとされています。

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環境にいい、軍事設備

軍事関連の調達のほとんどは、二酸化炭素(CO2)排出量の少ない製品やサービスへの切り替えが可能です。またバイデンにとっても、軍事予算はその任期の手始めに取り組むのに最適です。

米議会調査局によると、米国防総省(DoD)は米国政府における最大の「エネルギー消費者」。その年間120億ドルのコストは、政府全体のエネルギー使用量の4分の3以上を占めています。トランプ大統領はその4年間の任期のほとんどを、環境規制や気候対策に関するコストの削減に費やしました。しかし、オバマ政権下での取り組みが始まった軍のCO2排出量削減対策は、比較的無傷なまま維持されていました。

いや、むしろ対策は進んでいたと言えるかも知れません。戦略国際問題研究センター(Center for Strategic and International Studies)の国防産業イニシアチブグループの副ディレクター、グレゴリー・サンダース(Gregory Sanders)の分析によると、2019年の国防費におけるグリーン関連製品の総額は過去最高の308億ドルに達しています。実に、同年の国防予算全体の約4.5%を占めています。

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ちなみに、この「グリーン」な軍事調達には、どのような項目が含まれるのでしょうか。リストには、再生可能エネルギーの導入やバイオ燃料、リサイクル素材でつくられた製品、エネルギー効率のよい電化製品など、「環境的に好ましい」と指定されている製品が含まれています。

リストに電気自動車は含まれていません。というのも、ほとんどの場合、車両は直接購入するのではなく、政府サービス局から国防総省にリースされているからです。また、原子力発電も含まれていません(一部の海軍艦艇の動力源に使用されている原子力システムと切り離すことが困難なため)。

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基地内を活用する

キューバの新施設はともかく、トランプ政権下の再生可能エネルギーに対する支出はオバマ政権下に比べて減少しています(特に太陽光発電への支出は激減)。また、「グリーンな調達」をすすめる国防省ですが、議会が義務づけた目標には大きく遅れをとっています。2025年までに施設で使用するエネルギーの25%に自然エネルギーを使用するという目標に対し、2019 年時点で、わずか6%しか達成できていません(国防総省の最新の持続可能性報告書による)。

しかし、バイデンがこの目標に追いつくのはさほど困難ではないと、オバマ政権下で国防総省の主席副長官を務め、現在はシンクタンク「気候および安全保障センター」(Center for Climate and Security)のディレクターを務めるジョン・コンジャー(John Conger)は言います。

米国の軍事基地は、大規模な太陽光発電所の設置に適しています。オバマ政権下では多くの基地が太陽光発電会社と電力売買契約を結び、発電した電力と引き換えに太陽光パネル用の土地をリースすることになったと、コンジャーは説明します。

「(基地内の)使っていない土地へのアクセスが許可されました。それにより、基地における電気代は安価になり、さらに膨大な量の再生可能エネルギーを利用できるようになりました。トランプ政権下で重要視されなくなったものの、(バイデン政権によって)再び活性化されるべきでしょう」

a matter of R&D spending

研究開発が生む利益

コンジャーは、国防総省にとってCO2排出量の最大の原因となっているのが航空燃料であることを挙げ、再生可能エネルギーや代替燃料への取り組みが特に求められると言います。

実際のところ、ジェット燃料は国防に費やされる総エネルギー使用量の半分以上を占めており、すぐに代替燃料に置き換えるのも困難です。国防総省のレポートは、オバマ政権下では強力に喧伝された低炭素の自動車燃料や海軍燃料も、トランプ政権下では減少したと指摘しています。

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Image: REUTERS/TOM BRENNER

こうした問題を解決するのは、「調達」ではなく「研究開発費」です。

コロンビア大学グローバルエネルギー政策センターによる最近のレポートは、この課題を解決するために、エネルギー関連の研究予算を2億5,000万ドル増やすことを推奨しています。これは民間部門にも莫大な利益をもたらしうる目標で、ひいてはバイデンにとってもトリクルダウン型の政治的利益となる点で重要です。

バイデンは、戦闘車両に対して法的に義務づけられている燃費目標(現在は免除されている)を拡大するよう、議会に働きかけることもできるでしょう。最近の政府説明責任局(Government Accountability Office)のレポートによると、紛争地域ではガソリン1ガロンあたりの価格が40ドルから600ドルまで高騰する可能性があるだけでなく、燃料輸送隊が攻撃の標的になることも多いとされています。

安全保障は、党派を超えて意見を一致させられる議題です。「国防総省が重視するのは任務であり、排出量ではありません」とコンジャーは言います。「しかし、購入するものを、より優れたCO2排出量のものに変えることはできるはずです」

(翻訳・編集:年吉聡太)


 

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