Deep Dive: New Consumer Society
あたらしい消費社会
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Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週木曜夕方の「Deep Dive」のテーマは、「あたらしい消費のかたち」。今週は、コロナ禍以後、人間の「バディ」としてさらに愛されるようになったペット。今知っておくべきペットテックや人間との関係性など、改めて注目されるその魅力と社会とのつながりを考えます。
最近では、ファッションブランドがランウェイで犬と登場したり、ペット用の服やアクセサリーが広く販売されたりと、ビジネスの場でも動物を見る機会が増えてきました。
こういったトレンドを裏づけるかのように、米国ではペットを飼う人が増加しています。2019〜2020年のAmerican Pet Products Association(以下APPA)が行った調査によると、全世帯の67%である8,490万世帯がペットを所有。この調査が開始された1988年に比べ11ポイントも上がっています。
Increase in pandemic
パンデミックでの増加
増加の背景には、新型コロナウイルスの影響があったようです。
パンデミック期間中、人が強いストレスを感じる一方で、人間以外の伴侶(とくに犬)の存在は、そのストレスを軽減する生理的な変化をもたらすことが研究で明らかになっています。
自宅でのひきこもり生活を余儀なくされるなか、ペットと過ごす日々を求める人がシェルター(動物保護施設)に殺到、一時はシェルターの保護猫・保護犬がいなくなるほど、その需要は高まりました。需要は3月に急増したのち、譲渡可能な動物が減少したため低下し、以降横ばいになっています。
また、米国動物虐待防止協会(American Society for the Prevention of Cruelty to Animals)によると、ニューヨークなどのシェルターでは、感染拡大を抑制するため、閉鎖せざるをえなくなりました。実際、シェルターから猫と犬を譲渡できた数は、昨年の同時期に比べて約3分の1に減少しているというデータともいわれています(米国内の約1,500のシェルターやレスキューセンターのデータを収集している「24HourPetWatch」のデータによる)。
サンフランシスコを拠点とする「ファミリードッグレスキュー(Family Dog Rescue)」での譲渡頭数は、例年7月は100頭前後でしたが、今年は187頭にも増加。「ペット不足」は、いまだ続いています。
NEW BUDDY
ペットは新しいバディ?
ペット熱と切り離せないのが、若者世代、とくにミレニアル世代です。
子どもをもたなくなっていると言われるミレニアル世代ですが、多くの人がペットを飼うことを選択しています。2018年の調査によると、米国でペットを飼っている国民のうち、ミレニアル世代とGenZがその62%を占めています。
また、ミレニアル世代の男性は女性に比べて「ペットを甘やかす」という統計もあり、彼らがペットの世話に夢中になっていることも判明しました(ソーシャルメディアでペットの投稿をシェアしたがるのはミレニアル世代の女性)。ペットを保育園に連れて行くのも、ペットの誕生日を積極的に祝うのも男性。ミレニアル世代の男性の30%がペットの誕生日パーティーを計画しているのに対し、女性は17%でした。
さらに、男性の39%は、「こだわり」のオーガニックペットフードを購入しています(女性は29%)。ペットの健康とウェルネスに気を配る彼らは、支出の増加もお構いなしにセラピーやスパトリートメントのような贅沢もさせているといいます。
興味深いのが、ハロウィンもペットに仮装させる人がほとんどで(これは男性・女性に関わらず、ペット所有者全体)、その仮装も「時事ネタを絡ませたものにする」と回答していること。彼らミレニアル世代の男性たちが、もはや我が子を愛するように接していることがよく分かります。
Expanding pet food industry
拡大するペットフード業界
ペットの増加と意識の高い飼い主のおかげで、ペットフード業界も拡大しています。
APPAのレポートによると、2019年、米国ではペット関連の消費額が、全体で957億ドル(約10兆円)に。そのなかでもペットフードは369億ドル(約3.9兆円)で、大きな割合を占めています。さらに今年は、その額が990億ドル(約10.3兆円)にまで達すると言われています。
なお、世界のペットフード市場規模は2018年に830.2億ドル(約8.67兆円)と評価され、2019〜2025年までは年平均成長率4.5%で成長すると予測されています。
注目すべきペットフードは、といえば、とくに人気なのがドライタイプ。さらに、従来のペットフードとは異なり、オーガニックで天然素材由来のペットフード需要が高まっています。ペットの健康が考慮されているのはもちろんですが、保管などの際に利便性が高いのも選ばれている理由。都市部の消費者がよりドライタイプのペットフードを選ぶようになっているといいます。
新しいタイプのフードにも目が向けられています。今、「代替肉」を手がけるスタートアップがしのぎを削っていますが、ボンド(Bond)は、動物由来成分を含まないペット向けの商品を開発。同社のCEOであるリッチ・ケルマン(Rich Kelleman)は、『Fastcompany』に対し、「植物由来のタンパク質は、ペットが成長するために必要な必須アミノ酸や微量栄養素の吸収を阻害する可能性があります。一般の人々がペットフードやペットの消費用に高品質の肉を求めるようになってきていることから、わたしたちは、こういった肉の(動物由来成分を含まない)タンパク質を再現したフードをつくっています」と述べています。
ドッグフードを展開するサンデーズ(Sundays)の共同設立者兼CEOであるマイケル・ワックスマン(Michael Waxman)は、「水はあっても水飲み場がないようなもの。3,000以上のドッグフードがあるなか、これまで説得力のある製品がなかったのです」と、『TechCrunch』に対してコメント。同社が展開するのは、キブル(粒)と冷凍フードの中間のような新食感の製品です。
Sundaysは、今年2月に最初の製品をソフトローンチし、今では約1,000人の有料顧客を抱えるブランドに。また、Red Sea Ventures、Box Group、Great Oaks Ventures、Shrug Capital、Matt Salzberg、Zach Kleinなどから227万ドル(約2.4億円)の資金調達を行ったことも発表しています。
PET TECH
盛り上がるペットテック
デジタルに精通しているミレニアル世代は、何事にもテクノロジーを活用したがるようです。さらにペットへの投資を惜しまないとなれば、ペット・テック業界に期待が膨らむのも当然です。この業界は今、シリコンバレーも注目する分野となっています。
2019年のGlobal Market Insights, Inc.のレポートによると、ペット・テック市場は2018年の45億ドル(約4,700億円)から2025年には200億ドル(約2.1兆円)を超えるまでになると予測。ペット・テックのスタートアップは2018年、5億ドル(約522億円)以上の新規投資を受けています。たとえば、犬版の“Uber”とも言われるドッグウォーカーサービスを展開するアプリのワグ(Wag)は、現在3億6,000万ドル(約376億円)以上の資金調達を行っており、競合のローバー(Rover)は3億1,000万ドル(約324億円)を調達するほか、2つのスタートアップを買収しています。
IoT技術を利用して、ペットの世話のプロセスをデジタル化する「スマート」なペット製品を構築しているスタートアップもあります。オビ(Obe)は、餌の与えすぎを防ぐスマートフードボウルを展開。クレバーペット(CleverPet)は、犬のための「ゲームコンソール」を開発し、留守番中にも遊べ、教育にもなるというツールを提供しています。
壮大なプラットフォームを展開しているのは、2018年にシリーズAで450万ドル(4.7億円)の資金調達をしたバベルバーク(BabelBark)。ペットに装着したウエアラブル機器からデータを収集し、飼い主と獣医の双方にペットの健康状態の全体像を提供するソフトウエアを開発しています。
ウェラブル首輪のホイッスル(Whistle)、見守りカメラのペットキューブ(PetCube)、スマートトイの“スマートボーン”を展開するウィックドボーン(Wickedbone)のほか、スポティファイ(Spotify)は今年初めにペット向けプレイリストを生成するサイト「Pet Playlists by Spotify」をローンチ。音楽業界もペットに目配せしているようです。
IF ROBOTS
ロボットなら?
人間の相棒として必要不可欠となったペット。ロボットペットは、生きた動物の代わりになるのでしょうか? 『The Conversations』には、パンデミック時に高齢者にロボットペットが提供されていたことに関するある論考掲載されています。
著者が行ったのは、「ロボットペットと生きた動物のどちらを選ぶか」という調査。この調査に参加した102人のうち、ロボットペットを選ぶと答えた人は1人もいなかったといいます。「単純な仲間意識だけではない。感情的なつながりが大事なんです。ロボットの創造物から得ることは、本物の愛ではありません。ペットには愛が必要なのです」
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- ホリデーシーズンの売上は好調に。National Retail Federation (NRF) とeMarketerは、Eコマースが好調なため、米国のホリデーシーズンの小売消費全体の売上が増加するとレポートしています。両社とも、11月と12月の小売売上高は全体的に増加すると予想。NRFは、11月と12月の米国のホリデー売上高は前年比3.6%から5.2%増加し、合計で7,553億ドル(約78.9兆円)から7,667億ドル(約80.1兆円)になると予測しています。
- 世界中のワクチンのために。COVID-19ワクチンの物流上の課題の一つは、ファイザー(Pfizer)やモデルナ(Moderna)を含む開発中のワクチンの多くが2回接種を必要としているということです。そのため、マサチューセッツ工科大学(MIT)のスピンオフであるパーティクルズ・フォー・ヒューマニティ(Particles for Humanity)は、1回の注射で複数回の接種と同じ効力がある新技術の開発に取り組んでいます。同企業は最近、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団(Bill and Melinda Gates Foundation)から500万ドル(約5.2億円)の助成金を受けています。
- 魅惑的な洞窟アートの前で“トリップ”。最新の研究で、400年ほど前のダチュラという強力な幻覚症状を引き起こす薬用植物の小さなかたまりが、洞窟の天井の割れ目に詰め込まれているのが発見されたことが分かりました。この洞窟は、米国カリフォルニア州南部の太平洋岸にいた先住民「チュマシュ族」が住んでいた場所にあり、湾曲した天井に描かれた渦を巻く赤い絵から「風車の洞窟」と呼ばれていました。研究者たちは、この絵はダチュラの花を表しているのではないかと考えているといいます。
- MVの次はゲーム。ファッションブランドのバレンシアガ(Balenciaga)が、先日、2021年春夏コレクションをミュージックビデオで発表しましたが、次は「ゲーム」に目を向けています。12月6日にリリースされる「Afterworld」と呼ばれるビデオゲームは、ブランドの2021年秋コレクションを紹介するだけでなく、2031年を舞台にした「寓話的な冒険」を実際にプレイすることができるチャンスを提供してくれるようです。
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