Deep Dive: New Cool
これからのクール
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Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週金曜夕方の「Deep Dive」では、今、そしてこれから世界で起きるビジネス変革の背景にあるカルチャーを深掘りします。今週は、人びとが大都市を離れ、ミレニアル世代を中心に人気が高まる「シリコンヒルズ」ことテキサス州オースティンへの移住が進んでいる背景について。
米国では、都市部を離れて移住を選ぶ「都市脱出(Urban Exodus)」が増えています。とくに約4,000万人の人口を抱えるカリフォルニア州では、2000年代初頭から「カリフォルニア脱出(California Exodus)」が始まっています。
近年、年を追うごとに悪化する山火事やそれによる大気汚染、あるいは不動産や生活費の高騰などを背景に、その地を離れる人が増加。そして今年は、パンデミックを契機に、これまで引っ越しを手控えていた人たちも、新天地を目指しているというのです。
PANDEMIC EFFECTS
パンデミックの影響
『Bloomberg』の記事によると、2020年、新型コロナウイルスの影響により米国全体でみると引っ越し件数が減少しているというレポートがある一方で、見過ごせないデータが出ています。
引っ越しサービス会社のハイアー・ア・ヘルパー(Hire A Helper)が実施した調査では、今年1〜6月までの期間で新型コロナを理由に引っ越しをしたと答えた人は、実は15%に上ります。うち37%が、収入がなくなったことや住居費の高さを理由に挙げています。33%が「友人や家族のいる場所への避難」を、24%は「自分のいる場所が安全だと感じなかった」と回答しています。
パンデミックにより仕事を失い、あるいは大学寮の閉鎖に直面した若年層は、新型コロナの影響が最も大きかったグループのひとつ。今年6月に行われたピュー・リサーチ(Pew Research)の調査では、18〜29歳までの成人の約10人に1人(9%)が、新型コロナウイルスの流行により引っ越しをしたと回答しており、その数値はほかのどの年齢層よりも高いようです。
都市別に見ると、とくに引っ越し需要が高かったのは、サンフランシスコとニューヨークでした。Hire A Helperの調査によると、3月中旬〜6月末までのあいだ、これら2都市では、引っ越しサービスを利用した人がほかの地域に比べ80%以上多かったといいます。ユナイテッド・バン・ラインズ(United Van Lines)によるレポートでも、両都市からの引越しが昨年よりも多かったことが判明しています。同社のデータによると、2020年5〜8月のあいだにニューヨークからの引っ越し依頼は、昨年の同時期と比較して45%増、サンフランシスコでは23%増となっています。
では、彼らはどこへ向かったのでしょうか? 同じ時期、サンフランシスコを離れた人が選んだ行き先のトップは、シアトル、オースティン、シカゴの各都市圏でした(前年同時期にサンフランシスコを離れる人の行き先のトップは、ニューヨーク、シアトル、ボストン)。
Millennials moving
移住好きなミレニアルズ
ミレニアル世代にとって、「移住」は彼ら世代を特徴づける要素のひとつとされています。米国国勢調査局の最新データによると、2018年、ニューヨーク州からは約7万6,000人、カリフォルニア州からは約3万6,900人のミレニアル世代が移住しており、州別で1、2位の移住者数を記録しています。
そして、人気の移住先として挙げられるのは、テキサス州です。スマートアセット(SmartAsset)の最新レポートによると、テキサス州の3つの都市オースティン、サンアントニオ、ヒューストンがミレニアル世代が引っ越しをしている都市トップ10にランクインしています(サンアントニオのタコスが美味しいからオススメという声が、『Reddit』では見られたりも……)。
ミレニアル世代が移住している上位10州のうち半数は、給与や賃金に州の所得税を課していません。該当するテキサス州、ワシントン州、フロリダ州、ネバダ州、テネシー州が、それぞれ1位、2位、5位、8位、10位にランクインしています。2018年にテキサス州に移住した25〜39歳までの純移住人口は、約5万3,600人でした。これはどの州よりも多い結果になっています。
California Exodus
カリフォルニアを脱出
『KSBW』によると、2007〜16年のあいだに、約500万人の住民がカリフォルニア州に転入した一方で、600万人がほかの州に転出しています。さらに、米国国勢調査局によると、同期間のあいだ、年収5万5,000ドル(約570万円)以下の人の多くがカリフォルニアから転出し、年収20万ドル(約2,090万円)以上の人は転入していることが報告書で明らかになっています。
転出の理由としては、大きく3つ「住居費」「税金」「政治文化」への不満が挙げられています。カリフォルニア大学バークレー校が2019年末に実施した調査によると、カリフォルニア州の有権者の半数以上が、住宅費の高さや重税、政治文化などを理由に、同州からの転出を「深刻に」または「ある程度」検討したことがあることが分かりました。
- 71%:住居費の高さ
- 58%:税金の高さ
- 46%:政治文化への不満
その移住先として人気なのは、やはりテキサス州やアリゾナ州。『NBC』によると、2018年の米国国勢調査データによると、8万6,000人以上の人がカリフォルニア州を離れてテキサス州へ、7万人近くがアリゾナ州、約5万5,000人がワシントン州へと住処を求めて去っていったといいます。
もっとも、このCalifornia Exodusが続いていても、カリフォルニア州の人口は2050年までに4,500万人に達すると予測されてもいます。
POLITICS MATTER
移住が左右する政治
移住は、この国の政治をも左右します。
有権者登録データ、米国国勢調査データおよび『Redfin.com』の検索結果の分析によると、2016年の選挙以来4年間のニューヨーク州とカリフォルニア州からの移住は、すでに2020年の政治地図を塗り替えていました。例えばアリゾナ州とネバダ州では、民主党を支持する有権者が増加したといいます。
『Redfin.com』の分析によると、トランプ大統領が9万1,000票の差をつけてアリゾナ州で勝利した2016年選挙以降、同州では共和党よりも5万1,000人多くの民主党員が登録され、両党以外の政党に4万9,000人が登録しているといいます。
「今年はコロナウイルスの影響で(財政的に厳しくなった人が多い)、人びとは『青い(民主党)州』から『赤い(共和党)州・激戦州』へと流れる」と、『Redfin.com』のエコノミスト、テイラー・マー(Taylor Marr)は『Bloomberg』に述べています。『Redfin.com』の調査によると、全体的に「2020年第2四半期、6.5%以上の米国人が赤い州・激戦州に引っ越した」とのこと。
『Bloomberg』は、赤い州(共和党)・激戦州は生活費が安く、所得税がかからない/安いこと多いのが理由であると指摘しています。一般的に、保守的な層が農村部や郊外に住む傾向がある一方で、プログレッシブな層の多くは、沿岸部の物価の高い都市に押し寄せているとされますが、環境や住居費などを考慮すると異なる行動が生まれるようです。
例えば移住先として人気のフロリダ州は、温暖で海に面した好環境で、かつ州所得税がありません。政治的には激戦州で、今年の選挙では接戦が繰り広げられました。同じく、カリフォルニア州からの人気の移住地であるネバダ州やアリゾナ州は、サンフランシスコよりも手頃な住居費が魅力。こちらも政治的には激戦州です(ちなみに、テキサス州も赤い州)。
つまり、若者を代表するミレニアル世代(民主党支持者が多い)を中心に、高税率・低成長の青い州から、低税率・高成長の赤い州へ移動しているという現象が起こっているのです。
WE LOVE TEXAS
愛すべき、テキサス
では、カリフォルニアからの脱出を企図するミレニアル世代に愛されるテキサス州とは、どのような場所なのでしょうか?
同州の人口は2,800万人を超え、カリフォルニア州についで2番目に人口が多く、米国全体の人口の6.8%を占めています。州都はオースティンで、州最大の人口を誇る都市はヒューストン(人口230万人超)。サンアントニオ、ダラスといった百万都市を抱える同州の人口は着実に増え続けていきました。
温暖な気候やフレンドリーな人柄、スポーツ観戦、アクティビティ、食など、魅力的な要素が多いのも特徴。雇用市場も拡大し始め、急成長を続ける都市が揃っているのです。
- 💼 仕事:生活費は米国平均よりも低く、個人所得税も法人所得税もありません(セールスタックス、固定資産税などはあり)。専門職、ビジネス、教育、医療サービスが急増し、失業率も高くありません。2020年11月20日に発表された報告書によると、テキサス州の民間部門の雇用は1カ月間で13万6,300件増加し、テキサス州の失業率は9月の8.3%から10月は6.9%に低下。2020年10月のテキサス州の失業率は、全米の失業率6.9%と一致しています。
- 🏞 自然:人気スポットとして、歴史的なエンチャンテッド・ロック州立自然地区、パロ・デュロ・キャニオン州立公園、パドレアイランド国立海浜公園、ビッグシキット国立保護区など。魅力的なスポットが数多くあります。
- 🍖 食:バーベキュー発祥の地として有名。各地に美味しいバーベキューレストランが連なるほか、テクス・メクス料理も美味しいと評判。
- 📚 教育:200以上のカレッジや大学があり、毎年何千人もの学生がテキサス州のカレッジに通うことを選んでいます。ライス大学、テキサステック大学、テキサスA&M大学、テキサス大学オースティン校、南メソジスト大学などがあります。
Silicon Hills
レイバックなオースティン
忘れてはならないのが、テック業界をはじめとする大手企業が今、テキサス州オースティンに拠点を構えていることでしょう。オースティンといえば、毎年3月に開催されるフェス「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」でも有名な場所。2018年12月、アップル(Apple)は10億ドル(約1,044億円)を投じて、テキサス州オースティンに第2本社となるキャンパスを建設することを発表し、その建築が現在進行中。2022年に開設予定で、同敷地内には初となるホテルもオープンすると報じられています。
さらに、イーロン・マスク(Elon Musk)率いるテスラ(Tesla)もオースティンへ新たな工場をオープンすると発表。新工場は一般に公開される予定で、遊歩道やハイキングやサイクリングのコースがあるといいます。ほかにも、サムスン電子(Samsung)、デル(Dell)、インテル(Intel)などの大企業が拠点を置いていることでも知られています。
シリコンバレーに対抗し、「シリコンヒルズ」と呼ばれるオースティンは、税金を含むコスト面で節約ができるという魅力もあり、エンタープライズ・ソフトウェア、半導体、企業の研究開発、バイオテクノロジー、ビデオゲーム業界をはじめ、さまざまなスタートアップ企業などテック産業の本拠地になっています。この地域にオフィスを構えるテクノロジー企業には、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(Advanced Micro Devices)、アマゾン(Amazon)、ARMホールディングス(ARM Holdings)、シスコ(Cisco)、イーベイ(eBay)、フェイスブック(Facebook)、グーグル(Google)、アイビーエム(IBM)、インディード(Indeed)、ペイパル(PayPal)、プロコア(Procore)、シリコン・ラボラトリーズ(Silicon Labs)、テキサス・インスツルメンツ(Texas Instruments)、オラクル(Oracle Corporation)、ヴイエムウェア(VMWare)などがあります。
新型コロナウイルスの影響もあり、シリコンバレーから移転する企業が増加。『CrunchBase』のレポートによると、2020年の最初の数カ月間だけでも、多くのスタートアップ企業だけでなく、他の大企業を含む企業がオースティンへ。1月には、オンラインアンケートソフトを提供するクエスチョン・プロ(QuestionPro)が、グローバル本社をサンフランシスコからオースティンに移転しました。同社は、「この街のアウトドアアクティビティの質の高さ、手頃な価格の生活と望ましい住居費、そして、世界中から優秀な人材が集まるという点に惹かれた」と、移転の理由を述べています。
サンフランシスコを拠点とするエアテーブル(Airtable)は今年4月、オースティンにカスタマーエンゲージメントセンターを開設し、18カ月間で100人の雇用を計画しています。移住や移転でクールな暮らしを手に入れる流れは今後も続きそう。ただし、一方でジェントリフィケーションを危惧する声が上がり続けている事実も見落とすことはできません。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- ノンバイナリーであることを表明。映画『ジュノ』や『X-Men: Days of Future Past』などの出演でオスカーにノミネートされたエレン・ページ(Ellen Page)が、エリオット・ページ(Elliot Page)に改名。トランスジェンダーであり、性別のアイデンティティが男性でも女性でもない人を表現するために使われる「ノンバイナリー」であることを明かしました。
- Huluが共同視聴「Watch Party」を正式にスタート。当初、この機能は2020年5月末に導入され、フールー(Hulu)の「広告なしプラン」契約者のみに提供されていましたが、その後、広告ありの契約者を対象に試験運用されてきました。同機能により、ユーザーが異なる場所から一緒に番組を視聴したり、画面の横にあるグループチャットのインターフェイスでチャットをしたり、視聴している内容に反応したりすることができるようになります。
- クリエイティブで対抗する。LGBTQ+コミュニティ、とくにトランスジェンダーに対する迫害が世界中で増加しているなかで苦境にあえぐ国のひとつが、ハンガリーです。今年初め、政府は、国内でのトランスジェンダーの合法的な移行を阻止する法律を可決し、さらに同性愛者カップルの養子縁組を禁止する法律が制定。この動きに対し、ハンガリーのデザイナー、ファビアン・キス=ユハス(Fabian Kis-Juhasz)は写真家のハンナ・レッドリング(Hanna Redling)とコラボし、新しいファッション雑誌『Audition』を制作しました。
- ラグジュアリーすぎるポータブルシート。ロールス・ロイス(Rolls-Royce)が、8,800ドル(約92万円)の持ち運びできるシート(簡易椅子)を発売しました。ワンタッチで高さ調節が可能で、シート下部には収納式の懐中電灯付き。また、カリナンのトランクフロアに収納されている「レクリエーション・モジュール」と組み合わせて使用することも想定されているといいます。
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