Impact:カーボン・プライシングの今

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Deep Dive: Impact Economy

始まっている未来

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毎週火曜の「Deep Dive」では、今世界が直面しているビジネスの変化を捉えるトピックを深掘りしています。今日は、バイデン次期大統領が財務長官に指名した、元FRB議長のイエレンが支持していることでも話題の「炭素税」についてお届けします(英語版はこちら)。

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Image: REUTERS/Brian Snyder

ジョー・バイデン次期大統領から財務長官に指名された、エコノミストで元FRB(連邦準備制度理事会)議長のジャネット・イエレン。

温室効果ガス排出量を削減する方法として、CO2への課税をミッションに掲げる国際政策研究所であるクライメート・リーダーシップ・カウンシル(Climate Leadership Council)の創設メンバーでもある彼女は、「炭素税」について言及しています。この研究所は、BP、エクソンモービル、シェルなどといったエネルギー企業が支援していることでも知られています。

Former Federal Reserve Chairman Janet Yellen speaks during a panel discussion at the American Economic Association/Allied Social Science Association (ASSA) 2019 meeting in Atlanta, Georgia.
Former Federal Reserve Chair, and current Biden pick for treasury secretary, Janet Yellen.
Image: REUTERS/Christopher Aluka Berry

イエレンは10月、「再分配を伴う炭素税の取り組みは、民主党だけでなく、共和党も支持すると見込んでいます。政治的に不可能なことではありません」とロイターのインタビューに語っていました。

イエレンが支持する計画(PDF)では、毎年5%ずつ増加しているCO2排出量1トンあたり40ドル(約4,200円)の炭素税を提案しており、2021年に実施されれば、2035年までに米国のCO2排出量を半減させることができるといいます。さらに、この計画では、均等な一括配当を通じて、4人家族の場合、年間約2,000ドル(約21万円)に相当する収益を家計に還元できるとのことです。

いま、炭素税を始めとする「カーボン・プライシング」は世界で人気を集めており、米ワシントンでも間もなく話題になりそうです。ここでは、「カーボン・プライシングとはどのようなものなのか?」また、「どの国がすでに導入しているのか?」簡単におさらいします。

What is a carbon tax?

炭素税とは?

炭素税とは、CO2排出に手数料を課す政策で、多くは、トン単位で課税することで、地球温暖化の原因となるCO2排出量を削減することを目的としています。

炭素税は、2つあるカーボン・プライシングに関する政策の1つであり、残るもう1つは、排出量取引制度(ETS)と呼ばれ、「キャップ・アンド・トレード」としても知られています。しかし、この2つの用語は、しばしば混同されており、ETSも「炭素税」と呼ばれるのが一般的です。

また炭素税のなかにも、実際に排出された量に基づいて課税するものと、ガソリンのような温室効果ガス排出を内包する商品やサービスに課税するものの、2つの課税方法が存在します。

How do carbon taxes work?

どう機能するのか?

炭素税を導入するには、いくつかの要素を考慮する必要があります。

⛽️ 誰が課税されるのか?

炭素税は、供給者に課されるのでしょうか?それとも、消費者に課されるのでしょうか?炭素税は、エネルギーのサプライチェーンに紐づく誰もが課税される可能性があります。

💰 金額はいくらになるのか?

税率は何%に設定されるのでしょうか?また、時間が経つにつれ、税率も上がっていくのでしょうか?課税額を上げると、課税される側に、緊急性を伝えることができ、排出量削減に向けたより積極的な変化を促すことができます。

⚡️ 誰が影響を受けるのか?

低所得世帯は、収入に占めるエネルギーへの支出の割合が高い傾向にあり、エネルギー費用を上昇させる炭素税は、貧困層に対して、不均衡な影響を与えることになります。

🌍 収益はどこに行くのか?

課税されたお金は、いくつかの方法で使用することができます。1つの選択肢は、資金の全額または一部を国民に還元する方法です。ほかには、気候変動対策基金やレジリエンススキームに投資することもできます。

Which countries have?

導入している国は?

世界銀行によると、世界の46カ国が、何らかの形でカーボン・プライシングを行っています。こうした取り組みは、世界の温室効果ガス排出量の20%近くをカバーしています。

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米国には、連邦政府によるカーボン・プライシングの政策はありませんが、州レベルの取り組みがいくつか存在します。また、地域レベルで行われているものは、どれも炭素税ではなく、すべて排出量取引制度です。

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Which country has the highest carbon tax?

どの国が1番高い?

世界銀行によると(PDF)、世界で最も高い炭素税を導入しているのは、スウェーデンで、CO2排出量1トンあたり119ドル(約1万2,400円)を課税しています。一方で、メキシコの低率の炭素税や、ポーランド、ウクライナでは、1トンあたり1ドル(約104円)未満と、世界で最も低い炭素税が導入されています。

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しかし、国や政策ごとの価格差の比較は参考になる一方で、直接比較することは難しいという点に注意が必要です。対象とする産業やセクター、料金の配分方法、また個別の免除の有無などによって、それぞれの取り組みのレベルは異なります。

Are carbon taxes effective?

炭素税は有効か?

エコノミストたちは長年にわたり、CO2に価格をつけるというアイデアを熱烈に支持してきました。金銭的なインセンティブを与えれば、企業は排出量削減のために努力するだろうと考えるからです。また、それを裏打ちする理論も存在し、研究者による推計と実際の取り組みの両方で、その有効性が証明されています。しかし、実際には、カーボン・プライシング以外の政策が、排出量削減の大部分を牽引しており、炭素税は補助的な役割にとどまっています。これはどうしてでしょうか?

🛢 対象範囲が限定的だから。

カーボン・プライシングの対象となっているのは、世界の排出量のわずか20%です。

📉 価格設定が低いから。

排出量削減に大きな影響を与えるには、カーボン・プライシングを実施しているほとんどの国で、設定されている価格が低すぎます。

🗳 政策が不人気だから。

カーボン・プライシングは、公共料金の値上げやガソリン価格の上昇を通じて、日々の出費に跳ね返ってくる場合が多く、有権者たちはあまり支持したがりません。これが、低い価格設定を維持し、炭素税が法律になる上での障害になっています。

結論として、炭素税の形であれ、キャップ・アンド・トレード方式であれ、カーボン・プライシングは、有害な温室効果ガスを削減しようとする政策立案者にとって、便利なツールであることに変わりはありません。しかし、それだけでは十分ではないことが証明されています。

 

(翻訳:福田滉平、編集:森川潤)


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