Deep Dive: Impact Economy
始まっている未来
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毎週火曜の「Deep Dive」では、今世界が直面しているビジネスの変化を捉えるトピックを深掘りしています。アップル共同創業者として知られる、スティーブ・ウォズニアック。彼は今、暗号通貨を活用し、温室効果ガス削減に取り組んでいます(英語版はこちら)。
「温室効果ガスの排出量削減」という点において、暗号通貨はとても貢献できそうにありません。というのも、ブロックチェーンベースで構築されたビットコインを例に挙げるなら、同暗号通貨はマイニングするだけでも年間約22メガトンのCO2を排出しているからです(正確な数値を特定するのは困難ですが)。
しかし、アップルの共同創業者であるスティーブ・ウォズニアックは、温室効果ガス排出量の削減を目指ための手段として、暗号通貨の可能性を支持しています。
クラウドファンディングでエネルギーの効率化を進める新たなスタートアップEfforceが立ち上げた独自トークン「WOZX」は、支援者に対し、世界中のエネルギー効率化プロジェクトから得られる利益の一部を配当しています。ウォズニアックは、12月4日の同社の声明のなかで、このクラウドファンディングを使ったアプローチによって、誰もが、成長を続ける2,500億ドル(約26兆円)のエネルギー効率化市場に投資できるようになり、「有意義な環境変化」につなげることができる、と述べています。
これには個人投資家たちも好意的な反応を示しています。Efforceによると、同社はすでに8,000万ドル(約83億円)の評価額で1,800万ドル(約18億6,700万円)の資金調達に成功していますが、「界隈」はさらに熱狂的に受け止めているようです。公開されてから数日の間に、12月2日に1トークンあたり22セント(約23円)だったWOZXは、わずか5日後には、1.50ドル(約155円)以上にまで上昇したのです。
この新しい暗号通貨は投資家にはすでに利益をもたらしています。しかし、「エネルギー効率化産業」を軌道に乗せるためにブロックチェーンが本当に必要なのか、判断はまだできません。
How does WOZX work?
WOZXの仕組み
WOZXを購入すると、エネルギー効率化プロジェクトに参加するための「プロキシ(Proxy)」を購入することになります。プロジェクトの代表的なものとして挙げられているのは、インフラをLED照明や窓ガラス、厚い断熱材、高効率の発電機などにアップグレードするというもの。エネルギーサービス企業は、自分たちが提案するプロジェクトをEfforceに登録し、Efforceは必要な投資額を査定し、期待されるリターンの概要を記した契約書を作成します。
これらのプロジェクトは、投資家(または「コントリビューター」)が購入した「WOZX」で資金を調達し、その取引は分散型のオンライン台帳上──いわゆるブロックチェーンで追跡されます。支援したプロジェクトがインフラのアップグレードを完了すると、スマートメーターに省エネ効果が記録され、その省エネ効果は自動的に「エネルギークレジット」としてWOZX保有者の口座に分配されます。このメガワット時(MWh)のクレジットは、電気代を相殺するために使用したり、Efforceに売却して現金化したりすることができます。
その仕組みは、いかにも複雑に思えるでしょう。それもそのはず、WOZXの購入者は、規制機関から投資家として認められていないため、かくも複雑な資金繰りの工夫が必要なのです。Efforceのような事業体は有価証券を販売することはできず、Efforceのもう一人の共同設立者であるアンドレア・カスティリオーネ(Andrea Castiglione)によると、WOZXのトークンは「厳密には株式ではない」といいます。
the return on energy efficiency
効率化のリターン
現在、公益事業者が発行するオフセット・クレジット(温室効果ガス削減や温室効果ガス吸収量を取引可能にしたもの)は、保有者が自身への請求を直接相殺する権利を付与しているイタリアの一部の事業者のみ認められており、Efforce によると、将来的には、こうした公益事業者の数は増えるともいいます。
多くの人々は、クレジットを売却するか、あるいは時間の経過とともにトークンの価値が上がることでWOZXのリターンを得ることになります。では、「コントリビューター」はどのくらいの収益を期待できるのでしょうか?
カスティリオーネは、省エネプロジェクトは、通常20%程度のリターンを生み出すと主張しており、投資家はその半分のリターンを得ることができると予測しています。しかし、彼は、プロジェクトのリスクや、トークン自体の価値に関して、「投資のリターンは予測可能であると言えますが、それにはリスクが伴います」と語っています。
そのリスクは、Efforceがどのような種類のプロジェクトを選択して登録し、評価するかにもよります。カスティリオーネによると、Efforceは、2021年の第1四半期から開始される、最初のプロジェクト20件を自社で扱うことになるといいます(Efforceの親会社は認可を受けたエネルギーサービス会社です)。最初の2つになると見込まれているプロジェクトは、イタリアにある、9メガワットの産業用の電力・暖房・冷房プラントと、仏南部コート・ダジュールのホテル群です。Efforceは、その後、エネルギーサービス業界のパートナー企業30社に、このプラットフォームを開放する予定です。
really help cut emissions?
本当に役立つのか?
もしこの仕組みが成功すれば、エネルギー効率化市場に、個人による新たな投資が大量に流入し、増大する世界の排出量が急速に削減されるだろう、とEfforceはいいます。
しかし、住宅用太陽光発電の市場であるEnergySageの創設者であり、フィデリティ投信の元副社長であるヴィクラム・アガルワル(Vikram Aggarwal)は、ほとんどのプロジェクトは機関投資家からの資金調達をすることができるはずだと述べ、「どのようにしてリターンを生み出すかという方法論をもっていれば、資本が不足するということは考えられません」と語ります。
例えば、Generate Capitalは最近、エネルギーサービス会社のAlturusを通じて、このようなエネルギー効率化プロジェクトに6億ドル(約620億円)の融資を行うことで合意しました。
言い換えれば、WOZXが必ずしもエネルギー効率化の市場を覆すわけではないということです。
アガルワルは、利用可能なプライベート・エクイティの膨大なプールは、Efforceの暗号通貨によるアプローチの複雑さを正当化するものではないかもしれないと主張しています。「わたしの頭のなかでは、ブロックチェーンは放送禁止の4文字の単語になってしまっています。ここ数年、わたしたちに近づいてきた誰もが、『自分はブロックチェーンの専門家だ』と言っているように見えます」
しかし、ウォズニアックは信じています。「ウォズニアックは、ビットコインが世界の単一通貨になることを望んでいる」とCNBCが報じた2018年以来、彼の暗号通貨への野望は、さまざまな憶測を呼んでいます。その後、英国の男爵夫人が設立した、暗号通貨ベンチャーにウォズニアックが参加したと、『Financial Times』は報じています(このベンチャーは後に破綻しました)。
他の企業がブロックチェーンの取り組みに失敗するなか、ウォズニアックがWOZXを支援していることは、成功の可能性の根拠にもなっています。
2019年、Efforceは5,300万ドル(約55億円)もの資金調達を試み、失敗しています。同社は、この技術が「産業レベル」になるまで、ウォズニアックが共同創業者であることを公表するのを伏せていたと述べています。
現在、Efforceは、上昇するWOZXの価格によって、10億ドル(約1,040億円)以上の評価額になっていると主張しています。
(翻訳:福田滉平、編集:年吉聡太)
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