Deep Dive: New Consumer Society
あたらしい消費社会
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Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週木曜夕方の「Deep Dive」のテーマは、「あたらしい消費のかたち」。今週は、気候変動を意識した買い物の仕方にフォーカス。環境問題とともに生活していくなかで、わたしたちはどのような消費を心がけたら良いのでしょうか? 英語版はこちら(参考)。
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数年前のこと、科学ジャーナリストのティム・デ・シャント(Tim De Chant)は、家族が食料品の買い出しや食事の準備をより簡単にできるように、超低温冷凍庫の購入を検討していました。MIT(マサチューセッツ工科大学)の講師でもある彼は、冷凍庫が稼働しているときにどれだけのエネルギーを使うのかを気にしていて、二酸化炭素排出量を最小限に抑えたいと考えていました。
しかし、米国政府のエネルギースター(省エネルギー型電気製品のための環境ラベリング制度)のデータベースは使い勝手が悪く、かつ時代遅れなもので、スペックを見比べるのにもひと苦労。「良い製品を見つけるのに、2時間かかりました」とデ・シャントは言います。「まともな消費者であれば、そんなことをしたくないはずです」
米国のみならず世界中で「気候変動を差し迫った脅威」と考える人が増えている昨今、彼がしたような経験は、今では一般的なものになりました。地球温暖化を前に多くの人が何かをしたいと思っていますが、世界の政治経済システム全体で起きている「巨大な力」でもあるので、何から手をつけていいのか分かりません。しかし、買い物時の選択は、自分自身でコントロールできるすぐに実行可能なアクションのはずです。
「選択」する機会は、増えています。英リーズ大学と環境保護団体「C40」の昨年の研究によると、世界の大都市のうち、たった94都市の家庭での消費からの排出量が、世界の総二酸化炭素排出量の10%に相当するといいます。しかし、十分な情報を得たうえでしかるべく選択をしようとする意欲がある消費者であっても、それは簡単なことではありません。原材料から製品の使用、廃棄に至るまで、消費者製品のライフサイクルにおける二酸化炭素排出量は複雑で、製造業者の透明性も欠けています。
デ・シャントにとっての解決法は、「FutureProof」というウェブサイトを構築することでした。これは、独立監査を受けた企業の排出量データを分析し、カーボンフットプリントを最小限に抑えた製品をオススメするというものです。さらに、消費活動を変えることで気候変動による影響を抑制したいと考えている人が適切な選択をするのに役立つ、いくつかの指針を掲載しています。
最も重要なことのひとつとしては、消費者の選択だけでは気候問題は解決しないということを認識することです。それは、危機感そのものは変わらないまでも、解放的な考え方でもあるでしょう。
Find your “gateway drug”
ポイントを見つける
「脱炭素化への旅」を始めるには、個人のカーボンフットプリントの計算ツール(The Nature ConservancyやKlimaといったアプリのようなもの)を使って、自分の排出量がまず、どこから来ているのかを知りましょう。
先進国のほとんどの家庭における最大の排出源は、交通、食料、電気。それぞれに「カーボンコンシャス」な買い物の機会がありますが、なかにはお金がかかるものもあります。たとえば、電気自動車(EV)を購入する、動物性食品(とくに牛肉)をあまり食べない、ソーラーパネルを設置する、住宅のエネルギー効率を向上させるための工夫をする、地域のソーラー協同組合に加入する、地元の電力会社が再生可能エネルギーの契約を提供しているかどうかを確認する、などです。
もちろん、すべての人が同じように利用できるわけではありませんし、手ごろな価格で利用できるわけでもありません。大切なのは、二酸化炭素の削減効果の高いものを見つけることにこだわるのではなく、自分のニーズと予算に合ったスタート地点を見つけ、そこから継続していくことです。高価なものを買えるのであれば、それを買えばいいのです。しかし、できなくても心配する必要はありません。というのも、そもそも裕福な家庭の方が二酸化炭素の排出量が多いので、公平性があるからです。
気候学の著者であり、ポッドキャスト「Hot Take」のホストでもあるメアリー・ヘグラー(Mary Heglar)は、「人は自分の『ゲートウェイ・ドラッグ』(気候変動を意識する入り口)を見つけて、それを広げていくべき」と述べています。「常に次は何かを自問自答し、そして、常に別のレベルに進むという事実に“恋”をしていくのです」
Sweat the right small stuff
直感を信じる
EVやソーラーパネルはともかく、より小型の消費者向け製品はどうでしょうか? 地球環境に配慮した判断をするために、最も重要なのは何でしょうか?
最も包括的な答えのひとつは、2020年4月にコロンビア大学のエコノミストが行った研究で、ブルージーンズやパスタ、ラップトップや自動車まで、866種類の消費者製品のライフサイクル排出量のデータを分析したものから来ています。これらのデータはむらがあり、それぞれの業界での測定に一貫性がないため、研究者たちは各製品のカーボンフットプリントを、製品1キログラムあたりの二酸化炭素排出量に換算しました。
二酸化炭素排出原単位が最も大きかったのはコンピュータやハイテク機器でしたが、比較的軽量で耐久性に優れている傾向があるため、最終的に最も多くの排出量であるとは一概に言えません。すべての製品の平均として、製品のライフサイクル総排出量は製品の重量の約6倍であり、排出量のほぼ半分は製品が実際に使用されているあいだではなく、サプライチェーンの「過程」で発生しています。
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研究者は、二酸化炭素排出原単位が業種のなかでもばらつきがあると指摘しています。しかし、繰り返しになりますが、購入したものの排出量をすべて計算する必要はありません。最も自分がやりやすいことを習慣化し、ストレスを溜めないようにしてください。
ときには、「トレードオフ」が必要になることもあります。デ・シャントによると、最近、彼はエネルギー効率の良い洗濯機と乾燥機、そして環境に優しい洗濯洗剤を購入。しかし、その洗剤に含まれている成分が乾燥機の発熱体に粒を蓄積させてしまい、機能が低下していることが分かりました。そこで彼は、従来の洗剤を使っているのです。
「自分の直感で動けばいいのです。一つの製品でいろいろやってみてダメなら、ほかのことを試してみればいい」
Waste less
無駄を省く
もし、先出のチャートが役に立たず、買い物に行き詰ってしまった場合は、廃棄物を参考にしてみるのも悪くないでしょう。米国人は平均して1日に約5ポンド(約2.27kg)の廃棄物を排出しており、リサイクルボックスに入れられたプラスチックのうち、実際にリサイクルされるのは約10%に過ぎません。ですから、どんな製品であっても、使用できる量が少なければ少ないほど良いのです。また、リサイクル素材で作られた製品は、電力消費量が少ないエネルギー効率の良い製品と同様に素晴らしいものです。
しかし、経験から言うと、長く使うためによくつくられた新しい製品をひとつ購入することは、ほとんどの場合、複数の二酸化炭素排出量の少ないものを購入するよりも望ましいでしょう。また、たとえば、環境に配慮した家庭用クリーニング製品を使用しているけれど、従来と同じような効果がなく、より多くの製品を使い果たしてしまった場合は、無駄の少ない選択をするようにしましょう。
Think beyond carbon
先にあるものを考える
二酸化炭素排出量や天然資源の消費量だけが、気候変動に関する問題を考える唯一の方法ではないことを覚えておくとよいでしょう。最終的には、市場、選挙で選ばれた役人、地域社会、そして自分自身に向けて、あなたが将来の経済に何を価値あるものにしたいのかというメッセージを、「お金を払うこと」で発信しているのです。
カーボンフットプリントに加えて、科学的根拠に基づいた気候変動に対する目標を掲げている企業を優先したり、政治献金をしているような企業を避けたりすることも考えてみてはいかがでしょうか。あなたが、排出量が多いにもかかわらず、近くの牧場から牛肉を購入するのは、地元企業を支援することを重視しているからかもしれませんし、気候変動への抗議活動に車で出かけるのは、声を上げることを重視しているからかもしれません。
Make it a mantra—but cut yourself some slack
自分自身を緩める
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結局のところ、気候変動を気にかけた消費はマラソンのようなもので、短距離走ではありません。環境に配慮した製品をひとつ買っただけで満足してしまっては、自分のエゴを満たすだけ。そうではなく、目標は、買い物、読書、会話、投票、住む場所や方法の選択、さらにはキャリアに至るまで、気候変動問題を日常生活の一部にすることです。
「どうすれば健全に、そして常に気候変動問題と向き合うことができるようになるのでしょうか? それは、エンゲージメントを高めれば高めるほど、消費者は支持者になっていくでしょう」ご、ユーザーが当座預金を低炭素産業に投資できるアプリ「アンドー(Ando)」の創設者であるJP マクニール(JP McNeill)は述べています。
同時に、気候変動は個人のせいではないということを覚えておくことが重要だと、ヘグラーは言います。消費者の小さな選択は、エンパワーメントを図ることだと感じるかもしれないですが、たとえば「LED電球を選ばなければ、地球を殺してしまう」という不条理な心配も一緒についてきます。
実際には、気候変動を解決するのは一個人ではまかりなりません。個人のカーボンフットプリントという概念は、2000年代に石油・ガス大手企業で、英ビーピー(BP)のマーケティングキャンペーンとして始まりました。
「人々は圧倒され、非常に罪悪感を感じています。なぜなら、わたしたちは自分たちのせいだと、この環境問題の物語を強制的に植え付けられたからです」と、ヘグラーは言います。
彼女は気候変動対策をヨガのクラスに例えました。「重要なのは練習することであって、毎回すべてのポーズを完璧にこなすことではありません。周りを見渡してみると、他の人も汗だくになりながらポーズが安定していないので、チャレンジ全体がよりやりやすいものに感じます」
「個人として見ると、怖い感じがします。しかし、消費者の行動に焦点を当てれば、自分だけがやっているわけではないということを理解するだけで、プレッシャーはかなり軽減されます」と、ヘグラーは話します。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- マリファナといえばあのラッパー。スヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)が共同で設立したカーサ・ベルデ・キャピタル(Casa Verde Capital)は、大麻業界の拡大に伴い、1億ドル(約103億円)の資金調達を行いました。マネージングディレクターのカラン・ワドヘラ(Karan Wadhera)は7月に、「大麻業界は3〜5月には記録的な売上を記録し、その傾向は続いている」と述べていて、米国における市場はポジティブなものになると予想されています。
- 政治家を次々とアンフォロー? TwitterのCEOジャック・ドーシーが、自身のソーシャルメディアプラットフォーム上でドナルド・トランプ大統領とジョー・バイデン次期大統領のアカウントのフォローを外したと報じられています。また、カマラ・ハリス副大統領とイヴァンカ・トランプのアカウントのフォローもやめたようです。
- 「Year in TikTok」を見てみよう。アプリを初めて利用する人や、グローバルコミュニティで最も人気のあるものに興味がある人のために、TikTokは独自の「トップ100」を紹介しています。バイラルビデオ、トレンド、ハッシュタグ、チャレンジ、クリエイター、セレブリティ、歌、特殊効果などで2020年を振り返ることができます。
- モンクレールの「中国頼み」。モンクレール(Moncler)は、パンデミックで失った売上を取り戻すため、若い消費者と中国市場に賭けているようです。同社は先日、同じようにダウンジャケットを展開しZ世代に人気のストーン・アイランド(Stone Island)を買収したばかり。なお、中国の消費者は、2025年までに世界の高級品の売上高のほぼ半分を占めると予測されています。
(翻訳・編集:福津くるみ)
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