Deep Dive: Crossing the borders
グローバル経済の地政学
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果たして今年、延期された東京オリンピックは開催されるのでしょうか。今日は、現状を把握するレポートをお送りします。毎週水曜夕方のニュースレター「Deep Dive」では、国境を越えて動き続けているビジネスの変化を捉えるトピックを深掘りしています(英語版はこちら)。
昨年、2020年の夏季オリンピック開催を翌年に延期しなければならないことが明らかになったとき、日本のある高官がオリンピックの「呪い」について漏らしていたのを思い出します。東京でコロナウイルス感染者数が増加し、再び非常事態宣言下に追い込まれている2021年のいま、本当にオリンピックが開催されるのかと疑問に思うのも当然です。
本来であれば、オリンピック競技は2020年7月24日から8月9日までの期間に開催されることになっていました。しかし、複数の国がパンデミックの真っ只中の日本に選手を送ることを躊躇し、延期。日本では、ホスト国として4,000万人の観光客誘致が期待されていましたが、2020年の旅行客は辛うじて400万人を越える程度でした。これは、1998年以来、見られなかった水準です。
昨年3月、延期が決定された時点では、競技は今年7月23日に始まり、8月24日からはパラリンピックの開催が予定されています。
like the early months of 2020
まるで昨年と同じよう
国際オリンピック委員会(IOC)および日本がこれ以上の変更、あるいは完全な中止を検討するかといわれれば、日本にとってこの大会のもつ重要性と支出額を考えると、それは「考えられないこと」かもしれません。1年間の延期によって、約30億ドルの大会コストは154億ドル(約1.6兆円)にまで跳ね上がっています。
実際のところ、世界では昨年12月には複数の国でワクチンに承認が下り、さらに症例数が少ないいくつかの地域では対面でのスポーツイベントが試験的に実施されました。オリンピックのような大規模な対面イベント開催の可能性について、楽観的な見方が強まっていたのも事実です。
11月に来日したIOCのトーマス・バッハ会長は、観客参加も可能ではないかとの期待感を示し、5月にも外国人選手を含むテストイベントを開催することが公式に発表されてもいました。
しかし、2021 年は、コロナウイルス変異種の発生とともにスタートしました。結果として、ロックダウンや旅行に対する制限、そしてさらなる不確実性の波が世界を覆っています。新年早々、世界はまるで2020年第1四半期のときと同じ雰囲気に包まれています。
日本を含む北半球でのコロナウイルス感染者数は、昨年11月に急増を始めました。そして、英国・南アフリカのように、感染増加と変異種とがリンクしているケースも起きています。
10月、日本は一部の外国人旅行者(観光客ではなくビジネス渡航者)の受け入れを開始しましたが、今年に入り再び旅行規制を強化し、先週7日には東京を含む首都圏1都3県を対象とする1カ月間の緊急事態宣言を発表しています。10日には、ブラジルから羽田空港に到着した4人から新たな変異種が検出されたことが発表されました。
感染者数が増加するなか、オリンピック競技に対する市民の反対も増しています。
昨年11 月、バッハIOC会長来日の際には、テレビ朝日の世論調査において回答者の約 60%が競技の再延期またはキャンセルすべきだと回答していますが、10日に共同通信が発表した新しい世論調査によると、その値は80%に上昇していたことがわかりました(日本国民は、世界中から日本を訪れる選手数千人の健康に対する影響を憂慮しているようです)。
11月、バッハ会長は、日本を訪れるすべての関係者に対してワクチン接種を行うと語っていましたが、それは必ずしも「必須」を意味するわけではありません。
the ongoing elephant in the room
ゆるみすぎた安全対策
日本政府は、2021年4月以降の海外からの観光旅行客の受け入れ再開を目指していたようですが、その安全対策案は、あまりにも緩和されすぎているようにみえます。計画では、日本に向かう飛行機の搭乗前と到着時に旅行者への検査を実施し、隔離する代わりに接触確認アプリをダウンロードさせることが含まれていました。
日本はまた、ワクチンに対する強い抵抗感への対処にも追われています。日本では、2月下旬に約1万人の医療従事者にワクチン接種を、さらに3月には高齢者を対象にした接種を開始する予定ですが、ある世論調査によると、3分の1以上がワクチンを受けたくないと答えています。
こうした懸念を合わせて考えると、アスリートの訪日を妨げる要因はあまりに多く、日本は彼らを「歓迎」できるとはとてもいえないでしょう。
先週、IOCのカナダ人メンバーであるリチャード・パウンド(Richard Pound)は、この状況について「誰も触れたがらないが、ウイルス急増は進行中だ」とBBCに説明し、オリンピック開催が計画通りに進むかどうか確信できないと述べています。
東京五輪組織委員会にコメントを求めましたが、返答は得られませんでした。
東京オリンピックが開催中止となった場合、日本が主催するはずのオリンピックが開催されずに終わったのは歴史的にみると、3回目になります。1940年、日本は夏季および冬季オリンピックの招致を勝ち取りましたが、第二次世界大戦のため、両オリンピックは中止となりました。日本は最終的に1964年、夏季オリンピックを開催することになりました。
This week’s top stories
今週の注目ニュース
- ブレグジットの「数字」。昨年末に移行期間を終え、ブレグジットを「完了」させた英国。年末に行われた会見で、首相のボリス・ジョンソンは「EUを離脱しても、英国は文化的、感情的、歴史的、戦略的、地理的にヨーロッパとの結びつきを維持する」と宣言しています。2019年の英国とEU間での年間の輸出入額は9,100億ドル。EYによると、英国からEUに移転した金融サービス会社の資産額は1.6兆ドルと試算されています。
- 英国の失敗。ブレグジット完了直前、年末の英国で発見されたコロナウイルスの変異株について、研究者たちはいくつかのデータを報告しています。同国での感染拡大について、濃厚接触者追跡システムの不徹底や検査体制の不備、旅行者に対する官吏不足が指摘されている英国。11日現在での感染者数は307万2,349人、死者数は8万1,431人に上ります。
- ワクチン接種「爆速」の中東諸国。オックスフォード大学と英国の非営利団体「Global Change Data Lab」とのパートナーシップ「OurWorldInData」の調査によると、世界でも人口に対するワクチン接種率が高いのは、イスラエル、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンの3国。それぞれ人口の20.93%、10.99%、5.25%に予防接種を実施しています。昨年12月に接種開始した米国でも接種率は2.02%で、デンマーク、英国はそれぞれ1.98%、1.94%と後れを取っています。アラブ諸国におけるスピード感の背景には、国民皆保険制度の存在や、一元化された医療データの存在が挙げられています。
(翻訳:岡千尋、編集:年吉聡太)
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