Startup:家賃が投資になる、新しい「住み方」

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Deep Dive: Next Startups

次のスタートアップ

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Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也さんのナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。今週は、賃貸住まいに新たな選択肢を提示する、不動産フィンテックを紹介します。

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持ち家と賃貸、どちらが得か──。永遠の論争テーマですが、これは日本だけでなく世界共通の問題です。地価が高騰するエリアでは、借りるにしても購入するにしても住宅にかかる費用は莫大で、消費者は大きな負担を強いられます。

そんななか、不動産を「借りる」と「買う」の中間の、新たな暮らしのかたちを提案するサービスがアメリカで誕生しています。

今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、不動産 × 資産運用の新たなサービスを提供するRhoveを取り上げます。

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Image: RHOVE

Rhove
・創業:2018年
・創業者:Calvin Cooper, Jon Slemp, Jonathan Nutt, Scott Sumi
・調達総額:不明
・事業内容:借り主が住んでいる不動産に投資できる「Rentership」の開発

EITHER WAY, HELL

買うも地獄、借りるも地獄

アメリカでは若者が一生で家賃に費やすのは20万ドル(約2,100万円)以上。ほとんどの米国人は、財産にもならない家賃に収入の3分の1を持っていかれる現状です。

学生ローンで借金している人も多く、銀行口座に400ドル(約4万円)もないアメリカ人が40%存在するような状況では、持ち家も簡単には手が届きません。もはや住宅購入は資産ではなく負債で、ローンの支払いが滞れば差し押さえの可能性もあります。

日本もアメリカも、家賃や不動産価格は大幅に上昇しても、労働者の給与はたいして上がっていません。いまや若者にとって持ち家は、手の届かない夢物語になってしまいました。

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WHAT IS RENTORSHIP?

レンターシップとは?

家も買えず、家賃を払い続け、手元に何も残らない……。これまで当然だった不条理にメスを入れたのが、Rhoveが提供する「レンターシップ(Rentership = Rent + Ownership)」です。借り主が住んでいる不動産の一部を所有できるようにする不動産フィンテックで、賃貸入居者とオーナーの富の境界線を崩すサービスです。

レンターシップが適用された住宅の借り主は通常の賃貸物件と同様に家賃を払います。違いは、毎月少しずつ、自分が賃貸で住んでいる家の「持ち分」をもらえる点です。

家賃から天引きされる形で、賃貸している家に投資するイメージです。年利5%の利息も付いて、複利で持ち分は増えていきます。退去後も持ち分は保有し続けられ、物件が売られた場合には値上がり益も得られます。引っ越す際に返金して欲しい場合は、ペナルティなしでいつでも買い戻ししてくれます。

投信や株ではなく、自分が今、借りて住んでいる家の一部を買う。持ち分の価値や利息などはアプリで管理できます。資産形成をしながら、住んでいる家が少しずつ自分のものになっていく感覚です。

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Image: PHOTO BIA RHOVE.COM

通常の賃貸では、自分の借りている家の不動産価値が上がっても、メリットはオーナーが独占的に享受するだけ。借主には、家賃や周辺の物価が上がるデメリットしかありませんでした。

一方、集合住宅の住み心地は単に建物のグレードや立地だけでなく、住人同士の付き合いなどソフト価値の要素も大きいはず。そこで生活を営む借り主はその土地やマンションという「コミュニティの構成員」であり、不動産価値上昇の恩恵に預かる権利があるはずです。

Rhove は“Rent to Earn”(稼ぎながら借りる)を提唱し、借り主を家賃を収めるだけの存在から、その物件に深い関係性をもつステイクホルダーの一人に変えたのです。

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Image: PHOTO BIA RHOVE.COM

一方、物件のオーナーにもうまみがあります。入居者の愛着が湧くことで空室率を抑えることができます。物件価値が上がって家賃が上がっても、入居者の持ち分の価値も上がっているので納得感が生まれ、解約を食い止めることが可能です。

CLOSING THE WEALTH GAP

富のギャップをくい止める

創業者兼CEOはオハイオ州コロンバスの黒人起業家、カルビン・クーパー(Calvin Cooper)。起業支援やVCの経験をもち、Nasdaq Entrepreneurial Center でアドバイザーも務めながら、ホームオーナーシップの拡大をミッションに、慈善活動と持続可能性を開発する不動産デベロッパーのブレット・カウフマン(Brett Kaufman)とともに、2018年にRhoveを立ち上げます。

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Image: カルビン・クーパー PHOTO BIA NASDAQ.COM

クーパーはかねてから、貧困層と富裕層の富のギャップの拡大に問題意識を抱いていました。ミレニアル世代の純資産が平均でマイナスの現状では、持ち家を購入するのは難しい。この問題を解決しない限り、「富のギャップ拡大は永遠に続き、結果、私たちの民主主義の脅威になる」と、警鐘を鳴らします。

賃貸と所有の二者択一でなく、新たな仕組みが必要だと考えた末に閃いたのが、賃貸人を所有者に変える、レンターシップのアイディアでした。

昨年7月に共同創業者であるカウフマンが運営する集合住宅「Gravity(グラビティ)」の入居者を対象に、レンターシップの運用を開始しました。

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Image: PHOTO BIA RHOVE.COM

クーパーは、「集合住宅の所有権の創造は、市民権と社会的責任をも巻き込んだ不動産のパラダイムシフトだ」と語ります。

A NEW WAY TO LIVE

新しい「住み方」

Rhoveのほかにも、富の配分ギャップの改善を目指し、「住み方」から挑戦するnico(ニコ)というスタートアップがあります。

「住宅市場は壊れている。持ち家は普通の人に手の届かない存在であり、家を借りることはお金をドブに投げ捨てるようなものだ。間を埋めるような、第3の選択肢があっていい」と共同創業者兼CEOのマックス・レヴィン(Max Levin)は語ります。

nicoはLAで「Echo Park Building(エコー・パーク)」という3棟からなるアパートメントを運営しています。住人が持ち分をもらえる点はRhoveと同じですが、違いはnicoが社会問題の解決を目指す企業に与えられる「B corp(ビーコープ)」の認証を取得している点。 nicoは、利回りの最大化を目指した都市開発ではなく、住人コミュニティへの利益還元を目指したソーシャルな存在なのです。

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Image: PHOTO BIA MEDIUM.COM/@nicoechopark

密から疎へ。リモートワークの常態化、そしてコロナで一層拡大する富のギャップが「持ち家」か「賃貸」の境界線を溶かし、第3の選択肢の提示を迫っているかもしれません。「レンターシップ」が市民権を得ることができるか、今後に注目です。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. イーロン・マスクと輿水幸子。テスラのCEOイーロン・マスクは先週、突如、人気ゲーム「アイドルマスター」のキャラクターのひとり、輿水幸子の画像をTwitterに投稿し、世界中で話題に。輿水幸子がマスクの「推し」なのか、投稿の真意は定かではありません。
  2. WatchTowerが社名を変更。福利厚生システムを開発するウォッチタワー(WatchTower)は、新年を迎えたのを機にスリータワー(ThreeFlow)へ名称を変更。同時にシリーズAでの800万ドル(約8億3,000万円)の資金調達を発表しました。
  3. もしもペットの気持ちがわかるなら。韓国発のスタートアップ、ペットプラス(PetpulsLab)が、犬の感情を読み取る首輪を開発しました。50種類の犬種から収集した1万のサンプルデータを元に、吠え声を分析。5つの感情が色別でデバイスに表示されます。
  4. 給与所得者としての安定は「幻想」。雇用の不安が常態化する米国では、不況による精神的苦痛が広まっています。一見、安定しているように見える大きな組織の従業員でも、社内でレイオフの噂が囁かれ実行されるまで、はっきりしない状況下で受けるストレスは深刻なもの。63カ国を対象にした調査では、失業率が悪化する半年前に自殺が増えると報告されています。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)


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