Deep Dive: New Cool
これからのクール
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Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週金曜夕方の「Deep Dive」は、今、そしてこれから世界で起きるビジネス変革の背景にあるカルチャーを深掘りします。今日は、成長を続ける男性用のコスメ業界にフォーカスし、流行の背景にあるものと進化の先を追います。
最近耳にする機会の多い「メンズコスメ」。男性向けといえば、身だしなみケアを意味する「グルーミング」を思い浮かべるかもしれませんが、いまとくに話題になっているのは、「スキンケア」や「メイクアップ」といった女性が普段使っているものに近いアイテムです。
ロンドン在住の28歳のある男性は、スキンケア製品を使い始めてからすでに4年弱になるといいます。「化粧品会社勤めの知人に薦められたのがきっかけで、スキンケアを始めました。半信半疑でしたが、出社した際、肌がキレイだと褒められて嬉しくなったので、継続することにしました」
Grand View Researchの最新レポートによると、世界の男性用スキンケア製品市場は2027年までに189億2,000万ドル(約1.96兆円)に達すると予測されています。
ユーロモニター(Euromonitor)が実施した調査では、米国の男性回答者の56%以上が、2018年にファンデーション、コンシーラー、BBクリームのような何らかのフェイス用コスメを少なくとも一度は使用したことがあるといいます。また、2019年に行ったモーニング・コンサルト(Morning Consult)の世論調査によると、米国の30歳以下の男性の3分の1が「メイクにトライしたい」と回答しています。
なぜ、男性向けのコスメ市場は拡大し続け、そしてどのような現象が起こっているのでしょうか?
Digital World
デジタル世界への憧れ
男性のスキンケアやメイクアップが浸透し始めたのは、Instagramの普及と、BTSのようなK-POP(ステージでフルフェイスのメイクをする)の人気、そしてジェフリー・スター(Jeffree Star)やジェームズ・チャールズ(James Charles)のようなメンズビューティに特化したインフルエンサーが、男性がメイクすることを「OK」にしたことから生まれたものだといえるでしょう。
もちろん、男性とメイクの歴史は決して新しいものではありません。古代エジプトに始まり(病気を防ぐためにアイライナーを引く)、1970〜80年代にはボーイ・ジョージ(Boy George)、デヴィッド・ボウイ(David Bowie)、プリンス(Prince)などに代表されるスタイルが流行、そして、K-POPブームの現代に至ります。
しかし、かつてメイクとはセクシュアリティの境界線を曖昧に見せるものだった一方、現代においては「デジタル上でクールに見せること」が主な目的になっているように感じられます。セルフィーはもちろんのこと、オンラインデートが珍しいものではなくなり、ソーシャル上では「いいね!」を獲得しなければならないなど、とにかくデジタル上でどのように自身を見せるかが重要になっているのです。
ZOOMING
Zoom効果で「隠す」
パンデミック中にも成長を続けた、メンズコスメ業界。そのひとつに『Zoom』の影響を挙げる声があります。
市場分析会社Mozのデータによると、「male make-up looks」の語でのウェブ検索は、パンデミック真っ最中の2020年4月には前年同時期に比べて約80%増加。「赤みをカバーする」「ニキビを隠す」「目の下の袋を隠す」などの検索が増えました。これが、まさにWFHで定着したオンライン会議による結果と言えるでしょう。
「男性の身だしなみ製品は、このパンデミックで信じられないほどの成長を遂げています」と、米国のドラッグストア「CVS」のビューティ・パーソナルケア担当副社長のマーリー・バーンスタイン(Maly Bernstein)は『The Gurdian』に対して話します。CVSは、2,000の店舗で男性用メイクアップライン「ストリックス(Stryx)」をラインアップに加えました。
Stryxの創業者でありCEOでもあるデヴィア・カハーン(Devir Kahan)は、ブランドローンチのきっかけとして、結婚式の日にニキビに気づいたことを挙げています。「結婚式でなくても、就職面接やプレゼン、会議やピッチミーティングでもきちんとした顔を見せることができる。そして、いったん始めたら、魔法のように感じるのです」と、『NRF』に対して語っています。
ニキビができやすい肌を隠すために、10代の頃からメイクを始めたというダニー・グレイ(Danny Gray)が手掛ける、英国発のメンズコスメブランド「ウォーペイント(WAR PAINT.)」。同ブランドは、2020年6月に過去最高の売上を記録したといいます(こちらのブランドは現在、日本でも購入可能)。
IN CHINA
中国の市場は?
コスメ業界というと、やはり、K-POP人気が止まない韓国やビューティ大国である中国を無視することはできません。コンサルティング会社Daxue Consultingが発信していた記事に興味深い記述を見つけました。
Euromonitorによると、2016年から2019年にかけて、中国におけるメンズビューティ市場は年平均13.5%で成長し、世界平均の5.8%をはるかに上回っているといいます。
とくに、ソーシャルメディア上での、ビューティ関連コンテンツの議論に参加する男性消費者が近年増加。データによると、美容関連キーワード(「化粧品」「メイクアップ」「男性用スキンケア」「男性用メイクアップ」)に言及した男性のウェイボー(Weibo、微博)ユーザーの割合は、2014年から2018年のあいだにほぼ倍増したといいます。
また、中国のSNS型ECアプリ「シャオフォンシュウ(Xiaohongshu、小紅書、別名:Red)」のデータによると「パーソナルケア」のコンテンツが最も伸び率が高く、次いで「ネイルオイル」「フレグランス」の順となっています。
こういった中国のメンズビューティ市場の活況に伴い、男性がメイクをするべきかどうかについての議論が、「ソーフー(Sohu、搜狐)」で話題になっています。
Daxue Consultingによると、メイクは自分の外見を高めるための手段に過ぎず、多くの男性はメイクをした方がよく見えると主張する支持者がいる一方で、男性がメイクをするのは女性的であると、保守的に考える人もいるといいます。
とはいえ、こういった議論が起こること自体が中国におけるメンズビューティへの高い関心の表れであるといえるでしょう。
また、若い消費者が中国のメンズビューティ市場を支えていることも分かっています。21~25歳の若い男性は2017年以降、26~30歳のメンズビューティの消費者を徐々に追い抜き、オンラインにおける市場で最大勢力となっています。
ちなみに、パンデミック以前、ECサイトの「タオバオ(Taobao、淘宝網)」や「ティエンマオ(Tmall、天猫)」では、2019年、男性用のスキンケア商品が非常に高い売上を記録していました。しかし、パンデミックが発生したあとはスキンケア、メイクアップともに、2020年の最初の2カ月間は売上が減少。その後、現在は市場が回復しているといいます。メイクアップ製品のオンライン販売は横ばいですが、スキンケア製品とパーソナルケア製品は男性のあいだでより必需品とみなされているため、より早く回復しています。
中国の消費者のあいだでは、とくに軽い化粧品や防水性のある製品が好まれるといいます。市場に出回っている彼らの専門メイクは、ファンデーション、コンシーラー、アイブロウペンシルなど、よりベーシックなもの。その理由は、ほとんどの男性がより洗練された見た目を好み、大げさなものを求めていないからです。
例えば、調査会社Statistaによると、2018年、Tmallにおける男性ビューティブランドのアイブロウペンシルの売上高は、女性やジェンダーニュートラルなブランドのアイブロウペンシルの売上高が46%増だったのに対し、前年比214%増という数字になっています。
CELEBRITIES MATTER
男性セレブも参入
これまでは女性のセレブリティが主導となっていたビューティ業界も、男性のセレブリティがパフュームのライセンス契約やスポンサーシップを超えて、自身のブランドの立ち上げをスタートしています。
2020年11月には、ファレル・ウィリアムズ(Pharrell Williams)がヴィーガンにも対応したジェンダーレスなコスメブランド「ヒューマンレイス(Humanrace)」をローンチ。また、俳優のイドリス・エルバ(Idris Elba)は自身の妻とライフスタイルブランド「S’able Labs」、カラモ・ブラウン(Karamo Brown)は、2020年2月に共同創業者のピーター・リッチ(Peter Ricci)とアイリーン・コング(Irene Kong)と共に男性向けのコスメブランド「マントル(Mantl)」(2020年6月にDTCを売却し、Nordstromと提携)、ボリウッドのスターであるサルマン・カーン(Salman Khan)は、D2Cのパーソナルケアブランド「フラッシュ(Frsh)」をデビューさせました。
IN POLITICS
政治家だってメイク
政治家も、映像を見ているとメイクアップ製品を使用していることが一目瞭然です。
2017年には、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が3カ月間で2万6,000ユーロ(約327万円)をメイクアップに費やしたことが明らかになり、『Washington Post』の記事では、ドナルド・トランプ元大統領がコスパのいい明るい色合いのコンシーラー(Nutmeg WPF06 Waterproof foundation)を使っていると指摘されています(もっともトランプ自身は毎日メイクをしていると認めたことはないと、『Vox』は報じています。タフでマッチョなイメージと一致しないからだとも考えられます)。
NEW GENERATION
ジェンダーニュートラル
最近のデータでは、新世代の美容消費者はノンバイナリーなアプローチを好むことが示唆されています。NPDのレポート「iGen Beauty Consumer」によると、18~22歳の約40%がジェンダーニュートラルなビューティ製品に興味を示していることが明らかになっています。
とくに、ジェンダーニュートラルの問題は、ブランドがターゲットとしている若年層の顧客にとって非常に重要です。2019年のピュー・リサーチ・センター(Pew Research Centre)のレポートによると、GenZの35%が、「ジェンダーニュートラル」という言葉に馴染みがあるという結果に(ミレニアル世代は25%)。また、先出のメンズビューティに特化したインフルエンサーたちが、GenZにとってのジェンダーニュートラルな顔を再定義しているともいえるでしょう。
とはいえ、多様性、ジェンダーニュートラル、インクルージョンなど、さまざまなトピックが社会問題として取り上げられているなか、ビューティ業界ではジェンダーについてどのように話すべきかを模索しています。
『Business of Fashion』によると、最大手のメイクアップブランドやグルーミングブランドの多くは、パッケージやマーケティングによってステレオタイプの「男性」や「女性」と即座に識別できるようになっています。しかし、多くの新製品はどちらかの性別を明示的にターゲットにせずに発売されており、なかにはジェンダーの流動性の概念を受け入れているものもあるといいます。
ジェンダーを受け入れるブランドは、2つのアプローチを取る傾向があります。クィアやマイノリティの顧客に向けてマーケティングを行うブランドもあれば、少なくともそのようなコミュニティのメンバーをマーケティングのために利用するブランドもあります。
また、ジェンダーを完全に無視して、普遍的な訴求力をもつマーケティングやパッケージをつくるブランドもあります。たとえば、カナダ発のコスメブランド「The Ordinary.」は成分を目立たせたり、ラベルも同様にジェンダーニュートラルなものに統一させ、洗練させた雰囲気に見せています。
セレブリティもジェンダーニュートラルにシフトしていて、先出のファレル同様に、ボディポジティブやジェンダーレスを唱えるリアーナ(Rihanna)も、スキンケアブランド「フェンティスキン(FENTY SKIN)」を2020年7月にローンチ。
ほかにも、ロンドン発の「ワイルド・コスメティックス(Wild Cosmetics)」は、2019年8月、英国初の詰め替え可能なプラスチックフリーのデオドラントを発売。ジェンダーニュートラルかつサステイナブルなアプローチで、約220万ユーロ(約2.76億円)をシードラウンドで資金調達しています。
ビューティ業界と社会問題がより密接になってきてきたいま、男性にとってもコスメがより身近なものになってきていることは、間違いないのです。
What to watch for
バズったサンダース
バイデン大統領就任式(inauguration)が無事に行われた一方、ネット上では出席したバーニー・サンダースの姿が話題になっています。ファッションメディアはこぞって彼の着こなしを紹介し、『Highsnobiety』ではいち早く、サンダースの服装を真似られるようなルックをInstagramで公開しました。注目を集めているのは、なんとも味のあるフェアアイル柄の手袋。サンダースの絶妙なセンスに、好意的な声がたくさん上がっています。今年の冬は「サンダースルック」が人気になりそう?
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