Society: 未来のクルマとメディテーション

LINCOLN

Deep Dive: New Consumer Society

あたらしい消費社会

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Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週木曜夕方の「Deep Dive」のテーマは、「あたらしい消費のかたち」。コロナ禍で自動車利用が拡大するなか、車内の空間は今、マインドフルネスを実現する場所へとシフトし始めているようです。 英語版はこちら(参考)。

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座ってシートベルトを締め、キーを取り出し、目を閉じて深呼吸──。

クルマの中が「やすらぎの場所」になっているさまを想像してみてください。そのとき人は、運転に伴う騒音やストレスから解放されているかもしれません。座っているあいだ、元気になったり気持ちが穏やかになったりしているかもしれません。あるいは、世界の平和を想像しているかもしれません。

夢想家だと言うかも知れませんが、これは今日、多くの自動車メーカーが追求している未来図です。快適性や安全性以上に、メーカーはドライバーや乗客の身体的、そしてメンタルヘルスを全体的に改善する方法を模索しています。

health, wellness, and well-being

クルマで座禅する

いま自動車業界では、「ヘルス・ウェルネス・ウェルビーイング」(HWW)がイノベーションにつながる刺激的な領域として注目されています。

キア(Kia、起亜自動車)とヒュンダイ(Hyundai、現代自動車)はドライバーの感情状態に反応するAIを搭載したコンセプトカーを開発し、アウディ(Audi)はイタリアのフィットネスメーカーのテクノジム(Technogym)と提携して車内を移動式のフィットネススタジオに変える「ウェルネスモード」をデザイン。メルセデス・ベンツ(Mercedes Benz)には心地よい香りをつくり出す未来学者が参画し、BMWの最新モデルのプログラムには「セルフケア・コンシェルジュ」が搭載されています。リンカーン(Lincoln)は、無料アプリのサブスクリプションを利用して、車内を「座禅」の場に変えようとしています。

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Image: SABINE ENGELHARDT PHOTO VIA MERCEDES-BENZ

クルマのデザインと人の健康とを関連づける動きは、空気中を漂うウイルスに対する意識が高まるなかで、さらに重要性を増しています。昨年3月、COVID-19の脅威が明らかになったばかりのころ、ジャガー・ランドローバー(Jaguar Land Rover)は、風邪やインフルエンザの蔓延を防ぐための、クルマのインテリアにUVライト技術を使用した研究を発表しました。

市場調査会社フロスト&サリバン(Frost & Sullivan)のマネージングパートナーであるサーワント・シン(Sarwant Singh)は、COVID-19の影響で、「健康に良いクルマ」を求める声に拍車がかかっているといいます。『Forbes』は、2015年に導入された当時には嘲笑の的になったテスラ(Tesla)の空気ろ過システムが、パンデミックの最中に突然、実用的なものになったことについて説明。「テスラのModel Xの『生物兵器防衛モード』は単なる宣伝文句ではなく、車内を軍事レベルの生物兵器による攻撃から文字通り避けることができます」

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Image: REUTERS/STEPHEN LAM

「大げさではなく、それはCOVID-19の時代に共鳴する何かだといえるでしょう。とくにフィルターは、最上級の自動車用フィルターよりも100倍以上強力であると謳われており、細かい粒子状物質とガス状汚染物質の少なくとも99.97%、細菌、ウイルス、花粉、およびカビ胞子を除去します」

カリフォルニア州のテスラのオーナーも、昨年の猛威を振るった山火事の際に、この機能がいかに有用だったかを証言しています。シンは、2025年までにヘルスとウェルネスが業界全体の一般的なテーマになると予測しています。

Driving home the message

「超」リラックス

リンカーン・モーター・カンパニー(Lincoln Motor Company)は、ヘルスとウェルネスについてのメッセージを伝えようと非常に熱心に取り組んでいます。その長い歴史において馬力と重量感をアピールすることで知られていたリンカーンですが、近年、その路線は明らかにソフトなものに変わりました。たとえば、エントリーレベルのSUVの広告キャンペーンでは、ハーマンミラー(Herman Miller)による人間工学に基づいたシート没入感のあるエンタテイメントシステム無駄のないインテリアが強調されています。

車内のサウンドは、デトロイト交響楽団が作曲した心地よいチャイムへアップデート。リンカーンが実践しているセレブのスポークスパーソン戦略は、デニス・ホッパー(Dennis Hopper)の男っぽい感じから、マシュー・マコノヒー(Matthew McConaughey)の落ち着いたチルな雰囲気へと変わりました。

リンカーンのデザインディレクターであるケマル・キュリック(Kemal Curić)は、これらの特徴は「静かな飛行」を表現しているのだと言います。これは、数十年にわたって自動車業界を定義してきたアグレッシブかつ性能を重視したテーマに対抗するために、リンカーンが2014年に採用した原則です。「美しさ、『滑空』、人間性、そして手の込んだ安らぎの場という4つの柱に全社を挙げて挑戦しています」とキュリックは説明。彼は、「超リラックスできるスパのような環境」をつくることを目指していると話します。

リンカーンが目指すウェルネス分野での位置づけは、自動車の枠を超えているともいえます。車内に内蔵された機能だけでなく、リンカーンはヨガクラスや書籍イベントのスポンサーを務め、グープ(Goop)のチーフコンテンツオフィサーが司会を務める、コロナウイルスをテーマにしたマインドフルネスワークショップまで開催しています。また、昨年8月からは、リンカーンの顧客全員が瞑想・睡眠アプリ「カーム(Calm)」を1年間無料で利用できるようになりました。

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Image: VIRTUAL WELLNESS CONVERSATION WITH MATTHEW MCCONAUGHEY & CALM | LINCOLN

リンカーンにとって、Calmとの提携は単なる顧客特典ではありません。ウェルネス志向の高級車ブランドとしての地位を確立するための取り組みとして、要となるものです。

そのために、同社はマコノヒーというエンドーサー(企業のブランドを保証する立場)までも起用。リンカーンのマーケティングコミュニケーションマネジャーであるエリック・ピーターソン(Eric Peterson)は、「我々の顧客やターゲット顧客の多くが、マインドフルネスを日常生活の一部にしていることを目の当たりにしました。Calmを提供することは、むしろ彼らのライフスタイルに合わせているのです」と話します。

運転中にマインドフルネスを実践するのは、とくに多忙な職業の人にとって魅力的です。マルチタスクの実践者たちは、エンジンをかける前の数分間で自分の心を集中させています(電気自動車の所有者であれば、充電中にも)。「毎日の通勤は、心を鍛える絶好の機会です。そして、マインドフルネスとはつまるところ心のトレーニングなのです」と、『Mindful Leadership』の著者であるマリア・ゴンザレス(Maria Gonzalez)は、『Harvard Business Review』にて説明しています。

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「集中力を高めて落ち着きとリラクゼーションを生み出し、1日の準備が整えばリフレッシュしてオフィスに到着し、1日の終わりには夜を楽しむために家に帰ります。わたしたちは1日に2回通勤のために移動していますが、それは新しい習慣を身につける強力な機会です」とゴンザレスは言います。彼は、マインドフルネスは運転中でも安全に行うことができると主張していますが、ちなみに、Calmと競合しているヘッドスペース(Headspace)には、マインドフルネスのモジュール、呼吸法の練習、通勤者のためのポッドキャストも提供してます。

瞑想をせずとも、クルマの所有者の一部は「自身を落ち着かせるためにクルマを駐めている」という調査結果もあります。

2018年の「IKEA Life At Home」レポートによると、調査に答えた米国人の45%が、家庭内の混沌とした状況から一息つくために車中に座っていると回答。『Washington Post』が説明しているように、心理学者たちは、クルマは精神浄化作用もある「泣く」という行為にとって、ふさわしい環境であると述べています。

Redesigning car design

カーデザインを見直す

急増する「ウェルネス・オン・ザ・ムーブ(移動中のウェルネス)」の動きは、クルマをデザインする人たちをも変えようとしています。デザイナーのキンバリー・マルテ(Kimberly Marte)は、カリフォルニア州パサデナにあるアートセンター・カレッジ・オブ・デザインで教鞭をとり、テスラ、日産、アキュラ(Acura)で働いた経験があります。

彼女の印象では、業界は「運転という経験」についてより広く考えるようになってきているといいます。「大きくみれば、わたしたちはより“思慮深く”なっているようです。五感のためのクリーンな空間を、スパのような体験をどうやってつくるか、ということが大きな議論になっています」。デザインスタジオは塗料、接着剤、プラスチック部品、革などの標準的な素材の毒性を精査しており、一部の企業はハリウッドレベルのサウンドエンジニアを雇い、自動車が発するすべての音を微調整しようとしています。

車内は「コックピット」ではなく「家庭用インテリア」として再認識されつつあり、男性優位の自動車デザイン業界に変化がもたらされる可能性もあります。

1950年代後半、ゼネラルモーターズ(General Motors)の「Damsels of Design」を皮切りに、自動車メーカーは女性デザイナーを採用し始めましたが、それは、女性が自動車購入の意思決定に大きな影響力をもっていることに気づいたことのあらわれでした。これまでの女性デザイナーは、一部の例外を除いて、インテリアや仕上げを担当することが多く、クルマの外観を決めるよりも低い地位にありました。自動車のインテリアを強化することに重点が置かれたことは、このヒエラルキーを逆転させるか、少なくとも同等にすることを意味しています。

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Image: “DESIGNING WOMEN” PHOTO VIA GENERAL MOTORS

色彩と素材のコースを教えるマルテは、生徒たちの態度の変化も観察しています。「ジェンダーレスなメンタリティは、若い世代の特徴の一部となっています。彼らは必ずしも男性か女性かを争うのではなく、デザインのために何が正しいかを考えています」と彼女は説明します。「わたしの卒業クラスには、CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)に特化したいと考えている人が何人もいますが、10年前にはあり得なかったことなのです」

マルテは、クルマのインテリアを重視する流れが、自動運転車の未来を予感させるものでもあると説明。2019年の調査によると、米国ではすでに車両の約7%がハンドル操作やスピードコントロールなどのタスクを人に代わって引き継げる何らかのテクノロジーを搭載しています。

「クルマが交通渋滞を監視できるようになれば、1日を振り返る時間を得られ、クルマを『落ち着くための場所』として利用できるでしょう。運転する必要がないクルマは、第2のリビングルームのようなものになるのです」


What to watch for

コンテンツのD2C

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コンテンツビジネスはいよいよ、新たなフェーズに向かっているようです。Twitterは、オランダ・ユトレヒト発のニュースレターサービス「Revue」を買収することを明らかにしました。この買収により、Twitterは、このサービスを通して読者にリーチし読者層を拡大しているライターやジャーナリスト、出版物のユーザーベースを活用することが可能になります。Revueは、『Vox Media』『Chicago Sun-Times』『Markup』などといった顧客をもち、同様のサービスを提供している「Substack」の競合でもあります。巨額の資金調達をしたばかりの招待制チャットアプリ「Clubhuse」をはじめ、Spotifyやメディアが力を入れているポッドキャスト(マネタイズするのはまだ難しそうですが)など、「個」の発信によるサービスが本格的に動き出しています。一方で、会員制ニュースメディアの先駆者として知られていたオランダ発の「The Correspondent」は2020年内で米国におけるサービスを休止。これからのコンテンツは「ニュースレター」「ポッドキャスト」を舞台に大きく成長していくのでしょうか(『Quartz Japan』でもポッドキャストもやっていますので是非、聞いてみてください)。

(翻訳・編集:福津くるみ)


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