Deep Dive: Next Startups
次のスタートアップ
[qz-japan-author usernames=”masaya kubota”]
Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也さんのナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。
アメリカではいまや50%以上が在宅勤務を経験しているというデータもありますが、このうち80%の人がオフィス勤務に戻りたくないそうです。
一方で、「1人で仕事をしていると息が詰まる」「同僚と話せず孤独を感じる」などメンタル的な課題や「家に子どもがいて気が散る」「ネット環境が不安定でZoomが落ちる」といったインフラ面での難点も浮き彫りになっています。
暮らしの場であるはずの家での作業に、ストレスを抱える人は少なくありません。とはいえコロナ禍でオフィスへの出社も難しい。こうした「在宅勤務難民」が居場所を失いつつある状況です。
今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、在宅勤務時代のワークスペースに新たな選択肢を与える、Codiを取り上げます。
Codi
・創業:2018年
・創業者:Christelle Rohaut, Dave Schuman
・調達総額:680万米ドル(約7億円)
・事業内容:ワークスペース・プラットフォームの運営
WANDERING WORKERS
彷徨うリモートワーカー
在宅勤務が主流になったことで、オフィス街は人気もなくゴーストタウン化しています。人は家で働き、暮らすようになりました。しかし、多くの人にとって自宅で作業をするのは限界があります。
こういう場合に選択肢に上がるのが「WeWork」などコワーキングスペースです。しかし実際に利用しようにも、それらがあるのは都市部や大きな駅の近く。これではコワーキングスペースへわざわざ「通勤する」ようなもの。なんのための在宅勤務なのか、元も子もありません。
残された砦はコーヒーショップかファミレスぐらい……。実際、都内の住宅街の駅付近にあるコーヒーショップでは、PCを開き作業する社会人の姿が目につきます。とはいえ狭いテーブルで重要書類を広げるのも憚られ、Zoom会議をしようにも周囲に人がいて騒がしい状況です。
AIRBNB FOR OFFICES
オフィス版Airbnb
こうした世界中で溢れる「在宅勤務難民」を救うサービスがCodi(コディ)です。自宅の空きスペースを仕事場として提供したいホストと、それを利用したいユーザーをつなぐ、プラットフォームです。いわば、オフィス版のAirbnbといったところでしょう。
広めの家に住んでいて、自分も在宅勤務中だが、一人では持て余している。週に何日かは、誰かと一緒に机を並べて働いて、気分転換してみたい。ついでにお小遣い的に追加収入が得られれば、家賃の足しになる。こういった人たちが、次々とホストに名乗りをあげています。
ホストになるには高速Wifi、会議用スペース、電源コンセント、大きな作業机、清潔なトイレ、ホワイトボード、窓、コーヒーマシンなどの設置が条件となっており、快適さが保たれています。
当初は直接ユーザーを獲得するBtoCのモデルでしたが、折からのコロナ禍で企業からの問い合わせが殺到。いまは会社を顧客とするBtoBのモデルをとっているため、利用者の素性も知れていて安心です。
利用したい場合は、アプリから前もって希望の場所を探し、席を予約します。1つの施設あたり5〜6名が基本で、利用可能時間は朝9時〜夜18時まで。毎日ではなく週に2〜3日程度、自宅から徒歩か自転車で行ける距離にあるCodiを利用します。
気分に合わせて違う施設を選んだり、友達や同僚と都合を合わせて一緒に仕事したりするのもいいでしょう。ホストがピザを振る舞ってくれたり、簡単なバースデーパーティを開いてくれたりと、温かみあるローカルなコミュニティ体験が売りです。
WHY THE “EXPLOSION IN DEMAND”?
「需要爆増」の背景
サンフランシスコを皮切りにスタートしたCodiですが、コロナの追い風で急成長しています。サンフランシスコに数百のホストをもち、昨年ニューヨークへの進出を発表しました。全米各都市から進出を望む声が相次いでおり、12月には700万ドル(約8億円)の資金調達も行いました。
Codiがウケているのは、ユーザーはもちろん、ホストや企業にとっても多くのメリットをもたらすからです。
ホストは民泊の場合と違って、家を空ける必要がありません。昼は他人と机を並べ交流をもつことで気を紛らすことができ、夜は自分や家族の空間に戻ります。月に数百ドル、中には月に千ドル以上の収入を得るホストもいて、家賃の足しになります。
ユーザーにとっては、特に一人暮らしの在宅勤務者は、孤立や心理的抑圧から救われます。見ず知らずの人とは言え、何時間も一緒に過ごせば会話は自然に誘発されます。資金調達に苦労していた起業家同士がCodiで知り合って投資家紹介などで助け合ったり、有名デザイナーがホストの家でユーザーが作品にアドバイスを受けたり。ランチを共にすれば、自分と全く違う業界や職種の人から多くの学びや刺激を得ることもあるでしょう。
企業にとっては、オフィスを解約した先の受け皿となり、リモートでも快適に働ける環境を社員に提供できます。最近は社員同士の繋がりが弱まることを懸念する企業から、社員同士のフィジカルな交流を促す機会として、特定の企業専用のスペースを確保したいという依頼も多いそうです。Codiに「出社」することで、自宅にいては目の届かない社員の様子も確認することができます。
IRREVERSIBLE CHANGE
不可逆な変化
創業者のクリステル・ロハウト(Christel Rohaut)はフランスで生まれ育ち、カリフォルニア大学バークレー校で都市計画と循環経済を学びました。リモート環境での研究で、心理的抑圧やストレス、不規則な生活に苛まれました。やがて友人の家に転がり込んで作業をするようになり、これこそがメンタル的にも最も生産性の高い環境だと気づいたそうです。
起業経験のないロハウトの運命を変えたのが、のちに共同創業者兼CTOとなるデイヴ・シューマン(Dave Schuman)との出会いです。エンジニアの世界では通勤は無駄でしかないと思われていると聞いたロハウトは、いずれ訪れるであろう、未来の働き方の片鱗を見た気がしたそうです。「リモートワークをもっと快適に広めたい」そう決意し、23歳でCodiを立ち上げます。
「全米で50%の人がリモートワークなのに、コワーキングスペースの利用率は8%に過ぎない。使われない最大の理由は、家から遠すぎるから」と彼女は語ります。Codiの利用が進めば、いままで都市に集中していた経済が、地元のカフェやレストランに還元されます。ローカル経済の自立をテーマに都市計画を学んだ彼女がCodiに情熱を注ぐ最大の理由です。
また、人びとが通勤しない未来は、環境にも優しいといえます。年間のクルマ通勤で排出する二酸化炭素量は、1人あたり平均約3.2トンにも上るそうです。リモートオフィスを切り口に環境問題の解決を見据える視点は、ヨーロッパ出身で、大学で循環経済を学んだ彼女ならではと言えます。
RAISING THE LOCAL ECONOMY
ローカル経済の「底上げ」
見知らぬ人の家に上がり込んで、リビングで作業をする自分の姿を思い浮かべられるか、懐疑的な人も多いでしょう。しかし、他人の家に泊まるAirbnbや、他人の自家用車に乗るUberも、いまでは抵抗感なく使える人が多いのが現状です。シェアリングエコノミーの流れがワークスペースに及ぶと考えるのは、むしろ自然な発想かもしれません。
シリコンバレーのテック企業は次々とリモートワークの恒久化を発表していますが、さらにショッキングなデータもあります。スタートアップ企業の経営者に「やり直すとして本社をどこに置くか?」とのサーベイで、去年はサンフランシスコ(42%)が1位でしたが、今年は1位がリモートオフィス(41%)。サンフランシスコは2位(28%)という結果でした。
さまざまな不都合がありつつも、「通勤地獄から解放され、時間に余裕ができた」「移動も会議室の予約もいらないので、コミュニケーションの頻度が上がった」など、リモートワークにはポジティブな面が多いのも事実です。新たに勃興したオフィスの「サードプレイス」需要の覇権を握るのは誰か。Codiの挑戦から、目が離せません。
久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- 「失踪」期について言及なし。アリババのジャック・マーが3カ月ぶりに姿を見せました。現地報道によると、自身が主催する地方の教師を表彰するオンラインイベントに出席。これを受けてアリババの株価は急伸しました。なお、本人は「失踪」期について言及していません。
- Instacartが人員整理を始める。インスタカート(Instacart)はプラットフォームにいくつかの変更を加えており、その結果、およそ2,000人が失業することになります。2020年初頭に、イリノイ州クック郡スコーキ村で全米食品商業労働組合(ローカル1546)と組合を結んだ従業員を解雇。従業員に提示された退職金は、わずか250ドル(約2万6,000円)でした。今年中のIPOが噂される同社の人員整理の一部とされています。
- トラベル系に朗報! ビジネストラベル・プラットフォームを提供する米・トリップアクションズ(TripActions)はシリーズEラウンドで1億5,500万ドル(約161億円)の資金調達を発表しました。アンドリーセンホロウィッツ、アディション、エラッドギルが主導。TripActionsがポストマネー50億ドル(約5,200億円)で評価されている事実は、パンデミックの影響の矢面に立たされた旅行セクター復興に向けた新興企業への強いシグナルでしょう。
- アジアとのビジネス関係強化。特にアメリカが強みをもつテック産業の関係強化は商業以外の安保などの分野にも協力の道をひらくといえますが、バイデン政権は内政を優先して2年間は本格的な貿易協定を結べないでしょう。そこで参考になるのが、議会承認が不要な日米デジタル貿易協定などの個別分野ごとの施策。成長著しいASEAN諸国と協力し、最終的には地域をまたぐ包括的デジタル協定を結ぶべきだといえます。
(翻訳・編集:鳥山愛恵)
🧑💻 世界各地で活躍する日本人VCが現地の声で伝える月イチのウェビナーシリーズの第3回は、シンガポール。1月28日(木)、Rebright Partnersの蛯原健さんをお招きして開催します。お申込みはこちらのフォームから。
🎧 月2回配信のPodcast。最新回では、生物学の民主化をテーマに研究を続ける「ワイルドサイエンティスト」、片野晃輔さんを迎えたトークをお届け。Apple|Spotify
👀 Twitter、Facebookでも最新ニュースをお届け。
👇 のボタンから、このニュースレターをTwitter、Facebookでシェアできます。ニュースレターの転送もご自由に(転送された方へ! 登録はこちらからどうぞ)。