Culture:彼女はマンスプレイニングを笑う

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Deep Dive: New Cool

これからのクール

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Quartz読者のみなさん、こんにちは。家父長制の強い中国でも、「ジェンダー平等」の問題に対する意識は高まっています。あるスタンドアップコメディアンのことばが、中国社会に大きなインパクトを与えているようです。英語版はこちら(参考)。

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Image: REUTERS/DAMIR SAGOLJ

「彼って“普通”なのに、どうしてあんなに自信満々なの?」

28歳のスタンダップコメディアン、ヤン・リー(Yang Li)が昨年発した言葉がいま、中国のフェミニストたちのある種のキャッチフレーズになっています。(とくに女性に対する)性差別が拡大する中国で、性差別に抗おうとする国民の意志があらわになった瞬間ともいえます。

オンラインコメディ番組『Rock and Roast』(脱口秀退会)のステージ上、ヤンは困惑した表情で「男性はとても“ミステリアス”だ」と、男性の自意識について辛辣な指摘を浴びせます。「女性は自分のことなんてどうでもいいと思っているものだけど、男性は自分のことを宇宙の中心だとでも思っているみたい。男性が発する言葉すべてが重要かつ世界が進むべき正しい方向を指し示しているようです」

女性たちは、自身の特権に気づかない「エゴの塊」のような男性を表現するものとして、「普通なのに自信がある」(Average-yet-confident)ということばを使うようになりました。例えば「Weibo」(微博)では、あるユーザーによる次のような投稿も。

「同じオンライン授業に通っているクラスメイトの男性が、プロフィール欄を『付き合っています、ぼくを口説かないで』と更新していた。これぞ『普通なのに自信がある』男性のチャンピオン!」

AVERAGE-YET-CONFIDENT

新たなフレーズ

裏を返せば、中国の女性にとって、こうしたキャッチフレーズは長いあいだ待ち望まれていたともいえます。欧米では、男性の行動を皮肉るようなことばは何年も前から支持を集めていますが、中国で独自のフレーズが生まれつつあるのは、ヤンのようなコメディアンが限界に挑戦したからこそ。

「英語圏では『マンスプレイニング(mansplaining)』のような用語があって、女性に対して上の立場から説明しようとする男性を嘲笑するために使われてきました」と、中国語圏で人気のエンタメブロガー、ルオ・ヤンス(Luo Yansu)は書いています。「ヤンのジョークが中国語圏で人気を博すような現象は、いまになってようやく見られるようになってきました。彼女のジョークはジェンダーの対立を煽るというよりも、女性が声を上げたことの顕れでしょう」

ヤンのジョークは、欧米の女性コメディアンによる性差別・人種差別ネタに比べれば、はるかにマイルドです。しかし、中国に根深く残る女性差別を考えれば、こうしたジョークは、中国人女性にとっては大きな一歩だといえます。

中国では、長いあいだ家父長制が敷かれてきました。1949年、共産党が政権を握ると女性の権利は拡大します(仕事をする自由、好きな人と結婚する自由など)。しかし、その進歩は常に限定的で、ごく一部を除けば党幹部に女性が就くこともいまだ珍しい状況です。さらに、評論家たちによると、高齢化の危機や少子化、経済が低迷するなかで社会の安定を維持するために、党指導者たちは女性を伝統的な役割に戻そうとしているとさえ言われています。「ジェンダー規範を積極的に取り込み、社会不安を最小限に抑え、熟練労働者の世代を将来築くために、(党は)女性を家庭内における従順な妻、母親という役割にしている」というのです(Leta Hong FincherBetraying Big Brother: the Feminist Awakening in China』, 2018)。

その結果、中国は過去10年のあいだにジェンダーギャップ指数の順位が後退。2019年時点では、女性の職場への参加率は世界平均を上回っていますが、1990年以降低下傾向にあります。また、女性はしばしば性差別的なジョークの標的にされています。悪名高い例としては、2015年に中国中央テレビ局(CCTV)が主催し、6億9,000万人以上が視聴した旧正月の祝賀会で、30歳以上の未婚女性を中古品のように描いたスケッチを見せたこと。女性の役人がトップへ昇進する道を止められていることを示唆するものもありました。

同時に、近年の中国では、習近平国家主席のもと言論の自由に対する取り締まりが強化され、アクティビストの活動もジェンダー関連トピックについての議論の場も縮小しています。2015年、北京では「喧嘩からトラブルになった」という容疑で5人の若いフェミニストが逮捕されました(この容疑は、アクティビストを標的にしたケースでよく使われるものです)。多くのフェミニストが活動を自粛し、あるいは身を隠すことを余儀なくされました。

#MeeToo in China

中国のMeToo

しかし、かくいう中国も、2018年に起こった#MeToo運動の激しい怒りから逃れることはできませんでした。その年に起きた顕著な例として、ある女性が中国中央テレビ局(CCTV)の男性司会者チュー・ジュン(Zhu Jun、朱軍)によるセクハラをソーシャルメディアで訴え、最終的には裁判に。公聴会が同年の12月に行われています

以来、家父長制に対する批判は一般的なものとなりました。昨年は、パンデミックを食い止めるために国営メディアが女性をプロパガンダの道具として利用しようとしていることをアクティビストが非難したほか、国営のテレビ番組が女性のウイルス対策貢献を軽視したとしてネット上で炎上。12月には、ポップシンガーのタン・ウェイウェイ(Tan Weiwei、譚維維)が、最新のシングルで家庭内暴力と被害者非難に抗議の声を上げましたが、これはメインストリームの有名人がタブーとされる話題に取り組んだという稀有な例といえるでしょう。

今年1月には、化粧品メーカーが、メイク落としを使ってストーカーから逃げる女性を描いた広告(メイクを落とすと顔が醜くなってストーカーが興味を示さないようになる、というストーリー)を出し、その後、同社は謝罪を余儀なくされました

BECOME COMMON

一般的になる「抵抗」

中国のフェミニスト活動家であるシャオン・ジン(Xiong Jing)は、広く一般の人びとが日常的に起きている性差別に注意を払い、より頻繁に性差別に声を上げるようになってきていると考えています。

「2015年以降、女性の権利に焦点を当てた多くの組織が閉鎖を余儀なくされました。しかし、中国の一般市民、とくに高学歴の女性のあいだでは、ジェンダー平等の問題に対する意識が高まっています」と、彼女は『Quartz』の取材に答えました。多くの人が「自分たちには状況を変える力がほとんどないと感じている」一方で、「ジェンダー問題についての議論に、積極的に参加するようになってきている」というのです。

コメディアンのヤンは中国語メディアに対し、ギリギリの境界線に挑戦するために「うんちやおしっこ、オナラなど、女性が話すと不適切だと考えられているあらゆるもの」についてのジョークを言うのが好きなのだと語っています。あるジョークの中で、ヤンは、マーベルの『アベンジャーズ』シリーズに登場する女性スーパーヒーロー、ブラック・ウィドウが「なぜ病気や老化に対する抵抗力をもっているのか」と疑問を呈しました。「女性について考えるとき、なぜいつも若く、美しく、健康的であることに焦点が当てられるのでしょう。なぜ女性ヒーローは年を取ることができなかったのでしょう」とヤンは問います。

別のジョークでは、男性への憎悪を煽っているという自身への批判に対して、「男性を喜ばせることの、なんと難しいことか」と応えます。「『普通』というレッテルさえ不幸だと言うのなら、一体、何を求めているのでしょう?」

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Image: VIA TWITTER@FNCISHEN

誰もがヤンのジョークを評価しているわけではありません。12月には、男女平等の擁護者であると自称するインターネットユーザーが、Weiboでヤンを中国のトップメディア規制機関に報告するよう自身のフォロワーに呼びかけるキャンペーンを開始しました。このユーザーは、ヤンが「すべての男性を侮辱している」「ジェンダーの対立を生み出している」と非難。そして、彼女のジョークは「中国の美徳である社会主義の発展に有害だ」と述べています。

ヤンは、スタンドアップコメディがますます困難な職業になってきているとWeiboで発言したことを除けば、自分自身に対する多くの批判コメントに対する反論を控えています。多くのファンが彼女を擁護し、彼女は男女間の「戦争」を煽るつもりはなく、実際には男女間の真の尊重を提唱しているというのです。

昨年の12月、彼女は男性婦人科医との経験についてこんなジョークを披露しています

「立っている男性の前で横になったのは初めてのことだったけれど、お互いに完全に心安らかで、そこに不適切な考えなどありませんでした。わたしは、自分が生き延びたいとだけ思っている一人の人間だと感じ、男性医師はわたしが生き延びることだけを考えていたわけです」とヤンは語ります。「医師はわたしに『(体調は)どんな感じですか』と尋ねます。わたしは『完全に自由な感じです』と答えました」


What to watch for

拡大する格差社会

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NPO法人のオックスファム(Oxfam)が発表した「不平等なウイルス」報告書によると、世界のトップ1,000人の億万長者らは、9カ月でパンデミックによる損失を回復できましたが、貧困層の人びとは以前の水準に回復するまでに10年以上はかかるかもしれないといいます。報告書は、世界中の295人のエコノミストを対象とした調査結果を引用し、「富裕層は幸運にも経済的な恩恵を受けていますが、貧困層の人びとに大きなマイナスの影響を与えています。実際には、このパンデミックは記録が始まって以来最大の不平等の増加を引き起こす可能性があります」としています(PDF)。

ちなみに、2020年3月18日から12月末までのあいだ、世界の億万長者10名だけで5,400億ドル(約56億兆円)を稼いでいます。「お金があれば幸福度は上がる」ことについても議論されるなか、(7万5,000ドルまで、幸福度は比例すると言われていましたが、最新の研究結果ではその額を超えても幸福度が増加するとされています)格差社会が広がるとともに、幸せの格差が生まれていくのかもしれません。

(翻訳・編集:福津くるみ)


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