Deep Dive: Impact Economy
始まっている未来
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米石油メジャーの経営統合説も浮上した、急転するエネルギー産業。なかでも注目高まる地熱発電の現在地をお伝えします。毎週火曜の「Deep Dive」では気候変動を中心に、今世界が直面しているビジネスの変化を捉えるトピックを深掘りしています(英語版はこちら)。

石油企業や天然ガス企業は、地面を掘ることでは誰にも負けません。彼らは過去100年にわたり、地中深くにある化石燃料を採掘する技術を磨き上げてきたのです。
ただ今後は、石油やガスではなく熱を求めて地面を掘ることになるかもしれません。
地熱(地球の核から発生する熱エネルギー)はこれまではほとんど注目されていませんでしたが、ここにきて大きな期待を集めるようになりました。化石燃料から得られる収入が急落するなか、今年は地熱資源に対して過去30年で最大規模の投資が見込まれています。
faith in the industry’s prospects
この1年の急上昇
市場調査会社ピッチブック(PitchBook)によると、昨年の地熱開発プロジェクトに対する投資は98件と、約20年前の調査開始以来で最多となりました。これにはスタートアップによる案件も多く含まれています。地熱発電への投資額は世界全体で6億7,500万ドル(約700億円)を超え、1年前から6倍に増えています。
地熱発電の上場企業は米国ではオーマット・テクノロジーズ(Ormat Technology)だけですが、同社の時価総額はここ数カ月で急騰しました。石油大手の株価は2019年の最高値と比べて少なくとも2割下げているのに対し、オーマットの株価は昨年3月から80%近く上昇しています。これは同社の経営状況ではなく、地熱産業全般への期待を反映したものです。
オーマットは地熱発電設備の設計や建設を請け負うほか、世界150カ所で地熱発電プラントを運営しており、昨年第3四半期の業績は7%の減収でした。なお、同社にコメントを求めましたが回答は得られていません。

What’s changed?
投資の準備は整った
化石燃料産業では以前から、油田やガス田の下に眠る地熱は潜在的な収入源とみなされていました。
米エネルギー省の元官僚で地質学者のダグ・ホレット(Doug Hollett)は、「石油メジャーやガス企業の経営陣が『地熱はどうなんだ?』と尋ねるとします」と言います。ホレット曰く、その後に起こることはいつも同じ。小規模なチームが半年ほどかけて調査を行い、「可能性はあるが中核事業と同じだけの利益は見込めない」というレポートをまとめて終わりというものでした。
問題となるのは、開発コストです。米石油メジャーは1970〜80年代に世界各地で数百に及ぶ坑井を掘削しました。特にカリフォルニア州に拠点を置くユノカル(Unocal)は、地熱発電でシェブロンやテキサコ(当時)と並ぶ世界最大手にまで成長しています。環太平洋地域はカリフォルニアからフィリピンまでどこも、地熱貯留層が地表に近い場所には地熱開発のための試掘井が掘られたのです。
それでも利益は微々たるものでした。試掘井の大半は貯留層まで届かず、また貯留層に行き当たって商業発電が可能になっても、探査・開発コストを賄うのに十分な収益を上げられなかったのです。金銭的に見れば地熱は石油よりさらに割高な宝くじだったと、ホレットは説明します。当たりくじが出ることはほとんどなく、ユノカルは1992年に地熱発電資産のほぼすべてを売却し、他の石油メジャーもこの動きに追随しました。

しかし、テクノロジーがコストの方程式に変化をもたらしたのです。シェールオイルの生産に目を向けると、1990年代に利益が出ていたシェール井は全体のわずか10%でしたが、この割合はいまでは90%を超えています。開発の過程で培われた技術(水平掘削、地盤調査、水圧破砕法)が地中深くの岩盤層を化石燃料の供給源に変え、米国は世界最大の産油国となりました。
そして、地熱開発に向けた投資の準備が整ったのです。
掘削技術が進化したおかげで、地熱開発のエンジニアリングは完全に変わりました。地熱発電はこれまで、地核の外側の層が地上に表出している場所や、地下から噴出する熱水や水蒸気、透水性の高い地層などを中心に行われてきましたが、EGS(Enhanced Geothermal System、高温岩体地熱発電あるいは強化地熱システムとも)と呼ばれる次世代技術によって地熱貯留層さえあればどこでも可能になっています。
コロラド鉱山大学教授で非従来型の掘削技術を研究するウィル・フレッケンシュタイン(Will Fleckenstein)は、「活用する方法さえ見つけられれば、驚異的な量のエネルギーが手に入ります」と言います。「基本的には地中のどこにでもあるものだからです」
Will oil and gas invest again?
石油メジャー、再参入?
BP、シェブロン、トタル、ロイヤル・ダッチ・シェル、エクソンモービルはいずれも投資計画についてコメントを控えていますが、この分野のスタートアップとの協力を模索しているようです。
エバー・テクノロジーズ(Eavor Technologies)は地熱開発のスタートアップですが、共同創業者ジョン・レッドファーン(John Redfern)は、近いうちに自社初となる大手油ガス企業からの本格的な投資について公表すると述べています。
レッドファーンは「石油メジャーは長い間、地熱にまじめに取り合ってきませんでしたが、地熱の時代がやってきたという気がします」と述べます。エバーは数十に上る水平井を掘り、これを巨大な熱交換器として使うことで地熱を地表近くまでもってくるクローズドループ方式と呼ばれる手法を採用します。「これまでは石油産業の恩恵を受けてきましたが、新しい技術の商用展開が可能になれば、将来的にコストを削減することができます」

ティム・ラティマー(Tim Latimer)はやはり地熱スタートアップであるフェルボ(Fervo)の共同創業者ですが、彼の元にもカーボンフリーなエネルギーを求める油ガス企業から問い合わせがよくあるそうです。ラティマーは「立場上、石油産業やガス産業の人たちと関わっています」と話します。「いまは石油企業ならどこも必ずこの分野の事業戦略を立てていますが、3年前は地熱に取り組もうとする石油メジャーなどありませんでした。状況がまったく変わっています」
ただ、まずは資本コストを下げることが必要になるでしょう。1970年代半ばに始まったシェールオイル開発プログラムと同じように、米国政府はすでに数億ドルにのぼる支援を行っています。エネルギー省はFORGE(Frontier Observatory for Research in Geothermal Energy)という、EGS技術の商用化に向けた取り組みを後押しするイニシアチブを立ち上げました。
また、エネルギー省の地熱関連の予算(PDF)は1億1,000万ドル(約114兆円)と、トランプ前政権が75%以上も削減しようとしたにもかかわらず、前年の8,400万ドル(約87兆円)から増額されました。

地熱開発は今後、シェール産業と同じ運命をたどるかもしれません。いまは実験的でリスクが多いように思えますが、コストが低下し成功率が上がるにつれ、商業化プロジェクトとして成立するようになるのです。そうなれば太陽光発電や風力発電と同じで、収益が予測可能で魅力的な投資条件を備えた資産とみなされます(なお、電力セクターでの新規投資は現在は太陽光と風力が中心になっています)。
そして、大量の資金調達が可能になるのです。民間投資家はこの分野ですでに小規模な投資を始めています。石油大手やガス大手もすぐに、既存の化石燃料ビジネスに利益を注ぎ込むことを続けるのか、もしくはその投資を地下に眠る新たなエネルギー源の発掘に振り向けるのかという選択を迫られることになるでしょう。
What to watch for
気候リスクとアフリカ

ドイツの環境NGO、GermanWatchは1月25日、気候変動による世界各国の自然災害リスクを分析した「グローバル気候リスク指数(Global Climate Risk Index)2021」を発表しました(PDF)。同資料が「気候変動の影響を最も受ける国」として挙げた上位10カ国のうち、アフリカからは実に5カ国がラインクイン(モザンビーク、ジンバブエ、マラウイ、南スーダン、ニジェール)しています。
アフリカ各国におけるサイクロンや洪水などの異常気象による影響は甚大です。ジンバブエだけでも、2019年の「サイクロン・イダイ」発生によるインフラ再整備には、約11億ドルもの資金が必要となりました。モザンビークではサイクロンで引き起こされる洪水による年間損失額は平均4億4,000万ドルにも上ります(PDF、世界銀行による)。
(翻訳:岡千尋、編集:年吉聡太)
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