Deep Dive: New Cool
これからのクール
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Quartz読者のみなさん、こんにちは。若者の新たなコミュニティとして話題になっている「Discord」。そのなかで、パンデミック中に誕生したサーバー「GenZ Mafia」が注目を集めています。今日は、Discordの魅力とともに、シリコンバレーとは「真逆」のコレクティブとして活動し始めた若者たちにフォーカスします。
音声SNSアプリ「クラブハウス(Clubhouse)」が日本にも本格上陸し、この1週間、メディアを賑わせています。一方、世界中の若者はいま、ゲーム特化型のメッセージプラットフォーム「ディスコード(Discord)」に夢中になっているようです。
ジェイソン・シトロン(Jason Citron)とスタニスラフ・ヴィシュネフスキー(Stanislav Vishnevskiy)が創設したDiscordは、いまではビジネス、政治、趣味、若者のコミュニティづくりなど、ゲーム以外の新たなカタチを形成し始めています。
WHAT IS DISCORD?
Discordとは?
先日、ゲームストップ(GameStop)、AMC、そのほかの銘柄を上昇させる原動力となった「r/WallStreetBets」のサーバー(プライベートチャットルームのこと)をバンしたことでも話題になったので(それでも、何十万人ものメンバーがそれぞれ少なくとも2つの新しいサーバーをつくっているといいます)、このプラットフォームについて聞いたことがある人もいるでしょう。
Discordは、PCゲームを一緒にプレイしながら簡単にコミュニケーションがとれる手段として、2015年にサービスを開始しました。ユーザーはサーバーをつくり、テキスト/音声チャンネルでやりとりしています。ユーザーは、サーバー特定のトピック(「一般的なチャット」や「音楽ディスカッション」など)のための専用チャットルームと、特定のゲームやアクティビティのための音声チャンネルをもてます。『CNN』では、Discordについて「従来のソーシャルメディアアプリに燃え尽きた人のために存在」するという見立てが紹介されていますが、「フィードもアルゴリズムも『いいね!』もなく、何かがバイラルになる手段もない」と伝えられています。
公式ブログによると、2015年のサービス開始以来、DiscordのMAU(月間アクティブユーザー数)は1億4,000万を超えるまでに成長。週あたりのアクティブサーバーは1,350万で、サーバーで交わされる時間は1日あたり40億分になるといいます。また、『Statista』によると、2017年5月から2020年6月までの全世界のDiscordの登録ユーザー数は、4,500万人から3億人以上に増加しています。
2020年には「Your Place to Talk」というシンプルなキャッチフレーズで、リブランディングしました。同社によると、2020年のDiscordアクティブユーザーの約70%がゲーム以外の目的で、あるいはゲームと日常的な利用を混在させてプラットフォームを利用しているようです。映画鑑賞会を主催したり、仕事の説明会に出席したり、取材にも利用されたりと、「ゲーム用」といった枠をすでに超えていることも注目すべき点です(GenZに人気のTwitchも最近、料理チャンネルやインタラクティブなポッドキャストなど、ゲーム以外の分野に進出しています)。
WHY SO POPULAR?
火がついたワケ
『TechCrunch』によると、Discordはパンデミックが起こった2020年に人気が急上昇し、1日あたり80万ダウンロードされています。Discordの人気は、まず「フォートナイト(Fortnite)」、そして最近では大ヒットした、4〜10人のゲーマーが協力と裏切りのオンラインゲームを宇宙でプレイする「アマング・アス(Among Us)」に牽引されてきました。
Discordの人気の理由となっているのは、多くの人、とくに若者が互いに孤立している時代の、「コミュニティを結びつける力」にあるといえるでしょう。シトロンが2020年7月のブログ記事で述べているように、Discordは「ゲーマーの世界からあらゆる種類のグループをつなげるものへと飛躍」したため、同社は意識的にインターフェイスをゲーム指向ではないものに再設計しました。そこで、10代の若者や思春期の若者にも選ばれるソーシャルメディアアプリになっているのです。
もちろん、いまある数百万のサーバーのなかには厄介なものもあります。たとえば、しばらくのあいだ、Discordはオルタナ右翼のたまり場になっていました。2017年に米ヴァージニア州シャーロッツヴィルで行われた「Unite the Right March」は、Discordで組織されました。Discordの創設者が自由放任主義的な姿勢をとっていたため、ミソジニーやホモフォビアも蔓延していました。ほかにも、Discordを使って児童ポルノを共有したり、未成年者とコミュニケーションを取ったりしたとされるケースも報じられています。そういったなか、Discordはプラットフォームの安全性を謳うため、白人至上主義者にリンクされた数十台のサーバーを一掃し、現在では従業員の15%が「トラスト&セイフティ」チームに所属し、悪質なユーザーを排除することに専念している、と『Forbes』は伝えています。
問題も起きていますが、『Crunchbase』によると、Discordは10回のラウンドで合計4億7,930万ドル(約503億円)の資金調達を行っています。最新のものでは、2020年12月17日にシリーズHラウンドで1億ドル(約105億円)を調達。バーチャル・ソーシャルネットワーキングの機会を創出するビジネスの採用と成長を加速させ続けていることから、評価額が約70億ドル(約7,300億円)に達する見通しだと報じられ、Discordの企業価値は倍増しました。
また、Discordは広告に頼らず、サブスクリプションを収益の基盤としており、プロフィールのカスタマイズに興味のあるユーザーに「Discord Nitro」と呼ばれる月額9.99ドル、年額99.99ドル(クラシックは月額4.99ドル、年額49.99ドル)のプランを提供。『Forbes』によると、Discord Nitoroによる収益は2020年には約1億2,000万ドル(約126.5億円)になると予測されていました。
NEW COMMUNITY
誕生したコミュニティ
GenZといえば、「コレクティブ」(集まって働きたい)世代としても知られていますが、Discordに誕生したサーバー「GenZ Mafia」はその特徴が顕著に表れた例といえます。20歳のエマ・サリナス(Emma Salinas)やサンフランシスコに住むそして21歳のカーソン・プール(Carson Poole)らは、2020年7月下旬、AIスタートアップ企業を創業。サリナスは、Discordに「GenZ Mafia」を立ち上げ、若者たちが意見を交わせるコミュニティをつくりました。サリナはポッドキャストで「基本的には『何かを作りたい若者』が集まっていて、13〜24歳までが参加している」と述べています。
GenZ Mafiaの存在は、『The New York Times』に取り上げられ、広く知られるようになりました。同紙によると、立ち上げから数週間のうちに、高校生や大学生の創業者、大手テック企業の若手社員など、数百人が参加。サーバーのメンバーは共に協力し、ネットワークを構築し、未来のためにプロダクトを作っているといいます。
17歳のロン・トラン(Long Tran)は、Twitter上のハラスメントから人びとを守るためのツールを制作。16歳のスニグダ・ロイ(Snigdha Roy)は、機械学習を用いたAIセラピストをつくろうとしています。また、Gen Z Mafiaのメンバー数人は、ポジティブなことを広めるのを目的に、オンライン掲示板「vibes.fyi」を立ち上げました。さらに、「Cloakview.ai」と呼ばれる別のプロジェクトは、Clearview AI(顔認識ソフトウェアを提供するスタートアップ)のシステムを凌駕する技術を構築しようとしていて、現在開発中だといいます。
このコミュニティが目指しているのは、いわゆるこれまでの典型的な「シリコンバレー」と真逆の立場にあるもの。シリコンバレーといえば排他的でエリート主義的。性差別や年齢差別、人種差別などの問題も根強いのに対し、GenZ MafiaではTwitter上でも著名で発言力のあるベンチャーキャピタルにへつらうのではなく、自分たちの価値観に沿ったインクルーシブな環境を育てようとしています。「Gen Z Mafiaは非常にインクルーシブなコミュニティ 。サーバーのユーザーは“異なる政治的見解”をもっていますが、わたしたちはお互いを踏みつけ合わないようにしています」と、トランは『The New York Times』に対して述べています。
共同作業や創作活動にとって新たな「出会いの場」へと変化するDiscord。気の合った友人たちとコミュニティを立ち上げ、それをビジネスに変えていくという、GenZの生き方にピッタリなプラットフォームを提供してくれていると言えるでしょう。
また、先出のClubhouseやDiscordといったソーシャルプラットフォームでは、いまでは若者にとって「資金調達」がしやすい環境になったという例もあります。『Business Insider』では、米ミズーリ州の小さな町出身で22歳のミルズ(Mills)が立ち上げた「ブランチ(Branch)」(オフィス環境でユーザー同士が交流できる仮想ワークスペース)が、Gen Z MafiaとClubhouseを利用してシリコンバレーのトップVCからシードラウンドで150万ドル(約1.58億円)を調達するまでの経緯を紹介しています。こういった新たな「才能を見つける場所」としても使えることが、ユーザーが急増しているひとつの理由なのかもしれません。
What to watch for
Clubhouseが欧州上陸
世間を賑わせているClubhouseはヨーロッパ、とくに英国とドイツでアプリのユーザーを拡大することに注力しているようです。その効果はすでに出ていて、2021年1月18日から24日までのあいだに、ドイツで最もダウンロードされたアプリになりました。日本では「招待制」がとられましたが、それゆえメルカリで枠そのものが販売され物議を醸していましたが、それはヨーロッパでも同じようです。eBayでは、100ユーロ(約12,640円)を超える値段でその招待枠が販売されているといいます(中国でも、フリマアプリ「Xianyu」で売られています)。
当地では、Clubhouseはどのように扱われているのでしょうか? アプリ上ではシリコンバレーをはじめとするIT系、VC、専門家などが多く見られるように感じますが、『The New York Times』では、プラットフォーム上ですでに有名になったインフルエンサーたちは「期待されているような人たち」ではなく、40代から50代の人たちが多いと紹介。また、あるユーザーは、「オーディオブックやポッドキャストの成長市場に参入するだけでなく、パンデミックのあいだに専門家会議の代わりとしてネットワークを構築するのにも役立った」と同紙に対してポジティブな意見を述べています。
一方でさまざまなネガティブな問題も懸念されています。なかでも「人種差別的なグループ」が放置されてしまう可能性があると警鐘を鳴らすのは、B2B Saasプラットフォームを構築しているヴァレリー・クレーマー(Valerie Krämer)。また、「このカテゴリをリードするソーシャルオーディオアプリはすべて、モデレーションツールの充実、定期的なフィードバック、ブロックやレポート機能など、安全機能を優先しなければなりません」と、Sweet Capitalのパートナーであり、Clubhouseのエンジェル投資家でもあるピッパ・ラム(Pippa Lamb)はコメントしています。
🎧 月2回配信のPodcast。最新回では、編集部の2人がいま話題の音声SNS「Clubhouse」などのトピックについて雑談しています。Apple|Spotify
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