Borders:ネトフリ「多様性」を更新中

Netflix’s “La Casa De Las Flores” is a Spanish-language hit.

Deep Dive: Crossing the borders

グローバル経済の地政学

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大ヒットした「ハウス・オブ・フラワーズ」はじめ、増え続けるスペイン語プログラムが意味することとは。ネットフリックスの「インクルージョン」への取り組みは、ゆるやかながら更新され続けています。毎週水曜夕方のニュースレター「Deep Dive」では、国境を越えて動き続けているビジネスの変化を追います(英語版はこちら)。

Promo photo for La Casa De Las Flores on Netflix
Netflix’s “La Casa De Las Flores” is a Spanish-language hit.
Image: NETFLIX

ネットフリックスは2013年以降、四半期ごとにダイバーシティ(多様性)について報告書を公表しています。今年、そのレポートに初めて「インクルージョン(包括性)」というテーマが加えられました。

最新のレポートからは、同社の採用活動や人材維持における取り組み、女性やマイノリティーなどの正当な評価に向けた活動の全貌が見えてきます。

レポートではまず、進歩があった分野について説明されています。約8,000人に上るネットフリックスの従業員のほぼ半数(47.8%)は女性で、この割合は経営幹部でも変わりません。つまり、取締役や副社長、管理職も半分は女性なのです。

Racial gaps persist in big tech

努力は「不十分」

人種的もしくは民族的にマイノリティ(黒人、ラテンアメリカ系、ヒスパニック系、先住民族、中東系、アジア系、ポリネシア系など)なルーツをもつ従業員は46%で、管理職や経営幹部では42%を占めます。黒人の従業員数は過去3年間で倍増していますが、それでも全体の8%に過ぎず、管理職レベルでも9%にとどまりました。

ネットフリックスは自らの努力が十分ではないことを認めています。まず、ヒスパニック系の採用を強化する必要があります。ヒスパニック系の従業員は3年間で6%から8%にまでしか伸びておらず、管理職レベルでは4.5%から4.9%とほぼ横ばいです。

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2つ目の問題点はもう少し複雑です。インクルージョン戦略担当副社長のヴェルナ・マイヤーズ(Vernā Myers)はレポートのなかで、「世界でインクルージョンや多様性がどう現れているかについて、学ぶべきことはまだたくさんあります」と書いています。なお、ネットフリックスはレポート発表とあわせてYouTubeで動画を公開しており、マイヤーズはここでもこの話題に触れています。

Racial gaps persist in big tech

幹部はどうだ?

ネットフリックスの比較対象となるようなテック企業を挙げようにも、その事業規模はあまりに巨大なため、ダイバーシティに関するわかりやすい結論を導き出すのは困難です。

例えば、アマゾンは、2019年末時点で米国で雇用する従業員約40万人26.5%は黒人もしくはアフリカ系だと発表しています。ただ、この数字は倉庫スタッフや配送員も含めたもので、彼らの給与や福利厚生は正社員とはまったく異なります

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Image: REUTERS/PHILIPPE WOJAZER

こうしたなかで各社の経営幹部や管理職の顔ぶれを見れば、性別や人種に基づく格差を是正する努力が成功しているかについて、より現実に近い答えを得ることができます。

ネットフリックスは、性別という観点からは他社より結果を出しています。マネジャーなど幹部職における女性の割合は、アマゾンでは2019年末で29%(世界全体の数字。米国に限った割合は非公表)、フェイスブックでは34%でした。この割合はアップルは29%、グーグルでは27%(リンク先はPDF)となっています。

ただ、さらに上位の役職を見ていくと、ネットフリックスを含め人種的な平等を達成したと主張できる大手テック企業はひとつもありません。多様性を達成するための取り組みからもっとも恩恵を受けているのは女性のようです。

米国事業の幹部職に占める黒人の割合は、フェイスブックとアップルでは約3%、グーグルでは2.6%にとどまります。この数字はアマゾンでは8%、ネットフリックスでは9%でした。一方、ネットフリックスの幹部職に占めるヒスパニック系の割合は4.9%と、フェイスブックの4.3%、グーグルの3.3%を上回りますが、アップルの7%、アマゾンの8.1%には劣ります。

serving a Hispanic audience

誰が観ているのか

マイヤーズは今回のレポートで、インクルージョンへの取り組みは「まずは社内から始め、その後に社外での行動にも反映していきます」と述べています。

レイチェル・モリソンが女性として初めてアカデミー撮影賞にノミネートされた『マッドバウンド 悲しき友情』(2017)、トランスジェンダーのヤンス・フォードが監督しアカデミー長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた『ストロング・アイランド』(2017)がいずれもNetflix Original作品であることを思えば、マイヤーズの言葉にも頷けるでしょう。

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Image: 'MUDBOUND' NETFLIX

少なくとも現時点では、社内と社外で逆の傾向が生じているようです。

Media Play News』は昨年、ヒスパニック系のユーザーが「Amazon Prime」から「Netflix」に流れていると報じました。

Amazon Primeは、ユーザーの視聴時間数だけを見れば、動画配信サービスで首位に立っています。ただ、Netflixが2018年12月から2019年9月の間にスペイン語コンテンツの視聴時間を3万時間伸ばした一方で、Amazon Primeは2万時間減らしたことが明らかになったのです。この間に、Netflixのコンテンツ全体に占めるスペイン語コンテンツの割合は12%から14%に増えています。

つまり、ネットフリックスはスペイン語話者のユーザーを引きつけるために投資を行い、そこからの収入を拡大することに成功したわけです。『ローマ』(2018)のような批評家筋から高い評価を受ける作品も送り出しました。

ただし、社内におけるヒスパニック人材の育成という意味では、同じことは起きていません。

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Image: NETFLIX

Inclusion goes global

「世界戦略」の意味

ネットフリックスは、米国のみならず世界全体でインクルージョン実現に向けた取り組みを促進する方針を示しています。欧州と中東地域ではそのための採用を行なっており、東アジアとアフリカ地域向けでも同じように人材を募集する計画です。

また、オーストラリアでは先住民族の映画製作者を支援するインキュベーションプログラムの立ち上げを進めています。他にも、ブラジルではマイノリティを対象とした養成プログラムを提供するほか、米国外のトランスジェンダーの従業員をサポートする上で何ができるかといったことも模索していているといいます。

解決すべき問題は複雑ですが、世界のさまざまな国で働く従業員の個別性(人種や民族、社会経済的にどのようなグループに属しているか、ジェンダー、性的指向、障害、その他の特性)を理解し、多様性を実現していくという目標は、ネットフリックスにとっては目新しいものではありません。

クリスティーナ・ヘルナンデス(Cristina Hernandez)は2018年から同社のインクルージョン戦略のディレクターを務める人物ですが、2019年10月に投稿したブログに、インクルージョン達成に向けた取り組みを米国外の市場へも拡大していく必要があると書いています。

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Image: NETFLIX

ヘルナンデスはまず、自身を「米国生まれで50歳間近のラテンアメリカ系、異性愛者かつシスジェンダー、英語ネイティブ、元弁護士、(そして)2人の男の子の母親」と説明します。そして、自分はインクルージョンとは何かを理解し、特権を受容しているときとそうではないときに十分に自覚的であると考えていたものの、それでもインクルーシブなグローバル企業をつくり上げるにはどうすればいいか、いまだにわからないでいると述べるのです。

彼女は「毎日、新しいことを学んでいます」と書いています。「そして、わたしの行動は世界の従業員たちが前に進むために役立っているだろうか、アメリカの価値観を押し付けているだけになってはないかと、繰り返し自分に問いかけるのです」


What to watch for

アマゾン帝国を継ぐ人

Andy Jassy, CEO Amazon Web Services, speaks at a conference
Amazon’s new boss, Andy Jassy.
Image: REUTERS/MIKE BLAKE

第3四半期中にもアマゾンのCEOを退くことになったジェフ・ベゾス。後任となるアンディ・ジャッシー(Andy Jassy)は、アマゾンの中核事業である小売事業には携わっていないにもかかわらず、ベゾスの後継者候補として長い間注目されてきました。ジャッシーが小売の代わりに手がけていたのは、アマゾンウェブサービス(AWS)。同社において最も有望かつ収益性の高いこのクラウドコンピューティングプラットフォームを立ち上げ成長させた、“アマゾン帝国”の立役者なのです。

現在53歳のジャッシーがアマゾンに入社したのは、ハーバード・ビジネス・スクールで修士号を取得した直後の1997年。2006年にAWSを立ち上げますが、先行者としての優位を活かし、クラウドコンピューティングのリーダーとしての地位を確立させました。パンデミックの影響でEC需要が拡大し小売事業が強力に後押しされていますが、AWSは依然として好調に推移。今期の売上高は127億ドルに達し、同社全体の売上高の約10%を占めています。

(翻訳:岡千尋、編集:年吉聡太)


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