Startup:彼女がいま起業について思うこと

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Deep Dive: Next Startups

次のスタートアップ

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毎週月曜夕方は世界の「次なるスタートアップ」を紹介していますが、今週は少し趣向を変えてお送りします。起業家で投資家でもあるジェイミー・シュミットに、スモールビジネスの可能性やコロナ下のスタートアップの先行き、そして企業に求められるとされる社会貢献についてお聞きしました。英語記事はこちら

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Image: COURTESY OF JAIME SCHMIDT

ジェイミー・シュミット(Jaime Schmidt)が天然成分だけでデオドラントをつくってみようと思いついたのは、2010年のことでした。妊娠中だったシュミットは、自宅のキッチンですべての成分をきちんと表示することにこだわったブランド「Schmidt’s」を始めます。

Schmidt’sはいまでは30カ国以上で販売されるグローバルブランドに成長し、米国でもホールフーズ・マーケットやウォルマート、CVSファーマシー、コストコといった有名小売店で取り扱いされています。シュミットは2017年、ユニリーバに事業を売却しました。また、昨年に出版された著書『Supermaker: Crafting Business on Your Own Terms』では、これまでの物語を振り返るだけでなく、マーケティング、製品開発、顧客との関係、パートナーシップなどさまざまな分野で学んだことが紹介されています。

シュミットは現在、夫のクリス・カンティーノ(Chris Cantino)とともに、カラー(Color)というベンチャーキャピタル(VC)を運営しています。カラーはコンシューマープロダクツ分野のスタートアップを専門とし、なかでも女性や非白人の起業家の支援に力を入れています。

そんな彼女が、パンデミックの下での起業の見通しや小さなビジネスを始めることの意義について、QUARTZに語ってくれました。シュミットはすべての企業が崇高な使命を掲げる必要はないと言いますが、それはなぜなのでしょう。

Pandemic, Clubhouse, philanthropy

VCとして、起業家として

──パンデミックによって経済が全般的に悪化していますが、起業家たちの未来は明るいと考えていると伺いました。本当に楽観的だと言えますか?

そもそも、わたしはとにかく物事を前に進めていこうとする性格なのですが、それは抜きにしても、前途には大きな可能性があると思っています。事実、障害はこれまで以上に増えていて、投資家とブランド双方にさらなる努力が求められています。ただ、昨年も、わたしが運営するファンドは投資先を見つけるのに苦労はしませんでした。新たなビジネスはたくさん登場していて、そのこと自体は変わらないのです。

昨年の企業の登記件数は過去最高となり、VCによる投資も記録的な水準に達しています。これまでの平均に照らし合わせて考えれば、多くの企業はかなり早い段階で脱落するでしょう。それでも、いまの状況を乗り越えさえすれば、あとはどうとでもなるはずです。

──こうした状況を後押ししている要因は何でしょう?

自分のスキルやパッションを傾けることでお金を得たいと考える人が増えているからでしょう。職を失った人が増えたということもあるかもしれません。わたし自身、ビジネスを始めたのは経済的に興味深い時代で、同時に妊娠もしていました。

──ベンチャー投資家として、どのようなアプローチを取っていますか?

昨年1年間でポートフォリオが56%拡大し、投資案件は9件から14件に増えました。昨年に立ち上がったばかりのブランドにも投資していますが、パンデミックがプラスの影響を及ぼした事例はあります。例えば、「Haus」という低アルコール飲料のブランドは感染拡大を機に商品を消費者に直接販売するようになりました。

「A Kids Book About」というスタートアップは親が子どもに説明するには難しい問題を扱った書籍を出版しており、最初のアウトプットに選んだ題材は人種差別でした。ビジネスとして成立するようになったのはここ最近のことですが、この成功にはブラック・ライブズ・マター(BLM)運動が大きな役割を果たしています。

──起業家と投資家のマッチングに関してはいかがでしょう。パンデミックによって、あらゆる物事がオンラインに移行しましたが、どのような影響がありますか?

物事は迅速化し、コストは下がっています。まずは飛行機に飛び乗る、なんてことはなくなったので旅費が減り、スピードアップもしました。以前は飛行機で各地を回って資金調達ツアーをしていましたが、いまでは「じゃあ来週に電話しましょう」という感じです。とにかく効率的になっています。

──音声SNSの「Clubhouse」で起業家たちと交流していると伺いましたが、どういった感じでしょうか?

Clubhouseには、ピッチの練習ができるルームがたくさんあり、ベテランの投資家から直接アドバイスをもらえます。一部のルームでは実際に投資につながる機会も提供されています。また、わたしが先日にいたルームはハイテク分野の起業家ばかりでした。すべてがコンシューマープロダクツというわけではありません。

Clubhouseのユーザーは100万人を超えており、わたし自身、消費者製品ビジネスの基本についてのトークを開催したことも。もちろん、競争が激しくなり過ぎて辛みを感じることはあると思います。音声SNSでたくさんのブランドを知る機会が増えましたが、逆に目に留まる可能性は低くなるわけです。

それに誰もが新しいメディアを使いこなせるわけではありません。このため、自分を過小評価してしまうインポスター症候群や、どうやってビジネスを売り込んでいけばいいかを相談できるルームも出てきたようですね。

──事業の拡大ついて企業家たちに何を伝えていますか。あなた自身が投資家となったいま、成長は必須だと思いますか。それとも、いいビジネスであれば小規模でも構わないのでしょうか?

自分のペースで進めていくべき」というのが、わたしができるアドバイスです。実施にSchmidt’sの経営ではそうしていたし、わたしにとってはもっとも重要な価値観です。Schmidt’sの最初の数年間は、ブランドの価値と認知度を高めることに専念しました。

最悪なのは周囲からのプレッシャーで焦ってしまうことです。資金調達を急ぐのもよくありません。外部からの資金が魅力的なのは否定しませんが、わたしは可能な場合は自分の力だけでやるように勧めています。資金調達については、たくさんの企業と徹底的に話し合いました。

自分のビジネスを“次のレベル”にもっていくのにVCは必要ありません。いずれにしろ、VCから支援を得られるのは本当に限られた数のスタートアップだけです。わたしは多くの場合において、小規模なままでいることを選択したブランドを応援します。そこに投資せずとも、彼らにとってのアドバイザーになれることもあります。とにかく、時間をかけてビジネスを育てていくことは何も間違っていません。

──少し前に「すべてのビジネスが世界を救えるわけではない」とツイートなさっています。はじめはお金のためで構わない、社会貢献はあとから付いてくるというのがあなたの意見ですが、いまの時流からすると、外れた意見のようにも感じられます。どのような反応がありましたか?

自分たちのやっていることは地球を救う、これは世界にとって素晴らしいと宣伝する起業家はたくさんいます。ただ、実際にはすべてのビジネスがそうである必要はないのです。世の中には配管工事をしてくれる人が必要ですね。結局、自社の顧客だけにしか影響は与えられないのかもしれません。

こうしたことをきちんと理解している起業家はいて、わたしはそれが重要だと思います。一方で、例えば自分たちのビジネスとはまったく関係ないのに、売り上げ1ドルごとに木を1本植えるというようなことをやっている企業もあります。こうした姿勢が本物かどうかは、実際に人を見ればわかります。

──Schmidt’sを始めたとき、目標を設定しなければいけないというようなプレッシャーを感じましたか?

自分で立ち上げたことによるプレッシャーはありました。Schmidt’sはわたしにとって使命であり、ある意味で自己中心的なプロジェクトでした。ただ、顧客から心温まるメールをもらい、自分のしていることが他の人たちの生活に影響を与えていると気づいてからは、このビジネスは業界を変えられると考えるようになりました。「誰もが健康でナチュラルな製品を買えるようになる」のですから。

ただ最初の1〜2年に関しては、それほど明確な目的意識をもてないままだったと思います。いまは、ある種の大きな目的を掲げ、それについてきちんと説明できなければいけないというプレッシャーが確実に高まっています。それでも、一番重要なのは何のためにビジネスをしているのかをきちんと理解し、自分なりの価値観をもつことではないでしょうか。

──Schmidt’sを急成長する小規模ビジネスからグローバルブランドにまで育て上げたいと、常に思っていましたか?

わたしがSchmidt’sを始めたころに自分が投資家だったとしたら、資金は提供しなかったでしょう。事業が軌道に乗ってから6年間は、ブランドを売却するということは考えませんでした。そんなことは計画すらしていなかったのです。当時の規模で満足でしたし、ニッチな顧客基盤をもつ企業というのは存在します。

ユニリーバから打診があったとき、自分に(Schmidt’sを売却する)準備ができているとは思いませんでしたが、交渉の席についたときには当然その覚悟があったのだと思います。ユニリーバに事業を引き渡せば、とても大きなチャンスがあるということに気づきました。そして、わたし自身も次の段階に進む準備ができたのです。

ジェイミー・シュミット(Jaime Schmidt) 現在30カ国以上の国と3万店の小売店で販売されるパーソナルケアブランド「Schmidt’s Naturals」のファウンダーで、インクルーシブを社是に謳う投資会社Colorの共同経営者。2019年には、デジタルパブリッシャーSupermakerも立ち上げている。


Column: What to watch for

ベゾスは何を思う

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2021年第3四半期にアマゾンのCEOを退任することを発表したジェフ・ベゾス。QUARTZでは、インターネットコマースの歴史とほぼ同義ともいえるその足跡を特集していますが、掲載記事のなかで、ちょっといじわるな数字を紹介しています。アマゾンはアマゾン・スタジオ(Amazon Studios)を2010年に設立し、以来、何十億ドルも投じてテレビシリーズや映画を制作してきました。多くの作品が批評的な成功を収めているものの(2017年には、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』と『セールスマン』でアカデミー賞を受賞)、その脚光を浴びる舞台上でジェフ・ベゾスが賞賛を受けたことはいまだないというのです。

1966年以降のすべてのスピーチを網羅している「アカデミー賞受賞スピーチデータベース」によると、ネットフリックス共同CEOであるテッド・サランドスは2回、スティーブ・ジョブズ(ピクサー設立者)に至っては7回言及されています。ちなみに、ベゾスはアマゾン以外の場でも、エンタテインメントに大きな影響力を有しています。アマゾンは、1998年以降、IMBD(インターネット・ムービー・データベース)のオーナー企業でもあるのです。

ベゾスがインターネットにもたらした功罪については、週末ニュースレター連載「だ円問答」の最新回もどうぞご覧ください。

(翻訳:岡千尋、編集:年吉聡太)


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