Deep Dive: New Cool
これからのクール
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NFTが盛り上がるなか、「Nifty Gateway」では「ヴァーチャル家具」が50万ドル(約5,460万円)で落札されました。今後、ヴァーチャルなアートコレクションが未来を担っていくと予想されますが、見えなかった問題も浮上しています。英語版はこちら(参考)。
「3Dレンダリングのソファ」に、あなたはいくら払いますか? 2021年2月、ブロックチェーンを利用したデジタル資産「NFT(Non-Fungible Tokens)」のオンライン取引所のひとつである「Nifty Gateway」では、「ヴァーチャル家具」が50万ドル(約5,460万円)近くの値をつけて取り引きされました。
アンドレス・ライジンガー(Andrés Reisinger)は、バルセロナを拠点に活動する29歳のアルゼンチン出身のデジタルアーティスト。彼の手によるコレクションにはぐにゃぐにゃしたソファや複雑に重なる引き出し、ピンクの回転式オフィスチェアなどがラインナップされています。
これらのほとんどはコンピュータで生成されたファイルで、「リアル」な家具ではありません。落札者は、それらを仮想世界やゲーム環境のセットとして使えます。例えば、重力に逆らうテーブル「Pinky」のレンダリング画像に5,000ドル(約54万円)を支払った人は、それを「Minecraft」にアップロードできるのです。
ライジンガーは、6万8,000ドル(約742万円)で落札されたカスタムデザインの作品を含む5つのデザインを、最終的に実物でも制作する予定です(このような法外な価格は、コレクター向け家具のオークションではよく見られます。たとえば、サルバドール・ダリの限定版の「王座」は数百ドルで手に入ります)。
ライジンガーの売り上げは、急成長しているクリプトアート市場の恩恵そのもの。クリプトアート市場では、デジタルアートやビデオクリップ、さらにはツイートまで、あらゆるものに対して数百万ドルの値がつきます(それも出品から数分間で)。
取り引きに用いられるプラットフォームはNifty Gatewayのほか、「SuperRare」や「OpenSea」「Foundation」「Zora」「MakersPlace」など。出品された商品には、COA (Certificate of Authenticity)として、イーサリウム・ブロックチェーンが担保するトークンが付与されます。トークンの偽造はできません。この仕組みにより、コレクターが作品を再販するときには利益をオリジナルのアーティストとシェアすることも可能です。マイアミを拠点とするアートコレクターでNFTの投資家でもあるパブロ・ロドリゲス-フレイル(Pablo Rodriguez-Fraile)は最近、昨年10月に6万7,000ドル(約731万円)で入手した10秒間のビデオクリップを転売し、600万ドル(約6.54億円)以上を手にしました。
Cypto-Art and Covid-19
クリプトアートとコロナ
クリプトアートファンが「NFTはアートコレクションの未来になる」と声を上げる一方で、批評家は「(NFTが)地球を破壊する」と主張しています。
そもそも、ブロックチェーンを使ってアートを販売する初めてのプラットフォーム「Monegraph」(“monetized graphics”の略)が誕生したのは、2014年のこと。そこには、デジタルコンテンツにも所有権を明らかにする証書を付けることで、オンラインで無料で閲覧できる「アート作品」にも希少性が生まれるというアイデアがありました。2017年、「CryptoKitties」というゲームの所有権を得ようとコレクターが 100万ドル(約1.09億円)以上を支払った出来事は、当時大きな話題となりました。
クリプトアート人気が本格的に爆発したのは2020年。オンラインゲームが急増したことと、数カ月続いたロックダウン期間をきっかけに、テック系成金を含む多くのコレクターがNFTに注目したのです。「Crypto Art Data」によると、現在、クリプトアート市場は約2億ドル(約218億円)の規模に達しており、最大手プラットフォーム6社だけでも約10万件の取引が行われています。先月にはクリスティーズ(Christie’s)も、伝統的なオークションハウスとしては初めてNFTを伴うデジタルアートの販売に乗り出しました。
OpenSeaの共同設立者であるアレックス・アタラー(Alex Atallah)は、パンデミックの年に関心が急激に高まったことは理にかなっていると述べています。「もし、あなたが1日に10時間もパソコンを使用しているなら、デジタル領域のアートを買うことに大きな意味があるでしょう」と、『Reuters』に語っています。
NFTs’ impact
業界に与える影響
冒頭のライジンガーは、仮想の家具づくりに留まらずに実物も制作したいと考えている点で、他のクリプトアーティストとは一線を画しています。彼の試みは、家具の製造・販売方法に大きな影響を与える可能性があります。
一般的なイスの場合、家具メーカーは研究開発と製品テストを繰り返し、完成までには約4年の歳月がかかります。さらに、完成した製品を世に出すためには、雑誌への売り込みやマーケティング資料の印刷、世界中のデザインフェスへの出品(ニューヨークの国際現代家具見本市、シカゴのNeoCon、ミラノのミラノサローネ国際家具見本市、ケルン国際家具見本市……)など、さまざまな努力が必要です。
ライジンガーに、そんな手間は一切不要です。「Instagram」にレンダリング画像を投稿することで、生産に入る前に需要を把握。もちろん「いいね!」の数がそのまま売り上げにつながるわけではありませんが、彼のコンセプトの一つは予約を集めて世間の注目を集め、ベルギーのDesign Museum Gentのコレクションにも採用されています。
先日、ライジンガーはプロダクトデザイナーのジュリア・エスクェ(Júlia Esqué)と共同で、アジサイの花からインスピレーションを得たアームチェア「Hortensia」の実物を制作。その制作資金は、デジタル版をNifty Gatewayで販売することで得た利益を充てているようです。
カッシーナやイケアなどで家具デザインの経験もあるライジンガーは、「物理的につくるものは、需要があるものに限るべき。大量生産を提案し続けるブランドには大反対です」と話します。
実際に、多くの大手家具メーカーは彼との仕事を見合わせていたとライジンガーは言います。「デジタルアーティストと一緒に仕事をしたいと思っているプロデューサーやワークショップを見つけるのは、かなり難しかったですね。2018年に連絡を取ったチームのほとんどは、わたしの提案は実現するには非常に難しく、結局カネを失うことになると話していました」
The trends of decentralization
業界は分散化する
ヴィトラやヒューマンスケール、アルテックなどの大手家具ブランドで働いてきたマーケターのエイドリアン・パーラ(Adrian Parra)は、この「ディスラプション」を歓迎しています。「NFTが盛り上がることで、業界の分散化は促されることでしょう」
「これまでデザイン部門を率いてきたのは、白人のチーフクリエイティブオフィサーや『カリスマ』たちでした。ヴァーチャル家具のデザインという新しい現象は、彼らに依存したトップダウンのアプローチをひっくり返す可能性があります。デザインが民主化され、生産・発売の前に検証が行われるプロセスは、非常に説得力があります」
パンデミックの際には、コンピューターグラフィックスを採用する家具ブランドが増えました。デザインフェアやフォトスタジオが閉鎖されるなか、メーカーはコンピュータグラフィックスのスペシャリストを雇い、製品ラインを売り込むためのレンダリング画像を作成していました。「ほんの1年半前には、これらのアセットは『本物』の写真撮影に比べて劣っていると見下されていました。いまではすっかりあたりまえになっています」と、エイドリアンは説明します。
実際に、インテリア愛好家向けのビデオゲーム「Design Home」は昨年、Eコマースのプラットフォームを開設しました。このiOSゲームでは、ユーザーはラグやランプ、寝具などのホームファニシングをプラットフォーム上で購入できます。ウィリアムズ・ソノマ(Williams Sonoma)、ウエストエルム(West Elm)、ポッタリーバーン(Pottery Barn)などの実際の商品が、ゲーム内のチャレンジに登場します。
The ecological price of NFTs
NFTとエコロジー
ヴァーチャル家具は、真に意味のあるものになりえるのでしょうか。廃棄される家具はいまや驚くべき規模に及んでいますが、クリエイターもまた、自身の作品においてエシカルなサプライチェーンを意識すべきだとパーラは言います。米国環境保護庁の2018年のデータによると、米国人が毎年捨てている1,200万トンの家具のうち、80%が埋立地に送られています。2019年の調査は、英国の成人の30%が、模様替えのためにまだ使用可能な家具を捨てたことがあると指摘。2020年の調査によると、建築業界が世界の年間二酸化炭素排出量の40%を占めている理由として、インテリアデザインの模様替えやリノベーションが大きな要因であるとされています。
NFTベースの取引も問題の一因となっています。ロンドン在住のエンジニア、メモ・アクテン(Memo Akten)は、「The Unreasonable Ecological Cost of #CryptoArt」と題した一連の記事の中で、イーサリアムベースの取引のカーボンフットプリントについて概説しています。
SuperRareのデータを分析した結果導き出されたのは、平均的なクリプトアートの取引で、約340kWh、211kgの二酸化炭素が排出されているという事実でした。これは、「EUの居住者が1カ月以上にわたって消費する総電力量に相当し、クルマで1,000km、飛行機で2時間移動した場合と同等の排出量となる」といいます。
フランス人アーティストのジョニー・ルメルシエ(Joanie Lemercier)は、取引がどれだけ地球に負担をかけるかを理解したうえで、オークションをキャンセルしました。ルメルシエは、自身のウェブサイトに「わたしが発表した6つのクリプトアート作品は、10秒間で過去2年間のスタジオ全体の電力を消費したことがわかりました」と書いています。「この新しいモデルは、移動がなく、ほとんどがデジタル配信なので、アーティストにとって持続可能な活動になる可能性があるように見えます。それは、現在のブロックチェーンが環境に与える影響の大きさをまだ理解していないからであり、大惨事なのです」
アクティビストたちは、NFTオークションサイトに対して、取引におけるエネルギー使用量の透明性向上を求めています。また、より持続可能なトランザクションプロトコルの採用を求める署名活動も行われています。
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世界各地で活躍する日本人VCが現地の声で伝えるウェビナーシリーズ「Next Startup Guides」。3月24日(水)に開催する第5回では、Aniwoの寺田彼日さんをゲストに迎え、イスラエルにフォーカスします。詳細およびお申込みはこちらからどうぞ。前回好評だったウェビナー直後の「Clubhouse」でのアフタートークを、今回も実施します。
COLUMN: What to watch for
写真共有はNG?
「黒人以外の人は、ハリー王子とメーガン・マークルのインタビューをしたオプラ・ウィンフリーのミームを広めてはいけない。それは『デジタル・ブラックフェイス』を支持することになるからだ」と、NPOのスロー・ファクトリー・ファンデーション(Slow Factory Foundation)が訴えていると、『New York Post』が報じています。
社会的・環境的正義を追求するスロー・ファクトリー・ファンデーションは、Instagramに投稿し警告。「デジタル・ブラックフェイス」とは、非黒人がその感情を表現するために黒人の画像を共有する「オンライン上での現象」であるとされています。オプラがインタビュー中に見せたさまざまな顔のリアクションは、多くのミームを生み出していますが、デジタル・ブラック・フェイスに対する認識を高めた団体を称賛する声もあれば、行き過ぎであると感じる人もいました。
ちなみに、「デジタル・ブラック・フェイス」という言葉は前から存在していましたが、ライターのローレン・ミシェル・ジャクソンが2017年に『Teen Vogue』に掲載したエッセイで広まったと言われています。
(翻訳・編集/福津くるみ)
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