Startup:コレクター熱狂のライブコマース

Startup:コレクター熱狂のライブコマース

Deep Dive: Next Startups

次のスタートアップ

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Quartz読者のみなさん、こんにちは。月曜夕方にお届けしているこの連載では、毎週ひとつの「次なるスタートアップ」を紹介しています。今週は、新たなコレクター品の売買プラットフォーム「Whatnot」を取り上げます。

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ワインに絵画、時計、スニーカーなど、世間の40%の人は何かを収集する趣味をもっていると言われます。

新型コロナは、このコレクター市場を加速させました。自宅で過ごす時間が増え、収集の趣味を再開する人や、さらには旅行や外食が制限され浮いたお金を当て込んだ運用メリットを求める人が殺到しています。なかにはポケモンカードで億万長者になった人もいます。

いま米国で、この市場にライブコマースを持ち込み、エンタメとコマースの融合で、あるスタートアップが注目を集めています。今週のNext Startupは、コレクター品のライブコマースで急成長中の「Whatnot」を取り上げます。

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Image: WHATNOT

Whatnot
・創業:2019年
・創業者:Grant LaFontaine, Logan Head
・調達総額:2,470万ドル(約27億円)
・事業内容:コレクター品のライブコマース

WHO IS Whatnot?

Whatnotとは

Whatnotはコレクター品の売買を行う、ライブコマース・プラットフォームです。テレビショッピングのように、出品者は自宅でiPhoneのカメラを使って自慢のアイテムを紹介しながら盛り上げていきます。オークション形式で、制限時間は1分。次々に繰り出されるレアカードに、コメントや拍手が飛び交います。

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Image: WHATNOT

取引されるのはポケモンカードやスポーツカード、人気キャラクターをモデルにしたフィギュア「FUNKO POP」など。アプリは日本でもダウンロードでき、どの「部屋」もいつも数十名ほどのファンで賑わっています。

ポケモンカードやスポーツカードというとニッチに聞こえますが、北米は日本とは比較にならない巨大な市場で、スポーツカードだけで54億ドル(約6,000億円)の市場規模があります。カードは、保管しやすくスペースを取らない、絵柄や種類が豊富でゲーム的要素を絡めやすいなど、コレクター品としては非常に優れています。

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Image: THE POKÉMON COMPANY

Whatnotのギークでカオスな雰囲気はなかなか刺激的で、コレクターでなくても見ているだけで楽しめる、中毒性のあるコンテンツです。コロナの追い風を受け、週に数百のライブストリームが配信され、売り手が数千、買い手は数万人の規模まで急拡大しています。

KEY TO POPULARITY

躍進の理由

Whatnotが支持される理由は、まず利用者の手間と不安を徹底して排除した仕組みにあります。

まず、決済です。これまで、ビデオゲームやカードに関するライブストリーミングは「Twitch」や「Instagram」が使われていました。インスタライブでは注文・決済は別のサイトで行う必要がありましたが、Whatnotならプラットフォーム内で完了できます。

発送も簡単です。売買が成立すると発送者の元には送り状が届き、出品者はそれを貼って送るだけ。住所のやりとりや送り状を書く手間はありません。送料の2.5ドルは予め売買代金から差し引かれています。

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Image: WHATNOT

真贋判定も行います。高額商品は売買が成立するといったんWhatnotに送られ、本物かどうか鑑定したのちに、購入者に送られます。購入者がモノを確認してから出品者に代金が振り込まれる「エスクロー方式」も採用しており、安心です。

心地よくコレクターが出品できる環境を整えることで、買い手も集まってくる。この正の循環を活かした、徹底してコレクターに寄り添う姿勢がウケているわけです

CONVERGENCE OF MEDIA AND EC

メディアとコマースの融合

そして、Whatnot爆発的人気の秘密が「カードブレイク(card break)。複数枚のレアカードが入ったパックをグループで共同購入する仕組みです。

購入者には、プールした金額に応じて枚数と番号が振り分けられます。レアカードを入手できればもちろん嬉しいですが、ユーザー心理を掻き立てるのはどのカードが手に入るかのワクワク感と、届いたカードをお互いに披露して盛り上がる一連の体験です。

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Image: グループ実況のコミュニティも。PHOTO VIA YOUTUBE

Whatnotの出品者には素人もいますが、多くはコアなファンをもつ有名コレクターです。ファンが求めるものは同じ趣味やコレクターのもとに集う他のファンとの出会いであり、コミュニティとの交流なのです。

個人間売買といえばeBayですが、Whatnot創業者のグラント・ラフォンティーヌ(Grant LaFontaine)曰く、「15年間変化がない」状況です。自らコレクター品をeBayで売ったり買ったりしてみたものの思うように購入できず失望したことから、この事業に乗り出しました。

ライブコマースは中国が先行し、昨年の市場規模は前年比210%増の1,500億ドル(約16兆3,000億円)と驚異的な成長です。このブームが世界に伝播する時流を、Whatnotもうまく捉えています。

勢いに乗るWhatnotは、今月にはシリーズAラウンドとしては大型の2,000万ドル(約21億7,000万円)の資金調達を発表しました。今後、漫画やビデオゲームなど商品カテゴリを100以上まで増やす計画です。

DEMOCRATIZING INVESTMENT

オルタナ投資の民主化

Whatnotの躍進は、これまで富裕層が独占的に享受してきたオルタナティブ投資の、一般個人への解放という文脈でも、理解できます。

クラウドファンディングのようにユーザーを束ねたり、資産をトークン化して投資単位を小口化したり。不動産、ワイン、絵画など、これまで縁のなかった投資機会がテクノロジーのお陰で身近になってきました。

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Image: NBA選手のNFTを使ったブロックチェーンゲーム「TopShot」の取引も急増している。 PHOTO VIA TOPSHOT

加えて、スマートフォンが、極限まで取引の手間や情報コストを下げています。手数料無料で5ドルからの株式投資を可能にした「ロビンフッド革命」しかり、一般人には縁のない、敷居が高くて近寄りがたいコレクターの世界も、アプリをダウンロードした次の瞬間に姿を変え、誰でもレアカードのオークションに参加できます。

世界中の金利がゼロに張り付き、普通の投資対象に利回りが残されていないなかで、オルタナティブ資産は残された最後の投資フロンティアと言えます。

最近話題のNFT(Non-Fungible Tokens)は、この現象をデジタル資産に拡張したものと捉えることができます。むしろ劣化や紛失の恐れがなく、他人に見せるにも容易で、保管や物流のコストがゼロなデジタルコンテンツはコレクター品としてよりふさわしく、NFTが盛り上がるのも当然と思われます。

元来日本はアニメやゲームなどコンテンツリッチな国。コレクター市場は日本にとって、コレクター市場の開放は千載一遇のチャンスかもしれません。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。


🌏 ウェビナー第5回、開催迫る!

世界各地で活躍する日本人VCが現地の声で伝えるウェビナーシリーズNext Startup Guides」。3月24日(水)に開催する第5回では、Aniwoの寺田彼日さんをゲストに迎え、イスラエルにフォーカスします。詳細およびお申込みはこちらからどうぞ。前回好評だったウェビナー直後の「Clubhouse」でのアフタートークを、今回も実施します


Cloumn: What to watch for

YouTuberが目指す国

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ピレネー山脈の山間。フランスとスペインに挟まれた、人口7万7,000人のアンドラ公国がYouTuberやTikTokerの移住先として注目を集めています。もともと、スキーとタックスヘイブンを求める富裕層に人気のエリアとして知られていましたが、この1年で人気ゲーマーのaLexBY11WillyrexVEGETTA777などが移住し、SNSスターが集うクリエイティブハブに変貌を遂げています。40万人を超えるチャンネル登録者数を抱えるYouTubeチャンネル「Wall Street Wolverine」のホストであるビクター・ドミンゲス(Victor Dominguez)もその一人。彼が言うには、アンドラは「YouTuberのシリコンバレー」。拠点を移した理由に、わずか5分の距離に他のYouTuberが住んでいてコンテンツをつくるのに恵まれた環境があることを挙げています。

しかしこの言い分に対し、スペインでは国営メディアをはじめ多くのマスコミがYouTuberの税金逃れを非難する論調が高まりました。事実、アンドラの最高税率は10%と、隣国スペインの54%と比べるとその差は歴然。ドミンゲスは税控除については触れていませんが、2019年以降、アンドラに移住する際に「YouTuber」で申請できることを地元の弁護士は認めており、そのようなクライアントは確かに増えているそうです。因みに、スペイン世論の反発にもかかわらず、移住した当事者のビジネスは影響を受けず、むしろエンゲージメントは拡大し続けています。アンドラに移住したゲーマーのElRubiusはスペインでの議論の風潮は腐敗しきっていると切り捨てます。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)


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