Deep Dive: New Cool
これからのクール
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中国ではいま、若い投資家たちがファンドマネジャーを「ファン」としてリスペクトを寄せる現象が起こっています。ファンカルチャーが市場にもたらす影響は絶大なようです。英語版はこちら(参考)。
中国のソーシャルメディア「ウェイボー」(Weibo、微博)のファンコミュニティページには、親しみを込めて「クンクン」(Kun Kun)と呼ばれるスターがいます。
彼への憧れを表明すべく、ユーザーからは何百ものコメントや写真が投稿されており、なかにはハートのスタンプで飾り立てられたクンクンの写真も。あるユーザーは「クンクンは失敗を恐れない。iKunはいつでも彼についていく。クンクンはいつまでも若く、最後まで一流であり続ける」とコメントしています。
「クンクン 」ことチャン・クン(Zhang Kun、張昆)は、アイドルでも俳優でもありません。中国の老舗資産運用会社E Fund Managementで約1,200億元(186億ドル=約2.02兆円)の資産を管理する、中国で最も著名なファンドマネジャーの一人です。チャンのフォロワーは、自らを「iKun」(「i」は中国語の「愛」の同音異義語)と名乗り、Weibo上では「グローバル・ファンクラブ」というアカウントが作成されています。
social media stars
ファンカルチャー誕生
中国では、成人し投資の世界に飛び込んだミレニアル世代、そしてZ世代が、オンライン独特のファンカルチャーをおカタい投資の世界に持ち込んでいます。アイドルに夢中になったり、愛するスターをさらに有名にするためのキャンペーンを行ったりするように、チャンのようなトップファンドマネジャーをまるでセレブのように崇拝しているのです。
Z世代のなかでも、最初の層はもうすでに20代前半。初めての仕事に就き、資本市場で大きなポテンシャルを発揮しつつあります。
彼ら若い投資家は、Lion Fund Managementのカイ・ハオソン(Cai Haosong)やZhong Ou Asset Managementのゲ・ラン(Ge Lan)などといった「スターマネジャー」のファンページをつくり、あるファンド専門のメディアでは、6人の男性ファンドマネジャーの中から「王子様 」を選ぶ人気投票まで実施しています(ネタバレになりますが、最も票を集めたのは、チャンと彼の同僚でした)。金融ニュースメディア『National Business Daily』によると、ファンドマネジャーへの関心は非常に高く、中国の人気娯楽番組からスターマネジャーへのインタビューの依頼が引きも切らないといいます。
こうした状況は、国外の資産運用会社には大きな課題としてのしかかっています。ブラックロック(BlackRock)やバンガード(Vanguard)などの大手を含む多くの外資系資産運用会社は、昨年はじめに資産運用管理会社の外国人所有権に対する規制が撤廃されて以来、中国での事業拡大を目指してきました。しかし、彼らは中国のミームに支配されたオンラインでのファンカルチャーを、ほとんど経験したことがありません。
「中国に参入した国外企業は環境に適応できておらず、競争に必要なレベルにすら達していません。中国の競合他社が何をしているかを見て、それを真似る必要があります」と、上海に拠点を置く資産運用のコンサルタント会社Z-Benのファウンダー、ピーター・アレクサンダー(Peter Alexander)は言います。
Young investors
若い投資家の増加
中国の資産管理協会によると、2020年の中国の投資信託の全体額は3兆ドル(約3,267兆円)で、前年の2.3兆ドル(約2,505兆円)から急増し、過去5年間で最大の増加に。この業界の利益も、前年比70%増の3,090億ドル(約3.36兆円)を記録しました。
その背景にあるのは、パンデミックで時間を持て余した市民がデイトレーダーになったことで、中国の株式市場が強気のパフォーマンスを見せたことによるものです。
しかし、中国のファンド市場の規模は、世界最大規模である米国のファンドの保有額約22兆ドル(約2,396兆円)にはまだ及びません。これは、中国のファンド業界が、1924年に最初のファンドを立ち上げた米国に比べてはるかに歴史が浅いためで、中国に最初の投資信託会社が誕生したのは1998年のことでした。スイスの銀行UBSは、中国のファンド市場は2030年までに16兆ドル(約1,742兆円)に成長すると予測しています。
近年の著しい成長は、若年層の投資家の増加によるものだと考えられます。上海の調査会社Mob Techが発表したレポートによると、昨年8月時点で中国国内に新たに誕生した投資家の数は2,000万人。その半数以上が30歳以下の若者であるといいます。
中国で圧倒的なシェアを誇るモバイル決済アプリ「アリペイ」を所有するアントグループ(Ant Group、蚂蚁集团)でファンドパートナーシップを担当するリャン・ジンルイ(Liang Jingrui)は、次のように説明します。
「若いユーザーのあいだで、アリペイ(Alipay、支付宝)を使ったファンド投資への関心が高まっていることは確かです。2020年には、当社のプラットフォームにおける新規ファンド投資家の50%以上が1990年以降に生まれた人たちです」
アリペイと中国新経済研究所(China Institute of New Economy)による2019年の報告書によると、中国のZ世代は働き始めてから平均して2年後に投資を始めており、2020年には60%以上の若い投資家が1年以上ファンドのポジションを保持していたとリャンは述べています。
Z-Benのアレクサンダーは、若者がファンドを選択する理由を次のように説明します。「何百、何千元で酒造メーカーのマオタイ(Kweichow Moutai、貴州茅台)のような銘柄を買うよりも、1元で(同社に投資している)ファンドを買うことができます」
中国の金融ブロガーであるソン・ジェンウェイ(Song Jianwei)も、投資増加の背景としてオンラインプラットフォームの存在を挙げます。
「モバイル決済の革命により、人びとが資金を投入するのは非常に簡単になりました。必ず銀行を通す必要のあった親世代とは異なり、いまでは誰もがオンラインプラットフォームで数回クリックするだけで資金を購入することができ、さまざまな商品の情報も提供され、取引手数料も銀行より安くなっています」
なかでもアリペイは、若年層が資金管理するために必要不可欠なプラットフォームとなっています。
「以前は、銀行に預けることがほとんどで、あとは使ってばかりいました。しかし3年ほど前から、アリペイにはたくさんの投資先があることに気づき、投資の敷居が低くなりました」と、北京在住の個人投資家、エコー・コー(Echo Kou)は言います。コーのような多くの人にとって、0.15ドルから投資できるアリペイのマネーマーケットファンド「余額宝(Yu’e Bao)」こそが投資の旅の始まりでした。中国でのアリペイユーザーが10億人を超えますが、Yu’e Baoのユーザー数も現在、6億人を超えています。
29歳のシャーリーン・コン(Charlene Cong)にとっては、ファンドはほかの投資から分散するための手段となっています。「わたしはプロによる投資管理を信じています。市場が上向きであれば大きすぎるほどのリターンを生み出し、市場が下向きになればリスク軽減に努めるアクティブなファンドマネジャーの能力を信頼しています」と彼女は言います。 コンは、資金の40%をファンドに、30%を保険に、残りを株式に割り当てています。
投資家がアセットマネジャーに寄せるこの「愛」は、当然ながらファンドのパフォーマンスに反映されます。
チャンのファンドは、8年間で700%近いリターンを達成しました。チャン自身は控えめな姿勢を貫いていますが、一部の運用会社はソーシャルメディアを活用し、こうした新たな投資家との関係を築いています。多くの運用会社が、新しいファンドをオンラインのライブストリーミングで紹介し、視聴者が自分の携帯電話から直接商品を購入できるようにしているほどです。
Fresh leek?
危険性も伴う判断
今年2月、春節前夜の大晦日には60万人以上がアリペイで金融関連のライブストリームを視聴しました。投資熱は、動画配信サイト「Bilibili」のような金融以外のプラットフォームにも波及し、メイクアップブロガーたちが自らの投資体験を語る動画をつくり始めています。
ブロガーで大学生のシャオ・ウェイ・フー(Xiao Wei Huhu)はVlogで、「ライフスタイルアプリで人びとがやりとりしているのが目に入るほどトレンドになっていたので、最近初めてファンドを買いました」と話しています。
コメント欄には、若くして自分の財務状況を把握している彼女を称賛する声もありました。しかし、このような投資のソーシャルメディア空間や、金融関係のインフルエンサーやスター経営者への執着が、一貫性のない投資判断につながるのではないかと心配する声もあります。
中国の金融メディア『Ran Cai Jing』では、金融ブロガーが、Z世代の投資家を「収穫を待つネギ」に喩えています。ネギは成長が早く、何度でも収穫できることから、この表現は、金融知識のない投資家が投機的な取引に巻き込まれやすいことを指す俗語となっています。Gen Zの投資家のなかには、自分が運営するファングループへの参加をファンド投資家に要求する者もいます。
「若者が企業や業界、商品を勉強せず、リターンや短期的なトレンドだけを追い求めれば、ファンドもいつか彼らを失望させることになりかねない」。いまではその熱狂についてふれる記事をさまざまなメディアで書かれるようになっています。
COLUMN: What to watch for
新たな憎悪犯罪
英国およびウェールズでは、ミソジニー(女性蔑視)が「ヘイトクライム」だと見なされるようになります。これまでも長きにわたりアクティビストたちが活動を続けてきましたが、先日ロンドンで起きた、徒歩で帰宅途中に行方不明になった女性が殺害された事件に対する国民の怒りを受けて、女性に対する暴力に対する厳しい対応が求められていました。
政府は実験的に、2021年秋から、ストーカー行為やハラスメントを含む個人に対する暴力犯罪や、被害者が性別に基づく敵意が動機となっていると認識している性犯罪を特定し、記録するよう警察に要請するとしています。
先立つこと2016年、英ノッティンガムシャー警察は初めてミソジニーをヘイトクライムとして認識しています。ノッティンガムシャー州の元警官であるスー・フィッシュ(Sue Fish)は、昨年『Dazed』の取材に応じ、この変化によって女性がより安全で快適に感じられるようになっただけでなく、「自分に起こったことを報告する自信がついた」と述べています。
(翻訳・編集/福津くるみ)
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