Deep Dive: Impact Economy
これからの経済
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毎週火曜夕方のニュースレターでは、気候変動をはじめとするグローバル経済の大転換点をお伝えしています。今日は、ウォール街で最も注目を集める投資家について。相場急落にも直面しているともされるキャシー・ウッドの実像の一部を、紹介します(英語版はこちら)。
ウォーレン・バフェット(Warren Buffett)とキャシー・ウッド(Cathie Wood)は投資に関してはまったくの正反対です。「投資の神様」の異名をもつバフェットがハイテク分野にはあまり手を出さないのに対し、ウッドはテック株を好んで購入しています。
ウェルスマネジメント会社ハイタワー・アドバイザーズ(HightowerAdvisors)で投資戦略を担当するステファニー・リンク(Stephanie Link)によれば、ふたりが対極にあるのはいいことのようです。10億ドル(約1,100億円)相当のファンドを管理するリンクは、次のように語ります。
「資産運用では投資先を多様化することが重要ですが、ウォーレンとキャリーの戦略はまったく異なります。まさに多様化を体現したようなものなのです」
is she the anti-Warren Buffett?
上がり続けたウッド株
バフェットとウッドにはいずれも熱狂的なファンが付いています。バフェット率いる複合企業バークシャー・ハサウェイ(Berkshire Hathaway)の年次総会には彼の姿を一目見ようとたくさんの人が集まる一方、ウッドはTwitterやTikTokで大人気。
バークシャーの資産総額は5,650億ドル(約62兆2,700億円)に上り、北米最大の貨物鉄道会社BNSF鉄道(BNSF Railway)を保有するほか、コカ・コーラからシェブロンまで、さまざまな企業に出資しています。
ウッドの投資会社アーク・インベスト・マネジメント(ARK Investment Management)の旗艦ファンドであるアーク・イノベーションETFは、このバフェットの帝国を上回る勢いを見せています。
アーク・イノベーションの株価は2014年10月の立ち上げからこれまでに500%以上も伸びましたが、バークシャーのA株はこの間に約80%しか上昇していません。
How they invest in stocks
ふたりの投資手法
バフェットは投資を考えている企業を徹底的に分析し、市場で評価されていない本質を見抜くことで巨万の富を築いてきたと、リンクは説明します。
いまでは90歳になったバフェットですが、過去に「事業内容がわかりやすく確実なリターンが見込める企業が望ましい」との趣旨の発言をしたことがあります。また昨年の「株主への手紙」では、保有資産の中ではBNSFおよびアップルの株式5.4%が特に重要だが、現時点では「どちらがより価値があるかはわからない」と述べました。
これに対し、ウッドはまず、例えば蓄電池を使った電力貯蔵など特定の市場を調査し、そこで利益を挙げられそうな企業を見つけます。ウッドは資産運用会社アライアンスバーンスタイン(AllianceBernstein)でグローバル戦略の責任者を務めた経歴の持ち主ですが、ゲノム解析からブロックチェーンまで、彼女がテクノロジーのプラットフォームとみなすものすべてに対してアンテナを張り巡らせているようです。
ビットコインの伝道者とも呼ばれるウッドは、テスラ株が値上がりしたことで一躍有名になりました。金融データ会社ファクトセット・リサーチ・システムズ(FactSet Research Systems)によれば、アーク・イノベーションは過去12カ月でアップル株を徐々に手放しています。
ただ、勝ち続けることのできる投資家などいません。アーク・イノベーションは粉飾決済で破綻したドイツのフィンテック企業ワイヤーカード(Wirecard)に出資しており、『フィナンシャル・タイムズ』が最初に不正会計疑惑を報じた後も同社の株を買い増していたことが明らかになっています。最近のハイテク株の下落傾向を受けてアーク・イノベーションの株価は急落しており、3月に入ってからは1日で6%近く下げた日もありました。
一方、バフェットも過去に失敗を認めています。例えば2016年には、航空部品メーカーのプレジション・キャストパーツ(Precision Castparts)を取得したのは誤りだったと述べました。バークシャーはこの買収で最終的に110億ドル(約1兆2,100億円)の評価損を計上しています。
バークシャーの株価は1965年以降、ほとんどの年においてS&P500種指数を上回ってきましたが、過去2年は遅れを取っています。ハイタワー・アドバイザーズのリンクはこれについて、バフェットの手腕が鈍っているわけではなく、バークシャーは株式市場が低迷しているときによい成績を残す傾向があると指摘します。
リンクは「バフェットは非常に賢い投資家で、常に規律ある行動を取り、自分のやり方を変えるつもりはありません。彼が変わることはないでしょうが、だからこそ、この先も頼りにすることができるのです」と言います。一方で、リンクはウッドのことも「素晴らしい」と称賛しています。アーク・イノベーションは保有する成長銘柄が上昇に転じれば持ち直すはずですが、市況の悪化が続けば業績がさらに悪化する可能性もあります。
リンクは「だからこそ、両方の株を少しずつ保有しておくことが意味をもつのです」と述べています。「誰もがお金を失わずに利益を得たいと考えています。長期的に見れば、複数のものを組み合わせることでこれが可能になると、わたしは考えています」
Column: What to watch for
スターの証明
「『ロックスター』としてのファンドマネジャーの時代は終わったと思っていました」と言うのは、Bloomberg Intelligenceのアナリスト、エリック・バルチュナス(Eric Balchunas)。「しかし、わたしは間違っていたようです。人びとはキャシー・ウッドを愛しています」
キャシー・ウッドの大胆な投資判断は、ソーシャルメディア上で多くのファンを生み出し、現在では、ウォール街のテーマやミームに基づいた商品を販売するサイト「Dasnooze」で、ARKの商品が販売されているほど。Dasnoozeの運営者たちもウッドのファンで、彼らによると、ウッドをモチーフにしたグッズはサイト内の他のすべての商品よりも売れているといいます。
ウッドにとって今後の課題となるのは、その驚異的な記録を維持できるかどうかということ。これまで優れたアイデアで有名になったあと、それを再現せずに消えていった投資家はいくらもいます。しかし、前出のバルチュナスによれば、ウッドは「運が良く、かつ優秀」。バルチュナスは、「ウッドは10年、20年先の未来を見て、そこにどんな企業が存在するか、どんな企業がその未来をつくっているかを考えています」と言います。「そのコンセプトはとりわけ新しいものではありませんが、彼らは非常にうまくやっていて、完璧に波をとらえています」
(翻訳:岡千尋、編集:年吉聡太)
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