Deep Dive: New Cool
これからのクール
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GenZを中心にいま、2000年代をリバイバルさせた「Y2K」がトレンドになっています。かつて世界を席巻したエネルギッシュなスタイルに、現代の若者が夢中になる理由があります。
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ベロアのセットアップ、チューブトップ、ローライズデニム、お腹見せ、マイクロミニスカート……。それからアグ(UGG)に、ジューシークチュール(Juicy Couture)。2000年代に一世を風靡したこのワードやブランドを覚えている、もしくは知っているでしょうか?(とくにレディスですが)
パンデミックが始まった2020年3月以降、ジューシークチュールのセットアップやアグのブーツのようなアイテムの人気が再熱しています。
調査会社のPilot Fishによると、2020年、アグのブーツの検索数は前年比15%、ベロア素材のセットアップに至っては95%と大幅に増加したといいます。2020年10月には、キム・カーダシアンがベロア素材のトラックスーツを発売。その広告には当時、ジューシークチュールの広告塔を務めていたパリス・ヒルトンを起用し、話題になりました。
俳優のティモシー・シャラメはピンクのジューシークチュールのパーカーを着用して米国版『GQ』に登場。新世代のポップアイコンとして活躍するデュア・リパは、ライムグリーンのベロアのセットアップを着用した姿をInstagramに投稿しています。
『The Guardian』では、こうした「ラク」なファッションが復活していることについて「消費者がどのような服を買うかという視点は、パンデミックによって変化した」と指摘。ロンドンを拠点とするマーケティング会社ODDのエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター、ニック・スティックランド(Nick Stickland)は同紙に対し、「パンデミック以来、スタイルと快適さの境界線はこれまで以上に曖昧になった」とコメントしています。
しかし、この変化の理由は、パンデミックの影響だけではありません。
I’m loving it
愛すべき2000年代
カラフルでエネルギッシュな2000年代に流行ったファッショントレンドがいま、Gen Zを中心とする若者のあいだでリバイバルしています。このトレンドは「Y2K」(Year 2000)と呼ばれ、注目されています。
TikTokでの再生回数をタグ別にみると〈#2000s〉は27億回、〈#2000sthrowback〉は17億回再生(4月16日現在)。Gen Zから多大な支持を得るフリマアプリ「ディポップ」(Depop)では、〈#Y2K〉での検索結果が約118万件ヒットします(ちなみに、Depopユーザーの90%は26歳以下で、英国では16〜24歳までの約3分の1がこのアプリを利用しています)。
例えばモデルのベラ・ハディッドが身に付けるキッチュでカラフルなジュエリーはまさに2000年代を彷彿とさせるもの。デュア・リパ(彼女は厳密にはGen Zではありませんが)は、2002年のクリスティーナ・アギレラを思い起こさせるヘアスタイルを披露しています。
人気が再熱したブランドは、先出のジューシークチュールやアグだけではありません。
2000年代、パリス・ヒルトン、デニス・ロッドマン、アシュトン・カッチャー、グウェン・ステファニー、ブリトニー・スピアーズなどが愛用し、「トラッカーハット」を誰もが憧れるファッションアイテムに昇華させたヴォン・ダッチ(Von Dutch)は、大々的にカムバック。いまではジョーディン・ウッズ、エマ・チェンバレン、メーガン・ザ・スタリオン、アレクサ・デミーといったGen ZのスターたちのInstagramのフィードに登場するほどになりました。
また、2000年代のアイコニックなセレブリティやファッションにフォーカスしたInstagramアカウント @2000sanxiety は約33万人のフォロワーをもち、当時を懐かしむ人びとが集う場所にもなっています。
ラグジュアリーファッション業界にも、Y2K人気の流れがあります。グッチ(Gucci)やバレンシアガ(Balenciaga)のほか、プラダ(Prada)は、2000年代前後に流行ったナイロンバッグを復活させた「Re-Edition 2000」をローンチ。ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)のモノグラムバッグも、ケンダル・ジェナーなどのヤングセレブが取り入れ、再び人気を集めています。
Why so obsessed with?
なぜハマるのか?
「1997年から2010年代初頭にかけて生まれた」と定義されるGen Zは、スマホを片手に、新しいテクノロジーやトレンドに即座に適応してきた世代。「自撮り世代」「TikTok世代」などと呼ばれる彼らは、ソーシャルメディアはじめ、タップするだけですぐにアクセスできるエンタテインメントやファッションに慣れ親しんでいます。ソーシャルメディア上で流行ったトレンドはすぐに消費されて次のトレンドが生まれますが、そのサイクルも加速度的に早くなっています。
Gen ZはY2Kに夢中になっている一方で、その前の世代、ミレニアルズが浸っていたのは90年代のスタイルでした。どちらの世代もノスタルジア──ヴィンテージ風ファッションはじめ過去への賛美という点で共有していますが、いずれも現代社会からの「逃避と安らぎの源」を求めているといえそうです(2020年7月9日配信の「Dark Academia」参照)。
『L’officiel』では、9.11事件のあとに育ち、2008年のリーマン・ショックのなかで大人になったミレニアルズは、周囲の世界が不確実に変化していくなかで、90年代の青春時代や当時の美的感覚への親近感を覚えると言及。ある調査によると、ミレニアルズはとくにリスクを嫌う傾向があるため、ファッションにおいても独自のトレンドを生み出すよりも、試行錯誤されたトレンドに戻ることを好むとも指摘されています。一方のGen Zは、米国の政治・社会問題やCOVID-19、気候変動などの終わりの見えない課題と共存しようとするなかで、過去に対しての強い「憧れ」を2000年代のスタイルに託しているのかもしれません。
GenZの関心はファッションに留まらず、表現方法やコミュニケーション手段にも及びます。Instagramアカウント @miss2005 を運営する19歳のニコール・ランドーン(Nicole Randone)は『The New York Times』に対して、「2000年代前半は、楽しむことや自分の個性を表現することが大切でした。いまの世界では、すべてのものや人がシリアスに考えられています」と言います。『シンデレラ・ストーリー』(2004)や 『モテる男のコロし方 』(2006)といった2000年代前半のティーン向け映画をに触れていたという彼女は次のように続けます。
「対面式のコミュニケーションや電話が主流だった時代に憧れています。テクノロジーが発達するにつれ、対面式のコミュニケーションが台無しにされている。2000年代の方がずっとよかったのに」
You’re Adorkable
ダサかわいいの魅力
Y2Kに独特の、一見ダサくも見える派手な格好や色使いが好まれる流行は、Gen Zが「ダサかわいい」(Adorkable)を好むことにも関係があるように見えます。
「Adorkable」ということばは、Gen Zをターゲットにエモーショナルな魅力を巧みに表現するブランドに対しても使われます。
『Bloomberg』では、「Adorkableなカテゴリおよびブランド」として、ビューティ(Topicals、Everyday Humans)、ファッション(Bubble、Entireworld)、セルフケア(Flewd、Superfluid)、スナックフード(Nuggs、Behave)などを紹介。それらの広告は、肌荒れやニキビなどを隠さない姿をポップに表現していたり、ボディポジティブな印象を与えるルックなど、リアルさが伝わるものになっています(Gen ZはInstagramの使い方もミレニアルズとは異なります。完璧でキレイに見せるよりも醜く見せるほうがクールだとされています)。
こうした「ダサかわいい」手法は、Harry’sやAway、Warby Parker、CasperのようなD2Cスタートアップに顕著なようです。
それらのロゴやパッケージデザイン、フォントはよく似ていて、SDGsや社会問題に対して積極に取り組んでいるという姿勢も共通しています。「製品・提供方法のユニークさやその画期的な目的を主張しながらも、ビジネスモデルや見た目、文章やコピーのトーンなどがひとつの決まった方式に忠実に従っている」そのスタイルは、「あたりさわりのない」(Bland)と表現されることも多いようです。
COLUMN: What to watch for
再定義されるライブ
2020年の音楽業界は、パンデミックによって困難を強いられました。とくに、野外ライブやフェスをはじめとする大人数を収容するイベントは、今後もそのやり方自体を見直さなければならないでしょう。しかし、米国のエレクトリック・デイジー・カーニバル(EDC)やボナルー・フェスティバル、ベルギーのトゥモローランド、英国のレディング&リーズ・フェスティバルなどの主要な音楽フェスは今年、開催を決行する予定だといいます。
そのなかで、業界大手のライブ・ネイション(Live Nation)は、60以上の会場をライブストリーミングとして使用できるようにすると発表しました。パンデミック前のライブ・ネイションは、年間5億枚のチケットを販売していましたが、パンデミックの影響で2020年は98%もの減収になっていました。そこで同社は「ライブ」を再定義し、「ライブっぽい」もの、つまりストリーミングサービスに力を入れていくということです。
この野心的なプロジェクトは、Good CharlotteのBenjiとJoel Maddenが2017年に立ち上げた有料チケット制ライブ配信サービス「ヴィープス」(Veeps)のもとで行われており、ライブ・ネイションは今年初めに同社を買収しました。
ヴィープスのチケット収益は、2020年に1,000万ドル(約10.8億円)以上をアーティストにもたらし、パフォーマーだけでなく、そのバンドやクルーの資金にもなっています。なお、同社はチケット販売に15%の手数料を加えているといいます。
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