Deep Dive: Crossing the borders
グローバル経済の地政学
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セラムやバーラト・バイオテック、パナセア・バイオテック。数々の製薬企業がワクチン製造を担っているインドで、何が起きているのか。毎週水曜夕方のニュースレター「Deep Dive」では、国境を越えて動き続けているビジネスの変化を追います(英語版はこちら)。
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5月1日から18歳以上を対象にワクチン接種を開始する。そうインドで発表された同じ日、同マハラシュトラ州の若者が、2回目のワクチン接種を受けたとする写真を投稿しました。
投稿主のタンメイ・ファドナビス(Tanmay Fadnavis)は、ワクチン接種の対象となる45歳以上だとは、とても見えません。この人物が、元マハラシュトラ州首相のデヴェンドラ・ファドナビス(Devendra Fadnavis)の親戚であることも物議を醸し、タンメイはその後、投稿を削除するに至りました。
もっとも、行列をスキップしたインド人は彼だけではありません。血縁が色濃く影響するニューデリーのネットワークでは、45歳以下にもかかわらず多くの者が少なくとも1回はワクチン接種を受けています。「わたしのいとこは全員ワクチンを打っています。従業員のなかにも、1回目の接種を受けた人がいます」と言うのは、デリー在住のある老舗商社マン。彼は32歳ですが、さもあたりまえのように、言うのです。
vaccine rollouts
ワクチン格差
インドではここ数週間で新型コロナウイルスの感染が急速に拡大し、同時にワクチンの供給不足が起きています。新規感染者数は過去最高を記録し、その後も増え続けています(21日現在確認されている感染件数は約1,532万件で、死者数は18万530人)。一方で、一部の州ではワクチンがほとんど手に入らない状態です。
経済の中心地ムンバイでもこれまでで最悪のペースで感染者が急増しており、ワクチン不足が深刻です。9日時点で市内120カ所の接種センターのほぼ半分はワクチンがないために閉鎖されており、ムンバイのあるマハラシュトラ州政府は、中央政府にワクチンを供給するよう繰り返し要請しています。
チャッティースガル(Chhattisgarh)、オリッサ(Odisha)、ハリヤナ(Haryana)、アーンドラ・プラデーシュ(Andhra Pradesh)、テランガーナ(Telangana)の各州でもワクチンが足りていません。オリッサ州首相ナヴィーン・パトナーヤク(Naveen Patnaik)は保健相ハーシュ・ヴァルダン(Harsh Vardhan)に対し、州内の接種センター700カ所を閉鎖さざるを得ないと訴えています。
The shortage
セラム製ワクチンの不足
インドでは中央政府がワクチンの分配を管理しており、使われているのは大半がセラム・インスティチュート・オブ・インディア(Serum Institute of India)の「コビシールド」(Covishield)です。これはセラムが英製薬大手アストラゼネカ(AstraZeneca)とライセンス契約を結んで製造するワクチンですが、アストラゼネカが販売を約束した国にセラムが期日通りに納品できていないことが問題となっています。アストラゼネカはセラムに、契約内容を守るよう法的文書を送付しました。
また、ワクチンを途上国などに分配する国際的な枠組み「コバックス」(COVAX)は3月25日、3月と4月に予定されていたセラム製ワクチンの受領が遅れる見通しであることを明らかにしています。
セラム最高経営責任者(CEO)のアダール・プーナワラ(Adar Poonawalla)は現状について「非常にストレスを感じている」と発言したほか、製造を加速するには30億ルピー(約43億5,000万円)の支援が必要だと述べています。
ワクチン不足はインド国内での需要拡大と連鎖しているようです。4月8日には国内全体で300万回のワクチン接種が行われ、摂取回数はプログラム開始から83日間の累計で9,400万回に達しました。政府は8月までに3億人への接種を終えるという目標を掲げていますが、2回の接種が必要なコビシールドでこれを達成するには接種回数は6億回となるため、いまのペースでは難しい見通しです。また、ワクチン外交を巡る批判も噴出しています。
India’s vaccine friendship
ワクチンで結ばれる友情
インドはこれまでに、コビシールドおよび製薬大手バーラト・バイオテック(Bharat Biotech)が開発した国産ワクチン「コバクシン」(Covaxin)合わせて6,400万回分を輸出しました。これには、COVAX の枠群みや通常の販売契約に加え、友好国への無償提供も含まれます。ただ、「ワクチン・マイトリー」(Vaccine Maitri、ワクチンを通じた友情)と名付けられたこの友好国への無償提供イニシアチブは、外交戦略の追求よりも国内での接種を優先すべきだとの批判を浴びています。
一方で、供給不足は無償提供にも影響を及ぼしており、4月に入ってからはバングラデシュと太平洋の島国ナウルにそれぞれ1回ずつしか発送が行われていません。こうしたなかで現状打破のためにできるのは、未承認ワクチンの緊急使用を認めることでしょう。
Other vaccines like Sputnik V
スプートニクV
医薬品当局のワクチン専門委員会はこれまで、第3相の臨床試験が終わっていない段階でコバクシンの緊急使用を承認したほか、コビシールドについてもインド国内での治験データがないにもかかわらず使用を認めるなど、臨機応変な決定を下してきました。
ただし、ロシア製の「スプートニクV」(Sputonik V)は例外のようです。ロシア直接投資基金(RDIF)はインドの製薬大手ドクター・レディーズ・ラボラトリーズ(Dr. Reddy’s Laboratories)と組んで国内での臨床試験を進めているほか、複数のインド企業がスプートニクVの受託製造に関心を示しています。すでに3社とライセンス契約が結ばれており、最近ではパナセア・バイオテック(Panacea Biotech)が年間1億回分を製造することで合意しました。また、ドクター・レディーズはスプートニクVが承認されれば、向こう1年で2億5,000万回分を製造する用意があるとしています。
インドでは米ファイザー(Pfizer)と独ビオンテック(BioNTech)が共同開発したmRNAワクチンも承認されていませんが、これについても再考が求められています。ファイザーは昨年12月にインドで緊急使用許可を申請しましたが、この時点ではデータが不足していることを指摘され、申請を取り下げた経緯があります。
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Column: What to watch for
酸素も足りない
インド国内の新型コロナ「第2波」の深刻なさまを、Quartz Indiaのジャーナリスト、Manavi Kapurが伝えてくれています。
まず、新規感染者。先月までは1日の感染者数が1万5,000人以下でしたが、4月15日以降、1日に20万人以上の新規感染者が発生。19日には新たに27万3,810人の感染者と1,619人の死亡者が報告され、いずれも1日の最高記録となりました。
次に地域。第2波の流行は、西部のマハラシュトラ州とグジャラート州で始まり、現在ではほぼ国全体を巻き込んでいます。例えば、デリーでは、4月1日の新規感染者数は約2,800人で、有効感染者数は10,498人でした。それが19日には、2万5,462人の新規感染者と74,941人の有効な患者数を記録。わずか18日間で、新規感染者数は900%、有効感染者数は700%も増加したことになります。
インド各州からは、医療用酸素の不足を訴える声があがっています。マディヤ・プラデーシュ州やウッタル・プラデーシュ州などでは、患者への酸素供給が間に合わなかったために死亡者が出たとの報告が。また、デリー、マハラシュトラ両州の首長は、中央政府に供給を強化するよう要請しています。これが満たされないままだと、死亡者数はさらに大きく膨れ上がる危険性があります。
(翻訳:岡千尋、編集:年吉聡太)
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