Deep Dive: Crossing the borders
グローバル経済の地政学
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中国は、新型コロナで損なわれた国際的なイメージを回復しようと躍起になっています。しかし、その努力も「戦狼」によって損なわれています。6月に開催されるG7サミットの前に押さえておきたい、中国外交の側面(英語版はこちら)。
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「中国の点火 VS インドの点火」──。今月1日(米国時間)、中国の共産党中央政法委員会の微博(ウェイボー)公式アカウントは、中国が宇宙空間にモジュールを打ち上げることに成功したことと、インドの火葬場が夜に燃えていることを対比させた写真を投稿し、大きな反発を招きました。
中国共産党中央政法委員会は、裁判所はじめ司法機関を統括する機構。その無神経な発言は、長年にわたって国境紛争を抱えてきたインドに対する厳しい姿勢を示したものとして、すぐに国粋主義的な支持を集めました。しかし、同時に、多くの中国のインターネットユーザーから批判の声も上がりました。
「この投稿を擁護する人のなかには、これはただインド政府のCOVID-19への対応を批判しているだけだと言う者もいます。しかし、彼らは、中国とインドのプロパガンダ合戦にのみ目をとられるあまり、そこで苦しんでいる市民が無視されているとは考えないのでしょうか」と、あるユーザーは語っています。
この投稿は、9,000回以上シェアされたのち、その日のうちに削除されました。ほかにも、先週には中国公安部によるWeiboでの別の投稿も削除されています(中国のコロナ専用病院とインドの大規模な火葬の画像を並べたもの)。
かつてWeiboで投稿の検閲担当の仕事をしていたエリック・リウ(Eric Liu)は、Quartzに対し、「Weiboの検閲担当者は、中国当局による投稿を削除する権限をもっていない。こうした投稿削除は、政府内からの命令によるものである可能性が高い」と述べています。
Who are the wolf warriors?
「戦狼」の限界
オーストラリアのシンクタンク、ローウィー国際政策研究所の世論・外交政策プログラムのディレクターで、元オーストラリア外交官のナターシャ・カッサム(Natasha Kassam)は、「この投稿がこれほど早く削除されたのは、これがインドで起きている悲劇に対する中国の公式な立場を表していないことの証だ」と語ります。
「指導者が攻撃的で民族主義的なことばでつくりあげた雰囲気に乗り、下級役人がその行動を真似る。これは、そうしたものの典型的な例といえる」との分析をQuartzに語るカッサム。「習近平率いる中国では、ソーシャルメディアのいち管理者が上司に気に入られようとインドを嘲笑する投稿をするのも容易に想像できる」と、彼女は続けます。
国家主席・習近平のもと、中国の外交政策はますます積極的になっています。かつて中国の指導者であった鄧小平(在任:1978年12月22日〜1989年11月9日)は「目立たないようにして時機を待つ」態度をとってきました。しかし、北京は次第にその理論から逸脱。強硬な姿勢を見せて支持を集めようと、国内でナショナリズムを活用・奨励したりすることに慣れてきています。
この新しい方向性を最も熱心に支持しているひとりが、昨年、COVID-19と米軍とが関連しているという根拠のない陰謀論を唱えた中国外交部報道官の趙麗健(Zhao Lijian)。彼のような人物は、中国で2015、2017年に公開された国粋主義的なアクション映画『ウルフ・オブ・ウォー』(英語表記:Wolf Warrior)の名前から、「戦狼」(Wolf Warrior)と呼ばれています。
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投稿をめぐる論争と、それが削除されたことで高まった国際的な注目は、「戦狼外交」アプローチの大きな欠点を浮き彫りにしています。
それは、中国国内の問題から中国国民の目をそらすメリットよりも、はるかに大きなダメージを与える可能性があるということです。こうしたメッセージングでは、中国へのネガティブな感情はより高まり、COVID-19についていいえばインドに対する共感的な身振りも埋もれ、両国の関係がさらに悪化する可能性すら危惧されています。
中国の駐インド大使によると、中国はインドに2,100万点以上のマスクと2万1,000台以上の酸素吸入器を含む医療物資を送り、さらに4万台の酸素発生器をインド向けに生産しているといいます。習近平は先週にも、インドのナレンドラ・モディ首相に対してインドのコロナ犠牲者への哀悼の意を表し、パンデミックと戦うために中国との協力関係を強化することを誓いました。先月にも、中国の王毅外相が、中国はインドを助けるために最大限の努力をすると述べていました。
中国外務省はこの投稿を受け、『Bloomberg』に対して、世間は「中国政府と世論の多くが、インドの伝染病との戦いを支持している」ことに注意を払うべきだと述べ、今後数日のうちにさらに多くの物資をインドに送ると述べるに至りました。
An opportunity for Taiwan
台湾にはチャンス
中国がインドとの対立を深めている一方で、台湾にはチャンスが訪れています。台湾は1949年以来、中国から独立して統治されているものの、北京は自国の領土とみなしています。北京がそのソフトパワーを世界にアピールするのに苦労しているいま、台湾は自国の影響力を高めるチャンスを掴むチャンスだと受け止めているようです。
日曜日、台湾はインドがCOVID-19急増に苦しむなか、150台の酸素濃縮器と500本の酸素ボンベを空輸。台湾の政府関係者はすぐにソーシャルメディアに同情と連帯のメッセージを投稿しました。
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台湾外交部の報道官ジョアン・オウ(Joanne Ou)はQuartzに対して、「感染拡大に国境はない」と語ります。「この困難な時期に、台湾とインドは共にパンデミックの課題に対応していく」
台湾アジア交流基金会の客員研究員サナ・ハシュミ(Sana Hashmi)によると、台湾当局からのメッセージは、インドに対する台湾の機敏で積極的な「戦猫外交」アプローチを示すものであり、パンデミック収束後に待っているインドとの関与の可能性を示すものだといいます。
「一方の中国をみてみましょう。政府がこの危機を利用してインドにおけるイメージを刷新しようとしているにもかかわらず、ソーシャルメディアのアカウントはそれとは逆のことをしています。中国がインドに対していかに分裂しているか、いかにタカ派であるかを物語っています」
(翻訳・編集:年吉聡太)
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